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リアクション
「あぁん? パラ実だからって舐めんじゃねーよ」
一人は、可愛い不良猫のゆる族、猫井 又吉(ねこい・またきち)。
「バレちまっちゃしょうがねぇな!」
一人は、教導団風のツナギを着た国頭 武尊(くにがみ・たける)。
彼ら二人は、パラ実生である。昨日、パラ実の仲間が何者かの船にやられたと聞いて、助っ人のつもりで参戦したのだ。最初は砲撃戦に参加していたが、接舷後、相棒の“光学迷彩”の力を借りて姿を消し、戦闘のどさくさに紛れて、敵の首、つまり船長の首を狙ってここまでやってきたのだった。
弾をばらまこうと武尊がトリガーに手をかけたときだった。
突如として、光が降った。
いつの間に設置したのだろう、スポットライトが天井のランプにくくりつけられている。思わず全員が、そのライトに照らされたテーブルに注目した。テーブルの上には、ひとつの人影。
「おーほっほっほっ!」
見事なまでの高笑い。金髪の縦ロール。侵入者に向けられた、挑戦的な青い瞳。まとったドレスは芸術品で、見事なまでに素材が紙であることを隠している。
「問われる前に答えましょう。このわたくしこそがロザリィヌ・フォン・メルローゼ(ろざりぃぬ・ふぉんめるろーぜ)ですわよっ!」
ロザリィヌはひらりとテーブルから飛び降りると、静香の近くに降り立った。
「安心してくださいませ、百合園の姉妹達を癒すために矢面に立ったあなたの勇気に免じて、今回だけは助けて差し上げますわ!」
男には厳しい彼女だ。静香男性疑惑を持っている彼女からすれば、破格の申し出のつもりだろう。ランスの先を武尊に突きつけると、
「さぁ、かかってらっしゃい! あなた達のお相手はこのわたくし……でしてよ! 姉妹達には指一本触れさせませんわ! おーほっほっほ!」
「これが噂の弾幕系だ。見て驚いて死ね」
武尊と又吉がロザリィヌに銃弾を浴びせかける。
戦場と化そうとする救護室。その様子を見て、
「せっかく守ってくれてるのに、ごめん。僕……!」
済まなそうに口を開きかけた静香の顔に、今までに見たことのない切実さを見て取って、ロザリンドは微笑みかけた。
「私は校長を信じていますから。校長が決断されたことなら、正しいと思いますよ」
「静香さま……」
悠希は、昼間静香に拒絶されたような気がして、気まずさに一度言いよどんだが、やはり言わなければと、決意する。
静香はこの旅の間、困ったように笑っていた。ぶたさん貯金箱で借金については告白したが、何かまだ心に引っかかっていることがあるんじゃないかと、ずっと気がかりだった。
「お昼のお話ですが、ボクが静香さまや百合園が好きで、護りたい理由……確かに……うしろめたいという事はあります」
性別を隠して、百合園に通っていること。
「でも……ボクの気持ちはそれだけではありません。今回静香さまと一緒に過ごしてハッキリ分かりました。やっぱり静香さまはお優しくて、自分から変わろうとしている素敵な方で……」
こんな時に何を言っているんだろう、と自覚しないでもない。でも、一度口にしたら止められなかった。
「ボクは……静香さまという人が好きです。例えどんなうしろめたい事情があってもそれは変わりません」
もしかしたら、という予感だが、たとえ静香が男であっても。
「だから……これからもお側にいさせて下さい。どんな困難な事も一緒に乗り越えていきたいです」
それはまるで告白だった。
静香は、目を丸くした。何と答えれば良いのか、躊躇して──いつものように。
「ありがとう。僕は真口さんやみんなの優しさや信頼に応えられるような人になりたい」
にっこり、今度は屈託無く笑うと、静香は二人の間を飛び出した。そして開け放たれた扉を背に、大声で叫んだ。
「怪我人と生徒には手を出すな! 首が欲しいなら、校長の僕が相手だっ!!」
部屋の中で戦ってしまっては、流れ弾で怪我人や生徒に被害が出る。
「ほぉ、これは狩り甲斐のある相手だぜ」
校長という言葉が効いたのだろう。武尊と又吉はロザリィヌを追いかけるのを止め、静香の方をくるりと向いた。
桜井静香は、どこからどう見てもか弱い女の子に見える。イルミンスールの校長のように強大な魔力も持っていない。しかも泣き虫だ。六学校の校長の中で、あらゆる意味で最も倒しやすい相手だろう。
「俺の“銃闘法”を見せてやるぜぇ!」
武尊は近接銃器戦闘をそう称していた。彼は光条兵器、銃剣付き拳銃を呼び出すと、床を蹴り、真っ直ぐに襲いかかる。
「“ランドリー”!」
静香は叫んだ。巨大洗濯機が空中から現れ、武尊の背後から銃を撃ってくる又吉を吸い込む。
「隙だらけだぜ!」
武尊は銃を振るった。静香は一歩退く。先端に突いた刃の曲線が、静香のエプロンごと、服を切り裂く。
「何……何だと!?」
顕わになった静香の上半身。そこには、あるべきものがない。いくら小さくても女の子ならある膨らみが、である。
ぺったんこの胸に、薄い筋肉、曲線を描かない腰のライン。
千切れ飛ぶ布の向こうで、静香はきっ、と武尊を見据える。腰に据えた左手には、仕込み箒が握られていた。
「僕は……男だっ!!」
右手を柄にかける。刃を抜き放ちざまに一太刀。振り上げた手首を返し、腰を落としながら、もう一太刀。
刃が鞘に再び収められたとき、武尊と又吉は、同時に床にどうと放り出された。
そして静寂。
誰もが口をきけなかった。
次に口を開いたのは、静香だった。
「黙っていて、ごめんなさい」
入り口から全員を見渡して、静香は胸を隠すこともなく、ぺこりと頭を下げた。その仕草は、とても女の子らしい。
「僕の実家に沢山借金があることは、話したよね。それから、ラズィーヤさんに借りてるようなもので、お給料はその分で返してる感じだって。でも、それじゃまだ正しくない」
気絶している武尊と又吉をテーブルクロスで縛りながら、静香は淡々と話す。
「ラズィーヤさんは、実家の借金を返してくれるって言ってくれたんだ。だけど、それには条件があった。僕の卒業まで、百合園女学院の校長を務めること。そしてその間は女として振る舞い、男であることは隠し通すこと」
静香がラズィーヤには逆らえなかった大きな理由は、ここにある。
「自分のために、僕はみんなに嘘を吐いてたんだ。みんなが優しくしてくれる度に、とっても嬉しかった。仲良くなりたかった。同時にとっても悪いことをしている気がして、これじゃ友達になんか絶対なれない気がして──すごく勝手だけど、時々苦しかった」
言い終えて、すっきりしたのだろうか。静香は顔を上げると、屈託のない笑みを浮かべた。
「ありがとう。言えたのはみんなのおかげだよ」
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