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【十二の星の華】空賊よ、星と踊れ-ヨサークサイド-2/3

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【十二の星の華】空賊よ、星と踊れ-ヨサークサイド-2/3

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chapter.10 Kiss and Blow 


 べん、べべん、と。
 2階から聞こえてくる三味線の音が、ふたりの間を通り抜けていく。
「クソボブ……」
 3階のテーブルにひとり腰掛けているヨサークの前で、さけがじっと彼を見下ろしている。辺りは酒を浴びている空賊しかいなく、上機嫌の彼らはヨサークに近付いているさけのことなど気にも留めていなかった。
「ヨサークさん。こないだはつい意固地になって、本当に言いたいことが言えませんでしたの」
「うるせえ、勝手に喧嘩売って勝手に反省してんじゃねえ。耕すぞこら」
「……あなたは、馬鹿で、その上バカで、そしてすっごくばかだと思いますわ。でも決して曲がったことはしないと思ってますの。だからわたくしも、もう自分を曲げるようなことはしませんわ」
 震えた糸が、乾いた音色を上へ上へと伝えていく。からから、からから。
「これがわたくしの、真っ直ぐな気持ちです。目をお覚ましください!」
 ぐいっと距離を狭めたさけが、その腕を肩まで上げる。咄嗟に椅子を引こうとしたヨサークの胸に、さけの手が潜り込んだ。彼のみぞおちに、ぎゅっと握りしめたさけの握りこぶしが埋まっていた。
「なんだ、このっ……」
 一瞬止まった息を吸うため、胸元に落としていた顔をヨサーウが上に向けた時だった。
 さけの唇が、ヨサークの頬にとまった。
「……っ!?」
 唇のすぐ横に当たっている彼女の薄い上唇の感触で、彼女と自分の顔に距離がないことに気付く。
「さ……ボブっ! この野郎っ……!」
 さけを押しのけるように立ち上がったヨサークは、そのまま階段を下り酒場の外へと走っていった。さけは、小さな手を自分の唇に当てながらただそれを見ていた。

 外はもう薄暗く、程よい涼しさの風が吹いていた。
 船着き場までやって来たヨサークは、岸に立ってぼんやりと思い出していた。駿真と樹にかけられた水のことを。ジャックや明日香、伐折羅に叩かれたことを。総司や周、和希に頬を殴られたことを。そして同じ頬に受けた、さけからの口付けを。
「権力、ってのは……」
 ヨサークの目に、少し柔らかさが滲む。と、彼の耳に、足音が聞こえた。それは、酒場から出てきたザクロだった。
「おめえ……」
「夜風にでも当たりに来たのかい? 店の中は、人の熱気で熱かったからねえ」
 ザクロはその手にした赤い扇で、ヨサークの顔を扇ぐ。
「なあ、おめえにこんなこと聞くのもおかしいが……権力ってのは何なんだろうな」
 ヨサークの言葉を聞いたザクロは、思わず目を見開いた。それは、彼女が今まで見せたことのない表情だった。
「もう、使えなくなったかねえ……」
「何? なんつった?」
 ザクロに背を向けていたヨサークが、聞き直そうと振り向きかけたその時だった。彼がつけていた青いペンダントが、急に光を放ち、赤く変わった。駿真から譲り受けた、禁猟区で出来たペンダントである。
「なんだ……」
 ヨサークの視線が、自然とペンダントに行く。ペンダントを手に取ろうと彼が右腕を上げた次の瞬間だった。
 ずぶり、と肉の裂ける音がした。
「……あ?」
 右腕を上げたことで空いた脇腹、そこに扇が刺さっていた。ヨサークはゆっくりと後ろを振り向く。光条兵器元々の色と血が混ざってまだら模様になった扇を腹から引き抜き、口元に当てているザクロがそこにいた。
「おや、慣れないことするもんじゃないねえ。ちょっとだけ欠けちまったよ」
 ザクロは微かに欠けた扇の骨の部分を舌で舐めると、トンとヨサークの背中を押した。重力に従って、ヨサークは岸から落ちるとあっという間にその姿を暗闇へと消した。ザクロは彼が持っていたはずの女王器を手にして、静かに別れの挨拶を告げた。
「ここでおさらばだねえ、野心家の空賊さん」

担当マスターより

▼担当マスター

萩栄一

▼マスターコメント

萩栄一です。初めましての方もリピーターの方も、今回のシナリオに参加して頂きありがとうございました。
そして、度々公開予定日を過ぎての公開になってしまい申し訳ございません。

前回同様、今回もかなり真面目なアクションが集まったのでシリアスになりました。
どうやら後編はシリアスな流れになっているようです。

なお、アクションの判定についてですが、
GAをかけていなくても、行動が被っている場合は同じ場面で登場させて描写していることがあります。
今回で言うとヨサークの目を覚まそうと殴りかかる方がとても多かったです。
サンプルに一切書いてないアクションにも関わらず大勢の方がヨサークを思ってくださって、ちょっと感動しました。
同時に、これひとりひとり分けて書いたら面白いことになりそうだなとも思いました。やりませんでしたけども。

ちなみに今回の称号は、LC含め全部で14人のキャラに送らせて頂きました。
一定回数連続参加者が主な対象です。
称号を付与してなくても、アクションに対する意見などを個別コメントで送らせて頂いているパターンもございます。

最後に、今回も次回シナリオの告知させてください。
まだ確定ではありませんが、おそらく4月25日の日曜日に次のシナリオガイドが出ると思います。空賊最終回です。
きちんと決まりましたらブログの方で告知したいと思います。ブログは「萩に地鶏身」で検索していただければ。
今回のリアクションの裏話とかも書くことがあれば後で載せるので、もし興味のある方がいましたら覗いてやってください。
そんな感じで、長文に付き合っていただきありがとうございました。また次回のシナリオでお会いできることを楽しみにしております。