校長室
建国の絆第2部 第3回/全4回
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砕音との会談 温泉で身を清めた皆が会談に備えて休息を取っている頃。 ラズィーヤの知りたいことを尋ねるには、質問状だけでは不十分だろうとみた桐生 円(きりゅう・まどか)は、砕音にこんな申し出をしていた。 「この会談に直接ラズィーヤ様に参加してもらえるように、機材を使わせてもらっていいかな」 砕音の了承を得ると、円はラズィーヤのもとにいるオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)に連絡を取った。 円は砕音のいる神殿に、オリヴィアはラズィーヤのいる学院に、携帯電話にマイクやスピーカー等の機材をセッティング。大がかりなものは無理だから音質はまあそれなりだが、双方が会話するだけなら支障はないだろう。 「もう1つ頼みがあるんだ。この交渉の場を録音したいんだけど、いいかな?」 了承されるか拒否されるか、と身構えつつ尋ねた円に、砕音が返したのは礼の言葉だった。 「ありがとう。こちらとしても是非録音していただきたい処です」 「へ? そうなんだ。じゃあ遠慮なく」 意外だったけれど良いというならこれ幸い、とばかりに円は機材の設置を終えた。これで少しはラズィーヤへのポイント稼ぎになるかと、そんな胸算用も浮かぶ。 準備が整うと、いよいよ会談となった。 桜谷鈴子は質問状を携えてきていたが、ラズィーヤが直接話すことを了承してもらえ、且つ、この場所からの通信も可能とのことだったので、質問はラズィーヤに任せ、場を見守る形となった。 「こうして直接お話が出来るだなんて、嬉しいですわ」 スピーカーから百合園女学院にいるラズィーヤの声が流れてくる。どこか含みがあるその言葉に、砕音は自分も会談の礼を述べるに留めた。 「ではまず最初に、あなたの立場を確認させていただきますわね。鏖殺寺院の長臨時代理、また神子の元パートナー、でよろしいかしら?」 「はい。ただ先にお話しておきますが、鏖殺寺院の長臨時代理に関しては、名ばかりのものであり、鏖殺寺院に対して何の権限も無いものです」 「長の代理なのに? あ、ごめんなさい」 つい口を挟んだクラーク 波音(くらーく・はのん)が口に手を当てたが、スピーカーから流れてくるラズィーヤの声は、 「構いませんわ。皆様もきっと聞きたいことがおありでしょうから」 と、質問を促した。砕音もそれに答える。 「長の代理、と言いましても、もともと鏖殺寺院は、一組織として成り立たないバラバラのものです。幹部など力のあるメンバーが各自、勝手に活動しており、長アズールも統制や把握ができない状態でした。かろうじて資金の流れの大半をつかむ事や、象徴的な存在としてダークヴァルキリー様を抱える事で、長としての面目は保っていましたが」 答える砕音の口調は淡々として淀みない。すべてを話してくれようとしているのか、とアンナ・アシュボード(あんな・あしゅぼーど)は思い、そして尋ねた。 「無礼であることは承知で聞かせていただきます。申し訳ありません。今回聞かせていただく情報は本当に正しいものなのですね?」 「いいえ、当然の疑問だと理解しております。私の知る情報が本当に正しいのかどうか、それは私の知り及ぶところではありません。しかし、少なくとも、私が真実であると考える事をお話します」 「ではお尋ねいたします。砕音さんは鏖殺寺院の方ですが、なぜ今回会う機会を与えて貰えたのでしょう? 砕音さんにとって神子を集める、つまりシャンバラ女王復活はそれほど重要な意味合いを持っているものなのですか?」 それならば、とアンナがした質問に、砕音はゆっくりと答えた。 「本来なら私の方からお話に行きたいくらいだったのですが、この体調と昨今の情勢ではかないませんでした。こうして皆様でいらしていただいて感謝しております。そして、私は女王陛下の復活は、闇龍を封印する為だけでなく、地球や帝国、そして各学校の暴挙を止める為にも必要不可欠と考えております」 その答えに小さなどよめきが上がった。学校側の打ち出してきた作戦すべてが、生徒達に認められた訳ではない。学校側から出された作戦に疑問を覚えたものたちも少なくない、それを示すかのようなどよめきだった。 砕音が属している鏖殺寺院はどんな組織なのだろうかと、エリオット・グライアス(えりおっと・ぐらいあす)が問う。 「鏖殺寺院は、今でこそ建国を妨害するテロ集団という認識だが、そもそも何を目的として生まれた集団なのだ?」 「もともとダークヴァルキリー様は、シャンバラ女王を補佐する国家神の一柱でした。彼女に従っていた宗派が、そのまま鏖殺寺院の原型となりました。鏖殺寺院の長だったアズールも、元はダークヴァルキリー派の神官の最高位です。そこにいる白輝精は、アズールを補佐する神官の一人という立場ですね」 「ふむ、アズールの奴めは、古王国時代からダークヴァルキリーの側近で、第一の部下じゃったな」 過去を思い出し、アーデルハイトが言うと砕音は肯く。 「ええ、ダークヴァルキリー様がシャンバラ女王に仕えていた頃、彼は司祭長としてダークヴァルキリー様に次ぐ存在でした。しかし戦力確保の為、主義主張を問わずに反シャンバラへ協力する者を味方に組み込んだ結果、長にもダークヴァルキリー様にも把握できない混沌とした状態になってしまいました。特に、ダークヴァルキリー様がおかしくなられてからは、女王からシャンバラの権限を奪いとろうという反乱者を大量に組み入れて、鏖殺寺院はどんどん過激なテロ組織に変貌していったのです。……最近発足した回顧派は、現在の組織のあり方を憂い、ダークヴァルキリー様がおかしくなる前までの組織状態に戻そう、という派閥です」 その答えにアーデルハイトは大きく溜息をついた。 「5000年前は誰が敵で誰が味方かぐちゃぐちゃな状態だと思っておったら、鏖殺寺院の方もそんな状態じゃったのか……」 「鏖殺寺院『も』とは? それでは、まるでシャンバラも混沌だったような物言いですな」 言葉に引っかかりを感じたエリオットが聞くと、アーデルハイトはぼんやりしている記憶を何とか紐解こうと眉を寄せた。それでも思い出せない様子に、白輝精が口を挟んだ。 「お婆ちゃんはよく思い出せないようだから、私が説明してあげるわよ。シャンバラはアムリアナ女王の時代に急速に発展したけど、その発展に人材の質がついていけなかったのよ。女王は臣下を信頼して色々な権限を持たせたわ。でも臣下は自分を過信したり、自分の協力者への便宜を図ろうと暴走、迷走。今もそういう学校があるけど、当時とそっくりだわ。そして、シャンバラは乱開発やテクノロジーの乱用により、世界を破滅に導いたのよ」 さらっと説明されたそれは、しかし衝撃の事実だった。 「そんなことが……」 思わず呟いたアンナの言葉を受けて、アーデルハイトが猛然と白輝精に食ってかかる。 「まったくじゃ! 蛇女! そんな事を知っておるとは、わしよりも年上の大大大お婆ちゃんではないか!」 「いや、驚くところはそこじゃないだろう」 円がこっそりとツッコミを入れた。