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【第二章 黒の火山での死闘】


『絶望の剣』攻略を試みるのは以下のメンバーだ。

○十倉 朱華
○ウィスタリア・メドウ
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)
ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)
大草 義純(おおくさ・よしずみ)
橘 恭司(たちばな・きょうじ)
葉月 ショウ(はづき・しょう)
葉月 アクア(はづき・あくあ)
○柊 まなか
○シダ・ステルス
比賀 一(ひが・はじめ)
ハーヴェイン・アウグスト(はーべいん・あうぐすと)
宮辺 九郎(みやべ・くろう)
○緋桜 遙遠
○紫桜 遥遠

……デスクエスト内、黒の火山……
 ここは頻繁に噴火を繰り返している活火山で、『くろのかざん』と呼ばれる場所だ。情報によるとここの火口付近に『絶望の剣』を守るものがいるのだ。
 火山を登り始めて一時間が経った。一同は火口付近の開けた場所へと出る。そこには巨大な馬にまたがり、全長三メートルを越える甲冑を身に着けた男がいた。手には剣を持っている。
「おれは まじん ガミスピラ。おまえたちも ぜつぼうのつるぎを もとめるか! ならば ようしゃは しない! ここで しぬがよい!」
 どうやらこのガミスピラというやつが『絶望の剣』を守る者らしい。ガミスピラが馬の手綱を引く。馬がいななき、怒号のような足音をたてながら一同へと向かってくる。
 戦闘開始だ。
「アク!」
「はい!」
 アクアがショウにスキル・パワーブレスを使用する。ショウの身体を攻撃的な赤いオーラが包み込む。ショウがガミスピラへと跳躍し、攻撃を繰り出した。ガミスピラがそれを受ける。剣と剣が交じり激しく火花を散らした。そしてつばぜり合いになる。
「ひりきな!」
 ガミスピラが振り払うようにして剣を振るいショウをはじき飛ばす。
「くそ、パワーブレスありで力負けするのかよ」
 ショウが離れたのを見計らって、比賀一が横に跳ぶようにしながらスキル・スプレーショットを発動した。しかしガミスピラが剣を風車のように回しそれをはじく。
「まなかさん! いきますよ!」
「うん! 火力全開だよ!」
 続けて遙遠とまなかがスキル・火術を繰り出した。二つの火炎が交わりガミスピラを襲う。
 大きな爆発が起こり、もうもうと煙がたちこめた。その煙を切り裂くようにして中から無傷のガミスピラが現れる。
「ぬるいわ!」
 そして遙遠とまなかにすくい上げるようにして切りかかってきた。
「ふむ。あまり効いていませんね」
「なに落ち着いて観察してんの、緋桜くん! ひゃっ、こっち来るよ!?」
 寸でのところで二人のパートナーである遥遠とシダが救出する。ガミスピラの剣が空振り大地を割った。
「助かりました。遥遠」
「いいの。礼にはおよばないわ」
「まなか、あまり無茶はするな」
「ひ〜ん。ありがとう、シダ〜!」
 ガミスピラが今度は離れている比賀一に向かって剣を振るった。すると風の刃が生み出され比賀一を襲う。
「何だよ、それ。やべぇな」
 そのとき、比賀一の後ろ襟が思いっきり引っ張られる。
「ぐえ」
 比賀一の首が絞まった。しかし引っ張られたことにより、風の刃は彼の脇を掠めるだけで済んだ。彼を助けたのはパートナーのハーヴェインだ。ハーヴェインは比賀一の傷口にヒールを使う。
「あまり無茶はするなよ? お前はまだ未熟だからな」
「痛ってーな。あの二人みたいに丁寧に助けれねーのかよ、あんた」
「おいおい、それを俺に要求するのか?」
 咳きこみながら文句を言う比賀一にハーヴェインが肩をすくめてみせる。
「それよりやっこさん相当やるぞ。デスクエストに出てきた今までの敵とは段違いだ」
「わかってる。慎重にいくぜ」
 ガミスピラは力強く、そして馬の扱いにも優れており俊敏だった。一同は防戦一方だ。たった一人にまんまとかき乱されてしまう。
「ひ……っ」
 そのとき、ベアトリーチェが孤立してしまった。それをガミスピラは見逃さない。彼女に狙いをつけ馬を走らせた。ベアトリーチェは完全にすくみ上がってしまい動けないでいる。
「ベリー!」
 パートナーのベアトリーチェを助けようと美羽が手を伸ばした。
「美羽さ――」
 ガミスピラの冷酷な一撃がベアトリーチェに振り下ろされた。彼女は複雑な文字列となって消えていった。美羽の伸ばした手が虚空を掴む。
「ベ……リィ……?」
 美羽がいつもの明るい彼女からは想像できないほど鋭い目つきでガミスピラを睨みあげる。
「このおおおおおおおおおお!」
 飛び込むようにして剣を振りかぶる。しかしモーションが大きすぎた。隙だらけの胴にガミスピラが剣を横なぎ振るう。美羽もまた傷から複雑な文字列が侵食するように広がりデータになって消えていった。
 ひひいいいいいいいいいいん!
 そのとき、ガミスピラの乗っている馬がいななき後ろ足だけで立ち、反るようにして消えていった。
「えーかげんにせぇや! この鎧野郎が!」
 そう叫ぶのは義純だ。普段は温厚な性格なのだが、仲間がやられたことに昔極道だったときのように猛々しく怒りをあらわにしている。馬はガミスピラが美羽と交戦している隙に、義純がスキル・シャープシューターで倒したのだ。
「おれを ばじょうから おろすとは なかなかやるな。まさか ぜつぼうのつるぎを つかうことに なるとはな!」
 ガミスピラが右手をかざす。すると漆黒の剣が現れた。

