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リアクション
第11章
「おお、やっと帰ったぞ……留守中、苦労をかけたのぅ」
カメリアは、パーティ会場の隅にいた狸の獣人 フトリと狐の獣人 カガミに声をかけた。
「あ、カメリア様。おかえりなさいデブ」
「おかえりなさいませカメリア様。旅は楽しかったですか?」
「ああ……楽しかった。楽しかったぞ、うん。……で、これは何の集まりじゃ」
そこには、カガミの妻と子供たちがミシェル・シェーンバーグ(みしぇる・しぇーんばーぐ)と矢野 佑一(やの・ゆういち)が作ってくれた五目いなり寿司を頬張っていた。
「妻の『紺』です――よろしくお願いします」
と、カガミは妻である狐を佑一とミシェルに紹介した。子供は10匹くらいの男女織り交ぜての集合体で、誰が誰だか分かりはしないような状態だが、獣人の血が混じっているのは確かなようで、狐の姿であったり人間の子供であったりしている。
「あ、カメリアさん。ようらくお家に戻れるようになったんだね、ボク、ずっと気になってたからほっとしたよ〜」
カメリアの顔を見て、ミシェルは眩しい笑顔を見せた。
「んむ……心配をかけたようですまなんだ……そういえばカガミからよく話は聞いていたが、まともに話すのはこれが初めてかの?
いつも、カガミが世話になっておる――ありがとうな」
カメリアは佑一とミシェルに深く頭を下げた。
「う、ううん! こっちこそいつも遊んでもらったりしてるし!!」
改めて礼を言われるとかえって照れてしまうのか、ミシェルは顔を真っ赤にして首を横に振った。
「いいえ、こちらこそ……うちのミシェルがよくお世話になっています。カメリアさんも、戻るなり大仕事で大変でしたね」
反して佑一は、ミシェルの保護者としてしっかりとした挨拶を返した。
それを見たカメリアも、うんうんと頷いた。
「うむ、お主が佑一じゃな。今日もカガミの家族のために差し入れを作ってくれたのじゃろう。本当にありがとうの。
儂の知らぬところでこういう友人がいるのは喜ばしいことじゃ。これからも、よろしく頼む」
カメリアはカガミの子供たちが五目いなり寿司をもぐもぐ食べる様子を見て、軽く頭を撫でた。
「いえ――僕は手伝っただけ、作ったのはミシェルです。礼ならミシェルに言ってやって下さい。
前からカガミさんのご家族に会いたいって言ってましたから――いい口実でしたよ」
と、爽やかに笑顔を浮かべる佑一。
「ほう……ミシェル、お主が作ったのか……ひとつ貰ってもいいかの?」
重箱に収められたいなり寿司は家族分としても大量で、子供用にはわざわざ一口サイズに作ってある。
カガミが狐の獣人だということでいなり寿司なのだろうが、これはつまりこのパーティ会場に来てから考えたものではなく、わざわざ家から材料を持ってきて作ったということになる。
ミシェルや佑一がカガミやその家族に気を使ってくれていることがよく分かって、カメリアは嬉しかった。
だからひとつ、食べてみたくなったのだ。
「うん、よかったらカメリアさんも食べてみて!!」
元気いっぱいに承諾するミシェル。カメリアは、重箱かたいなり寿司をひとつつまんで、口へ入れた。
人参やごぼう、たけのこやしいたけ、そして鶏肉がしっかりと下味をつけられて、良い味がしみていた。
「うん――旨い」
