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リアクション
「ティティ!? どこへ行ってしまったんですかーーーーー!!!」
スヴェン・ミュラー(すう゛ぇん・みゅらー)はホレグスリ入りジュースを持ったままティエリーティア・シュルツ(てぃえりーてぃあ・しゅるつ)を探していた。
(うう……邪な気持ちでいたのが悪いんでしょうか……)
最近外に友人が出来たせいか、全く構ってくれないティエリーティア。たまには鎌ってホシイナー、らぶらぶしたいなー、と遊園地にやってきたものの、おまけはついてくるはティエリーティアは居なくなるはで散々である。
そのおまけ、フリードリヒ・デア・グレーセ(ふりーどりひ・であぐれーせ)はつまらなそうに後ろを歩いて、遠い目をしている。
「野郎二人で遊園地とかマジ意味わかんねー……」
「あなたももっと真剣に探してください!」
「ほんとティエルどこ行っちまったんだろうな?」
携帯に掛けりゃいいじゃんと思うフリードリヒだったが、これはこれで見ていて面白いのであえて言わない。というか彼自身は既にティエリーティアに連絡を取っていて、こちらに向かってもらっていた。彼が迷わなければ合流できる筈……多分。
「あああああ、迷子放送をしてもらうべきでしょうか!?」
頭を抱えて悩むスヴェン。せっかくあの伊達眼鏡に呪いをかけて同行を阻止したというのに。スヴェンは当然、伊達眼鏡とティエリーティアがこの後に正式な付き合いを始めることなど露知らない。
「いや、でもそんな事をしたらティティに恥をかかせてしまうかも……うう……どうするべきかどうするべきか……」
いつの間にか置き去りにしてしまったジュースを、フリードリヒがひょいと取り上げる。スヴェンは全く気付かない。
「あー……喉乾いた。これ飲まねーんなら俺が貰うぜ?」
一気飲みをして、スヴェンに目を遣る。
「そんなに慌てなくても大丈夫だって。ティエルは……ん?」
スヴェンが眩しく見えて、瞬きをする。イルミネーションのせいだろうか。いや――
「やっぱり迷子放送してもらいましょう! フリッツ……え?」
気付いた時には、スヴェンはフリードリヒに手を取られていた。
「どうしましたお嬢さん? 誰かお探しですか?」
「……フリッツ? あなたどうしたんですか? って……あああー!」
道に転がった空のコップを発見してスヴェンは叫ぶ。
「貴女のような美しい方が、こんな所に1人で居たら危険ですよ。人探しなら僕も協力しましょう。どんな方ですか?」
「僕って、ちょっと……!」
気持ち悪くて鳥肌を立てるスヴェン。
「私が誰かわからないんですか!?」
彼は元々、黙っていれば女性にモテそうなのは勿論、女性に勘違いされてもおかしくない容姿をしている。ホレグスリを飲んだフリードリヒの思考はこうだった。
何だかスヴェンが輝いて見える→あれ、こいつ結構キレイな顔してんな、女みてー……女だ! →ここで人物認識が消える→困っているみたいだから助けてやろう。ついでにモノにしてやろう。
で、現在に至る訳だ。
「愛しいお嬢さん……ああ、触り心地も抜群ですね。このまま逃避行して、僕と一緒に暮らしませんか?」
どんどん言動がおかしくなるフリードリヒ。ぞわあっとスヴェンは総毛だった。鳥肌どころの騒ぎではない。
「やめなさい、このお馬鹿さんが! 私はティティを探すんですッ!!!」
「あれー? 2人で何してるんですかー?」
そこで、ティエリーティアの声が掛かった。ジュースが3つ載ったトレーを持ってきょとんとしている。
「ティティ! 良かった……! あ、いえこれはですね! ちょっとした事故というもので……」
「ティエルを探していたんですか? 早く言ってくれれば教えてさしあげたのに……でもこれで、心おきなく遊園地を楽しめますね」
ティエリーティアの目がぱあっと輝く。
「あ、もしかしてフリッツ、スヴェンのことが好きだったんですかー? それで、お化け屋敷でびっくりさせて2人きりになろうって……なんだあ、早く言ってくれれば邪魔なんかしませんよー」
ぴき。
2人の表情が固まった。
「スヴェン……?」
フリードリヒが離れて、まじまじとスヴェンを見る。
「ああああああああああああーーーーーーーーーー! 俺、おまえに何っ! ……………………うわあああああああ気持ちわりーーーーーー!」
「やだなあそんな照れなくてもいいですよー。僕、スヴェンとフリッツが仲良くなってくれて嬉しいですー。応援しますよー」
「やめてください! それだけはやめてください! 私はティティのことが好きなんです!」
「知ってますよー、僕も好きですー」
ティエリーティアは完全に勘違いをしたようで、数時間後に伊達眼鏡との交際を報告した時にこう言った。
「こ、今度……だぶるでーととかできるといいですねー」
と。その言葉に2人が悶絶したことは言うまでもない。
1人笑顔を浮かべ、音井 博季(おとい・ひろき)は白馬を降りた。デジカメのメモリーを見ると、遊園地を一周した際に撮影した写真が順番に映し出される。馬上から撮った夜景の数々には、当然ながら博季の姿は無い。
「この観覧車が最後だな、よし、いい写真を撮るぞー」
独り言というには少し大きな声を出し、手綱を近くの柵に繋ぐ。誰に見せるわけでもない意味のない笑顔で、博季は観覧車に――
