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【2019修学旅行】奈良戦役

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【2019修学旅行】奈良戦役
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第8章 各地の戦い

「道満の野望は、この岩造が止めてやる。
 フェイト!」
「はっ。岩造様! フェイトはここにございます」
 岩造の剣の花嫁フェイト・シュタール(ふぇいと・しゅたーる)
「ファルコン!」
「……ファルコン、ここに」
 冷静沈着・無口な機晶姫の、ファルコン・ナイト(ふぁるこん・ないと)
 今回から、岩造の部下に加わった、冷静沈着・無口な、男性型機晶姫だ。
「亀石を封印すれば道満の呪術も利用されないはずだ。
 この岩造が、亀石へ向かおう」
「では、私ファルコンめが、猿石のもとへ」
「岩造様、私は、現地のゆる族を連れ、酒造船へ向かいますわ」
 きっと見つめ合う三人。その誓いの固さは、彼らの熱い視線が物語っている。
 三人は、各々の方角へ走ったのだった。


8-01 水渡です。

 図書館で文献を調べた水渡 雫(みなと・しずく)は、大蛇が奈良の伝説に現れている蛇と推測。
 その対処法を早速、各地にいる教導団の親友らに携帯で伝えていた。
「あ。林田さんですか? あの、……
 え? なんでしょう。なんだか、とてもうるさくて、全く声が聞き取れませんね……何か、お祭りでもやってるんでしょうか。
 仕方ありません」
 ぷちっ。
「次です」
 ぷるるる
「あ。皇甫さんですか? 水渡です。
 えっ……べんべんべんべん? 何でしょう。また楽器の音が邪魔で聞こえません……」
 ぷちっ。ぷるるる
「あ。イリーナさん! 水渡です。大蛇への対処法がわかりましたから、教えますね。
 えっ、石舞台に向かっているですか! が、頑張ってください……」
 ぷちっ。ぷるるる
「岩造である! 今、フェイトとファルコンを向かわせた」
「えっ?? は、はい……。
 間違えてしまいました」
 ぷちっ。ぷるるる
 早く私も行かないと、ゆっくりお土産選びができなくなってしまいます……!
「あ。宇都宮さんですか……! 水渡ですっ」



8‐02 宇都宮、亀を追う

「……うん。なるほどわかったわ。じゃあ、私たちの任務が終わり次第、何とかしてみる」
 ぷちっ。
(……とは言え、方角が正反対だったりするのよね……。ともあれ、まずはこっちを何とかしなきゃ!)
 パートナーらを引き連れ、北へ向かっているという亀を追う宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)たちだったが。
「お姉様。どうしてこお私の苦手な幽霊が沢山いるところに行くんですか?
 あれですか? お清めの塩とかお酒撒けばいいんですか?」
 すでに、宇都宮たちの周囲には、道満の操る式神たちが、うようよしている。
 えい、えいっと、目をつむって塩をあたりにまき散らすセリエ・パウエル(せりえ・ぱうえる)
「おわっと。あ、あぶないです、セリエ殿っ。私を清めるおつもりですかぁっ?!」
 と言うのは、宇都宮らに新たな仲間として加わっている、湖の騎士 ランスロット(みずうみのきし・らんすろっと)
 ランスロットと言えば、もちろんそう、ご存知かのアーサー王に仕えた円卓の騎士、ランスロット卿である。
 今回の教導団の相手である道満自身にしてもまたそうであるが、パラミタでは、地球上のかつての英雄たちが、英霊として甦り、生徒らと新たに契約を結び始めている。ランスロットも勿論、英霊である。
「ご、ごめんなさい……
 (そう。しっかりしなきゃ、ワタシ! ランスロット卿もまだまだ本調子じゃないんだから)」
 英霊たちは、かつての英雄がそのまま甦った、とは言えず、多くは、長い時を経てかつての力は失われていたり、調子を取り戻していなかったりする。年齢や性別もそうで、幼い子どもの姿で甦ったり、猛々しい男の武将がか弱い女性になってしまっていたりすることもあるのだ。
 ランスロット卿は、比較的、最高の騎士と称えられた往時の姿をとどめている。が、まだまだ実力は戻りきっていない。
「あきまへんなぁ? あてもセリエもランスロット卿も、みな幽霊への攻撃手段がありまへん。
 穢れのあるモン相手やったら塩まいといたらええどすが、ふつうの幽霊に効きますかいな?」
 言いつつ、塩をまいて走るのは、こちらも宇都宮の新しい仲間。山城 樹(やましろ・いつき)だ。
 樹は、幽霊がこわいわけではないが、狐(の、ゆる族)であるだけに、同族(?)である狐兵は相手にしづらい。
 亀のもとへ急ぎ移動する一行。
(……式神、か。東洋の魔術とはなかなか興味深いものであるな。
 キャメロットにも魔術師はいたが、彼が見たらどのような反応を示したであろうなあ。
 さてともかく、皆を守るは騎士の務めゆえ、推して参る!)
 パートナーらを守ろうと、剣をかまえて走るランスロット卿だが。
「しかし、こうしていても、あちらからそう攻撃を加えてくる、というわけではないようですね?」
「案外あれですなぁ、ほんまにこの塩が効いてたりするんやおまへんかぁ」
「襲ってこないにこしたことはないわ。急ぎましょう。
 亀の方は放っておくことはできないからね!」
 と……亀のことを口にした途端、周囲にうようよしていた、霊体の兵どもの顔つきが変わった。
 シュン、っと、鋭く得物を突き出してくる鬼兵。
「っと。あぶない!」
 ガッ、剣で受け止めるランスロット卿。
「今までは、私たちのことが敵かどうかわからなかったから……?
 道満に敵意のない者には、攻撃する気はなかったというところでしょうかね?」
「へたに刺激してしもうたわけどすなぁ……」
 先ほどまでとは打って変わって、一斉に襲いかかってくる式神たち。
「急ぎましょう。私たちの狙いはあくまで、亀よ!」





