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リアクション
■温泉に浸かろう!(前編)
――時を少し戻し、戦闘班が温泉蟹と戦闘を開始した頃。戦闘班以外の探検隊一行(一部除く)は温泉のほうへとやってきていた。
温泉の大きさはかなりのもので、三等分しても十分な広さを取れるだろう。温泉蟹が実際に入っていたのかどうかはわからないが……。
しかし今現在、一行はある問題で話し合っていた。――混浴にするか、否かである。意外にも意見が分かれてしまい、徹底討論をしている最中のようだ。
誰かが入る前の温泉の写真を撮っていたアーミア・アルメインス(あーみあ・あるめいんす)。探索中にジョニスへ混浴対策のことに関して聞いていたのだが、ジョニス自体はメインを温泉蟹に据えていたために対策を怠っていた……という返答が返ってきていた。
それならば何か対策はないか? と聞いたところ、その話を聞いていたのだろう木本 和輝(きもと・ともき)が混浴対策の準備してくれる、ということになる。
(でも意外に混浴でもいいって人が多いのですねぇ……)
アーシアはそう思いながら、シャッターを切っていく。
――だがそんな中でも構わずに行動を起こした人物が。以前通っていた学校の制服に身を包んだ滝宮 沙織(たきのみや・さおり)である。
「いっちばん風呂いただき〜!」
沙織はその場で勢いよく制服を脱ぎだした。いきなりの行動に、周囲にいたルディア・ベンフォード(るでぃあ・べんふぉーど)や聖・レッドヘリング(ひじり・れっどへりんぐ)が驚いてしまう。
「沙織様、ここでいきなり脱いじゃ、めっ!」
「大丈夫だよ〜、きちんと水着を着てるからっ♪ そ〜れ、飛び込めー!」
……どうやら白いビキニを制服の下に着込んでいたらしい。ただ、見ようによっては下着に見えなくもないが。
そんなあられもない姿になると、沙織は我先にと温泉へ飛び込む。
「あ、今温泉に入られますと――」
聖の制止も後の祭り。次の瞬間、温泉のあまりの熱さにすぐに飛び上がって温泉から出る沙織の姿が。
「あつーーーーーーーーいっ!!!」
「……源泉でございますから、温度調整がされていません。入るためには調整いたしませんと」
どうやらこの温泉は完全な源泉らしい。温泉神殿の管理人として、人一倍に温泉を知る聖はこの温泉の成分を抽出しながら、この温泉の説明をする。
「この温泉はあちらのほうにある河原の川底が源泉の元になっているようですね。温泉蟹が利用していたのか、形は思ってたより湯船の体裁が整っておりますし、河原の水や『氷術』をうまく使って温度調節を行えばすぐに入れるかと」
そんなわけで『氷術』を使えるロアを中心に、温泉の温度調節を行うべく行動開始。『氷術』を使えない人も河原の水を温泉へ繋げる作業に向かっていった。
「んー……わかった、じゃー三等分仕切りができるまでは混浴希望の人が先に入るってことで。それで分けよっか」
――どうやら、討論のほうも終わったらしい。その中心だったミネッティ・パーウェイス(みねってぃ・ぱーうぇいす)が『男女を分ける仕切りができるまでは混浴希望の人が先に入り、仕切り完成後はそれぞれで入れるようにする』という案で納得したようだ。混浴希望をするカップルが多かったこともあってか、内心で(ちっ、このリア充共……)とどす黒い舌打ちを打っていたが。
というわけで男湯・女湯・混浴湯と三等分に仕切ることとなり、その中心を任されたのは和輝とラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)になった。和輝は事前に購入してきたカーテンと、魔法のはしごを組み合わせて簡易的な仕切りを作ろうとしたのだが……。
「あ……」
――魔法のはしごが、ない。どうやら忘れてきてしまったらしい。カーテンだけではさすがに仕切りにするのは難しいところである。
「ふぅむ、木の仕切りと組み合わせるってのもありかもな」
ラルクがそんな助け舟を。仕切りにもなる木の支柱とカーテンを組み合わせればそれなりな仕切りは作れそうではあるが……一番大事なヒモ部分がないのでこれまた行き詰ってしまう。