しかし何よりも、その料理はカメリアもよく知っている味がした。
「旨い……これは旨いな、カガミ、なぁ」
感慨深く、カメリアは喜んだ。カガミもまた、カメリアの気持ちを察して喜んだ。
「はい……とても美味しいです。佑一さんとミシェルさんの作ってくれた料理は、とても――おいしいのです」
カメリアはミシェルと佑一へ向き直って、改めて礼を言った。
「うむ、旨かったぞ……本当にありがとう。二人とも、さすがはカガミが惚れるだけのことはあるわい」
その言葉に、ミシェルはさらに顔を赤くする。
「え、ほ、惚れっ……!?」
少し慌てたように、カガミはカメリアを制する。
「あ、ちょっとカメリア様、変なこと言わないで下さいよ……気にしないで下さいね、ミシェルさん、佑一さん。友人として好きだという話ですから――」
その様子を見て佑一は目を細めた。
「ははは……普段カメリアさんとどんな話をしてるんでしょうね、カガミさんは。これはゆっくりと聞き出さなくては」
「もう、佑一さんまで……カメリア様、他の方のところへ挨拶に行かなくていいんですか?」
カメリアもまた笑いながらその場を後にする。
「ははは……そうじゃな、それではカガミたちをよろしく頼む」
再びカメリアは佑一とミシェルに頭を下げて、他の場所へ向かう。
「ああ……本当に……うまいな」
こっそりと、カメリアは反芻した。今食べたいなり寿司の味を思うと、涙がこぼれそうになる。
その味は、わずか一年前まではカメリアたちが味わうことは決してできなかった味。
誰かが、自分たちのために作ってくれた料理。
それは、それはとても――
――やさしい味だった。
☆
「それでぇ、まだまだ寒い季節だから暖かいケーキを作ろうと思うのね」
と、師王 アスカ(しおう・あすか)は四葉 恋歌に宣言した。
「は、はい」
少しだけ緊張した面持ちで、恋歌は頷く。アスカのパートナー、ルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)とは顔見知りの恋歌だったが、アスカとはこれほぼ初対面だ。
ウィンターが用意したかまくらの中には、調理用に作られたものもあり、誰かが持ち込んだ発電機でしっかりオーブンなども使えるようになっている。
その中で、ルーツはエプロンをしっかり着用して、二人にデザート作りの手ほどきをしようというのである。
「それじゃ今日は……温かいケーキ、フルーツ・カブラを作るわよ――ルーツが!!」
「何を言っている今日ケーキを作るのは、アスカと恋歌の二人だ。我はあくまでサポートに回るから、この際ケーキ作りにも挑戦してみるといい」
ルーツの言葉に、アスカは苦笑いを浮かべた。
「あははは……私はその、切ったり混ぜたりするくらいでその……今日は助手、助手ってことでぇ!!
そだ、今日はヨツバちゃん中心でいこうよ!! ね、ルーツがマンツーマンで教えるってことで!! ルーツの負担も減るし!!」
半ば無理やり恋歌をルーツの方へと押し出すアスカ。
どうもこの口ぶりからすると料理は苦手な分野らしい。
呆れ顔のルーツは、アスカに渋面を作って見せた。
「まったく……そんなことではいつまでも一人で料理も作れないぞ……せっかくイイ仲の相手ができたというのに……」
「う、うっさいわよぉ! 私はいいのよ、私はぁ!! ルーツなんかせっかくイイ腕してるのに、作ってあげる特定の相手もいないじゃないのよぉ!!
