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第1章 狡猾な吸血鬼

1Day

-AM5:00-

 人の寄り付かない町外れの小屋。
 1匹の吸血鬼が瞳に妖しい光を宿し、幼い子供の喉元に噛みつく。
 どれだけ飲み干しても足りなそうな表情で、次はどの子にしようか眺める。
 吸血鬼の目に止まってしまった少女の身体は恐怖でガタガタと震えていた。
 窓から太陽の光が差し込み始め、乾きを潤すために選んだ少女から手を放す。
 2階に置いてある棺桶の中へ入ると眠りについた。
 今夜も獲物を捕らえるために。



-AM11:00-

 不審者に出会ったら危険そうな、まったく人の気配のない道を歩く2人の若い少女、桐生 円(きりゅう・まどか)オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)が木造の小屋へ向かっていた。
「ここが例の吸血鬼がいるという所なのだろうか?」
「うん、そうだよ円」
 小屋の前で足を止めて大きな可愛らしい帽子を被りなおして訊く円に、こくりと頷いたオリヴィアが答える。
 円が戸をノックしようとすると、ギィイッと鈍い音を立てて開いた。
「お嬢さん方、何の用かね?」
 黒を基調とした服を着た20代前半に見える1匹の吸血鬼が現れた。
「キミが吸血鬼マグスなのだな?」
「そうだが・・・それが何だね」
「空京の町の人たちから、ここに幼い子供たちがいると聞いただけど…本当なのか?」
「あぁ、いるとも」
「ボクたちはその子供たちと少し話がしたいのだが・・・いいだろうか」
 単刀直入に問う円の言葉に、マグスは少し考えてから少女たちの要望に答える。
「話くらいなら構わないぞ。さぁおいで」
 円より少し背が低い7歳くらいの数人の少年が、家の奥から玄関の方へやってきた。
「キミたちはどうしてここにいるのだ?」
 数分間まったが、返答が返ってくる気配はない。
「じゃあ・・・何でお家に帰らないのかな?」
 今度はオリヴィアが声をかけ、しばらく少年たちの言葉を待ったが、やはり何も答えなった。
 言葉を続けようとしたのと同時に、1人の少年が恐る恐る口を開く。
「―…ボクたちは・・・ここにいたいから・・・・・・いるだけだよ・・・」
 その答えと裏腹に小さな身体は怯えたように震えていた。
「そうなのか・・・では帰るか。また会うことになるだろうがな」
 踵を返し町に戻って行く円の赤い瞳に、子供を恐怖で支配している吸血鬼に対しての怒りが宿っていた。



-PM14:00-

 天気がいいのに外へ行かず、蒼空学園の図書室の中で本を読みふけっている学生たちがいた。
「うーん・・・こっちの本には書いてないな・・・。そっちはどうです?」
 吸血鬼に対抗する手段を探している久沙凪 ゆう(くさなぎ・ゆう)が、本の山に埋もれそうになっている椎名 真(しいな・まこと)に声をかける。
「特に何もないよー。て・・・わわっ!」
 ドザザザッ
 立ち上がろうとした瞬間、真は積みあがった大量の本の雪崩れに巻き込まれてしまう。
 ゆうは急いで本の山を掻き分けて真を救出する。
「―…大丈夫ですか・・・?」
「お花畑はまだ見えてないからOKだよ」
 冗談を言いながら、真はヘラと笑った。
「あっ!これなんていいんじゃない?」
 雪崩が起きた表紙に開いた1冊の本に目を止めた。
「吸血鬼が苦手だとされいてるのが十字架と聖水。それとニンニクみたいだね」
「特に聖水は悪魔祓いの時に使いますから有効かもしれません。それじゃあ・・・まず・・・」
「そうだね・・・」
「ここの片付け・・・ですか」
 めちゃくちゃな状態になった図書室の状態を見て、二人は深くため息をついた。



-PM20:00-

「吸血鬼め・・・若い人たちの血を吸い放題でうらやま・・・いえっそんなこと言語道断です!」
 シャーロット・マウザー(しゃーろっと・まうざー)は言いかけた言葉を言い直し、ビルの裏路地に身を潜める。
「それにしても笛の音で人を眠らせるなんて、そんなことが本当にできるのでしょうか」
 腕を組んで呻りながら考え込む。
「騒動の話が学園に流れてきたときは、魔力で操っているのかと思いましたけど。実際に町の人に訊いたら、吸血鬼に魔力を使ってないと言われたようなんですよね。魔法を使わずに人を操れるなんて・・・一体どんな曲なんでしょう・・・」
 壁に寄りかかって考えていると、遠くから冷たい空気を振動させてフルートの笛の音が聞こえてきた。
「こんな時間に外で?もしかしてこれが例のでしょうか。ふぁあ・・・なんだか眠たく・・・・・・」
 そのまま路上に横たわり、シャーロットはそのままスヤスヤと眠ってしまう。
 人々の眠りを誘う美しく妖しげな音色が夜空に響き渡っていく。