 そして。
 あれに見えるは奈良の伝承、當麻の蛇と川原の鯰の争いで死んだ亀の霊の顕現か!
 郷土史的に重要な存在なんだけど放っておいて奈良盆地や京都が水没したらだめよね。 
 それに魔術の類のせいとはいえ、いま私たちは神話の具現の中にいる。
 そしてこれから起こるのは蘆屋道満と教導団の戦いという新たな神話かもね。
 さぁ! 神話をクリエイトするわよ!

 ――というわけで、いよいよ巨亀に対峙する宇都宮一行。
「亀さん! どうして、道満に味方なんかするの?!」
「知らんわ。足が勝手に動くんや」
「道満の術に操られているのかしら? やむを得ないわ。
 セリエ、ランスロット卿、樹!」
 セリエがディフェンスシフトを展開する。
 彼女の女王の加護に守られながら、ランスロット卿が、樹が攻撃を繰り出す。
「あっ。やめんかい」
「むむ!」
 どことなく、手応えが薄い。
「あれ? どうしてや?」
 樹の放った銃弾は、亀の体をすり抜けてしまう。
「はっはっは。無駄やで。やめときな」
 亀はのそのそと、そのまま歩き始める。
「この亀も式神? 私に任せて」
 最近、教導団にも魔法の講義が開かれるや、いち早く、ウィザードとして学習を始めた宇都宮。
 学び取った雷術と氷術を交互に放ち、相手を牽制する。
「うげっ。何するねん。痛いやん」
「術は効くようね」
 宇都宮らに、鬼、猿、マラ兵たちが追いすがってくる。
 ランスロット卿がそれを切り裂く。
「英霊の攻撃も当てられるようです。祥子殿、こやつらの相手は私が」
「わかったわ。亀さん、わるいけどここから先には行かせないわよ」
 道満の術で動いている以上、頭を潰しても動き続ける可能性が高いわね。
 ならば……
 とにかく、足を止めることね。
 宇都宮の雷術が亀の行く手を遮り、氷術が、亀の足を徹底的に凍らせる。
「うう。ちべたいなあ。なんでこない容赦ないねんこのおなご」
「うわーん。幽霊、近寄らないで〜〜」
 周囲の霊兵に塩をまき散らすセリエ。
「セ、セリエ殿っ思いっきり私にかかってます!」
「わてらにできるのは、塩まくことだけかいな……」
 樹も、ある限りの塩をまいて式神を牽制した。