と……そこへさらなる助け舟が。羅儀である。
「えと、この余ったザイル、使えないか?」
どうやら先ほどまで探索中の道へ、目印やザイルを張って移動しやすくなるようサポートに回っていたらしい。そしてここへ到着したところで仕切り談義に遭遇したようだ。
「いいの?」
「ああ、結構綺麗に道ができててあんまりザイル使う場面もなかったしな」
それを聞くと、和輝はお礼を言いながら羅儀からザイルを借り、作業を始めることとなった。ラルクもまた、木の仕切り用に使う樹木の確保に向かうのだった。
一方、詩穂や北都、翠にミリアは簡易脱衣所を作っていた。翠とミリアは従者である施工管理技士に簡易脱衣所の構造を説明し、動いてもらうつもりのようだ。
詩穂も施工管理技士以上の働きを見せてくれているため、ミリアの施工管理技士はもうひとつの依頼である探索してきた道の整備をするべく現場を移動したようだ。
――そんなこんなで、各所で作業が始まってしばらく。温泉の温度調節も無事に済ませ、男女別の簡易脱衣所も完成したようだ。仕切りはまだ木の確保が済んでいないため、もう少しかかるらしい。
「もう我慢できないっ! もう一度、一番風呂いただき〜♪」
温度調節が終わったことで今度こそ入れると知った沙織は早速温泉へダイブ。ちょうどほぼ同時で、セシルも裸で堂々と温泉にゆっくり浸かって、疲れを癒しているようだ。
「あ〜……気持ちいいですわ……」
沙織やセシルが温泉を楽しんでいると、次々と他の人も入ってきたようである……。
――自前の水着に着替え、温泉に浸かっているケイ。まったりとした雰囲気で癒されているようだ。だが……その背後からメニエス・レイン(めにえす・れいん)が音を立てぬように近づいてきている。そして……。
「ケーイッ!」
「うわぁっ!?」
そのまま後ろからハグ。メニエスは扇情的な笑顔を見せながら、ケイを抱きしめている。
「ふふっ、ケイ……あたしをここに誘ったってことは、こういうことを期待してたんでしょう?」
「いや、あと、その……」
うりうり、と柔らかな二つの山を遠慮なくケイの背中に押し付けたり、焦らすような感じで身体を触り、その反応を楽しむメニエス。傍から見ればすごくイチャイチャしているようにしか見えない。
「め、メニエスがイルミンスールの教頭になって、修学旅行もいかなかっただろ? だから、代わりになればいいかな、って思って――」
「誤魔化したってそうはいかないわよ? せっかく誘ってくれたんだし、ねぇ……♪」
「え、いや、本心からそう思って……メニエス? どうしてあっちに引っ張って……メニエスぅ!?」
……メニエスはケイを引っ張って、奥のほうへと連れて行ってしまった……。何がどうなったかは、二人のみぞ知る。
(まったく……ケイは何をやっているのやら。にしても――温泉蟹とは和解の形でどうにかしたかったの)
二人のイチャイチャ振りを見ないようにしながら、悠久ノ カナタ(とわの・かなた)は温泉蟹との戦闘が行われているであろう方向へ視線を向けて溜息をつく。……カナタ本人としては、戦いで済ませるのではなく温泉蟹との和解で無事に調査を済ませたかった気持ちがあったようだ。
(希少な種かもしれないし、どうして温泉を護る必要があったのか。……わらわはわらわで、調査してみるか)
カナタはそう思い、ちゃぷちゃぷと温泉を移動。すると……ちょうど、なにやら周囲をきょろきょろしている赤羽 美央(あかばね・みお)と顔をあわせた。
「ぬ、どうしたのだそんなにきょろきょろして?」
「あ、えっとですね……」
――美央の話を聞くと、どうやら希少な温泉蟹の種の保存を考え、人間が使う部分と蟹が使う部分の仕切りを作るべく、その境界を探っていたところらしい。
「ふむ、おぬしもわらわと似たような考えだったのか。……そうだな、わらわもその仕切り作りを手伝おう。代わりといってはなんだが、調査に付き合ってくれぬか?」
カナタの提案に、美央はすぐに了承した。同じ考え同士、気が合うと思ったのだろう。
