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【第四章 ダンジョン×ダンジョン】



『迷妄の盾』の攻略を試みるのは以下のメンバーだ。

○一色仁
○あーる華野 筐子
○樹月 刀真
○漆髪 月夜
カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)
ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)
影野 陽太(かげの・ようた)
ゴザルザ ゲッコー(ござるざ・げっこー)
イリスキュスティス・ルーフェンムーン(いりすきゅすてぃす・るーふぇんむーん)
桜井 雪華(さくらい・せつか)

……デスクエスト内、悪魔の森……
『迷妄の盾』の情報はとある酒場にいる酔っ払いのじいさんが持っていた。普通に話しかけても「飯はまだかの〜」としか言わないじいさんなのだが、十二回連続で話しかけると突然じょう舌になって情報を教えてくれるのだ。
 一同は『あくまのもり』へと来ていた。
「悪魔の森あるに大きな切り株から西へ三歩、南へ五歩、東に一歩、北に三歩いけ。そうすれば秘密のダンジョンへといけるだろう……か」
 酒場のじいさんの台詞を思い出しながら『蒼空の花婿』の刀真が呟く。切り株を見つけ辺りを見回すが入口らしきものは見えない。
「なんやぁ。あのジジイ、嘘つきおったんかいな」
 だるそうにしながら入口を探している雪華が愚痴をこぼす。
「えーっと、あとは北に一、二、三歩っと」
 ためしに言われたとおりに歩を踏んでいた陽太の視界が「ざ、ざ、ざ」という音とともに暗転した。そして次の瞬間、陽太は見知らぬダンジョンへと降り立っていた。少し高いところからの着地だったのでバランスを崩し倒れてしまう。
「ここが秘密のダンジョンか! なるほどっ。ちゃんとコマンドを入れないといけなかったんです――ぐはぁ」
「わあ、ジュレ! ボク、何か踏んじゃったよ!」
「カレン、我もだ。この感触はウンコに違いない」
「わーん、最悪だよ!」
 陽太の上に落ちてきたのはロリロリな二人組みカレンとジュレールだった。元気な方がカレンで、無表情なのがジュレールだ。
「あの〜、降りてもらえます?」
「あ、なんだ影野君か。ごめんごめん!」
「紛らわしいぞ」
「え!? それってどういう意味!?」
 ぴょんと飛び降りるジュレールに陽太が訊く。
「影野君、そんなことより動かなくていいの? また――あっ」
「ぎゃああああああああああああ」
 カレンが言い終わる前にコマンドを入れた残りの生徒が降ってきてしまい、陽太はまたしても下敷きになってしまった。