「うわわわわ、何だっ!?」
たまたまホレグスリ破廉恥耐久レース中のゴンドラが降りてきて、博季は度肝を抜かれた。目前を通過していくゴンドラを硬直して見送ると、改めて自分も乗り込む。
「か、顔が熱いな……あ、そうそう夜景夜景!」
「さっきの人、真っ赤になってましたねぇ〜」
「ふふ、かわいいですね。こちらに招いてさしあげたいくらいです」
珠輝の身体にかけられたチョコレートを舐めながらひなが言うと、珠輝もスクール水着上のチョコを掬い取って舐める。
Tバック一枚の男とスク水少女がチョコまみれで絡み合っていたらそれは誰でも驚くというものだ。驚かない者がいるかどうか、無表情キャラを整列させてもみたくなる。
「もっともっといきますよ〜ホレグスリですぅ〜」
お互いにホレグスリを飲ませあう2人を止めることは、もう誰にも出来ない。
「じゃあちょっと脱いでみましょうか、ふふ」
珠輝の手が、そっとスクール水着の肩ひもにかかった。
観覧車がゴールに近くなり、写真を撮っていた博季から笑顔が消えた。彼は、パートナー達を誘ったものの都合がつかず、1人で来ざるをえなかったのだ。沢山撮った写真とお土産話を持って帰ってやろうと思ったが、笑っていたのはまあやせ我慢というやつで。
「はあ……」
寂しい。
「1人何とかっていろいろあるけど、1人遊園地って難易度的に高めなんじゃないかなあ。1人観覧車とかって……はあ。どうして都合が付かないんだよー。2人共ってなんだよー。薬を貰ってみんなに混ざるとかできないしなー。混ざってみたいけど……」
しょぼんと肩を落として外へ出ると、白馬の近くに一ツ橋 森次(ひとつばし・もりつぐ)が立っていた。
「これ、キミの白馬? キレイな毛並みだね」
「ありがとうございます。あなたも1人なんですか?」
1人仲間! と若干嬉しくなる博季。
「うん。無料で遊園地で遊べるなんて来ない手はないよ。一人で楽しむのもなんだし、誰かに声かけようと思ってたんだけど……ジェットコースターとか乗る?」
「はい!」
今日は写真を撮ってばっかりで観覧車にしか乗っていなかったりする。白馬の手綱をほどきながら、博季はまた少し寂しそうにした。
「みんな楽しそうですよね……あなたはホレグスリは持っていないんですか?」
「そんなのはどうでも良いというか関わりたくないよ。ていうか、真実の無い愛なんていらないしね」
森次は少しだけ表情を引き締めた。
シオン・リナルド(しおん・りなるど)は、売店にあったキャラクターボトル缶(ホット)を両手に持っていた。『右手の缶』にはホレグスリが入っている。これをリュート・シャンテル(りゅーと・しゃんてる)に飲ませて無様な姿をしっかりこの目に焼き付けてくれるわっ! といった次第である。
「復讐するは我にあり、日頃の恨みキッチリ返すぜ! ……ホレグスリ入りは右手の缶……右手の缶……っと」
分かれ道にさしかかり、左右に首を向ける。
「えーっと、確かあいつらはここを左手に曲がったベンチ……“ひだりて”に……おっ、いたいた!」
目的の2人を見つけ、シオンは左へと歩を進めた。
「シオンが遊園地に誘ってくれるなんて嬉しいですね……しかも、絶対に皆一緒にって……」
アリア・ブランシュ(ありあ・ぶらんしゅ)は3人で遊びに来れたことを微笑ましく思っていた。
(いつも喧嘩ばっかりだし、これをきっかけに2人仲良くしてくれればいいんですけど…
「コーヒーを買いに行ったにしては遅いね。どこまで行ったのかな?」
アリアの幸せそうな言葉を巧みにスルーしてリュートは言った。何か企んでないといいんだが、と胸の内で呟く。
「……ああ、帰ってきた。いつもと変わらない様子だね」
「買ってきてやったぜ、ありがたく受け取りな!」
シオンはリュートに、左手の缶を差し出した。ポケットにしまっていた3つ目の缶をアリアに渡すと、右手の缶の中身をぐいっと飲む。そう、『右手の缶』を――
「……わっ」
突然シオンに抱きつかれ、危うくコーヒーを零しそうになるリュート。一瞬顔が引き攣ったような気がするが、アリアの手前、すぐに笑顔を取り繕った。彼女がいなければきっと、迷うことなく殴り飛ばしていただろう。
「ん〜、リュートぉ〜」
全体重を預けられて重いしどうしてやろうかもう一度封印してやろうかと思っていた時、リュートは既視感に気付いた。
(……ん? この匂い)
これは、クリスマスの時のホレグスリだ。
「あら? シオンはどうしたのでしょう。何か様子が……」
首を傾げるアリアには、その場の思いつきで誤魔化してみる。
「どうやら間違えて、お酒を買ってきてしまったみたいだね」
足元に転がっているコーヒーの缶を蹴り飛ばしながら言うと、アリアは簡単に信じたようでシオンの顔を覗きこんだ。
「まあ大変。じゃあどこかで休ませないといけませんね」
「う、うん……そうだね、どこにしようか」
(何故だ? 何故信じる……!)
顔を間近で見ても気付かないとはどれだけてんね……いやそれよりも、懲りずに誰かがばら撒いているのだろうか。前回は解毒剤で事態が収まったと聞いていたが。
(解毒剤はどこだ? 効果が切れるまでこの馬k……シオンと一緒……精神的につらいな…)
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