校長室
建国の絆第2部 第3回/全4回
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テティスVSジークリンデ 「ジークリンデ……」 皇 彼方(はなぶさ・かなた)らクイーンヴァンガードは、ようやく見つけたジークリンデたちを取り囲むように隊を展開していた。 「――参られたか」 ジークリンデのそばに居た坂下 鹿次郎(さかのした・しかじろう)が、武器を抜き放ちながら振り返る。 ジークリンデがフェザースピアを手に、 「皆。彼らの目的は私だわ。巻き込まれないように離れて――」 「拙者、悲壮なる乙女の決意を護る剣で有りたいのでござるよ」 「しかし……」 「拙者の武士道曲がることはござらん――なに、無事戻れればご褒美の一つでもお願いするでござるよ。例えば巫女装束で何か言って貰えれば最高でござるな」 「パラミタ一の武士道ではなくパラミタ一のお調子者ですわ」 姉ヶ崎 雪(あねがさき・ゆき)が呆れ果てたように言って、彼方らの方へと目を細める。ふ、と小さく息を抜く。 「人の情けを貫くのも又一つの正義なのかしらね」 「ジークリンデ・ウェルザング」 テティス・レジャ(ててぃす・れじゃ)の掲げた魔剣の切っ先が、遠く、ジークリンデへと向けられる。 「学園の仲間だと思っていたのに……裏切った。私たちに向けた笑顔も、交わした言葉も、全て嘘だった」 なじられ、ジークリンデが、かすかに震えた空気を飲む。しかし、返す言葉は無い。 彼女たちの後方で、ダークヴァルキリーは詰まらなそうな顔しながらキロキロと眼玉を動かしていた。 と―― 「クル来ルくる!」 彼女は、ふいに飛び上がってグルリと身を空に遊ばせた。 「王都くるヨ! 来ルくルくるクるくルクルくる来るクる!」 そのまま、彼女はどこかへ飛んで行ってしまったが、追う者は誰も居なかった。 テティスの気が少しそれた間を縫って、彼方が、 「ジークリンデ、こちらに戻ってくる気はないのか?」 最終確認のように問う。彼には、ジークリンデを討伐しなくて済む理由を見つけることが出来ないようだった。おそらく、彼の中にあったのは、ただ、かすかな予感だけ。後でテティスが苦しむことになるかもしれない、という予感。 ジークリンデが小さくうなずく。 そして、テティスが魔剣を構えながら、鋭く地を蹴った。 「逆賊ジークリンデ! あなたを討つ!!」 その刹那―― ジークリンデ討伐のために、テティスのそばに控えていたはずのエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)の掌がテティスの顎を狙った。 「――ッ!?」 寸でのところで身を翻したテティスとエヴァルトとの間に割り込んでいたのは、樹月 刀真(きづき・とうま)。 刀真が振るった光条兵器がエヴァルトを狙い、その切っ先から少しでも逃れようとする形でエヴァルトの体は後方へ飛んだ。 それを皮切りにして。 クイーンヴァンガード内でテティス妨害を企てていた者たちが一斉に行動を開始した。 ある者はジークリンデを守るためにヴァンガード隊の攻撃を阻害し、ある者は魔剣を狙ってテティスへと飛び掛かってくる。 そんな混沌とし始めた戦況の中で―― 「テティス。邪魔する奴らは俺が殺す、だからお前はジークリンデを確実に殺せ」 刀真が光条兵器でエヴァルトと切っ先を交えながら鋭く言う。 エヴァルトがロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)と共に刀真を相手にしながら、表情を強める。 「彼女を殺すのは性急だ。ウェルザングさんも、寺院に居るのは考えあってのこと。まずは疑惑を晴ら――ッ」 エヴァルトの言葉を遮るように弾けた漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)のバニッシュ。 そして、テティスの魔剣が放った強烈な衝撃波が辺りをでたらめに引き裂いた。 「全く……ここまで予想通りの事態になるとは」 ヴァンガード隊と共に行動していた道明寺 玲(どうみょうじ・れい)は呆れた調子の感嘆を零しつつ、戦列から離れて行っていた。 「討伐命令を出してもこの有様。どこまで本気なのか疑ってしまう――蒼空学園がこの責任をどうとるか楽しみですな」 「しかし、少なくともテティスさんは、本気でジークリンデを討つつもりのようです」 イングリッド・スウィーニー(いんぐりっど・すうぃーにー)は、ドラゴンキラー作戦仕様の銃を手に玲のそばを駆けながら言う。 イングリッドはジークリンデ討伐に際して、この弾丸による狙撃での協力をテティスに申し出ていた。