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リアクション
第四章 解決への道
──泣き声が聞こえる。頭の中で、少女の泣いている声が聞こえる。
もうピアスが読み始めたのだろうか。
座敷部屋へと、まるで流れこんでいるかのように見える雲のような白い霧。
天井をゆっくり伝って、それは用具室へと繋がっていた。
わずかな隙間から、ゆっくりと滲み出ている──
ヴェッセルは不適な笑みを浮かべながらクロシェットに言った。
「行けよ」
「……え?」
「怖いものなんか無いんだろ? だったら行けよ」
用具室のドアの前で、にやにやしながらクロシェットに詰め寄る。
「こ、怖くない……問題なんか全くないのだから……」
入り口に手をかけてクロシェットは息を整える。
「…………」
やっぱり無理!!
クロシェットは手を離した。
「なんだよ〜、早く開けなきゃ入れないだろ〜」
「だったらヴェッセルがやれば良いじゃないか!」
「俺? やだよ、怖いもん」
ちっとも怯えてなさそうな顔をしながらヴェッセルは言う。
「クロシェットは大丈夫なんだろう?」
「ぐ……ぅっ、──!?」
人の気配を感じて、クロシェットはその人達の背後に回った。
「え?」
「助けてください!」
津波とアトレアは、きょとんとした顔でクロシェットを見た。
「あの人に虐められているんです!」
ヴェッセルとクロシェットの二人を交互に見て──状況を瞬時に判断した。
「あぁ! あなたも怖いんですね! だ、大丈夫です、きっとこれは百合園のイベントを邪魔するなにものかの悪意のイタズラなのです。悪意のイタズラは絶対に許さないのです! というかホラーとか認めないのです!」
津波は声を大にして叫んだ。
「だ、誰かいるんですよね! 悪い人がいるんですよね! 悪は許しませんよ! ぜ、絶対許さないですよ! …っていうか可哀想な泣き声あげても、わ、私はごまかされませんからね!」
ドア越しに津波は叫ぶ。
ナトレアは、そんな津波の様子を、後ろから楽しそうに眺めていた。
(よほど怖いみたいですわね)
こみ上げてくる笑いを堪えて、ナトレアは言った。
「さぁさぁ、こんな所に長居をしてもいられませんよ。中に入らなきゃ」
「う、うん……」
津波は震える手を、引き戸となっている取っ手に引っ掛け、勢いよく引いた。
扉が開いたと同時に、津波は飛び離れる。
「あれ?」
中には、既にたくさんの生きている人の気配があった。
「え?」
誰かに何かを言っている。
「──何で泣いているの? 私でよければ話してくれないかな?」
見るとメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が、かすりの着物を着た透けている女の子に向かって平然とした口調で話しかけていた。
パートナーのセシリア・ライト(せしりあ・らいと)は、幽霊の可能性を考えていないメイベルに対し、心配しつつも、もう笑うしかない状況に陥っている。
「あの、メイベル? その子、透けてるの知ってる?」
「中々泣き止んでくれないよ〜?」
どうやら聞こえていないらしい。
もう一人のパートナーであるフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)は、自分が英霊だけに幽霊という似たような存在の為、目の前の女の子に対して特に気にしていなかった。
女の子が泣いている。
かすりの着物を着た、おかっぱ頭の小さな少女が。
「……無いの」
「えっ?」
「母さまに買ってもらった鞠が無いの……」
「マリ?」
「…マリって……あの遊び道具の鞠どすか?」
中にいた橘 柚子(たちばな・ゆず)が、親身になって少女の話に耳を傾けている。
なんだか自分の出番は無さそうだと、柚子は思った。
巫女としての力を遺憾なく発揮出来れば、この件は簡単に解決できるのではと考えていたのだが……
「柚子、そないに近づいて大丈夫ですか?」
パートナーの木花 開耶(このはな・さくや)が心配そうに柚子の方を見上げる。
「全然平気です! うち、この子可愛い思うもん」
「気をつけろ、柚子」
もう一人のパートナー安倍 晴明(あべの・せいめい)も、まるで何もかもを見通しているような瞳を、真っ直ぐ柚子に向ける。
「二人とも、心配症どすなぁ」
可笑しそうに笑って、再び柚子は少女に顔を戻す。
心配ないと言いはしたが、それでも負の波動のようなものが少女から発せられ部屋全体を包んでいた。
それが通路を伝い、座敷まで流れ込んでいっているに違いない。
憑依現象も、きっとこの強い気にやられて──
原因はこれだった。
「それにしても鞠って……」
「──ピアスさん」
フィルが声をあげた。
「?」
「ピアスさんの小道具に、鞠がありました! あれがもしかして……!」
「あぁ、そういうこと!」
セラが手を叩いた。
そういうことか!
──セラは、幽霊の存在を信じていなかった。
アンデットモンスターの仕業だとフィルには言っていたが、本当は、虐められ用具室に閉じ込められたまま亡くなった女生徒の祟りじゃないかと妄想していたのだが……
「外れたわ……」
「え?」
「ううん、何でもないわ」
泣いている少女のすぐ横には、ガラスケース。
中には、かすりの着物と御揃いの布地の巾着が入っている。
その横に不自然に空いたスペース。
「ピアスさん……やったわね」
ここから拝借してしまったんだ。
「そっかぁ、だからずっと泣いていたんですね」
少女にフィルの声は届いていない。一向に泣き止む気配がない。
「それでは急いで鞠を戻してあげなくちゃですね」
皆が大きく頷いた。
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