すでに大人数が温泉を利用しているようなので、調査を先に行うことにしたカナタと美央。この後、調査を続けていた二人はある物を発見することになる――。
――一方、温泉の一角ではルカルカ・ルー(るかるか・るー)、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)、月崎 羽純(つきざき・はすみ)、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)、エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)の五人が温泉を楽しんでいた。歌菜は混浴が恥ずかしいから、とのことで料理班と合流しておもてなし係をやっているようだ。
「あー……熱いけど気持ちいいね。はー、幸せ……」
エースはほっこりとしたまま、パラミタにきてから数度しか入ったことのない温泉を肩まで浸かって堪能している。エオリアもすっかり温泉の虜になっており、その心地よさに出られなくなりそうな雰囲気だ。
洗い場(急ごしらえのもの)ではダリルが羽純に頭を洗ってもらい、その羽純は迷彩柄水着を着こなすルカルカに背中を洗ってもらっていた。
身体を洗い終えると、三人も湯船に浸かる。と、ここでルカルカがある提案を持ちかけてきた。
「ねぇねぇ、ダリルが持ってきた碁石使ってちょっとしたゲームしない? 湯船の中に白い碁石を温泉の中にたくさん沈めるから、一番多くダリルに渡した人の勝ち! 勝者には歌ちゃんのスペシャル料理が進呈されまーす♪」
ちょうど歌菜も様子を見にきていたようで、ちょっと恥ずかしげに手を小さく振ってその言葉に応えた。
かくして、観戦の歌菜と審判役のダリルを除いた四人でのゲームが開始される。余興だからと気を軽く持つルカルカ、慣れない温泉で軽く茹だっている状態のエース、何とか最下位は免れたいエオリア。この三人は潜って碁石を取り始める。制限時間の五分でできるだけ多く集めたいところである。
(終了ちょっと前にもっていけばいいよね……)
ルカルカは終了直前に一気に持っていく算段のようだ。それに対し、エースは時間一杯まで、時々息継ぎしつつも常に潜って碁石を取る作戦をとり、エオリアは碁石を少し回収したらすぐにダリルに渡す作戦らしい。
――そして、羽純だけはなぜか潜ることなく仁王立ちの態勢で構えていた。
(ふっ、バカ正直に潜るのは温泉だとリスキーすぎる。ただでさえ熱めのこの湯ではすぐにのぼせるのが関の山。――ならば、浮上してきた所を狙って……掠め取る!)
他の三人とは違い、策略を巡らせて勝者になろうとしている羽純。そして、エースが息継ぎのために水面から顔を出した時、行動を起こした!
「ふぅ〜……」
「ひゃぁぁっ!?」
……エースの耳に息を吹きかけて不意打ちをする羽純。突然の妨害に驚いたエースは手に持っていたたくさんの碁石を湯船に落としてしまう。
「いただきっ!」
その隙を逃さず、羽純はすぐに潜って落ちた碁石を回収し、すぐに浮き上がる。ちょうど碁石をダリルに渡していたエオリアがあることに気づいた。
「ああ、エース!?」
どうやら、辛抱の糸が切れてしまったのか……エースは完全にのぼせてしまったらしい。プカリと仰向けで浮いていた。
「……これも戦術のうち!」
勝負に情け無用。羽純は急いでダリルへ碁石を渡すと、ちょうどルカルカも渡していたところだった。そしてちょうど、五分経過。ゲーム終了である。
――結果としては、ルカルカが羽純(元はエースのだが)の碁石数を1つ上回り、ルカルカの勝利。三位にエオリア、エースは……途中リタイアであった。
そのエースだが、ダリルがお姫様抱っこで湯船外まで運び、エオリアが『ナーシング』や『氷術』で介抱している状態である。少し休ませればすぐに復帰できるだろう。
――と、その時。どうやら戦闘班が温泉蟹の各部分を持ってやってきたようだ。それを待ちわびていたかのように、料理班が動き出すのであった……!
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