8‐03 クレアと大蛇

 一方、大蛇のもとへ向かったのは、クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)
「大蛇の正体について確証はないが、゛蛇は古の水を盃へ戻す゛というくだりから、当麻の蛇、かと思う」
 ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)も同行する。ところで、修学旅行に付き添ったハンスの思いはいかなるものであったのか。あくまで主、クレアを守るためなのか、それとも意外と日本見物を楽しみたいと思っていたのか、いつも真面目に救護の任を果たす彼だけに気になるところ。
 さて……
「クレア様。しかし、わたくし達だけ、大蛇をとめることができるでしょうか?」
「わからんな」
「クレア様……」
「だが、私達の役目は、奈良が水没しない為の時間稼ぎ。少しでも、被害の拡大を抑えることにある」
「ええ、わかりました。では、可能な限り力を。」
 大蛇のもとに着くまで式神を寄せ付けないよう、ハンスは禁猟区を展開する。





「大蛇が見えてきましたな」
 明らかに巨大な、蛇の姿を確認した。丘陵帯の其処此処から水が噴出し、それが斜面を下って流れ出し続々地を浸していっている。
「クレア様。いかに致しましょう?」
「まずは……頼んでみる」
 クレアは、正面切って大蛇と向かい合った。
「蛇殿。私は、教導団のクレア・シュミットだ。
 水の引き入れはあなたの本意ではない筈。どうして、道満に着くのだ?」
 シャアア!
 大蛇は、首を高く持ち上げて、こちらを威嚇するばかりだ。
「駄目か……」
 だがとにかく、道満の術によって仕方なくこうしているだけ、という可能性は考えられる。
 もしそうなら、術の影響さえ何とかできれば水を止めてくれるかもしれない。
 しかしこちらには魔法もなければ、都合のいいアイテムもない、ならば……!
 クレアは、再び向き合い、大蛇に思い切った策を持ちかけた。
「蛇は人に憑くと聞く。しばらくの間、私にとり憑けばどうだ?」
 今まで、クレアの話に耳を傾けようとしなかった大蛇がぴくん、と反応し、クレアの前に首を突き出し、鋭い眼でねめ回した。
 ずるりずるりと近寄って、クレアの周囲を取り巻きはじめる。
「ク、クレア様……」
「いい。私の言葉に反応しているようだ。目論見どうり」
「し、しかし……!」
 心配でおろおろするハンス。
 ふと、クレアの目が虚ろになり、電流が走ったかのように一瞬震えると、クレアの体がぴきん、と硬直した。
「しゅるるるる……」
「ク、クレア様ぁ!!」
 シャアア! ハンスに牙を剥くクレア。
「きゃークレア様やめてーーー!!」
 ホーリーメイスをぶんぶん振るうハンス。
 しかし、一方、蛇の本体の方は、動きをとめていた。
 くねくねとなやましく体をくねらせ、奈良の丘陵に舞うクレア。
「あああクレア様! あなたの策が功を奏したのですね!? あなたは、今、大蛇と一人で戦っておられるのですね!
 ならば、わたくしも一緒に! はっ! はっ!」
 くねくねと舞うクレアに合わせ、ハンスも舞い踊り始めた。
 溢れ出している大水の流れは、緩やかになりつつある。
「クレアさん! やりましたね」
「しゅるるるる……」
「……で、クレアさん。……これからどう致しましょう」
 シャアア!
「きゃああ!!」



8‐04 岩造の御札

 亀石に到達した松平 岩造(まつだいら・がんぞう)
 岩造は、持参した御札を取り出した。
「亀石を封印すれば、道満の呪術も利用されないはずだ」
 岩造の考えは、魔法的な手段すなわち、御札を貼ることによって、亀石を封印すること。
 だが、岩造が御札を貼ろうと亀石を見ると、そこには、すでに別の符が貼り付けてある。
「むむ? ……私より先に、御札を貼ったものがあったか。しかし、せっかくこの岩造が御札を用意してきたのだ」
 岩造は、きょろきょろと周囲を見渡し、再び亀石の符を見つめる。
「……」
 ぺりっ





 亀石より北へ数キロ。
 道満の式神と化して北へ向かう巨亀。
 それを阻もうとする宇都宮。
「やめい、やめいっつっとるねん!」
「くっ。SPが、もう……」
 そのとき、ふと巨亀の体が奇妙に青白く発光し出す。
「な、なんや?!」
 光を急激に最大限にまで増し、また光が縮まるのと一緒に、巨亀の姿も消滅していった。
「これは……? 一体何が起こったの?」






