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溜池キャンパスの困った先生達~害虫駆除編~

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溜池キャンパスの困った先生達~害虫駆除編~

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「失礼します、すいません最近赴任した先生に伺いたいことがありまして」
 樹月 刀真(きづき・とうま)が入ってきた。職員室にいる新人教師日付由那と緒喫円が顔を向ける。緒喫円は体育の教師と言ってもおかしくないほどがっちりとした体格の男だ。風森巽達は机の影に身を潜めた。
「今日はお客さんが多いですね……」
「お? なんだ?」
 新人教師二人が樹月刀真に近付いてきた。冷たく微笑んで樹月刀真が二人に向き直る。
「最近出没している魔物について何か知りませんか?」
 問いかけると教師二人は顔を見合せ、首を横に振った。
「あぶないとは思っていますけど……特には」
「確かマンゴラドラやサハギンなんかがこの溜池キャンパスに押し掛けているんだっけなぁ……まあ、その程度しか知らんけどな」
「では、キャンパスの木が減っているので木を食べる……草食と言えばいいんですかね? そういう魔物はいるんですかね?」
「専門外なのでわかりませんね」
「そうさな。いるにはいるがなぁ……集まっている魔物は違うぞ。花の蜜を食糧にする奴はいるなぁ」
「なるほど」
 頷くと、緒喫円と日付由那が不審そうに樹月刀真をじろりと見た。
「魔物や木……か。今この学校に起こっている事態に関する質問ばかりだな」
「まさか君、私達を疑っているのではないでしょうね?」
「……いえ、最近先生方が赴任されてから魔物の話があるんで正直疑ってます」
 静かな口調で言い放つ。二人は気まずそうに顔を背けた。
「私は何も知りませんよ」
「俺だってそうだ。今回の件については何も知らない」
「本当に何も知らないんですか?」
 間髪入れず【鬼眼】を使用し問いかける。
「も、もちろんです」
「あ、当たり前だ」
 鬼眼により怯んだ二人の表情を黙って見つめる。睨み合うように見合ってから、緊張を解くように頭を下げた。
「そうですか、すいません疑ってしまって。これで失礼します」
 言って樹月刀真は素早く職員室を後にする。
 ガララッと引き戸を引いて、閉める。
「……よし」
 廊下に出た樹月刀真は頷き【隠れ身】を発動。静かに引き戸を開け、職員室内に身を潜めた。ゆっくり緒喫円に近付く……。
 職員室の引き戸の窓に映る影。
 ガムテープ、布団叩き、チューブワサビという奇妙な組み合わせを手に、前原 拓海(まえばら・たくみ)が職員室に飛び込んだ。
「なんですか君は! 挨拶くらいしてください!」
 前原拓海はそのままつかつかと職員室内を進み、注意をした日付由耶の元へまっすぐ進んだ。
「お前が植木泥棒か! お前のせいで魔物が入り込んだぞ、どうしてくれるのだ!」
「……は、はい? 植木泥棒?」
 目をぱちくりとさせる日付由耶。
「あの……私そろそろ授業の支度を……」
「待てっ!」
 いそいそと立ち上がり早足で職員室を出ようとする日付由耶の背を追いかけ、前に回り込んで立ち塞がった。
「逃がすわけにはいかない」
 そう言ってガムテープを取り出す前原拓海。厳格な表情で呆然と立つ日付由耶の腕を掴んだ。
「! ちょっ……」
「問答無用!」
 前原拓海が日付由耶の体にガムテープを巻きつける。手首足首のみならずまとめてぐるぐるに巻きつけた。
「どこへ逃げるんですか、緒喫先生?」
 そろりと職員室を出ようとする緒喫円の背後に樹月刀真が姿を現した。緒喫円の首に手を掛ける。
「手違いで殺しちゃうかもしれないんで出来れば変な抵抗はしないでください」
「わ、分かった……何を知りたいんだ?」
「では……」
「さあ吐け! 植木をどこへやった!? 今ならスペシャル土下座だけで許してやる! 俺がお前らに謝罪と賠償を要求してやる!」
 樹月刀真の問いかけは前原拓海の叫びにかき消された。そして前原拓海が持っていた布団叩きを取り出した。
「な、何を……?」
 顔を青くする日付由耶に、冷徹な笑みを向けた。
「『尻叩き☆百回の刑』っ!」
「ぎゃっ!」
 叫び声を放置し力一杯布団叩きを振るう。
「吐かないとこのまま続けることになるだろう」
「う、植木なんてっ、知りません、よ!」
 苦悶の表情で訴える日付由耶。
「私は、ただ……」
「……待て、もしかすると……」
 ふと布団叩きを打つ手を止め、腕を組んだ。
「共犯がいるな!? そいつらは残りの二人か? 言え! 言わないと『ワサビの刑』だぞ!」
 今度はチューブ入りのワサビを日付由耶の目前に差し出した。
「ひっ!」
 すくみあがる日付由耶はごくり、と生唾を飲んで叫んだ。
「共犯も何も……私は羽田先生に頼まれて、丸太を燃やしていただけです!
「俺が隠していることなんて、禁煙の校内で煙草を吸っていたことくらいだ!」
 樹月刀真の脅しに屈し、緒喫円も口を割った。
「へぇ……そうですか。なるほど」
「謎は全てわかっちゃったのかも!?」
 隠れていた風森巽とティア・ユースティが立ち上がった。
「羽田美保が植木泥棒か! 奴はどこへ行った!」
「探しに行きましょう」
 前原拓海と樹月刀真が職員室を飛び出した。その後に風森巽とティア・ユースティが続く。
「さて、他の人たちの調査具合はどんな感じかな、と」
 歩きながら風森巽は携帯電話を取り出した。羽田美保を追い詰めるための情報を集めるためだ。
「島村姐さん、そっちで何かわかったことはありますか? こっちは――」