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12月の準備をしよう

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 ■ 限定メニュー試食会 ■



 クリスマスシーズンに向けて学食に期間限定メニューを加えようと、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は試食会を行うことにした。
「俺もいつのまにか料理出来るようになったから、作るのを手伝うよ」
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)もダリルの限定メニュー作成を手伝った。
 ただ手伝いというだけでなく、間近でダリルが調理するのを見ることは、エースにとって勉強にもなる。ダリルの手際の良さに感心しながら、エースはこっそりとメモを取っておいた。
「オイラの味覚にあうメニューがいいのにゃ。だってクリスマスってお子様の為のイベントだもんねっ」
 クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)が注文をつけると、いやいやそれは困るとメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)も口を出す。
「クマラの好みに合わせたら、お子様向きメニューしか残らないではないか。さあダリル君、この私を満足させるだけの物を作ってみたまえ」
「なぜそんなに偉そうなんだメシエ……しかも食べるだけかお前」
 エースが思わずツッコミを入れるが、メシエは堂々と言い切る。
「調理は君達の仕事だよ。素材のうまみを活かした、上品な味付けでの調理をしてくれたまえ。お菓子も甘すぎず、淡い甘さで充分なのだよ。エースにはハーブティも淹れてもらおうかね」
「分かったから、手伝わないなら席で待っててくれ。味の感想は試食の時でいいから」
 これでは調理が進まないと、エースはクマラとメシエを厨房から出した。
 七面鳥サンド、クリスマスオードブルセット、サツマイモとプロッコリーのツリーサラダ、アクアパッツァ等々の軽食の他に、ザッハトルテ、ミニパネトーネ、クリスマスプディングをはじめとしたデザートも色々取り揃え、次々と並べられていく様はまるでパーティのようだ。
「こんなブッシュ・ド・ノエルはどうかな」
 エースはチョコレート好きのルカルカの為に、チョコバーを樹の幹に見立てて並べ、それっぽくチョコレートクリームを塗って仕上げる。
「バーの断面が微妙に年輪っぽいだろ?」
「微妙……過ぎじゃない?」
 首を傾げるリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)に、心の目で見るんだとエースは笑った。
「それより、リリアも苦戦中のようだけど?」
 リリアはさっきからローストビーフと格闘している。
 オードブルでクリスマスらしさを出すには飾り付けを工夫するのが良いのではないかと、ローストビーフを花の形に飾り付けようとしているのだ。
「花の形は眷属のことだもの。色々とちゃんと知っているから……」
 それを食材で表すだけだから自分にも出来るはず、とやってみているのだが、どうもイメージ通りにならない。
「えっ、なんでどーして?」
 並べるはしからローストビーフは崩れていってしまう。
 結局、エースとダリルに手伝ってもらって何とか形にしたけれど、リリアは飾り付けの奥深さを知る思いだった。
 完成した料理を並べ終えると、ダリルは評価シートを配った。
「食べた後、各項目に点数をつけてくれ」
 評価シートには、見た目、味、量、常温適正度、限定感、等、細かく項目が設けられている。
「オイラ、食べるものにはウルサイよ」
 真っ先にクマラが料理に手を伸ばす。
「うーん、もっとはっきり甘い方がいいのにゃ。あ、それからクリスマスプレゼントを彷彿とさせる、ちょっと微笑ましいメニューもいいよ。スイーツをサンタさんのソリに載せて飾るのはどうかなっ。スイーツじゃなくてオードブルでも良いんだけど。それだけでクリスマス気分盛り上がりまくるよ。サンタさんの持つ袋にはキラキラ装飾な金平糖淹れて、お星様に見立ててよ」
「クマラはクリスマスメニューをお子様ランチにでもするつもりかい?」
 呆れるメシエに、リリアがくすくすと笑う。
「ダリルの作るお菓子は大人向けで上品な感じ。私はとても好きだけど、クマラの味覚だと物足りないのもあるのかもね」
「オイラは大人の美味しさも判るけど、もっと安っぽい甘みも好きなのにゃあ」
 クマラはぱくぱくと食べては、自分の好みで点数をつけていった。
 ダリルは至って真剣に、自分でも料理の評価をしつつ試食してゆく。
「プディングは未成年にはアルコールが強すぎるか……。クマラも一切れだけにしとけ。ん? ルカはもう評価を終えたのか」
「うん、だってどれも美味しいんだもん」
 ひらっとルカルカ・ルー(るかるか・るー)が出した評価シートは、すべて10点満点だ。
 ダリルは呆れ、そしてまた新しい評価シートをルカルカに渡した。
「……やり直しだ。もう一度全部食べろ」
「えー。ほんとにどれも、文句なしに美味しいんだけどな」
「すべて満点では評価の意味がない。特に、常温でも美味しく食べられるかということと季節感を重点に見てくれ」
「はーい。……うん、美味しい、10点満点!」
 新しくもらった評価シートにも、ルカルカはどんどん10点を書き入れていくのだった。