校長室
建国の絆第2部 第3回/全4回
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ナラカ城 雲海の中に浮かぶような城。 雲とも霧ともつかないモヤにおおわれたナラカ城では、アクリト・シーカー学長率いる空京大学の研究チームが、城の施設の研究に励んでいた。 「ねえ、これは何でしょう? 勝手に明かりがついてチカチカしてるんですが」 空京大学生の紫桜 遥遠(しざくら・ようえん)が不思議そうに、周囲の学生に尋ねる。 パートナーの緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)が仕方ないな、という様子で歩み寄る。 「張り切って、あちこち触るのも……程々にして下さいね? 「触ってません。自動的に点いたんです」 少々ムッとした様子で遥遠は言い返す。 遙遠は、彼女が見る謎の3D映像を眺める。 以前これと似たような装置を見た事がある。そして、またたく光の間に浮かぶ古代文字は…… 「敵機襲来?! 学長、敵と思われる機体が近づいていると警告が出ています」 学生達は眉を寄せる。 エミリア・パージカル(えみりあ・ぱーじかる)も戸惑った様子だ。 「でもナラカ城は鏖殺寺院が手放したものですよ。今さら襲ってくるとは思えませんし……機械の誤作動かもしれませんよ?」 すると蒼空学園生の風森 巽(かぜもり・たつみ)が、砕音が書いたマニュアルのコピーを片手に端末を叩き始める。 「実際に見てみてはいかがでしょう? 外部モニタ、起動します。……接近する『機体』と思われる物体にクローズアップ」 壁面の大型モニタに、一面の空が映る。巽の操作で画面が切り替わり、その『機体』を映し出した。 「ロボット?」 「かっこいい〜」 学生達が感想をもらす。それは、まさしくアニメや映画に出てくる戦闘用ロボットに見えた。 漆黒の機体は、城に向かって飛んでくるようだ。 だが学生たちのノンキな感想も、その銃口が自分達に向けられて途切れる。 激しい音が響き、城が揺れた。城内に警戒を伝えるサイレンが響き渡る。 エミリアは小さな悲鳴をもらし、耳を抑えてうずくまった。 島村 幸(しまむら・さち)が学生たちに叫ぶ。 「防衛装置をただちに起動なさい! 実践……いいえ、実戦です」 幸はみずから、調査の為に作動停止していた装置を動かし始める。 「ママ、戦闘用プログラムを回すね」 魔道書メタモーフィック・ウイルスデータ(めたもーふぃっく・ういるすでーた)が見つけ出してきたプログラムを、幸の手元で操作できるように送信する。 「対空バリア、出力70%まで確保できました」 巽は記憶とマニュアルと格闘しながら、防空設備を動かす。 謎の漆黒の機体は、巨大な機関銃で城を攻撃しつづける。未知の素材で、現代の兵器では傷すらつかなかった城壁が、その攻撃により穴だらけになっていく。 巽のもとに城内の探索をしていたティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)から報告が入る。 「さっきの攻撃で、城壁が壊れて怪我人が出てるよ! 火災はなんとかボクたちで収めたし、ボクもヒールをかけてまわってる」 「そちらは任せませた。怪我人の救助を優先してください」 巽は心配を押し殺し、ティアに頼む。 「うんっ! ボクたちはだいじょーぶ! そっちも頑張って! ヒーロー大原則ひとーつ! 絶対に諦めない事! だもんね!」 明るい声でティアは報告を終わらせた。 しかし周囲からもれる怪我人のうめきや、轟音から、けして情況が良くないのだろう。 それを聞いたエミリアが「私も怪我人の救助に行ってきます」と走り出していく。 モニタで城内の被害状況を調べていた如月 正悟(きさらぎ・しょうご)が警告する。 「敵機はナラカ城の想いを送る装置を破壊しようとしているようだ。