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溜池キャンパスの困った先生達~害虫駆除編~

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溜池キャンパスの困った先生達~害虫駆除編~

リアクション

 響く銃声、魔物の鳴き声、ランスが空を切る音。
 多くの魔物が集結する【魔物駆除隊】のすぐ脇で七枷 陣(ななかせ・じん)仲瀬 磁楠(なかせ・じなん)が魔物の大群と対峙していた。
 機関銃を撃ち、マンゴラドラを一体一体確実に仕留めていく七枷陣。仲瀬磁楠も大ダンゴムシにランスを突き立て踏みつけて攻撃。
 こうして一体ずつ確実に倒すものの、次から次へと現れ続ける魔物……。
 引き金を引きながら、七枷陣はため息をついた。 
「あー次から次へと鬱陶しい! Gかコイツらは!」
 足をじたばたとさせ引き金を引くと、幼コカトリスは球を避けた。余計に苛立ちが募る。
「どれだけ倒せばいいんや!」
 八つ当たりのように銃を乱射する七枷陣を、背を向けた恰好の仲瀬磁楠が振り返った。
「陣、前に教えてやったアレで一気にカタをつけるぞ」
「は?」
 突然の申し出に目を瞬かせる。仲瀬磁楠は憮然とランスで大ダンゴムシを串刺しにし、続けた。
「細々戦うよりまとめて攻撃した方が効果的だからな。今すぐ仕掛けるぞ」
「……そうは言うけどさぁ、まだオレ完璧に再現できんぞアレ」
 目を細め、口を尖らせた。不完全な攻撃を使用するくらいなら慣れた物理攻撃で仕留めた方が確実だ。
 しかし仲瀬磁楠は大げさに首を振って頷いた。
「問題ない。闇と光の属性は私がフォローしてやる、付いてこい小僧」
「フォローて……自分の詠唱に他人が合わせられるわけないやろが!」
 怒鳴りつけるが、仲瀬磁楠は自信に満ちた瞳で笑った。
「やってみれば分かる。この私がわざわざお前に合わせてやるんだ、有り難く思え」
 腕を組んだ仲瀬磁楠の言葉。見下されているのがありありと伝わる。七枷陣はそっぽを向いて呟く。
「ちっ……えっらそうに……死ねよマジで」
「何か言ったか?」
「……言った! 悪いか!?」
 半ば投げやりになって集まったサハギンや大ダンゴムシを撃ってから、詠唱に入る。
「……唸れ、業火よ! 轟け、雷鳴よ! 穿て、凍牙よ!」
「……侵せ、暗黒よ! そして指示せ……光明よ!」
 完璧な詠唱が重なり七枷陣が火・雷・氷の、仲瀬磁楠が闇・光の属性の光を作り出す。
「セット! クウィンタプルパゥア!」
 同時に叫び、同じタイミングで魔物の軍団を睨んだ。二人が作り出した五属性の魔力が一つに重なる……。
「爆ぜろ!」
 二人の声と共に【ヒロイックアサルト】「クウィンタプルパゥア」が完成。五属性の魔法が一気に放出され、爆発。
 凄まじい轟音と共に魔物の群れが消失した。
「綺麗になったな。これも私が完璧なフォローをしたからだ。感謝しろ」
 満足げな表情で仲瀬磁楠が七枷陣を振り返る。
「…………」
 七枷陣は口を半開きにして仲瀬磁楠を見ていた。何かに驚いているのか目を剥いている。
「陣?」
 眉をひそめる仲瀬磁楠。目を向けているようで何か他の物を見ているような表情をして「まさか……」と七枷陣が呟いた。仲瀬磁楠は訳が分からず首を傾げた。
「何を呆けている、次が来たぞ」
 七枷陣は突然何かに気付いたように肩をぴくりと動かすと大きく首を振った。
「さっさと弾幕を張れ未熟者」
「……また偉そうに……。やりゃあいいんだろうが、やりゃあ!」
 舌打ちをして怒鳴る。白髪の相棒に恨みのこもった視線を向けてから、攻撃の姿勢を取った。

