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イルミンスールの迷宮!?

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イルミンスールの迷宮!?

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4.昆虫との戦い

 こちらはカレン・クレスティアとジュレール・リーヴェンディのペア。

 彼女たちは、根の門が開くとすぐに中へ入り、一行に先駆けて奥のほうまで来ていたのだ。

 途中、寄生虫が出てきても、完全に無視して進んだ。
 ふたりを乗せた箒はビューーンと心地よい音を立て、快速で飛んでいく。

 でも、根のいたるところにある分岐点では、どのようにして進んだのだろうか?

 不思議なことに、なぜか正しい道を選択していたようだ。
 カレン・クレスティアの方向感覚は、天性の素質があるらしい。

「ボクって、天才かも!? ね、ジュレ!」

 屈託なく笑いながら言うカレンに、ジュレールは
「それをいうなら『天災少女』じゃないの?」
とやり返す。

 だいぶ深いところまでやってきたとき、カレンたちは箒を降りてあたりを探索した。

「さあ、このあたりでいいわね。ここで昆虫を探すわよ」

 カレンはそういうと、ジュレールと一緒に昆虫をみつけるべく、根の穴や隙間をのぞき始めた。

 しかし、たまに出てくるものといえばワーム(寄生虫)ばかり。

「おかしいわねぇ。もっと深いところに行かないとだめなのかしら」

 彼女たちはそういうと、さらに奥へと進んでいった。

 根に入って1時間が経過したとき、カレンは持ってきた蜂蜜を取り出すと、次の作戦に打って出た。

「ダメだわ。いない。よ〜し、こうなったら蜂蜜作戦よ。
ジュレ。これをどう使うかわかる?」

「はいはい、カレンのやりたいことってわかり易すぎて説明をきくまでもないよ」

 ジュレールは、半ば諦め顔ながらも、カレンと一緒になって、そこらじゅうに蜂蜜を撒いた。

「これで、昆虫たちがいっぱい寄ってくるわね。どんな虫が来るのかしら? ワクワクするわ」


 そうこうしているうちに、運搬班と護衛班の一行が、カレン・クレスティアたちのいる場所に近づいてきた。

 緋桜 ケイは、身体を小刻みに震わせながら祈っていた。

「た、頼む……。出てこないでくれよ……」

 根に入るときは勇んで出発したものの、いざ、迷宮の奥深くまで足を踏み入れると、やはり恐ろしい。
 緋桜 ケイの弱点は、昆虫系モンスターなのだ。

 怯える緋桜 ケイのそばでは、クロセル・ラインツァートがしきりに石を投げている。
 根の隙間や小さな穴など、死角になりそうな場所を狙って、モンスターの反応があるかどうかを確かめている。