宝の持ち腐れっていうのよ、そういうのはぁ!!」
アスカは顔を赤くして反論する。アスカとしてはその話題を続けることは恥ずかしいらしく、矛先を恋歌に向けた。
「そ、そうだ!! ヨツバちゃんにもいるでしょ、好きな人!? 今日はその人のためのケーキってことで!! ね!!」
「あ」
ルーツはアスカが口を滑らせたことに、しまったという顔をした。
友人や恋人は利用するために作る、という恋歌の話をルーツは以前聞いていたが、それは他人に口外するような話ではないので誰にも言っていなかった。
その話をしたときの恋歌はとても苦しそうだったので、恋人関係の話はタブーだと思ったのだ。
だが、しかし。
「うーん、あたしここ何ヶ月か好きな人、いないんですよねー。あ、でも大切な人はいるから……じゃあちょっと頑張っちゃおうかな♪
でもあたしも料理はからっきしなのよね。ねぇルーツさん、教えてくれる?」
「……あ、ああ……じゃあ、今日は恋歌中心に教えることにしよう。まずは強力粉と薄力粉、ベーキングパウダーと塩を混ぜておいて……」
存外に明るい声で応じた恋歌に、多少の戸惑いを見せるルーツ。
この数ヶ月の間に、恋歌の中で何かが変わったようだった。
「……ルーツさんも、大切な人のひとり、だから……いつか、作ってあげたいな……」
ルーツには聞こえないように、呟く恋歌だった。
☆
『未散と!!』
『衿栖の!!』
『ツンデレーション、デリシャス・クッキーング!!!』
パーティ会場の特設ステージでは、コミュニティ『846プロダクション』による特別料理ショーが公開されていた。
新進気鋭のアイドルユニット、若松 未散(わかまつ・みちる)と茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)のユニット『ツンデレーション』がパーティ会場で料理を振舞う特別番組である。
「さぁて、今日は私たちツンデレーションが、最高の料理でカメリアさんをおもてなしですよーっ♪」
衿栖は目の前にずらりと並んだ食材を目の前にして、しかしその目を丸くした。
「いやぁー、でもこれすごい食材ですねぇ。半魔物化した動物がメインだそうですから、無毒化してあるそうですけれど、食べられるんでしょうか……?」
そこに、ユニットの相棒である未散が明るい笑顔を向ける。
「だいじょうぶっ! もともとは普通の食材なんだから、ここはしっかり調理してみんなに最高の料理を食べてもらおうよっ☆
料理はあんまり得意じゃないけど、そこは愛情でカバーだよねっ!! みんな、応援してねーっ♪」
と、ほぼ台本通りの進行で二人の掛け合いは続いている。
その周囲には846プロのスタッフを始め、多くのファンが取り囲んでいた。
ここ最近ファンの数をじわじわ増やして来た846プロのアイドルユニットとあって、地味に注目されているのだ。
「よしよし……予定通りですね……この映像はあらためて編集してツンデレーション公式グッズとして販売しましょう……
それにしても、今日の未散くんも可愛いですなぁ……」
未散のパートナー、ハル・オールストローム(はる・おーるすとろーむ)はカメラを片手にスタッフとして頑張っている。
衿栖の傍らで慣れない手つきで包丁を扱う未散を眺めて、悦に入るハル。
その未散は何とか調理を続けながら、台本どおりにハプニングを起したりして舞台を進行させる。
もともと落語家として活動している未散にとって客の反応を見ながら、演技を進行させることはたやすい。本人にとってアイドル活動などは余技のようなもので、本当は本格的に落語家として活動したいのだ。
「きゃっ☆ あぶなーいっ☆」
その未散も、これは仕事と割り切って舞台をこなしている。一度引き受けた仕事はアイドルの仕事であってもキッチリ仕上げなくては気が済まない。
「……誰だよ、この台本作った奴……それにこの衣装、いつもよりさらにヒラヒラして……スカートも短すぎねぇか?」
誰にも聞こえないように、未散はぼそっと呟いた。
その様子を見て、パートナーである伊藤 若冲(いとう・じゃくちゅう)はハルにビッとイイ笑顔と共にサムズアップを送る。
今日の衣装担当は若冲の仕事なのだ。