機を取り、彼女の合図によって狙撃する算段だ。 「さて……どうなるやら」 玲は薄く笑って、カメラを取り出し、現状を記録するために録画を開始した。 ◇ 「なんでッ――」 魔剣を弾き飛ばそうと飛びかかってきた数人の生徒を衝撃波で吹っ飛ばし、テティスは強く歪めた眼でジークリンデを探した。 そこへ、レイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)の剣が風を斬る。 「お前ら聞いた話じゃデコに従順してるだけじゃねぇか!」 「命令に従うのは当然でしょう!」 剣を魔剣の腹で受けたテティスが彼を睨む。魔剣の持つ力にギシギシと圧されながら、レイディスは続けた。 「今は一個人なんか気にしてねぇで、闇龍ってのをぶっ倒す時だろうが! 見失ってんじゃねぇぞ!!」 「何も見失ってなんかいない! 殲滅塔ならば、私たちの力で闇龍を討てたかもしれない――なのに、彼女は、その破壊に力を貸したの! そして、なにより、姉としてダークヴァルキリーに力を貸し続けている!! 今、彼女を倒すことには重大な意味が、あるッ!」 「――クッ!?」 魔剣に強く弾かれ、レイディスの体が硬く尖った地面に足先を滑らせながら吹っ飛んで行く。 「レイディス!!」 レイディスたちと共に魔剣をテティスから奪い、リコの元へ運ぼうとしていた虎鶫 涼(とらつぐみ・りょう)の声。 「構うなッ!」 レイディスに言われて、涼は薄く舌打ちをしながら、レイディスを吹っ飛ばした体勢のテティスの懐へと潜り込んだ。 「ッ――しつこい!!」 テティスが切っ先を翻すのと同時に、涼のパートナーであるレアティータ・レム(れあてぃーた・れむ)の光術が放たれる。 一瞬で溢れた光。 涼の手がテティスの手元に伸びる――が、彼の体はガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)によって、打ち飛ばされた。 「涼ッ」 「大丈夫だ」 駆け寄ろうとしていたレイディスを挙げた片手で留め、涼は武器を構えた。 そんな彼らの足元へ、霧島 玖朔(きりしま・くざく)の弾丸が牽制するように走る。 玖朔が、背後のテティスへと言う。 「ここは俺たちが抑える。だから――殉じてくれ、己の答えに」 「……ええ」 ほんの一瞬の間を置いてから、テティスがうなずき、ジークリンデの方へと駆けていく。テティスを追おうとした面々を、玖朔のパートナーであるハヅキ・イェルネフェルト(はづき・いぇるねふぇると)の弾丸が牽制する。 更に、テティスを狙う者を取り囲うように、ヴァンガード隊員たちが展開し始めていた。 レイディスのパートナーであるシュレイド・フリーウィンド(しゅれいど・ふりーうぃんど)が切っ先を慎重に巡らせながら、吐き捨てる。 「女王の先兵……? なんだかんだで、カンナ”様”の使い走りだろうよ?」 周囲の隊員を挑発して、己に矛先を集めようというつもりらしい。 ハーレックは静かに視線を細めた。 「闇龍を倒せる可能性であった殲滅塔、その破壊に大きく貢献したジークリンデの罪は明白です」 その後方でシルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)が銃を構えながら続ける。 「奇麗事を並べ、知人なら悪でも許す。そんな曖昧な理想論と感情だけで突っ走り……それで、このシャンバラが崩壊する危機を防げるか?」 そして、ウィッカーは喝を入れるように声を張った。 「目ぇ覚まして筋を通さんかい! 抽象的な理想で行動する時期なんぞ、とうに過ぎとんのじゃァッ!」 「ならば、なおさら今は同志で争っている場合じゃないと気づくべきだ!」 前原 拓海(まえばら・たくみ)の声が響く。 彼の後方で理子様親衛隊や理子と共に来た者たちが行動を開始していた。 そして、テレス・トピカ(てれす・とぴか)が、 「リンデちゃんは女王家の血筋を引いてるかもしれないんだよ! ううん、もしかしたら――」 「戯言を!」 テティスの声が返り、衝撃波が舞う。 「今更そんなデタラメを持ち出したって無駄よ! 私たちはジークリンデを討つ! それが、今、私たちに出来ることなんだから!」 「討たせはしない!」 衝撃波をかわし、拓海は更に高らかに声を上げた。 「理子様親衛隊が全員を守ります!」 「あれは――高根沢理子と、その親衛隊……?」 道明寺 玲(どうみょうじ・れい)はカメラを巡らせた。 「なるほど、彼女たちもまた、ジークリンデを守ろうと……面白くなってきましたな」 あちらこちらで鳴り響く激しい戦闘音の中、カメラのレンズは静かに彼らの姿を映し出していた。