「あーもうめんどくせえな。一気にやるかねぇ」
 サハギンと幼コカトリスの相手をしていた東條カガチはバスタードソードを持ち上げ攻撃の構え。
「ビリビリしちゃえ」
 不敵に笑って向かってくる魔物達に【轟雷閃】を放つ。剣の切っ先から放たれた雷電は次々と魔物を撃つ。
「晩御飯のオカズが増えたねぇ……食えればだけど」
 ばたばたと倒れる魔物の姿を見ながら、調理の方法を考える。顔を上げると、見知った姿が目に入った。
「お、あれは陣ちゃんかねぇ? 丁度いいや」
 サハギンの鱗をバスターソードでこそげ落とし肉の一部を切り取って、周囲の敵を一掃し小休憩をとる七枷陣の後ろ姿に近づいた。
「陣ちゃん、お疲れ」
「わ、びっくりした」
 目を瞬かせて振り返った七枷陣の目の前にサハギンの肉を差し出した。
「これ差し入れ」
「? これって……魚か?」
「こまけぇこたあいいんだよー。いいから食ってみなよ」
 東條カガチの言葉になんとなく頷いた七枷陣は、なんの疑いもなくそれを口に入れた。
「どう? 美味い?」
「普通に美味いけど……」
 肉を飲み込みしっかりと喉元を過ぎたことを確認して、にっこり笑った。
「そっか。……サハギンは大丈夫、と」
「さはぎん?」
「そうとなったら食料を集めるかねぇ」
 首を傾げる七枷陣に背を向け、地面に転がったサハギンに目を向けた。
「しかし、数が多いですね……一掃しますか」
 ため息をついた緋桜遙遠は武器を持ち直した。校門入口で固まっている大ダンゴムシ達に向け【サンダーブラスト】を向ける。
「これ以上被害を増やすわけにはいきません」
 いくつもの雷電が降り注ぐ。ぐるぐると回転していた大ダンゴムシの動きが停止。砂ぼこりを上げて倒れる。
「何か手掛かりはないでしょうか……」
 近寄って仰向けに転がす。大ダンゴムシはあっけなく無防備な腹を見せた。
「……? これは」
 大ダンゴムシの節足に触れると、べたべたと粘着性のある液体がところどころについていた。
「これは……なんでしょうか?」
 掬うようにして取り、香りを嗅いでみる。
 甘いような辛いような香り。
「見当もつきませんね……。他の魔物にも付いているのでしょうか」
 生まれた疑問に、緋桜遙遠は他の魔物を調べようと歩きだす。その背後に迫る影があった。
 魔物を排除し続けるメンバーの活躍により魔物が減ってきたところに、大きな影が近づいてきた。
 蛇に似た体、鋭い瞳、大きな体……ラミアだ。ラミアは桃色の粉をまといゆるゆると進んでくる。
 その巨体は戦い続ける如月玲奈に近づいた。
「ラミア! こんな大物までくるの!?」
 驚いて一旦後退し【氷術】を紡ぐ……が、詠唱の途中で風に乗った桃色の粉を吸い込んでしまった。
「……!」
 如月玲奈は動きを一瞬止め、続いて魔法を紡ぎ出した。
「行ケッ」
 紅潮した頬、焦点の合わない瞳が紡ぎ出した【氷術】は葉月ショウの元へ。
「うわっ! なんだ?」
 咄嗟にしゃがみ避ける。銀色の髪を掠めたらしく、毛先が凍っている。畳みかけるようにサハギンが鎌に似たヒレを振り下ろす。
「こんなときに仲間割れか!?」
 ライトブレードで攻撃を弾きつつ如月玲奈を見る。その攻撃は仲間に次々と向けられる……。
「くっ……やめてください!」
 朱宮満夜が【氷術】の乱射を避け、叫ぶ。
「どうやら魅了されてしまったようだな」
 腕を組むミハエル・ローエンブルグは自分に向かってきた【氷術】へと【火術】を向け相殺させた。
「魅了を解くにはどうすればいいですか?」
「俺に頼らないではなかったか?」
 朱宮満夜の問いかけに冷たく言い放つミハエル・ローエンブルグ。
「……そうですけど」
「なら、自分で考えるのだな」
 返された言葉に頬を膨らめていると、携帯電話が震えた。
「あ、緋桜ケイさんからです!」
 朱宮満夜は慌てて通話ボタンを押した。