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黒い悪魔をやっつけろ!

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黒い悪魔をやっつけろ!

リアクション

 先に燻蒸式殺虫剤を炊いた食堂の窓の外で、ブリジットは待機していた。
「窓ガラス割って、飛び出してはこないと信じたいですけれど……」
 舞は殺虫剤を持ちながら、開けてある窓の傍で恐々佇む。
「大型のGが簡単に死なないのは計算済み!」
 開けてある窓の前に立ち、ブリジットはバットを構えている。
「うっ……」
 舞が小さな声を上げて、スプレー式殺虫剤を窓に向ける。
 下方からBig・Gが顔を出したのだ。
 しゅぅぅっとスプレーをかけても、Gは怯むことなく窓からダイビング。
「おりゃ〜っ!」
 ブリジットはバットをフルスイングし、食堂の中へとGを叩き込む。
「きゃっ」
 潰れたGの姿に、舞が悲鳴を上げる。
「ブリジットー! 食堂が食堂が……」
「舞は今回は下がってていいよ。食堂は掃除すればいいじゃん。私じゃない誰かがね。おっ、また出たな〜!」
 またもや這い出てきたGに、ブリジットはバットを叩き付ける!


「……さて、寮内のゴキブリはあらかた片付いたみたいだよ。あとは、ちゃんと掃除をしなきゃね」
 鈴虫 翔子(すずむし・しょうこ)が空になった水鉄砲を腰におさめて、変わりに箒を手に取った。
「ゴキブリの糞は絶対片付けないとだめだよ。餌になるみたいだから」
 言って、隅の方から掃いていく。
「なんだか、余計状況が悪くなった気もしないではないけれど」
 高務 野々(たかつかさ・のの)は、寮内各場所の壮絶な状態を見て回った後、廊下の一番端でモップで廊下をトンとついた。
「大型のGはすべて処分出来たようですし、さあ、全員で本格的なお掃除をしましょう!」
「で、でもぉ……」
 怯えて固まっている寮生達がいる。無理もない、潰れたBig・Gの体液が飛び散っている場所も、体の一部が残っている場所もあった。
「皆さん、結構過激でしたからね……」
 野々は物理的な廃除は控えようと提案したのだが、叩き潰すという手段をとった寮生が意外に多かった。
 お嬢様とはいえ、大和撫子を目指す者達とはいえ! パラミタに来る勇気ある女子達なのだから致し方ないとも言う。
「だからこそ、片付けませんと。死骸を食べにまた現れてしまいますよ? これ以上繁殖をしないように徹底的にお掃除しましょう。少し早いですが、年末大掃除ですよ!」
「わ、わかりました」
「はい」
 寮生達が返事をして、掃除道具を手に取った。
「こちらを参考にして下さいね」
 野々は作ってあった『メイドじゃなくても出来る簡単G対策マニュアル』を寮生達に配って回る。
 そのマニュアルの最後に『対処が無理そうな際はいつもそこら辺を掃除してる高務野々というメイドまで御用命ください』と言葉が添えてある。
「湿気の多いところを重点的に行ないましょう。私はなにやら怪しい雰囲気が漂う浴場の方を見てきますね」
「はい、ありがとうございます〜。プレナ達はこのあたりのお掃除頑張ります!」
 プレナ・アップルトン(ぷれな・あっぷるとん)も野々からマニュアルを一部受け取った。
「あっ、ゴキブリっ」
 モップを手に、クラーク 波音(くらーく・はのん)が声を上げた。
 カサカサと這い出た黒い悪魔がBig・Gの死骸の一部に近付いていく。
「のんちゃん、凍らせて下さい」
「うんっ!」
 プレナの言葉を受けて、波音が氷術を放ち、Big・Gの死骸の一部もろとも凍らせる。
 即座にプレナが駆け寄って、箒でささっと掃いて、ゴミ袋に入れて口を結ぶ。