「どうやらここからが本番のようだね」
 朱華が剣の柄を握りなおし気合を入れる。
「いけません、朱華。あの『絶望の剣』は危険な気がします。まだ様子を見ましょう」
 ウィスタリアが朱華を制止する。
「いや、いくよウィス。こいつで最後ってわけじゃないんだ。ここで手こずってる場合じゃない」
「どうしたんですか? 何を苛立っているのです。貴方らしくもない」
 たしかに普段の朱華は平和主義でなるべく戦闘を避けるようにしている。今回も呪われていたのが自分だけならまた違っていただろう。しかしウィスタリアも呪われているのだ。朱華が必死にならないわけがなかった。
「……僕にだって譲れないものはあるよ」
「朱華?」
 ウィスタリアがより心配そうな表情で朱華を見つけてくる。
「ふはは だれも こないのか おくびょうものめ!」
 ガミスピラが一同を挑発してくる。
「あいつ……っ」
 苛立っていた朱華が誘いにのってしまい、ガミスピラへと上段から振り下ろすように切りかかった。
「おおっ」
 朱華が続けざまに斬撃を繰り出す。しかし熱くなっていた朱華の攻撃は単調になっており、回りこまれ背後を取られてしまった。
「しまっ――」
 ガミスピラが左の剣を振り上げた。
「させませんよ」
 恭司が飛び込むようにして剣を振るった。ガミスピラが振り上げた左の剣でそれを防ぐ。
「助かったよ、恭司君」
「問題ありません。それより攻撃を。俺がそれに合わせます」
 朱華の攻撃に、恭司が剣と打撃を組み合わせたトリッキーな動きで援護する。そして少しずつ呼吸があってきた二人が、徐々にガミスピラをおし始めた。
 そのとき、ガミスピラが右手に持つ『絶望の剣』を初めて振るった。恭司に向かって薙いでくる。
「む」
 それを受けようとした恭司の剣がまるで紙切れのように『破壊の剣』によって切断されてしまう。恭司は上体を反らしなんとか刃を回避した。
「ふはは はかいのつるぎに きれぬ ものは ないわ!」
「なるほど。それは厄介ですね」
 恭司が思わず苦笑いを浮かべた。

「……覚悟を決めたぜ」
 九郎はスキル・バーストダッシュでガミスピラへ間合いを詰める。ガミスピラが左に持つ剣で斬撃を繰り出してきた。九郎はスキル・スウェーでかわしていく。しかしそんな九郎に必殺の『絶望の剣』が振り下ろされた。これは避けられない。九郎の左手が肩口から宙に跳ねた。
「ぐ……っ」
 しかし九郎は止まらない。覚悟していたのだ。九郎は剣を逆手に持ち替えガミスピラの右手に突き立てる。
「爆ぜろ、おらぁ!」
 そして零距離からのスキル・爆炎波を繰り出した。
「ぐあ なんだと!?」
 ガミスピラの右腕が破砕する。『絶望の剣』が地面へと突き刺さった。
 九郎が膝をつく。彼は肩口からどんどんとデータへ還元していた。
「ちっ、ここまでかよ。あとは頼んだぜ」
 そして九郎は消えてしまった。
 ガミスピラは右腕を失っており『絶望の剣』も持っていない。馬を倒し機動力もない。決めるならここだ。
 ガミスピラが左手の剣と地面に刺さる『絶望の剣』を持ち替えようとする。
「比賀さん、あれを取らせたらいかん!」
「言われるまでもねぇよ」
 ソルジャーの義純と比賀一がスキル・スプレーショットで掃射する。ガミスピラが伸ばした手を引っ込め怯む。そこにウィザードのまなかと遙遠がスキルを唱える。
「「雷術!」」
 一筋の稲妻が落ちる。火術のときとは違い今度は効いた。ガミスピラが膝をつく。
 その隙にセイバーのショウ、朱華、恭司が懐へともぐりこんだ。
「おのれ にんげんどもめ!」
 膝で立っている状態のガミスピラが苦し紛れに左の剣を振り下ろしてくる。
「遅いですね」
 恭司が剣の腹に回し蹴りを当てて軌道をずらした。剣は地面へと突き刺さる。ガミスピラが剣を引き抜こうとするが深く刺さっており手こずっている。
「雷が効くんだよね。ならこれも!」
 朱華が下からすくい上げるようにして剣を振るいスキル・轟雷閃を放った。剣の切っ先から繰り出された雷がガミスピラを貫き空へと突き抜ける。
 ショウがガミスピラの頭上高く跳躍した。そしてスキル・ソニックブレードを発動。
「終わりにするぜ」
 一閃。音速を超えた一撃がガミスピラを真っ二つに分断する。
「ぐああああああああああああああ!」
 ガミスピラはそのまま倒れ、崩れるようにして消えていった。
 あたりが静寂に包まれる。
 多くの犠牲を払った。しかし一同はガミスピラとの死闘を制し『絶望の剣』を攻略した。