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リアクション
第1章 はじまりですっ!
あらかたの準備も終わった境内。
琴音は、お手伝いを務める巫女さん達を呼び集めた。
「今日はありがとうございます。
一緒に縁日を成功させましょうね〜」
言って笑うと、大きな用紙を拡げ始める。
一応、こんな可愛いナリだが、神社を切り盛りしている身。
本番でテンパらないよう、事前に計画を立てていたのだ。
「えっと、加夜さん。
加夜さんには御神籤売場を担当してもらいたいのですが……」
「はい、いいですよ!
みんなが幸せになるよう、がんばりますよ〜」
名前を呼ばれて、火村 加夜(ひむら・かや)は思わず嬉しくなる。
なんたって加夜の本日の目標は。
第一に『琴音とお友達になること』。
第二に『皆さんのお役に立つこと』。
どちらも、いっぺんに叶ってしまいそうで。
「あぁ、でも独りだと淋しいですよね。大変でしょうし。
睡蓮さんも一緒にお願いできますか〜?」
「はうっ、私でいいのですか!?
精一杯がんばります!」
不意を突かれた紫月 睡蓮(しづき・すいれん)だが、気合いは充分。
ぎゅむっと強く握った両の拳を、胸の方へと押しつける。
「ぁのっ、琴音ちゃん!」
「はい」
「大変ならいつでも呼んでくださいね。
ほかの持ち場でもお手伝いにいきますから」
「わっ、私もっ!」
「お2人とも……ありがとうございます〜」
お礼を受け、琴音に送り出されるときだった。
「琴音ちゃんが忙しいと聞いたので心配だったんですけど、元気そうなので安心しました。
一緒にがんばりましょうね!」
加夜が、琴音に視線を向ける。
ちょっと気恥ずかしくて、なかなか言えない心配の言の葉。
振り絞った勇気の先には、きらきらした笑顔が待っていた。
「それでエクスさんには、私を含めて運営さん達の昼食や軽食の準備と。
あとひとつ、とっても大切なことをお願いしたいのです〜」
「うむ、なんであろうか?」
「14時から、神楽を舞っていただけませんか〜?」
おいおいなんて唐突な……と、周囲の空気が語るなか。
「構わぬよ。
先日も別の神社で舞ってきたところじゃて」
「ありがとうございます〜」
「うむ。
わらわの舞台で、皆を魅了してやろうぞ」
しかと頷くと早速、エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)は本殿へと上がり込んだ。
演奏や演出を担当する神社のスタッフと、打ち合わせを始めるために。
「それでは、残る司さんとシオンさんには、受付をお願いしてもかまいませんか〜?」
「了解です、承りました」
「ワタシでよければ」
最後に指名されたのは、月詠 司(つくよみ・つかさ)とシオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)。
2人がお手伝いに参加したのには、結構な深い事情があり。
「いい機会だし、縁日で琴音の手伝いをして一緒に修行よ♪」
きっかけは、シオンのこんな一言だった。
「ぁ、また幻聴がっ!?
……ま、まぁそれはさて置き。
例によって例の如く、シオンくんが無理矢理着せられて、今日も巫女さんです……」
「あら、なに言ってるの?」
「ツカサがどうしてもって言うからワタシもツカサの巫女修行に付き合ってあげてるんじゃない♪
だいたい、あのときは自分からクラスチェンジしたくせに〜」
「って!
ぃやぃや、違うでしょ!?」
「……もぅ、ホンット恥ずかしがり屋なんだからぁ〜☆」
「別に私の意思ではっ!」
受付の椅子へ座ると、周囲に人がいないことを確認して口を開く。
1か月前の黒歴史を振り返り、司は肩を落とした。
「ソレはつまりアレよ、運命…って言うか
巫女になりなさいって言う天のお告げ、御託宣よ♪」
「ぇっと……つまりバレないように振る舞うのも修行の一環、と……っははっ…そんな無茶な……」
「皆に引かれて修行にならない?
そんなときのためにつけてきたんでしょ♪
……って言うか、ツカサの女装なんてもぅ周知の事実なんだから今更じゃない?
まぁ、巧くすればこもたんに褒められて、名声が得られるかもしれなしがんばりなさいよ☆」
「……むしろ巧くしなければ確実に汚名を着ることになりそうですがね……」
ぽんぽんとなだめるシオンは、面白くて仕方がない。
なんたって、いま装着している黒のセミロングウイッグも、化粧も、すべてシオンが準備したものなのだ。
大丈夫。
おそらくや、琴音は気づいていないだろうから。
「う〜ん、これで万事オッケーです!」
「こんにちは。
清く正しい宇都宮です……もとい」
そんなこんなでお手伝いの巫女さん達を送り出した琴音のもとに、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)がやってきた。
『天狗のうちわ』を片手に、首からは『デジタル一眼POSSIBLE』をかけている。
肩に乗るのは、おともの『吉兆の鷹』だ。
「初めまして。
ブログの記事を書きたいのですが、インタビューさせて頂いてよろしいでしょうか?」
「はい、大丈夫ですよ〜」
「それでは早速、パラミタにおける巫女の先駆者、琴音ちゃんへのインタビュー内容はっと……」
「どきどきしますね」
「まず、今後の活動予定を教えてください」
「オンラインゲームユーザーの皆様の祈りを御藝大明神に伝え続けます〜」
「ツァンダや空京に分社をつくる予定は?」
「いまのところはそういった予定はありませんね〜」
「ファンの皆様に一言お願いします」
「これからも御藝神社とウェブマネーをよろしくお願いしますね」
「はい、ありがとうございました」
無事に取材を終えて、琴音はひとまず胸をなでおろした。
幾枚か写真も撮影されたが、なんだか満足な気分。
『氷雪比翼』にて飛び上がる祥子に、大きく手を振りまわ……していたときだった。
「な、なんですかっ?」
がさがさと、背後の草むらから物音がする。
猫かなにかかと思ったが……もっと、大きなモノのようで。
「こっとねちゃーん、探しましたよ〜♪
いつもお世話になってまーす!」
「あなたは?
それに、こもたんもいる……」
現れたのは、相変わらずの変熊 仮面(へんくま・かめん)。
笑い声も高らかに、全裸に薔薇学マントという相変わらずのスタイルで。
「かんたん、あんしん、べんり……そして美しい俺様っ!」
「まったく……いい加減にせんか」
かっこつけてみせる仮面に、こもたんはあきれ声をあげる。
それもそのはず。
実はここへ来る過程で、仮面に自身の素晴らしさを延々と語られていたのだから。
反撃と言わんばかりに、こもたんもウェブマネーの素晴らしさを語ってやったのだが。
「やるな、ウェブマネー……まさに俺様のようではないか!
となってな」
「どこがじゃ……」
「近いうちに俺様もウェブマネーの公式マスコットに勧誘されるだろうから、いまのうちに琴音ちゃんに挨拶しておきたかったんだ」
「はあ」
「プレゼントにちくわチョコを持ってきたので、どうぞ。
ちくわ、好きなんだろ?」
「はいっ!
けど……チョコ……美味しくなさそうです〜」
「大丈夫だよ、大きくてつやつやしてる。
ほら、俺のち……わっ!」
「な、なんですか!?」
言い終わらないうちに、こもたんの鉄拳が炸裂。
何が起こったのか、琴音には理解できなかった。
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