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団長に愛の手を

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団長に愛の手を

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「なんだか大変でしたね」
 ケーニッヒの件が一段落すると、ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)が団長のそばによって、話しかけた。
 騒ぎに乗じて、シルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)パトリシア・ハーレック(ぱとりしあ・はーれっく)が上手に席を作り、音子たち他の女性から団長を引き離して、場所を作ったのだ。
 シルヴェスターは、ちらっと団長を見た。
 派手好きで目立ちたがりなシルヴェスターは、露出の多い白のスーツを身につけ、サイドスリットの深いロングスカートを履いていた。
 シルヴェスターはガートルード、パトリシアに比べ、外見の年齢が18歳と一番若い。
(美少女のワシが団長の好みじゃったらまずいの〜)
 しかも、団長は23歳なので、18歳のシルヴェスターが相手でも、それほどおかしくはない。
 シルヴェスターはちょこちょこっとガートルードと話す団長の様子を伺ったが、特に話しているガートルードから視線を離すような失礼もしていないようだし、女は若い方が、という基準でもないようだった。
「親分……じゃなかったガートルードちゃん、話のキッカケはつかめたようですわね」
「ええ。姉さんも楽しそうで……」
 二人がそうやって話していると、ちらちらっと、自分たちに視線が投げかけられた。
 昴 コウジ(すばる・こうじ)ハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)がシルヴェスターたちのことを見ていたのだ。
「……わたくしたちに何か?」
 お嬢様風のワンピースを着るには、妖艶で精悍な容姿過ぎるパトリシアが声をかける。
 しかし、自分より少し年上で背が高い女性に狙いをつけていたハインリヒは、パトリシアに笑顔を見せた。
 色白でストレートヘア、という残り半分のハインリヒの条件も加わるとなると、パトリシアよりもガートルードの方が好みに合っているのだが。
 しかし、かなりいい加減な性格のハインリヒでも、団長に声をかけてる女性に声をかけて邪魔する気はない。
 なので、その周囲の女性を狙うことにしたのだ。
「いや、パトリシア殿たちは、ガートルード殿をお慕いしているのでございますね」
 二人の話に耳を傾けていたハインリヒは、彼女たちの会話から、まずは関心を示す話題といえば、ガートルードのことだろうと思い、話の水を向けたのだ。
「そうですねえ、ガートルードを大物にするのが、わたくしとウイッカーの目標でもありますし……慕ってもいますし、大事にしてもいますわ」
「ほう、なるほど。それでは……」
 ナンパに手慣れたハインリヒは上手にパトリシアに話を向けて行く。
 おしとやかなお嬢様のつもりのパトリシアの心をくすぐるように、たまにリボンが可愛いとか褒めながら、相手の気持ちを惹いて行く。
 逆に何も話せないのでいるのが、コウジだった。
「……何か?」
 自分を見ているのに口を開かないコウジに、シルヴェスターの方から声をかける。
「は、は、はい!」
 コウジは顔を赤くして、照れ、必要以上の大声で返事した。
 彼は歴戦の勇者だ。
 教導団が探索を進めた遺跡では『新星』のメンバーとして戦い、外務大臣が乗る飛空艇を護るために【希望の星】隊第二艇ゲルペスオールに機上して空戦を繰り広げ……。
 コウジの戦いの記録を書けば、何ページあっても足りない。
 本人もあらゆる軍事的なことを愛する戦争狂いであるという自覚があり、歩兵として戦いをすることには何の迷いもない……のだが。
 今は女性を前にして、迷いと煩悩に悩まされていた。
 口からは何も出ない割に、目だけはじろじろとシルヴェスターを見てしまう。
(ウィッカー氏は非常に豊満でありますな。胸も大きく……尻の方は見えませぬが、多分同じく、豊満であるかと。ハーレック氏を育てようと思っているということは、面倒見が良い女性であるでありましょうし……)
 目つきの悪い目だけが自分に向き、コウジが何も言わないので、シルヴェスターは少し困った。
「こういう会は初めてか? 教導団でこのようなイベントは珍しい気がするのじゃが」
「ははっ、常に殺伐とした学兵教導の毎日ですからな。しかし、男子の本懐は戦のみにあらず、であります。精神的にも肉た……いや、様々な意味での充足が、男子には必要なのであります!」
「そ、そうじゃのう」
 上手にしゃべることが終始できなかったコウジと話が弾んだハインリヒだったが、両方とも結果としてはナンパはうまくいかなかった。
 パトリシアたちはガードルードのそばを離れる気がなかったからだ。
「それは残念。ぜひ、またの機会に……」
 ハインリヒは無理強いはせず、パトリシアの手を取り、その手の甲に軽くキスをした。
「楽しい一時をありがとう。こうやってパトリシア殿に会えただけで、この合コンに参加した意味があった。とても楽しかったよ」
 ナンパ慣れしたハインリヒは引き際も心得ている。
「それでは」
 名残惜しそうなコウジを引っ張り、二人で食事の方に行ってみることにした。
 後ろの方の騒ぎをさておき、ガートルードは美しい切れ長の青い瞳を団長に向け、いつもより熱心に話していた。
「私、今までモテたことがないのです」
「ほう?」
 ガートルードの話に、団長は相づちを打ち、真面目に聞こうとする。
 その真面目に話をしようとする態度を見て、ガートルードはより好感を持った。
 美形で強くて権力者、しかも団長という格好の良い存在の金団長。
 それがなぜモテないのか不思議だ、とパラ実で話したところ、周囲からは「ガートルードがこの間、初めてデートしたって方が意外だ」とつっこまれた。
 しかし、ガートルードには本当にデートの経験もなく、先日が初めてのデートだった。
 そして、13歳のガートルードには、恋愛経験もいまだにない。
 初めてのデートが楽しかったから、それが男女交際の相手なら、彼氏ならもっと楽しいのかなと思って、彼氏にするならパラミタNo.1とガートルードが思っている金団長にアタックに来たのだ。
「金団長」
 少しだけ体を寄せるガートルードからは、ほんのりと香水の匂いがした。
 今日は妖艶さが強調され過ぎてケバくならないように、アクセサリーも控えめに、ライトブルーの清楚な膝丈ワンピースを身にまとって、ガートルードは来ていた。
 恋愛話に困るようなら、趣味の一つである軍事的話を……と思ったが、金団長は意外と真面目にガートルードのデートの話などを聞いてくれていた。
「団長さんは格好良いと思います。いつか、一緒に歩いてみたいです」
 子供らしい屈託のない言葉であったが、金団長はじっと真面目な瞳で見つめて、ガートルードに言った。
「君が悪い、ということはない。その希望も好意と受け取り、感謝しよう。しかし、だ。君は波羅蜜多実業高等学校の生徒だ。我が校とは敵対関係にある。今回も数人の生徒が君と知り合いということでスタッフたちも通したが……今後は気をつけるといい」
 ガートルードへの言葉は、団長が表せる精いっぱいの誠意だったようだ。