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【2019修学旅行】奈良戦役

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【2019修学旅行】奈良戦役
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第11章 終結

 いつしか町中からその姿を消していく、式神たち。
 それに、町を浸しつつあった水も、徐々に退きつつあった。
 岩造が道満の呪符を破り、クレーメックやレベッカが水神の協力を得たことで、また、大蛇を退けたことで、道満の企ては阻止されたと言える。
 無論これは、教導団の生徒一人一人が、それぞれの役目を果たしたからこそ、であったわけだ。


11-01 終結、じゃない?

 カインが案内し、神社仏閣へと避難した市民たちには、式神の被害は及ばなかった。
 夏野、アーシャが戦った法隆寺でも、境内に侵入してきた式神はそれほどおらず、二人はその後、境内へ人々を導きいれ、外部を回るかたちで戦った。
 式神の発生は、呪符の貼られた石造物のある石舞台古墳近辺にいくほど多かったので、法隆寺付近で片がついた夏野、アーシャはその後、明日香方面に戻り他の教導団員らに無事合流した。
「でも考えてみたら、あたしたちだけ法隆寺見学してきちゃったみたいよね。アーシャ?」
「……ですけど、戦いながら法隆寺見学なんて、変わった趣向の修学旅行ですよね。(まったく教導団の修学旅行は……)」
 健勝は、市街地の式神が減り始めると、もとの考え通り、山の方面にも警戒に向かってみた。が、中心部の式神が減る頃には、山の方も穏やかであったので……パートナーのレジーナと、紅葉なんかを少し楽しめた……かも知れない。
「レジーナ。どうやらこの辺りで怪我を負ったり、取り残されたという人はいないようでありますね」
「ええ、そのようです。健勝さん……(こんなに綺麗な紅葉なのに、ほんとはゆっくり歩きたいですね。まったく教導団の修学旅行は……)
 はっ。マ、マ、ラ兵……あれ、気のせいでしょうか。(なんか眼にやきついてしまって……)」
 相良は、光条兵器を貸してくれたパートナーに携帯でお礼を述べつつ、修学旅行で戯れたかった鹿の無事を確認しに向かった。
「な、泣いてなんかいませんよっ。ちゃんと一人で、あ、金住さん達と協力し合いながら、戦いましたよ。だから、泣いてない……うっうっ。……
 軍人として、日本男児として、当然の務めですっ!」
 市街地。
 カインは戦局が落ち着くと、パートナーのクロスのもとへ。
「クロス、無事でしたか!」
「カイン、ええ。だいじょうぶですよ。少し、かすり傷を負ったくらいで……」
「! ……許せません、クロスに怪我を負わせるなど」
 ワンドを構え、周囲を見渡すが、
「カ、カイン。そんなに怒らなくたって……もう、道満の操る式神も、ほとんど残っていないようですし。
 でも、嬉しいですよ」
「クロス……
 むっ。生き残りかマラ兵発見。でいっこの野郎!!」
「カ、カイン……」
 クレハはすでに、タバコをくわえている。
「ふうっ。まあ、どうやらこれで終わりのようだな?
 戦いが長引かなくて、よかったぜ。タバコを吸えない時間はつらいしな……
 戦いも済んだことだし、当てもなく奈良巡りにでも行きたいところだな。
 それはそうと、今日は頼りっぱなしだったな。メフィルシア」
「……じゃな。魔術を使うには困らんが、何せ体力と運動神経がないのでな……わしは疲れた。宿でゆっくり休みたいわい」
 見た目小学生の女の子の発する言葉か……
 と思いながら、クレハらの隣でこちらは葉巻を吸う、ロブ・ファインズ。
「おい、ロブ……何か、来たみたいだぞ?」
 戦いを終え、束の間の休息についていた教導団の彼らの目に入ったものは……
 ざっざっざっざっ
「ほう……着ぐるみ戦争、か?」
 ロブはぽかんとして葉巻を落とす。
「さあ、無事片付いたことだし、残った時間だけでも、一緒に観光行きましょうね、メリッサ。……って、何か来たわね」
「できればゆっくり楽しみましょうね。……二人で。……って雰囲気ではありませんのね……」
 唯にヒールしていたメリッサの手に、再び光条兵器。
 ざっざっざっざっ
 近付いて来る血塗れの着ぐるみ。市街の方へ向かっていたゆる族たちだ。
 目が、虚ろだ。
 再び、逃げ惑う、奈良県民。
 ゆる族の銃は……こちらに向けられている。
(まったく教導団の修学旅行は。……)



11-02 伝説のヒーロー

 さて……一方。
 伝説のヒーローに会うために、奈良の西の山へ数十キロ、それから、五十程の洞穴を抜け、真っ暗闇の迷路を更に数十キロ、そこに巣食う数多妖怪の類を倒し数十キロ、血の池越えて数十キロ……と進み、ついにその者の居る隠遁の地へと辿り着いた、パラミタ刑事シャンバランとラブリーアイ。
 薄暗闇のなかに、確かに、六角童子っぽい姿を確認した。
「あっあの有名な×××くんですか!? サイン下さい!」
「……」
 サイン色紙とサインペンを渡す。
 アイちゃんは、その見た目のキモさに若干引きながらも、挨拶する。そりゃこんなところで数年暮らし老け込んでいるので尚更にキモいだろう。
「はっ初めまして……あっコレお近づきの印のシャンバラン饅頭です」
「……」





