校長室
建国の絆第2部 第3回/全4回
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結襲撃 「なるほど――児玉結が扱うモンスター以外で障害になりそうなのは、この三名だけか」 クレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)は、偵察から帰還してきたアクィラ・グラッツィアーニ(あくぃら・ぐらっつぃあーに)の報告を受けていた。 アクィラたちが書き出してきた周囲の簡単な地形図へと目を落とす。 彼ら【新星】はアトラス火山に居た。結たちが居る場所から、そう遠くない場所だ。 彼らがアトラス火山に辿り着いたのはアルフレート・ブッセ(あるふれーと・ぶっせ)によるドラゴンキラー作戦の正当性を説いたプロパガンダと情報収集のおかげだった。 場所がシャンバラ大荒野であったため、この情報を手に入れるまでには大分苦労させられた。 アフィーナ・エリノス(あふぃーな・えりのす)が情報を元にした行動分析を行い、ダークヴァルキリーが旧王都があったと思われるアトラス火山へ向かっただろうことをなんとか割り出したのだ。 情報の収集・分析に時間がかかってしまったことで、同じようにダークヴァルキリーの一団を追って彷徨っていたクイーンヴァンガードや親衛隊には、わずかなアドヴァンテージしか取れなかったが――新星が狙っているのは児玉結であるため、それは、おそらく些細なことに過ぎなかった。 「これで児玉結への狙撃を成功させれば、イェルネの信頼を得ることが――」 クリストバル ヴァルナ(くりすとばる・う゛ぁるな)が、戦力の配置を練っているクレーメックの傍らで呟く。 「そうなれば、後はタイミングを計るだけですわね」 パートナーの呟きを聞き、クレーメックはバインダーに挟まれた簡易地形図に細かくメモを取り続けながら、小さく目元を揺らした。 「我々が従うのはあくまで金鋭峰だ。中国ではない」 零し、彼は地形図へ鋭くペン先を走らせた。 「教導団の秩序を脅かす危険な存在であるイェルネ一派を一掃するため、この作戦は必ず成功させる」 と―― 「クレーメックさーん」 クレア・セイクリッド(くれあ・せいくりっど)がばたばたと駆けて来て、手に持っていた重たげなカバンを地面に置いた。 彼女は、ふぅ、と一息ついてから、鼻歌混じりにカバンを漁り始め、 「っとね、作戦前に備品配布ー。ええとー、まず……テープレコーダー。それから、一時間分の時報の録音テープ。でで、おべんとのシャケおにぎりに、『陰陽園のおいィ?お茶』。それからー……」 次から次へとわんさか出て来る。 そんな備品配布は、まだまだ続きそうだった。 ◇ クレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)の指揮の元、新星の団員及びクレーメックと香取 翔子(かとり・しょうこ)が率いる師団の教導団員らは、児玉結たちの周囲へと密かに展開していた。 そして、定められた時刻を迎え、彼らは一斉に作戦を開始した。 「――ッ!? 来やがった!!」 瀬島 壮太(せじま・そうた)は銃を抜きながら、結の腕を取った。猫岩の裏手へと回り込んでいく。 ミミ・マリー(みみ・まりー)のバニッシュが先陣を切ってきた教導団員の目を眩ます。 「ともかく、ここは逃げるよ! モリーさんもエンプティさんも!」 「はいはい、お口ちゃん急いで急いで」 溢れた光を背景に、メメント モリー(めめんと・もりー)が「ぐー」とエンプティを急かしながら、壮太たちの後を追ってくる。 結たちを空に逃がすわけにはいかなかった。怖いのはとにかく狙撃だ。猫岩の裏手は起伏の激しい地形になっており遮蔽物が多い。そして、かなり深くなっている場所もある。そういった場所には有毒な火山ガスなどが溜まっているため、逆に伏兵を長く潜ませておくことも出来ないはずだった。 「つか、あんたらだけで逃げればよくね?」 