「つ、潰れたBig・Gの、体や体液、早く片付けないとね」
 気持ち悪いと思いながらも、波音はぎゅっとモップを持つ手に力を込める。
「ララも波音おねぇちゃんのお掃除お手伝いするよぉ!」
 パートナーのララ・シュピリ(らら・しゅぴり)が、無邪気で一生懸命な笑顔を浮かべる。
「ララだって、メイドなんだから、お掃除できるもんね!」
 頑張ってお手伝いして、波音やプレナに喜んでもらいたいと思いながら、ララは雑巾を手に床に飛び散っている体液の方へと歩く。
「のんちゃん、魔法お願いしますー」
「うん。ララ、もうちょっとまってね」
 汚れに向かおうとするララの腕を優しく握って引き止めて、アシッドミストを床に向かって放つ。
「それじゃ、拭きましょう〜」
 プレナはモップで床を拭いていく。
「うん、拭くね」
「お願いね」
 あどけない顔を向けたララに、笑みを向けて波音は手を離した。
 ララはごしごしと一生懸命床を拭いていく。
「3人とも偉いわね。寮生じゃないのよね?」
 近くで清掃を行なっていた妹尾 静音(せのお・しずね)は、微笑ましげに声をかける。
「ちょうど遊びに来ていたんです」
「あたしは、プレナお姉ちゃんのところに遊びにきてたの。うちの魔法学校の校長がプレゼントした薬が原因でこんなことになってるみたいだし、お掃除手伝わなきゃと思って」
「うん、お手伝いっ」
 プレナ、波音、ララの答えに、静音は微笑みかける。
「水鉄砲に液体洗剤を入れてあるの。Gにも有効だし、落ちない汚れがあったら、声をかけてね」
「ありがとうございます。では、少しだけここに」
 プレナが廊下に置かれていた大きな花瓶を退かす。Gはいなかったが、静音は水鉄砲の中の液体を少しだけかけた。
「お掃除お掃除」
 ララがごしごしと床を拭いていく。
「えらいえらい」
 波音が手袋をとって、ララの頭をなでてあげる。
「2人ともありがとうございますっ」
 プレナも手袋をとって、波音とララ、2人の頭をなでた。
「ふふふっ」
「んっふっふ〜」
 ララと波音は嬉しそうな笑みを浮かべる。
 可愛らしい3人の様子に、静音も笑みを浮かべていたけれど、ふとここにはいないパートナーのことを思い浮かべ、軽く溜息をついてしまう。
(みんな頑張ってるのに……。どうせ、ナンパで引っ掛けたのと、どこかでイイコトしてるんでしょ。まったくもう…)
「甘い考えはお捨てなさい。あなた方の行いがこの事態を引き起こしたのですわ。取り返しのつかないことになる前に、もう少しお勉強なさい!」
 ふと、振り向けば会議室で後輩達に厳しく説教をしている神倶鎚 エレン(かぐづち・えれん)の姿が目に入った。
 ビデオを見せながら、レポートまで書かせている。
(エレンさんって、結構怖いな……羽目を外しすぎた罰で掃除させられた時に、テキトーにやっちゃったのがバレないといいけど……)
「この部屋の掃除、手伝ってくれるかな?」
 思いをめぐらせていた静音に声をかけてきたのは、そのエレンのパートナーフィーリア・ウィンクルム(ふぃーりあ・うぃんくるむ)だった。
「は、はい」
 軽く緊張しながら、静音はフィーリアの後に続き室内の掃除を手伝うことにする。
「ふむ、わらわには虫などを怖がるのはわからぬが……しっかりと掃除しておればそんな虫など住み着きはせんのじゃ」
 小人の小鞄から呼んだ小人達に部屋を探らせながら、フィーリアはハウスキーパーを活かし、掃除を始める。
「やつらも生き物じゃからの。食べ物のないところからは自然と離れる」
 箒でゴミを集め、ちりとりの中に入れていく。
「こういった、食べカスの汚れなんかがいけないのよね」
 静音も、真面目っ娘だった頃を思い出しながら床をごしごし磨いていくのだった。