 奈良の町。
 ぞろぞろと現れた血濡れの着ぐるみどもと、休む間もなく、戦闘に入った教導団員。
 手練れの着ぐるみに、式神との戦いで疲れた彼らは、押されがちだ。
 そこへはたまた、新たな参入者。
 敵か、味方か……
 現れたのは、謎の修験者たち。吉野の山から、奈良の危機を聞きつけて、駆け下りてきた。
 それを率いるのは……
「プリモ・リボルテックよ! さあ、奈良に跋扈する、着ぐる……あれ? 式神じゃなかったっけ??
 まあ、いいわ、奈良に跋扈する着ぐるみども、覚悟してよね!」
 だっ。市民をいたぶるゆる族の群れに、修験者たちが飛びかかる。
 戦闘にも精神修養にも長けた彼ら。プリモの連れてきた兵は強力だ。
「ていっ」
 技術科のプリモも、スパナを投げて着ぐるみをいぢめる。
 また、そこへ大岡永谷も乱入する。
「この着ぐるみ戦争……もしかして俺のせいだったりしないよな」※マスターのせいです。
 しかし、すべてのゆる族が敵に回ったわけではない。
 永谷はその後も福の縁を頼りに、各機関、イベント会社などに電話しまくり、比較的新しく、使えそうなゆる族を集めつづけていた。
「複雑なことになってしまったが……やむを得ない」
 永谷は、高く手を上げる。
「今回も俺は、俺の全力を尽くすだけだ」
 最後に彼は、自らそのゆる族を率い、戦地に赴いたのだ。
 永谷の周りには、光学迷彩で姿を消したゆる族たちが待機していた。永谷の合図で、一斉に突撃する。
 ゆる族の世代交代か。新しい着ぐるみたちが、ぼろぼろになったかつてのマスコット等にとどめを刺していく。
 が、歴戦の着ぐるみたちも負けじと、立ち上がり、拳を振り上げる。
 着ぐるみ戦争の拡大だ。





 一応、サインは貰えた。
「おおお! 伝説の×××くんのサイン! 感激です!
 そうだ。申し遅れましたが、わたしはシャンバラン……」
 シャンバランは自己紹介して自分の身分を明かすと、勝手にヒーロー談義を始めて一人で盛り上がるのだった。
「いやー自分は戦闘くんの活躍は1300年平城遷都祭りの時でファンになりまして……あの時のハリケーンミキサー素晴らしかったですね! 戦闘くんは奈良の守護神として心に誓っている事と言うか……何か決意というのはありますか?」
「俗世に背を向けて十年……か。
 どんな稀代のヒーローさえも、すぐ時の波に流され忘却の彼方へと消し去られてしまう運命。
 シャンバラン……と言ったか。人の世とは何ぞ?」
「は、はあ……」
「奈良県民が、いや、全国民がこのわしの姿に感涙し、咽び泣いたあの、熱き日々は何処へ行った?
 ……いいのだ。わしは今や、そんな世界とは無縁のこの深い闇のなかで、ただゆっくりと朽ちてゆくとしよう」
「×××くん! ヒーローとは、人の心に刻まれる存在!
 子どもの頃に憧れたヒーローの姿は、今も心に在って俺を動かしている!
 ×××くん……きっと、あなたの活躍を見た子どもたちも、今頃大人になっているだろうけど、あなたの勇姿を忘れてはいないはず!(……だろうなあ。あなたのその姿……)
 彼らに困難がふりかかるとき、きっとかつての子どもたちは、あなたの姿を思い出し、勇気付けられる……それがヒーローであると!!
 ……シャンバランは思うのですが……」
「……シャンバランよ。
 おぬしの熱い想い、わしに伝わったぞ。
 十年前のわしを見ているように思う」
「(えっ……ま、マジか??)
 ×××くん、そして今まさに、奈良県民が苦しんでいる!
 あなたの勇姿を、再び見せるとき!」
「……」
 ×××くんは、もう何も言わず、ただ立ち上がった。
「で、……でかい!」
 その姿はまさに、奈良の大仏!!
 頭に生えるは鹿の角!!
 今、奈良の最強戦士、伝説のヒーロー×××くんが、教導団の味方についた!!

「ね……眠い。やっと話終わったのですね。って、×××くんの、手のひらの上??」
「フェイスオン! パラミタ刑事シャンバラン! もちろん、この俺も共に戦うぜ」

 ごごーん
 奈良の山をぶち破り、十年ぶりに奈良の空を見た×××くん。
 奈良の町めがけて、今飛び立つ!!