様々な方向から撃ち出された弾丸が地面や石瓦礫を跳ね削る中、壮太に腕を引かれるまま走る結が言う。 「あいつらの狙いはユーだけっしょ」 「オレは自分だけ逃げるなんて真似はしねえ」 目の前に現れた教導団員たちへ牽制の銃撃を走らせてから、ミミとモリーの援護を受けつつ方向を変え、 「裏切りもしねえ。一緒に戦って一緒にくたばる」 側面方向からの射撃をエンプティの体がぬぅっと遮って受け止める。 ミミのバニッシュが再び放たれる。弾けた光の中を駆け抜けながら、壮太は強く言った。 「ダチってのはそういうもんだ」 「……ダチっすか。ユー、結構な割り合いで怪物ッスけど」 「オレなんざ結構な割り合いで、おっぱい好きだぜ?」 「――っあははは、何それ」 それでも。 結を狙う教導団員の数と地形を利用された配置には敵わず、壮太たちは結を逃すために分断させられることとなる。 「これで大丈夫」 レナ・ブランド(れな・ぶらんど)は、ヒールを終え、ゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)の胸をぽんっと叩いた。 「すいません……」 ゴットリープが申し訳なさそうに言って、後から慌てて礼を付け加える。 レナはその様子に軽く口を曲げ、 「いいから、早く任務に戻って」 「あ、はい」 うなずき、ゴットリープが武器を片手にレナの元を後にする。彼女はその背を見送りながら小さく息を吐いた。 ゴットリープらの役目は結を護衛する者たちを引き離すことだった。今は、エンプティの吐き出した化け物たちを相手にしている。 既に何人もの教導団員が、その化け物たちに、あるいはエンプティ自身に喰われて命を失っていた。 怪我のみで済み、治療のために後方へ戻れたゴットリープは、かなり幸運な方なのだろう。 (しかし――あれは……児玉結に対して心底申し訳ないと思ってるわね) 次の怪我人の治療を行いながら、先ほど見た彼の様子を思い出す。レナ自身、今回の作戦に疑問を感じてはいた。しかし、教導団のために、そして軍人であるために、今は私情を差し挟んでいる場合ではない。 それは、おそらくゴットリープにも分かっているはずだった。 火薬が弾ける衝撃を腕と体で支えながら、辺りに乱立する自然の石柱の間を駆け抜ける。、 ジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)は、ゴットリープらと共に結の周りのモンスターらを引き付けるため、石柱や瓦礫による遮蔽を渡りながら射撃を繰り返していた。 彼と共に行くフィリシア・レイスリー(ふぃりしあ・れいすりー)が、向こうの方に立つ結へと、 「あなたは自分のした事をどう考えているの?」 鋭く責めるように言う。 「はぁ? 何の話?」 エンプティの吐き出した化け物たちに囲まれながら、結が不快そうに首を傾げる。 「あなたのせいで、何人もの子供が親を失ったわ」 「パラ実の行事で戦争に行った時のこと言ってんの? あそこって略奪だの殺しだのが土地の文化っしょ」 「罪の意識は、無いのね」 「何が悪いって? ――あ、ユーが怪物だから、よけーに罪が重いっつの?」 「おまえにも同情すべき点があるのは認めるぜ」 ジェイコブは、言って、こちらに迫っていた化け物へと弾丸を叩き込みながら次のポイントへの道筋を確認した。 「だが――だからといってテロ組織に加わり、破壊と殺りくを繰り返して良い、という理屈は通らないッ」 「アハハハ、鬼ウケるー。あんたらなんて戦争フェチの殺りくジャンキー集団のクセに」 反論しようとしたところで、ジェイコブらは死角から回り込まれて来ていたモンスターたちの襲撃を受けた。 「――チッ」 そいつらの鼻先に弾丸を叩き込みながら、フィリシアと共にモンスターらを引き付けるためのポイントへと向かっていく。 視界を掠めたのは、地面に横たわる赤くれた手。もう二度と動くことは無いだろう教導団員の体の横を駆け抜ける。こちらも相当な被害を受けていたが、結の周りのモンスターたちは、かなり薄くなってきていた。