「良い子の皆、危ないからオニーサンの真似をしちゃダメですよッ!」

 石を投げながら、クロセルは緋桜 ケイの不安を和らげようとしていた。

 アルツール・ライヘンベルガーは、パーティに先行して歩きながら、ピレスロイド系の防虫剤を撒いていた。

「ピレスロイド系なら、世界樹にも害にはならん。昆虫たちは、多少びっくりさせて追い返すだけでよかろう」
と考えてのことだ。

 また、アルツールは、パートナーのエヴァ・ブラッケとともに、火術の魔法陣を各所に仕掛けていった。

「では、エヴァ・ブラッケ、通路の確保にいきます!」

「おお、よろしくな」

 こういうと、ふたりは手分けして、パーティたちの安全確保に奔走した。

 ちなみに、今回しかける火術の魔法陣は、殺傷力の弱いものだ。
 踏み込むと派手な音と閃光が発生するだけの、あくまでも通路を確保するための手段に徹している。

 むやみな殺生は、彼らのポリシーに合わないのだろう。


 しばらくして、ようやくパーティ一行が、カレン・クレスティアとジュレール・リーヴェンディのいる場所に追いついた。

 彼らがふたりとの再会を喜んでいると、御剣 カズマの禁猟区が発動した。
 カズマは、自分中心に禁猟区をかけていたのだ。

 どうやら、『蜂蜜』の匂いに誘われた昆虫たちが、一行の到着と同時に姿を現したようだ。

「さあ来たぞ! みんな、戦闘準備だ!
ただし、攻撃してこない虫は『有益な虫』だから、退治しないようにね!
エリザ様がそうおっしゃってたから」

 八神 九十九の号令に、護衛班のメンバーたちは武器を構えた。

 地上のとは比べものにならないほど大きな虫が、護衛メンバーたちに向かって襲いかかってくる。
 スピードやパワーも、すさまじいものを感じさせる。

「行く手に危険が待ち受けようと、心に守るものあるならば、たとえ命尽きるとも体を張って守り通す…人、それを漢(おとこ)と呼ぶ!」

 こういうと、御剣 カズマは、大きな虫に突っ込んでいった。

 しかし、カズマは無謀な戦い方はせず、関節や羽根、腹や触覚など軟らかめの部位を丁寧に突いていった。

「俺は子供の頃にムシキングにハマっていた! 昆虫の知識は結構豊富なんだぜ!」

「なかなかの戦上手ですな」
と、御剣 カズマの活躍を傍目で見ていた織機 誠は感心していた。

 織機 誠は後ろを振り返ると、運搬班のメンバーたちに優しく声をかけた。

「まあ、とりあえず私がみなさんの盾になりますから。一緒に頑張りましょう」

 そういい終わらないうちに、一匹の昆虫が織機 誠に向かってきた。

「世界樹の平和を守るため、僭越ながら私がお相手いたしましょう!」

 誠は白い歯をキラリと光らせ、無駄に爽やかな笑顔でランスを構えた。

 織機 誠の戦い方は、専守防衛だ。

 ”女王の加護”を使って防御を固め、運搬班メンバーたちを安全な狭い場所へと誘導している。
 襲い掛かる昆虫に対しては、主に「突き」を繰り出すなど、見事な槍さばきをみせていた。


 白砂 司も、運搬班のもつ栄養剤を守る役割に徹していた。そして、運搬班のメンバーにこういった。

「俺が囮になって昆虫たちの目をひきつける。だからここは任せろ。
お前たちはさっさと行け」

 ロレンシア・パウも、白砂 司の背後にくっついて、運搬班に危害を及ぼそうとする昆虫たちを魔法で狙撃していた。

 一刻も早くミッションをクリアしなければいけない運搬班は、白砂 司たちに昆虫の相手を任せ、先を急ぐことにした。

 この運搬メンバーにいた羽瀬川 セトも、パートナーのエレミア・ファフニールに先行して目的地へと急いでいだ。

 途中で遭遇するモンスターは、ランスで蹴散らしつつ、大切な栄養剤に気を配っている。

 エレミアも、魔法でセトを護りつつ、根の奥まで一気に進んでいった。

 同じく峰谷 恵も、護衛班が露払いしてくれたルートを通って先を急いだ。
 ここは逃げに徹して、早く一番奥の根を目指したかったのだ。


 一方、さきほどからビクビクと虫を怖がっていた緋桜 ケイは、とうとう本当に巨大昆虫たちを目にして悲鳴を上げた。

「きゃあああああ!!」

 普段わざと使っている『男らしい』乱暴な口調も、パニックになると幼少期からの地である『女の子』に戻ってしまった。

「いやああ!! こっちにこないでくださいー!!
私、虫だけはダメなんですー!」

 これを見たパートナーの悠久ノ カナタは、錯乱している緋桜 ケイに渇を入れた。

「ええい! 女のような悲鳴を上げるな! 馬鹿者ッ!」

 そして、ケイの両手を握り、落ち着けとばかり言い聞かせた。

「虫が怖いのであれば目を瞑れ……。
そして冷静にわらわの言う通りに動くのだ」

 緋桜 ケイは、パートナーのおかげで冷静さを取り戻していった。

「よし、右だ! 『氷術』を放て!」

「ジャキーン!」

 悠久ノ カナタの指示で、緋桜 ケイの放つ氷の塊が、昆虫を直撃した。

「いいぞ! 次は正面に攻撃するのだ!」

「ビューン!」

 今度は、わずかに外してしまった。
 だが、氷術の効果で、寒さが苦手な昆虫たちは、次第に動きを鈍らせていったのだ。

「今だ。逃げよう」

 悠久ノ カナタはそういうと、緋桜 ケイの手を引いて、昆虫の群れから遠ざかるべく、駆け抜けていった。


 カレン・クレスティアは、珍しい昆虫モンスターを見て喜んでいた。

「やったぁ! ボクの『蜂蜜』作戦が成功したぞ。
今まで見たこともない種類ばっかりだもん」

 そういうと、昆虫たちに向かって火術をビシバシ放っていった。

「カレン、そんなに火術を使ったら、イルミンスールの根が燃えてしまうであろう?」

 こう心配するジュレール・リーヴェンディの忠告にも
「そんなこと心配ないよ。
だって世界樹がボクの魔法くらいで燃えちゃうんなら、今ここに樹が立ってないって、ね?」
と、カレンは全く聞く耳を持っていないようだ。

 仕方がないので、ジュレール・リーヴェンディは愛用の魔法剣「カルスノウト」を取り出し、昆虫たちに剣技を繰り出していった。

 すると、カレン・クレスティアは思い出したように付け加えた。

「そうだ、ジュレ! でっかい虫が出たら、角とか脚とか、とにかく斬っちゃってね」

 昆虫の手足を切断せよというのは、あくまでも敵の動きを封じるためなんだろうとジュレールは思っていた。
 よもや、カレンが虫たちの角や脚を持って帰るためだとは、考えもつかなかった。