11-03

 ごごーん
 ……
 ……
 ……
 翌日の奈良新聞の一面には、空を飛び交い、奈良の町に降り立つ巨大な奈良の大仏の姿が。
 この鹿の角を生やした大仏は、強力なビーム(スプレーショット使用)で奈良の町を焼き払い、……ではなくて、奈良の町を傷つけないように、慎重に、屯する悪の着ぐるみや淫靡な形をした式神と呼ばれる悪霊などを焼き払い(シャープシューター使用)、いつの間にか姿を消したという(光学迷彩使用)。
 この者の正体については、奈良の学者たちの様々な憶測を呼んだが、正しい説を導き出せる者はついぞいなかった。
 ただ、かつて子どもだった者たちは、彼の正体が何であったか、高名な学者らの説を待つ必要もなく、気づいていた。その勇姿は、彼らの心のなかに、いつまでも消えることなく残っていたあの伝説のヒーローと一致していたのだから。
 ×××くん。……
 彼らはまた彼ら自身の子どもたちに、このヒーローのことを語り継いでいくことになる。
 そして、この×××くんの背中を守って勇敢に戦った一人のヒーローの名も、共に語られていくことになるのだった。
 その名は……我らがパラミタ刑事シャンバラン。

 シャンバランは、その夜密かに×××くんを見送った後、取材を受け、奈良を救った英雄としてテレビにも出演し、奈良史の新たな一ページに、その名を刻むこととなった。

 しかし、もう一つ我々は忘れてはならない。
 この奈良の戦いで死んでいった名もない着ぐるみたちもまた、その一人一人が、かつては何処かの自治体やら、あるいはCMやらに起用され、多かれ少なかれかわいいだとかきもかわいいだとか、もてはやされた経験のある者たちであった筈だ。
 その後、使い捨てられ、忘れ去られ、彼らはそのかわいいやらきもかわいい着ぐるみのなかにどんな苦悩の表情を浮かべ、日々過ごしてきたであろう。暗闇のなかで。
 ある者は着ぐるみに執着しそのまま着ぐるみのなかで朽ち果て、ある者は涙を飲んで着ぐるみを脱ぎ去り、×××くんのように俗世を離れ隠遁した者もいるかもしれないし、あるいは、先の戦いにも姿を見せた修験者のようになって自らを鍛え直そうとした者たちもいるかも知れない。

 ヒーローとは何であるか。

 そしてこのシナリオの影の主人公であったとも言える、道満もまた、当事は民間出の偉大な陰陽師として、人々に力を与え、活躍した人であった。
 現在では、そのライバルである清明こそがヒーローとして扱われているが、道満もまた、ヒーローとしての立場にありながら、清明との対立によって、悪役とされ歴史の闇に落とされた人物であったと言えよう。

 これで教導団の修学旅行は終えることとなるが……
 この修学旅行(ごめんなさいほんとバトル……)から、生徒たちは何を学びとったであろうか。
 誰しもがヒーローになる可能性があり、また悪となる可能性がある――パラミタへ戻った彼らに、学園生活が、何よりまた新たなバトルが、待っている。



11-04 名もなき場所で

 日も暮れかかった頃、町から、式神たちの姿はほとんど消えていた。
 一人ぽつんと、誰もいない寂れた木立の片隅。
 不恰好な石にもたれ、リュートを鳴らす、草薙真矢。
 何の立て札ひとつもないけど、もしかしたらここだって、何らかの歴史を含む場所なのかも、知れない。
 そこへとぼとぼと歩いてきたのは、ぼろぼろの着ぐるみ……いっぴきのゆる族。
「リュートかい。いい音色だね。もう少し、聴かせておくれよ」
「そ、そうかい? じゃあ、一曲……」
 ぽろぽろと、寂しさ混じりの曲が流れ出す。歌は、よく聴き取れない。
「きみ、日本のひと? 奈良のひとかい?
 ぼくがだれか、わかる?」
「あはは。ごめん、全然わかんない」
 リュートを弾きつつ、やっと軽く笑ってみせる。
「いいよ。言ってみただけだから。わかるわけなんてないだろうけど。
 もう名もないゆる族だからねえ」
 ぽろぽろ、音譜が秋の夕暮れに零れていく。
「きみさ、教導団のひとでしょ」
「まあ、……ただの兵士、……さ」
「きみも、ヒーローになるのか?」
「まさかね。あたしは……ただの兵士」
 そう言うと、曖昧なコードで曲を終わらせ、草薙はリュートをしまった。
 服をびりびり破いて、バイクに乗っかる草薙。
「……なにやってんだ? きみ、ここだいじょうぶ?」
 ゆる族はあたまを指して言う。
「はは、誰かと戦った証拠だよ、なんてね」
 言うと、草薙はバイクで、皆の待つ宿の方角へと去っていった。
「最後はやっぱり任務のことが頭を離れなかったわけだから、ゆれているようだね。あのこは。
 ただの兵士、かぁ……」
 ……
 秋風の吹く名もない史跡。脱ぎ捨てられた着ぐるみ。
 リュートのかすかな残響だけが夜の闇と調和しないまま、そこに流れ、やがて、消えていった。