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桜井静香の冒険~帰還~

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桜井静香の冒険~帰還~

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 挨拶代わりの大砲を避けながら、船は旋回する。
 砲撃戦に応じることのできる武器は、カタパルト(投石機)とバリスタ(弩)のみ。
「打ち出せそうなもの、打ち出せそうなもの……この辺りかしら?」
 フィオナ・クロスフィールド(ふぃおな・くろすふぃーるど)は武器庫から持ってきた壺を抱えて、甲板に戻ってくる。船員と共にカタパルトの設置場所を定めたアンドリュー・カー(あんどりゅー・かー)が、
「フィオ、何持ってきました?」
「あ、はい、アンドリューさん、これは油壺です。こっちは火酒ですっ」
 地上戦ならともかく、船の上に石や鉄の弾がないのが痛い。
「油なら大砲代わりになりますね。火酒というのは?」
「お酒です。次のも持ってきますね」
 どうやら火酒とは蒸留酒のことのようだ。例えばウィスキーとかウォッカがそうだ。高濃度のアルコールは引火することがある。
 フィオナが蓋を開けた壺を、アンドリューがカタパルトのスプーン状の射出台に載せると、松明の火で引火させる。燃え上がった火の塊は、そのまま長い放物線を描いて、敵船の方角へと向かっていった。これが戦闘でなければ、ショーになったことだろう。
 甲板に出てきたミルフィ・ガレット(みるふぃ・がれっと)は、彼女のお嬢様神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)に不安げな顔を向ける。
「敵の船は大砲を何台も備えておりますわね……あれを使われたらわたくし達の船はひとたまりもありませんわ」
 現在までのところ、船は何とか相手の砲撃を回避してはいるが、当たったらたまらない。
「私の……光条兵器の『砲盾』を使って、大砲の破壊を狙ってみます、破壊はできなくても、大砲を使わせないように『抑止』や脅しくらいにはなると思います、ミルフィはバリスタで援護お願いします」
「分かりましたわお嬢様」
 ミルフィは昨日と同じように、バリスタに取り付いて弦を巻き上げる。
「白百合団として、みんなを護らないと……!」
 せめてヴァイシャリー軍が来るまでと。
 有栖は携帯電話から光条兵器を出現させた。左手に装着した盾には、キャノン砲が付いている。狙いはアヒルの大砲だ。
 バリスタから発射される火矢と、光が敵船に吸い込まれていく。
 その火を下方に見ながら、レイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)は、炎に照らされたパラ実の旗に声を上げた。
「観光船が襲われてんのかっ!? 何とかしねぇと!」
 丁度湖上を小型飛空挺で散歩していたレイディスは、“光学迷彩”で姿を隠し、アヒルの正面に向かっていった。残念ながら本人にしか効果がないので、飛空挺自体はまる見えだ……とはいっても、夜間で戦闘中だ。甲板の下からダミ声が届いたのは、彼が剣でマストと三角の帆をつなぎ止めるロープを切断し、白い布が一枚、甲板に被さってからのことだった。
「おいお前、何してるっ!!」
 帆の下で、ぼこぼこと人のかたちがもがいている。はい出した湖賊、マストから逃れた湖賊が下から銃口を向けてくる。
「ちっ、気付かれたか」
 悠長にマストを斬っている暇はないらしい。レイディスは剣を構え直すと、飛空挺に両脚をしっかと踏ん張り、速度を上げた。
「“爆炎波”っ!」
 剣筋が夜空に赤い筋を作り、彼が船尾に辿り着いたとき、帆の先は燃え上がっていた。振り返って上手くいったことを確認して、レイディスは呟く。
「やりすぎたかな……大丈夫だよな? 周り湖だし……」
 急に帆が燃え上がり船速が落ち、消火にかけまわる湖賊によって大砲の攻撃が一瞬止む。
「今です、もっと油持ってきてください!」
「いくわよミルフィ!」
 カタパルト及びバリスタがうなり、キャノン砲が、次々と敵の砲台を落としていく。
「接舷に繋げる機会ですね」
 フェルナンは武装した白鳥ゆる族の船員に確認を取ると、自らも穂先の長いハルバードを手に、接舷への準備をお願いする。
 相手が消火中に逃げ切れればよいが、そうでなければこの機会を無駄にしてしまう。予備の帆もあるだろう。こちらは完全に人手で航行しているが、あちらは帆でも航行できる。
 衝角はあっても補助的なもので、観光客船が格上の船に何度もぶつけて耐えられる自信はなく、お嬢様方を悪酔いさせるのも本意ではない。
 こちらとあちらの戦力は、人数差はあるが──
「契約者がいます。あちらの方を捕虜にして、可能な限り美談として持ち帰りましょう」