 ダンジョンに進入した一同はまずその全貌を明らかにするところから始めた。二組に分かれ右手法と左手法を使ってマッピングをしながらダンジョン探索する。
 そして二時間後。
 右手班が最初に降り立った場所で待っていると、程なくして左手班が帰ってきた。
「お疲れさま!」
「お待たせしました。すみません、なかなか手こずりました」
「……しつこいモンスターがいた」
 筐子が元気よく迎えるが、刀真と月夜はそれに疲れた様子でこたえた。
「しかしゲッコー君たちはすごいね。途中、何度も助けられたよ」
「いえいえ、刀真殿。拙者たちなんてまだまだ未熟者でござるよ。それにあれはみんなの勝利でござる。ね、師匠」
「そうだね! 私たちなんて霊長類最底辺の人間だもんね!」
「師匠、そこまで卑屈にならなくても……」
「あれ? だってバレないようにむ――」
 ゲッコーが慌ててイリスキュスティスの口を塞ぐ。
「……どうしたの?」
「ははは。まあ困ったときはお互い様でござるよ。それでは!」
 ゲッコーが苦しそうにしているイリスキュスティスの口を押さえたままそそくさと下がっていった。
 まあそんなことはさておき、二班が集まったので一行はさっそく互いのマップを照らし合わせる。するとほぼ完璧なマップが出来上がった。
 なぜ『ほぼ』かというと、実は一行はダンジョンの奥にある通路を探索していなかった。その理由は、今までのダンジョンの壁が茶色だったのに対し奥の通路はそこから壁が赤くなっており、明らかにやばい雰囲気がかもしだしていたからだ。そこでもし普通の通路に『欺瞞の冠』があったら骨折り損だということになり保留にしておいたのだ。
「まあやはり『欺瞞の冠』はなかったわけで……やはり奥の通路を探索するしかないですね」
 刀真が盛大なため息を吐く。
 自作のマップをたどり一同は奥の通路入口まですんなりたどり着く。赤の通路。見れば見るほど不気味だ。一同は覚悟を決めて踏み込んだ。 赤の通路は一本道になっていた。そしてすぐに一同の予感は的中する。
 ずる。ずる。ずる。
 何か引きずるような音がする。一同が振り返った。
 そこには子供が描いた落書きの頭だけ切り取ったような謎のモンスターがいた。その大きな口を開閉することによって器用にこちらにむかってきている。
「おなか へった。おなか へったああああああああああ!」
 落書きモンスターがいきなり叫ぶ。そしてすごい勢いでこちらに這ってきた。
「ジュレ、迎撃するよ!」
「うむ。我もそう思っていたところだ」
 カレンとジュレールがそれぞれスキル・氷術とスキル・ソニックブレードを放つ。
「うまい うまあああああああああ」
 それを落書きモンスターがばくばくと食べてしまう。
「効いてない!? 何あれ! 反則だよ!」
「どうやら倒せない敵のようだな」
 一同は逃げるようにして赤の通路を進んだ。落書きモンスターがスピードを上げた。このままでは追いつかれてしまう。そうなればみんな食べられてしまい全滅だ。そのピンチにデスクエスト攻略に貢献している『蒼空の花婿』の筐子が動いた。足を止め、落書きモンスターに立ちはだかる。
「ここはワタシに任せて!」
「なにをするつもりです? あの敵は無敵ですよ?」
「大丈夫だよ、刀真クン! すぐに追いつくから先に行ってて!」
「くっ。わかりました」
 後ろ髪を引かれるようにしながら刀真が去っていく。
「どうやらワタシの実力を見せるときがきたみたいね……ゲーセンにワンクレジットで開店から閉店まで居座った力を!」
 筐子がおもむろに頭の装備を交換する。それは小さな箱状のダンボールを紐でつなげ、おさげを髣髴とさせるものが付いた被り物だった。
 筐子が片足で立ち、両手を頭の上まで伸ばし手首を曲げかぎ状にする。
「いくよ! ピィ、ピィ、ピィ、ケー! おわちゃー!」
 筐子が突進しながら目にも留まらぬ拳の連打を繰り出す。そして間髪いれずに神速の回し蹴りを放った。
 しかし。
 謎の生物が口を開けていたのでそれらの全てが空振ってしまう。
「ああん」
 筐子はそのまま自ら入るような形で謎の生物の口の中へと消えていった。筐子、脱落だ。
 残りの生徒が赤の通路を進んでいると広い空間へと出る。そこは一面が泥沼となっていた。沼には足場が点在しており、向こう岸には宝箱のようなものが見える。
 一同が足場から足場へと跳躍して沼地を進む。月夜がある足場を踏んだとき、それが勢いよく沈んだ。刀真が手を伸ばし引き戻してくれたことにより、月夜は沼への転落を免れた。
「……死ぬかと思った」
「ダミーの足場ですか。浮かび上がってきませんね。これは落ちたら終わりっぽいですね」
 しかし後ろからは沼に入ってスピードが遅くなったものの、確実に落書きモンスターが追いついてきていた。足場の安全を確かめている時間はない。
 一同は勘を頼りに進む。そして運命の分岐点に差し掛かった。一同の前には二つの足場がありそれを越えると対岸へと着ける。
「……どちらかがダミーってことですよね」
「恨みっこなしだぜ?」
「は、はい」
 仁と陽太がそれぞれの足場へとジャンプした。
「わ――――!」
 陽太の足場が爆発する。陽太、脱落だ。
「底なし沼関係ねーじゃん!どうやらあっちがはずれの――」
 そのとき、沼から巨大魚が現れ、仁を丸呑みにしてしまう。仁、脱落。両方ともはずれの足場だったのだ。
「これでは進めないじゃないですか」
「……刀真、見て」
 月夜が指差す。そこには巨大魚が飛び跳ねたときに散った泥が宙に張り付いていた。刀真がそこを手で探る。するとそこには目に見えない道があった。
 一同は目に見えない道を手探りで進み宝箱のある対岸へとたどり着いた。後ろでは落書きモンスターと巨大魚が互いに喰いあっており、やがて両者とも消えていった。
 刀真が宝箱を開ける。そこには『迷妄の盾』が入っていた。
 一同が喜びを分かち合う。
「やったでござるな。それでもしよかったら拙者たちにもその盾を見せて欲しいでござる」
「もちろんいいですよ。これはみんなで力を合わせて手に入れたものですからね」
 刀真が『迷妄の盾』をゲッコーに渡した。するとゲッコーの爽やかな笑顔が不適な笑みに変わる。
「コバンザメ戦法でござる! フハハハハ!」
「ナイスや、ゲッコー! 作戦成功やな! いやー、目立たんようするのはしんどかったわ」
 そう言うのは雪華だ。
「というわけで『迷妄の盾』は拙者たちが頂くでござる」
「バイバイ!」
 言うや否やゲッコー、イリスキュスティス、雪華が脱兎のごとく走り去った。