「あのさぁ衿栖……なんで今日はこんな衣装なんだよ……?」
未散は撮影の合間の休憩中にこっそりと衿栖に囁く。
「え、可愛いじゃないですか? でも確かに、スカートは短いかなぁ……特に未散さんのは。
若冲さんとハルさん、張り切って打ち合わせしてましたからねぇ」
ちらりと横目でハルと若冲を見ると、二人ともイイ笑顔でこちらを生暖かく見守っている。
「くっそ、やっぱあいつらの仕業か……正月祝いもかねてなんだから、こないだ撮影で使った晴れ着でいいじゃねぇか、衿栖と揃いでしつらえたやつ。
でなかったら今作ってるバレンタイン用のドレスとかさぁ、あっちの方が普通に可愛いのに……」
ぶつぶつと小声で文句を言う未散。しかし、衿栖は慣れてきているのか、微笑みで返した。
「まぁまぁ未散さん、普通に着る服とステージ衣装は完全に別物ですから……。
それに、ファンの皆さんはアイドルという、ある意味では非日常的なものを楽しみに来ているんですから、そこは割り切らないと」
「うん……それはそうだな。まずはお客さんを楽しませることが第一だな。
あ、準備できたみたいだ……よぉっし、頑張って料理しちゃうぞっ☆」
そんな衿栖と未散のやりとりを眺めていたのが、未散のパートナー、会津 サトミ(あいづ・さとみ)と衿栖のパートナー、茅野瀬 朱里(ちのせ・あかり)である。
「うーん、未散も衿栖とだいぶ仲がよくなったなぁ……」
二人も846プロ所属のユニットとして、補助的ではあるが料理を担当していた。サトミが未散と衿栖を眺めつつ、手元の魚を何とか捌く。
「そうねぇ、二人もユニットだから仲がいいのはいいんだけど、なんか最近……あ、ちょっとくっつきすぎじゃない、ねぇ!?」
朱里もまた大きなイノシシを自慢の大剣で大胆に捌きながら、衿栖と未散の様子を見ている。
その朱里を見て、サトミはぼそっと呟いた。
「……朱里ちゃん、ひょっとして未散に妬いてる?」
朱里はハッっと我に返ったように首を横に振った。
「え? いやぁ、さとみん誤解だよっ!? 衿栖とキャッキャうふふしながら料理だなんで、う、羨ましくなんかないんだからっ!!」
明らかな動揺を見せながら朱里は大剣を振り下ろし、うっかり調理台ごと両断してしまった。
「おおぉーっ!!」
その様子にギャラリーが沸く。
「あ、いっけなーい、やっちゃったー」
半ばヤケクソ気味に食材を捌いていく二人は、それはそれで観客を沸かせていく。
アイドルユニット『ヤンデレーション』としては方向性を間違っているような気もしないではない。
☆
「ふむ……未散さんも衿栖さんも頑張っているな」
と、湖で釣った魚を846プロに食材として提供した蔵部 食人は満足げに頷いた。
「あ、食人さん。お疲れ様です!!」
そこにハルがやって来て、料理を差し出した。
「どうぞどうぞ、食べて行って下さい、我らがアイドルの自慢の手料理ですぞ!!」
ハルは食材を多く提供した食人を、数人のファンから良く見える特等席に座らせる。
「え、いいのかい?」
目の前の料理からは温かい湯気が上がり、昼からずっと釣りを楽しんでいた食人にはとても美味しそうに見えた。
「もちろんですぞ、何しろ食人さんにはたくさんの食材を提供していただきましたからな、これくらいは当然の権利ですぞ!!」
特別な功労者ということで、ファンからは羨望の眼差しと共に同意の視線が送られる。
食人はその視線を背中に感じながら、せっかくの料理を食べることにした。
「そっか、それじゃ遠慮なく、いただきまーすっ!! ――って何じゃこりゃあーっ!?」
思わず口に入れた料理を吐き出しそうになった食人。
――不味いのだ。
「――ま」
不味い、と口から率直な感想が出掛かるが、さすがに大勢のファンの前でそんなことが言えるわけもない。
「……どうしましたかな、食人さん?」
まるで悪気のないハルの笑顔が食人を襲う。
食人は思った。おかしい、と。
一応二人は普通に調理をして、しっかり無毒化した食材を使った筈ではないか。いや、確かに無毒化とは食べられる状態にすることだから、味は関係ないかもしれないが。
一体なぜこの料理はこのような残念なことになってしまったのか?
