校長室
建国の絆第2部 第3回/全4回
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会談前 大量の蜘蛛の中をくぐり抜け、皆がようやく最奥にたどり着くと、そこには既に白輝精が待っていた。 「お疲れ様。あなた達のことはよく分かったわ。ほんとにお人好しの集団ね」 誰も二心を抱いていないなんて、と幾分茶化すように言った後、白輝精は一行の中にいるアーデルハイトに似た少女に目を留めた。 「……まさか、あんな事で、昔の娘を可愛がっていた頃を取り戻すなんてね。……まあ、その方がきっと幸せね……」 「それはどういうことですか?」 その呟きを耳にした未憂が尋ねてみたが、白輝精は寂しそうとも嬉しそうとも取れる微妙な笑いを浮かべるだけで、その意味を答えようとはせず。 「さ、行くわよ」 誰1人として蜘蛛の中に残すことなく、白輝精は皆を神殿にテレポートさせた。 「お望み通り、連れて来たわよ」 白輝精からの報せを聞き、砕音はベッドから起きあがった。 が……一行の姿に目を見開いた。白輝精からは、安全の為に面会者を選別する、とは聞いていたが、この有様は何だろう。一行の中には女生徒も多く、それが蜘蛛の体液と巣にまみれている様子はいかにも気の毒に見えた。 「やりすぎじゃないのか?」 非難を含ませた目を向ける砕音に、白輝精は肩をすくめてみせる。 「しっかり選別する為には仕方ないじゃないの。まあ幸い、警戒は杞憂だったみたいだけど」 しれっと答える白輝精に小さく溜息をつくと、砕音は一行に向き直った。 「神殿の裏に温泉があります。よければそちらで身を清めて下さい」 そう勧めると共に、砕音は部下に飲み物や軽い食事を用意するようにと言いつけた。 「まずは少し休息を。会談はその後にしましょう」 レディファースト、ということで、まずは女生徒たちから温泉を使わせてもらうことになった。 「うのぉ、髪が蜘蛛の巣で固まってるよ」 多少の汚れには慣れているミルディアだったけれど、へばりついた汚れを落とせるのはやはり嬉しい。長い髪に絡まった蜘蛛の巣を丹念に洗い落とす。 「一働きした後の温泉は最高だぜ」 魅世瑠はラズと共に、のびのびと解放感を楽しみながら湯につかった。 「一応スク水持ってきておいて良かった」 スクール水着を着て温泉につかるレキの胸元に目を注ぎ、ミアは肩まで湯に浸かった。 「大きければ良いというものではないわ!」 いつかは追い抜くほどに大きくなってやる、そう誓いつつミアはちらりとアーデルハイトの胸に視線をやり。 「ふっ」 「今、厭な笑みを浮かべたのう? どういう意味じゃ!」 いきり立つアーデルハイトを横目に、ミアはしらん顔で手でちゃぷちゃぷと湯を掬った。 「葵ちゃんは入らないんですか?」 温泉の際まで行ったものの、そのまま待機している葵を気遣ってエレンディラが尋ねると、葵は首を振った。 「あたしは鈴子団長の身を守らないといけないから。ここで警備してるよ。エレンは入ってきたら?」 「いえ、多くの人と温泉は……恥ずかしいですから」 実際、接近戦をしていないのでエレンディラはあまり汚れていない。けれど、鈴子の前に立ち続けた葵の汚れは随分とひどかった。せめて拭き取れないかとエレンディラが湯で濡らしたタオルで葵を擦っているのに気付き、鈴子が勧める。 「あなたも随分汚れてしまっていますもの。警備は交替にして、お湯をお使いなさいな」 「団長が言うなら遠慮無く……でもその前にっ」 葵は手近にあった湯桶を投げた。 「うおっ……」 茂みから葉月 ショウ(はづき・しょう)が額を抑えて転がり出てくる。隠れ身を使い、これで万全と潜んでいたのだが、葵が念のためにとかけた殺気看破に暴かれたのだ。 「くそっ……温泉と聞いてのぞき部が黙っていられるかよ」 言いつつしっかりと目を開けようとした処に、今度は湯が浴びせかけられた。 「もう1人隠れてるのも分かってるんだよっ!」 「……こほん」 見つかったと知り、ラグナ・ウインドリィ(らぐな・ういんどりぃ)はおもむろに咳払いして立ち上がった。 「おいおい青年、のぞきはいけないなぁ」 びしょ濡れ姿でもっともらしく言うラグナに、ショウが目をむく。 「ちょ、オッサン、俺だけに押しつける気か?」 「俺はあれだ、あれ。ほら、お嬢さんがいつ襲われるか分からないからなぁ。何時でも守れるようにってね。そう、決してのぞきに来た訳じゃ……あうっ」 額に誰かの靴をくらって、ラグナは呻いた。 飛んでくる湯桶やアヒルのおもちゃ、そして攻撃魔法。 「っ痛てぇぇぇぇ!」 さすがにたまらず、ショウとラグナはその場から逃げ出した。