 ぺた。
 岩造は、はがした符を地面に捨てると、かわりに自らの御札を貼り付けた。
「うむ。これでよし。
 むっ? 何かくるぞ」
 北の方から、青白い光が高速度で飛んでくる。
「むむ?」
「ぅぅゎぁぁぁあああああ引き戻されるううう」
 光は亀石にぶつかると、収束した。
「おおっ。せっかく貼った岩造の御札が、消し飛んでしまったぞ。もう一度買ってこねばならんではないか……」
 しかしよく見ると、すでに亀石はもとの方角に向き直っていた。
 岩造の足もとに捨てられた道満の呪符が、風に流され飛び去っていった。





 一方、猿石に向かった岩造の部下ファルコンもまた、そこに貼り付けてあった道満の呪符を引き剥がし、岩造と記された新しい御札をかわりに貼り付けていた。
「……これでよろしいか。岩造殿。
 次は、鬼の雪隠れか……」

 こうして、奈良の町から、道満に呪符で操られた鬼や猿の霊体は、次々消滅していくこととなる。



8-05 水神たちと

 文献を調べ上げたクレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)たちも、行動を開始していた。
 水を司る大蛇の力を押さえ込むために、止雨に霊験あらたかな祭神を祈願しに行くのは、麻生優子、桐島麗子。それぞれ、吉野の丹生川神社(祭神・ミヅハノメノカミ)、室生の龍穴神社(祭神・タカオカミノカミ)を訪れる。
 ヴァルナは、吉野の水流を司る、吉野の水分神社(祭神・アマノミクマリノオオカミ)を訪れ、奈良盆地に流れ込む水流を変えて、紀ノ川から紀伊水道に逃すことを目的とする。

 室生の龍穴神社(祭神・タカオカミノカミ)に向かった桐島 麗子(きりしま・れいこ)
 まずは……秘術科カナリー作、ギャザリングへクス使用の冷めたスープを口にし、魔力を高める。
 彼女を支えるのは、ライバル優子に差をつけたいという思いだ。自分の方が、術者としての能力において秀でていることをジーベックに示すため、己の全力を出し切る。
 ゆらりと揺れながら、神社の奥から祭神が姿を現す。
「ふははは……優子、あんたには負けないですわ。
 さあ、タカオカミノカミ……私の祈願を聞き入れ、水を司る大蛇の力を抑え込んで頂きますわ」

 吉野の丹生川神社(祭神・ミヅハノメノカミ)に向かったのは、麻生 優子(あそう・ゆうこ)
 まずは……秘術科カナリー作、ギャザリングへクス使用のやはり冷めたスープを口にし、魔力を高める。
 彼女の思いは、親友であるジーベックたちの信頼に応えるため。一心不乱に、祈りを捧げる。
「はぁあああっ!!!!」
 神社の奥から、ミヅハノメノカミが、そっとその様子を見つめている。





 残る水分神社には……
 先にそこへ到達していた者たちが。
 そう、パラ実生レベッカ・ウォレス(れべっか・うぉれす)の一味だ。
 屯する式神を蹴散らし、社に向かう。
 と言っても、パラ実と言っても、レベッカは神社に入るときっちり節度を守った戦い振りを見せていた。
 迫り来る道満の式神に対し、光条銃をぶっ放している彼女ではあるが、光条兵器の利点をきちんと計算し、神社の施設には傷を付けないようにしている。
「騒がしいのう」
 神社の奥から、祭神が姿を現した。
「ワタシたち、敵じゃないヨ!」 
「そのようだの。そなたらの行為眺めておったが、我が神社に危害を加えるつもりはないらしい。
 しかし鬼に猿にマラ……何故こいつらが、暴れておる」
 レベッカは道満の企てを説明し、
「奈良盆地への水の配給を、止めてもらえないかナ?」
 と。
 止めた水は、他所に配分したりして、一気に流れ込まないようにしてもらいたい旨を、祭神に述べた。
「わしの力をもってすれば、できんではないが……
 うーーむ。難儀なことじゃて、相当力を費やすのでな……」
 アリシア・スウィーニー(ありしあ・すうぃーにー)が一歩前に出て、半涙目と上目遣いで、じっっ、と祭神を見つめる。
「うっ……し、しかし……」
 レベッカも、両手を合わせて真剣に祈った。
「お、おお……た、谷間が……」
「……」これは、ミツ子の策ではない。だけど、これは今後の作戦にも使えそうね……新たに学び取るミツ子。