それでは特別に、そのプロセスを解説しよう。
まず、衿栖が食材を捌き、下味をつけるために調味料を振り、味を染み込ませるために置いておく。
次に、未散がフラワシ『アメノウズメ』でそれを勝手に発酵させる。
そしてそれに気付かない衿栖が発酵した食材をフライパンでキツネ色に焼いていく。
仕上げを頼まれた未散が、火力が足りないと勘違いしてアメノウズメを使って一瞬で黒コゲに焼き上げてしまう。
そして衿栖が、ステーキは焼いた後少し冷ましておくと肉汁が逃げなくて美味しくなるんですよと解説する。
それを聞いた未散が、アメノウズメで氷結させて一瞬にして凍らせて完成である。
――以下省略。
「う、旨くなるはずがない……つか死ぬ……」
テーブルに突っ伏してぴくぴくと震える食人。何とかこの状況から脱しなければならないが、収録は続いているのだからここで一目散に逃げ出すわけにはいかない。
じわじわと脂汗を流しながらほんのわずかずつ、その毒料理を口にする食人を見て、衿栖のパートナーである蘭堂 希鈴(らんどう・きりん)はため息をついた。
「はぁ……やはり、未散お嬢様の補助でとんでもないことになっていましたか……」
いち早く未散の行動を見抜いた希鈴は、その料理を自ら食べることがないようにと、さっさと配膳役に回って被害を回避していたのである。
逃げないで教えてあげて。
「いやぁ、ひでぇ目にあったぜ!!」
と、そこに湖のヌシを倒したブレイズ・ブラスとマイト・オーバーウェルム、そしてアンドロマリウス・グラスハープが帰って来た。
それを見た食人は急死に一生を得たとばかりに、走り寄っていく。
「あ、三人とも!! ちょうどいいところに来た!! 湖のヌシ退治、お疲れさん!! まぁこれでも喰ってくれよ!!」
うむを言わさぬ食人の迫力に、3人は思わずその料理に口をつけてしまう。
「ぶっはぁ!! 何だよこれっ!? 毒か、毒なのかっ!?」
「おおぅ、こりゃあいわゆるブタのエサよりひでぇってやつかっ!?」
「……おうぇ、これはひどいですね……いったい何が……」
空気を読まずに忌憚のない意見を述べる三人に、ファンの視線が刺さった。我らがアイドルが作った料理がまずいわけはないと、ブーイングが起こる。
「うっせえええぇぇぇっ!! マズいもんはマズいんだっ!! そんなに言うならお前らが食ってみろ!!!」
それにブレイズも迎合し、ありったけの毒料理を持ち出してファンの口に次々と突っ込んでいく。
「おお、そうとも!! お前らも食ってみろ!!」
その影響はスタッフ側にも及び、ブレイズが手に持った料理が若冲にも襲い掛かる。
「い、いや私はいちスタッフに過ぎませんから!! そんなアイドルの手料理なんてもったいなくて!!
つかこんな料理じゃないですよ、ある意味芸術品ですよっ!!」
あ、カイさん逃げないで下さいよ!!」
その様子を尻目にダッシュで逃げようとしていた衿栖のパートナー、南大路 カイ(みなみおおじ・かい)の腰にうしろからタックルで抱きついた若冲は、必死にすがりついた。
「は、離すのだ若冲!! 私には探さねばならぬ家族がいるのだ……!! ここで死ぬわけには!!」
しかし、死なばもろともとばかりに、若冲もあらん限りの力を振り絞ってカイの腰を離さない。
「いいえ離しませんよ、何ひとりで逃げようとしてるんですか、オレ達は仕事のときもナンパの時もいつも一緒だったじゃないですかっ!?」
醜い争いを続ける二人の前に、ブレイズとマイトが料理の皿を持って立ちはだかる。
「……麗しい友情だな。この際、二人一緒に喰ったらどうだ」
しかし、そこにハルが割り込んできた。
「いい加減にするのです二人とも!! 何ですかみんなそろってマズいだのと、ウチのアイドルに向かって!!
……まぁ映像は後で差し替えるからいいとして……せっかく未散くんが作ってくれたのですぞ!!
わたくしは死んでも食べますぞ!!」
「じゃあ死ね!!!」
ブレイズとマイトのツープラトンで、ハルの口に料理が押し込まれた。
「もぐっ!? むっぐむぐぐむぐ……ごくん」
そのまま勢いで飲み込んでしまったハル。周囲の人間はその様子を固唾を飲んで見守った。
「お、おい……どうだハル……おい……?」
恐る恐る、カイが話しかけるが、反応がない。
「……こ、これは……」
「……どうしたんですか……?」
驚いた様子のカイに、若冲が話しかけた。
「た、立ったまま気絶している……!!」
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