校長室
建国の絆第2部 第3回/全4回
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闇龍への突撃 「なー」 しなやかな喉を反らせ、一匹の子猫──子猫の姿をしたアリス・立川 ミケ(たちかわ・みけ)が天に鳴いた。 「そうだね、無事だと良いね」 立川 るる(たちかわ・るる)は彼女の言葉が分かっているのか、ミケの黒い毛皮に覆われた頭を撫でて、共に空を見上げた。 昼間の筈なのに、太陽は黒雲の向こうにかすんでいる。シャンバラに巻き付いた闇龍は黒い砂嵐のようにヨシオタウンの空を覆い、夜になっても、るるの大好きな星の光はここには届かない。 けれど、それもきっとすぐに終わる……終わらせてきっとここに帰ってくると二人は信じていた。 「ピラミッドで待ってる、って約束したんだもん!」 るる達の目の前には、ヨシオタウンの支配者御人 良雄(おひと・よしお)が、天体観測用(実はそれを喜ぶだろうるるのため)に造らせたピラミッドがある。 「ミケ、一緒に祈ろうね。良雄くんとみんなが無事に帰ってくるように! 闇が晴れるように!」 ミケが彼女の肩に移動すると、るるはきゅっと両手を胸の前で握りしめて目を瞑った。 それから首を傾げてミケの金色に光る瞳を見やって、 「……良雄くん、ドージェさんと合流できたかなぁ。去年はドージェさんから見向きもされてなかったけど、今はどうなんだろ」 「なーなー」 「でも前とは違うもんね。きっと正々堂々がんばってるよね。まさか他の人の陰に隠れてようとか、不純なことは考えてないよね」 「……なー?」 二人は再び空を見上げた。 「うん、良雄くんなら大丈夫。早く綺麗な星が見たいなぁ」 「なな なな ななーん!」 闇龍の巨体はゆるりとうねる長大な帯となって、地平の彼方まで続いていた。 皮膚の表面はもうもうと立ちこめる黒煙のように風に千切られてはいるが限りなく、濃く、先の風景を見通すことはできない。それだけでなく、皮膚を引きちぎっている風は闇龍から発せられているものだった。近づく程に風圧が増していく。 まさに大自然の驚異といっていい。 だけでなく、闇龍の表面からしみ出すように瘴気や魔物が地表に現れている。 外から見てもこれだけのものだ。闇龍の中に入ろうというのは並大抵の勇気では無理だ。 「私はここで待機し、闇龍内部の観測を勤めます。携帯電話にて闇龍予報を逐次流しますので、皆様必要に応じてご利用下さい」 アナンセ・クワク(あなんせ・くわく)がドージェの巨体を見上げ、それから周囲のパラ実生を始めとする突入部隊にそう告げた。相変わらず感情も抑揚もない機械的な声だったが、一人の四天王がアナンセに笑顔を向ける。 「そりゃありがてぇな。けどよ、全員で突入しちまったらてめぇはどうすんだよ?」 「アナンセさんがサポートに徹することができるように、私達が護衛するわ」 アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)が胸を叩き、天穹 虹七(てんきゅう・こうな)も頷く。 「任せてなの」 「そんじゃ頼まぁ──おらお前ら、準備はいいな!」 「皆様のためにも、どうかお願い致しますね」 ドージェ・カイラスの代わりに、彼女の腕に抱えられた剣の花嫁マレーナ・サエフがアナンセ、アリア、虹七に頭を下げた。 「では、行って参ります」 ドージェはゆっくりと闇龍に突入していく。彼の姿は煙に包まれ、そしてすぐに闇龍の胴体に飲み込まれてしまった。 遅れて、パラ実生の軍勢も次々に闇龍に突撃していく。 「アナンセおねえちゃん、無理しないでね。こうなも、おねえちゃんも一緒に頑張るの!」 「ありがとう、虹七さん」 アナンセは虹七の頭をなでる。嬉しそうに撫でられている虹七を見て、アリアも口元をほころばせた。 一度は殲滅塔で敵味方別れてしまったけれど、こうしてまた再会できて、いままでのように過ごせるのが嬉しかった。 「それにしても……あうぅ……凄い風なの……。中はどうなっちゃってるんだろうね」 その間にアナンセは持参した機械を開いた。闇龍の核が映し出された中央のモニターにウィンドウが開き、闇龍の各地の状況を映し出す。 「……なんだか怖い魔物がいっぱいなの」 「私は作業に集中するために、戦闘に参加できません。宜しくお願いします」 「勿論よ、そのために来たんだから。気休めにしかならないかも知れないけど……想いの光よ! 闇を退ける力を!」 アリアが“護国の聖域”を自らを中心に展開し、虹七も“パワーブレス”の祝福を全員与える。 そうこうする間に、早速アナンセ達に気付いた魔物が数体、薄い皮膜の羽をはばたかせて飛来した。 「アナンセの邪魔はさせないわよ!」 ブライトグラディウスの輝く白刃が、ナラカの魔物に突き立った。