 さきほど、石を投げていたクロセル・ラインツァートは、昆虫たちが出現すると、投石をやめ、ドラゴンアーツで迎撃した。
 一撃で岩や壁を打ち抜くことができる怪力は、甲虫が誇る固い身体を、いとも簡単に撃破していった。


 勇ましく戦う護衛班メンバーが多い中、プリーストのシャーロット・マウザーは、けが人をヒールで回復させていた。
 プリーストとしての職務に忠実であるべく、援護と支援に徹しているのだ。

 同じく、水橋 エリスも、パートナーのリッシュ・アークとともに、運搬メンバーをモンスターたちから護衛している。
 リッシュが前衛で、エリスが後衛。移動の援護がエリスたちの任なのだ。


 視点を戦闘現場に戻そう。

 八神 九十九は、スキル「バーストダッシュ」を使って戦っていた。

 加速で破壊力を増した攻撃は、昆虫の固い殻を貫いていくが、ときに勢い余って壁に激突することもあった。

「どうも効率が悪いわね・・・・・・」

 そういっているうちに、昆虫たちに囲まれてしまった。

「よ〜し、方針を変えてチェインスマイト!」

 続けざまに武器を繰り出すチェインスマイトは、囲まれたときにとても有効だ。
 たちまち、八神 九十九は劣勢から血路を開いていった。

 パートナーのウルキ ソルは、大き目の昆虫を相手に戦っていた。

 ウルキ ソルも御剣 カズマと同じく、昆虫系モンスターの弱点ともいえる関節部分を中心に攻撃する「技能派」なのだ。

 八神 九十九が昆虫に囲まれたとき、ウルキ ソルはツインスラッシュで九十九の血路を開く支援も忘れなかった。

 ナイトのジーナ・ユキノシタは、主に後方から魔法を放っているウィザードの前に立って、昆虫からの防壁となっていた。

「魔法系の皆さんは、攻撃するのは得意でも物理的な攻撃を受けるのは苦手そうです。
私は騎士として、仲間を守ります」

「ありがとうジーナ」

 メニエス・レインはこう礼を述べると、安心して昆虫たちに雷術を見舞っていた。

 しかし、その魔法の使い方が適当で危なっかしい。

「メニエス、もう少しちゃんと撃ったら?」
と、パートナーのミストラル・フォーセットが注意するも、相変わらず聞く耳持たない。

 仕方がないので、ミストラルはメニエスの前に出てきたモンスターだけを火術で攻撃していた。

 ズィーベン・ズューデンも、これに加勢。

「取りこぼの敵に対しては雷術で倒すよ」

 そういって、ドドーンと雷鳴を轟かせていた。


 こちらは、再度運搬班。

 ユーニス・シェフィールドは、列の後方を護っていた。
 戦闘現場から逃れて、こちらに向かってくる昆虫たちを警戒しての備えだ。

 ユーニスは、もともと運搬班のメンバーとして参加したのだが、根の奥に着くまでの道中は、護衛班としてメンバーの安全を護っているのだ。
 もちろん、栄養剤を携行した上で、である。

 と、予測どおり、虫たちが飛来してきた。

「モニカ、ボクの栄養剤を見ていて」

 ユーニスは、モニカ・ヘンダーソンにそういうと、光条兵器を取り出して応戦。

 エリオット・グライアスも、運搬を邪魔してくる昆虫に対して、杖で殴りつけ、追い払っていた。

 しかし、衆寡敵せず。
 無数の昆虫たちの妨害に遭い、運搬班のうち何名かの栄養剤がこぼれだしてしまった。

 これをみて、御宮 万宗は、台車で運んできた予備の栄養剤を取り出した。

「こぼれた?
じゃあ…これくらいを、お願いしますね」

 そういって、次々と、栄養剤を補充していった。

 アレフ・アスティアは、戦闘によって栄養剤タンクに穴が開いてしまったメンバーのために、持ってきた補修用のテープで修理を施した。
 このあたりの配慮は、さすが執事としての観察眼というべきであろう。

 また、御宮 万宗は、台車の空いた部分に、モンスターに襲われて傷ついたメンバーを乗せた。

「お疲れ様です。こっちに乗ってしばらく休んでください」

 そして、モニカ・ヘンダーソンは、栄養剤を守りつつ、傷ついた人への回復にあたっていた。


 このように、昆虫との激しい戦いが繰り広げられたが、どうやら終息を迎えたようだ。

 メイベル・ポーターとセシリア・ライトは、負傷者にヒールをかけている。

 織機 誠は、戦いに疲れたメンバーをサポートすべく
「エプロンをつけて腕によりをかけたお弁当」
を振舞っていた。

 ・・・・・・だが、食べたメンバーは微妙な顔つき・・・
 どうやら、「普通にちょっと残念な味」だったようだ。

 狭山 珠樹のほうは、
「インスミール様、いまお助けします。」
といって、戦闘で傷ついた根にヒールをかけている。

 人も樹も回復し、一行はさらに進んでいった。
 目的の最奥部は、もうすぐそこだ。