校長室
建国の絆第2部 第3回/全4回
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黒蜘蛛洞の奥 ラミアの白輝精は洞窟の奥で、魔法学校と百合園の一団がやってくるのを待っていた。とぐろを巻いた自身の蛇体の上に腰かけるようなポーズだ。その背後には大きな岩。 隠れ鏖殺寺院メンバーであるクリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)が、彼女の護衛役として近くの岩陰に潜んでいた。 いつものように仮面で変装しているが、今のところは、時々近づいてくる大グモを追い払う以外に仕事はない。 クリストファーは隠れ場所から顔をのぞかせて、白輝精に話しかけた。 「こんな洞窟の中にずっといると、急に闇龍が襲ってきて洞窟もろとも一巻の終わりなんて悪い想像しちゃうよ。 あ、でも、その神官がここにいるんだから大丈夫かな?」 てっきり笑い飛ばされると思ったが、白輝精は複雑な表情を浮かべた。 クリストファーは不思議に思い、聞く。 「闇龍って鏖殺寺院の信仰対象だったんじゃないの? それとも白輝精はもう神官じゃないから関係ない?」 白輝精はなぜかむくれた顔で、髪をかきあげる。 「……もともとポーズだものねぇ。 ……砕音と取引したのよ。話す代わりに、私を護るって。 後で、イルミンや百合園の子たちにまとめて話すから、あなたも一緒に聞きなさい」 白輝精の言葉の大半はよく分からなかったが、後で説明してくれるらしいとクリストファーは自分を納得させる。ナーバスになっている彼女を刺激するのは危険だ。 「分かったよ。……黒蜘蛛洞に忘れてかないでよ?」 クリストファーの言葉に、白輝精は噴き出す。 「忘れないわよ。陰に隠れてても、テレポートする時に一緒に連れてくから」 それから二人は、しばらく待った。まだ生徒一行は現れない。 クリストファーは体を登ろうとする小蜘蛛を払い、また白輝精に聞いた。 「葦原藩の御筆書きにあった、狂う前の姫君って、どんな警告を発していたのか知ってる?」 「ああ、ネットで公開されてる、あれね。 ダークヴァルキリー様が、自然の摂理を破壊してはいけない、とか、人と自然の共生を訴えた事じゃないかしら?」 クリストファーは予想していた事とはいえ、唖然とする。 「あの『王都がクルクル』言ってる人が、昔はそんな事を言ってたんだ……」 「呪いで百八十度、性格が変わったものね。まあ、心の根底の不満とか不安は、そのまま残ってるようだけど」 クリストファーはこくりとツバを飲んだ。 「それを元に戻そうとする……回顧派の事を白輝精はどう思ってるの?」 彼の緊張に比べ、白輝精は気のない調子で答える。 「砕音やヘルが関わってなければ、八つ裂きにしてたところだけど……。今となっては、どうとでも好きにやってちょうだい、という感じね」 なんだか、投げやりな印象を受ける。 クリストファーがその訳を聞こうとした時、遠くで爆発音が響いた。魔法が炸裂した音のようだ。 「そろそろ来るみたいだね」 クリストファーは隠れ場所に引っ込み、武器を構えた。