波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

団長に愛の手を

リアクション公開中!

団長に愛の手を

リアクション


第四章 教導団一武闘会の前に

「……なんですか、この人数は!」
 団長より少し前に武闘会場入りをしていたマリー・チャンは大きな声で、そう抗議した。
「な、なんですか、言われましても」
「言われましても〜」
 戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)リース・バーロット(りーす・ばーろっと)がマリーの怒りから身を隠すように、選手たちのプロフィール用紙を顔の前にやって、小声で答える。
 小次郎は今日は試合の実況として、参加していた。
 普段は歩兵科として主に戦争や戦闘に立つ小次郎だが、とりあえず守備範囲を増やしてみようと、珍しくこんなイベントに参加してみたのだ。
 みたのだが……。
「何かいつもの敵より手強い気がします……」
 怒っているマリーを見て、小次郎は手をこまねいている。
「どうした、マリー」
 そこにサミュエルと嵩を連れて、金団長がやってきた。
 マリーはプリプリとしながら、小次郎からトーナメント表をひったくり、金団長に見せた。
「見てください、15人も武闘会に参加するんですよ! 観戦者とか含めると、もっとになるんです!」
「人気だな、教導団一武闘会」
「その駄目なネーミングセンスに気づいてください!!」
 悲鳴のように叫ぶマリーの声を聞いて、狭間 癒月(はざま・ゆづき)は心の中で深く深く同意した。
 この武闘会には参加したものの
(ぶっちゃけ、このネーミングセンスはどうよ?)
 と思っていたからである。
 マリーは団長のネーミングセンスを責めつつ、バンと小次郎が用意した実況机の上に、トーナメント表を叩きつけた。
「やめさせます」
「ん?」
「今日は合コンがメインなのです。それなのに、教導団員の半数近くが武闘会ってどういうことですか。全員、武闘会などやめて、合コンの席につかせましょう」
「それは駄目だ、マリー」
 先ほどネーミングセンスを否定されたときとは違い、強い口調で団長が止めた。
「なぜですか。そもそも今回は……」
「これが戦争ならば強制的に動かすこともあるだろう。しかし、マリー。今回は余興だ。生徒たちが武闘会を楽しみたいと言うならば、それを勝手にやめるのは許さん」
 マリーは額を抑えた。
 そうだった、教導団はこの人が校長の学校だったんだ。
 いる人も同じような感じなわけで……。
 マリーはそんなことを思いながら、それでも反論を試みた。
「だとしても、空気を読んでですねえ……」
「空気を読むと言うなら、開催側が読むべきだな、マリー」
「開催側?」
「そうだ。自分が望むように相手が動かなかったからといって、それを曲げたり、相手のせいにするのは間違いだ」
「…………」
「相手が乗ってこなかったならば、それは開催者の責任だ。自分がうまく相手が乗ってきそうなことを考えなかったのに、参加したものの責任にするのは良くないということだ。それは単に自分の能力のなさを露呈するだけだ」
「申し訳ありません……」
「学校というのは場を与えるところだぞ、マリー。この教導団は軍であると共に学校だ。学校という場を作り、生徒をできるだけ自由に学ばせるのが学校だ。生徒が突飛なことをやったからと叱って否定するのは、単に教師が受け入れる能力がない場合だ。マリー、私は受け入れる能力のない校長になる気はないぞ。思う通りの行動しかさせないようでは、生徒はいつまでも伸びないし、突出した生徒も出てこなくなるだろう」
「…………」
 マリーは黙って膝を折り、叩きつけたトーナメント表を綺麗に揃えて、小次郎に謝罪して返した。