 そこへ、水分神社に駆けつけた、クレーメックのパートナー・クリストバル ヴァルナ(くりすとばる・う゛ぁるな)
「え、ええーー??
 すでに来訪者が……。
 ううっ、私がジーベックの信頼に応えるはずが、……がくっ」
「ど、どうしたの?? お嬢ちゃん……」
 ヴァルナは、涙ながらに、密かに慕うクレーメック・ジーベックの信頼に応えるべく文献を調べ上げここまでやって来たことを述べる。
「そ、そうだったの……一緒に、祈ろうヨ。目的は同じだし!」
「あのお爺さ……いえ、神サマ、とても頑固だしね」
 ミツ子、オーコらがきっ、と祭神を睨む。
「お、おぬしら……全部聞こえておるぞ……」
「ヴァルナ様のその涙……いえ、お力が加われば、きっと神サマも、わたくしたちの願いを聞き入れてくださいますわ。きっと」
祭神、「……」。
 アリシアの横に並び、全身全霊で祈り始めるヴァルナ。ギャザリングへクスで、身体から湯気が噴出している。凄まじい祈りだ。
「ヴァ、ヴァルナちゃん……」
「……」
「う、うむ。……何とも健気な少女たちじゃ。これ以上いじわるもしとれんの……」
 こうして、彼女たちは、女の凶器(涙(とおっ○い?))によって水分神の助力を得ることができた!





 道満がいくら英霊と言え、文献から推測するに彼が呼び出した大蛇すなわち三輪山の蛇神・オオモノヌシのような、神と交信するのは至難の筈。
 そのような術を可能ならしめている条件があるのではないか。たとえば星辰の位置であるとか……
 クレーメックは考えた。
 今、確かに奈良盆地全体が、霊気に満ちている。
 クレーメックは、これを自らも利用し、八俣の大蛇を退治した英雄スサノヲノミコトの力を授けて欲しいと祈願。
 そしてクレーメック自身、大蛇のもとへと向かった。

「あれは……衛生科・クレア……?
 どうにも様子が
「あなたは……クレーメック様でしたか。実は、クレア様に大蛇が、乗り移り……」
 シャアア!!
 牙を剥くクレア。
「ならば、これでどうだ?!」
 クレーメックは、クレア、に乗り移った大蛇と……ただ向き合う。
 クレアの視線が妖しく光る。
 今度は、クレーメックの心に取り入る積もりだ。
 しかし、クレーメックの眼がカッと見開かれる。
 クレーメックの視線は、スサノオノミコトの眼力を宿している。
 クレアの目がふっともとに戻り、その場に倒れる。
「クレア様!」かかえる、ハンス。
 大蛇は、そのまま退散していった。
 いつしか、奈良盆地へ流れ出していた大水は、流れを止めていた。

 祭神たちへの祈願が叶ったことも加わり、各地でも、同じく盆地へ流れ込む水は流れを止めたのだった。

「クレーメック……どうか私のあの姿は内緒に頼む」
「う、うむ……無論、約束するぞ(……だがあのヘビダンス。あれはなかなか悩ましいととる向きもあるかも知れんぞ?)」
「ああ、皆に見られなくてよかった」
 ほっと息をつくクレア。
「むしろ、皆様にご覧にいれたかったですよ、ああいうクレア様も。なんだか楽しかったですね、あはは」
 くねくねと舞いながらクレアの横を歩くハンス。
「む? もしかして、今度はハンスに蛇がとり憑いたのでは……?」
「ああっ、冗談ですってば、クレア様。どうかそのライフルを下げて……」
 クレーメックは私見を()に控えて正解だったと思った。


8‐06 フェイトの誤算

 酒船石に、岩造御札を貼り付けたフェイト。
 迫り来る式神たちには、光精の指輪を向けて、牽制する。
「どうかそこをおどきくださいませ!」
「マ、マラァァ」
 フェイトは、酒船石の現地にゆる族がいると考え、彼らと協力していくことを目的としていたが、酒船石の付近にゆる族の姿はなかった。
 が、なんともさいわいなことに。石舞台に向かいつつある、第2章で解き放たれたあの奈良のゆる族の群れと出くわしたのだ。
 岩造の代理として、フェイトは彼らを兵として動かそうとする。
「敵は大軍で挑んできます。こちらも、大軍で挑ませるでございますわ」
 ゆる族は顔を見合わせるばかりで、反応がない。
 目は、死んでいるようだ。
「大軍には大軍よ!!!」
 ゆる族の目が、ぎらりんと光った。
「……!?」
 たじろぐ、フェイト。
 敵なのか、味方なのか……?!