あれを壊されたら、この城を手に入れた意味がなくなる」 「貴重な研究資材を破壊しようなどと……許しませんよ」 幸が怒りの微笑みを浮かべて、対空砲を発射した。漆黒の機体は旋回してかわすが、城への攻撃は中断した。 アクリト学長が巽の横に来る。 「ふむ、ここはこうするとだ……」 すでにマニュアルはすべて記憶しているのだろう。流れるような動作で、何事か操作する。 その間にも、謎の襲撃者は射撃をしてくる。巽はバリアの圧力を調整しながら耐えさせる。 「幸さん、敵機の誘導を試みます」 巽はあえてバリアの死角を生み出す。そこを打ち抜こうと飛び込んできた機体に、幸が砲撃を浴びせた。 「堕ちなさい!」 大型の飛空艇でも一撃で落とす砲火だ。 「……ッ!」 しかし黒い機体はブーストの調整で、間一髪でそれを外していた。 だが、それが機体を持ち直す前に、ナラカ城を光のヴェールがおおった。 アクリトがうなずきながら、つぶやく。 「これなら手出しできまい。……まあ、こちらからも何もできないのだがね」 上空の黒い機体の中で、彼は笑った。 「ほう……まさか、お前もまた、そうだと言うのか?! 面白い。人として、これほど攻略しがいのある相手はないだろう」 しかし、もうひとつの声が言った。こちらは女性の声だ。 「お戯れを。現在の兵装では、あのバリアを貫通する事は不可能です。いかがなさいますか?」 「できる事が無いのに、いつづけても仕方あるまい?」 謎の機体が、ナラカ城を離れて雲海に消えていく。 「想いを送る施設……どうにか無事だよ」 正悟が大きく息をつきながら報告する。 ティアやエミリアからは怪我人救助の報が知らされる。 「あれは何だったのでしょう?」 遙遠はアクリトに聞いた。学長はあまり驚いていないように見える。 「おそらく新型の……しかも敵のものだな。敵もあんな物を作っていたとは、御神楽女史や金団長も驚くだろう」 「新型の?」 不思議そうな遙遠に、学長はうなずいた。 「我々の新型兵器だ。もっとも、我々だけの、とは行かなかったようだがな。 まだ多くを明かすわけにはいかんが……ふむ、島村君、風森君、今の戦闘でなかなか筋が良かったぞ。 君たちも、あれと同じモノに乗れば、良い成績を出せるかもしれん」 謎の敵機の映像は、各学校に送信された。 それを見た環菜や金鋭峰の表情は、やはり固い。 また薔薇の学舎のジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)校長も、二人とは違う反応を示していた。 「ふむ……あのパイロットは相当、優秀な人物だな」 一緒に映像を見ていたラドゥ・イシュトヴァーン(らどぅ・いしゅとう゛ぁーん)が、せせら笑う。 「そんな事、映像を見れば誰しも思う事だ。 貴様がわざわざ、そんな事を口にするとは……さては、あのパイロットとやらが、なかなかの美青年だとでも嗅ぎつけたか?」 「ああ、そうかもしれんな」 ジェイダスは微笑む。ラドゥの渾身の皮肉は、軽く受け流された。 しかし、ジェイダスの瞳はけして笑ってなどはいなかった。 襲撃から数時間後、城内の修理にあたっていた如月 正悟(きさらぎ・しょうご)の元に、一通のメールが入った。 まさか返信があるとは思っておらず、正悟は驚く。だがメールの内容にさらに驚き、学長や学友に伝える。 「さっきの襲撃は、鏖殺寺院の地球支部のものらしい。 このメールによると、地球支部はシャンバラで活動する鏖殺寺院の資金繰りや技術開発を担当してたそうだけど……シャンバラ側の鏖殺寺院とは縁を切って、独自に攻撃を始めたらしいよ」 「君、どこから、そんな情報を?」 アクリトがいぶかしげに正悟を見る。 「砕音先生からメールがあったんだ。他に添付で、地球支部についての資料がついてきたよ。 地球の鏖殺寺院は、さっきのような人型兵器を大量に作り、シャンバラを攻撃する準備を進めてるらしい」