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【十二の星の華】空賊よ、星と踊れ-ヨサークサイド-2/3

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【十二の星の華】空賊よ、星と踊れ-ヨサークサイド-2/3

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chapter.6 カシウナ襲撃2日目(3)・旧市街地区防衛戦 


 今から10時間ほど前、カシウナが襲撃されて間もない頃。
 カシウナの遥か下、日本のある小さな町に一通の連絡が入る。
『カシウナに空賊襲来。財産保護のため、至急貨物運搬の必要アリ。海上で準備の上、保護を求む』
「町長……!」
「うむ、漁師たちに急いで伝えてくれ。カシウナから提供されたもちち雲の網を持てるだけ持って、太平洋に出向いてくれ、と」
 それを受けた町人は、急ぎ連絡を取り次ぎ、対応する。
「期間は……?」
「む……襲撃中ではこちらからの連絡もつき辛いかもしれん。念のため、今夜から準備し明日とあさってまで、3日間に渡り保護活動を行おう」
 町が、一気に慌しさを増した。
 そこは、日本の東北地方にある小さな町。地方文化とパラミタ文化の交流を目的として姉妹都市締結が成されている、漁業の盛んな町。



 日の出を迎えたカシウナの街は、その半分以上が空賊たちによって制圧されていた。中央地区もほぼ空賊たちの支配化に置かれ、残すは旧市街地区である西部のみである。そこに押し寄せようと空賊たちが迫る中、旧市街地区を避難区にしていた住人たちはさらに西、街の外へと避難を始めていた。
「そろそろこの街もおしまいだなぁ! 後はあのへんだけか?」
 スピネッロが建物を破壊しながら西へと向かう。他の空賊たちも、その勢力を中央から西地区へと広げていた。
 制圧開始から13時間40分経過。現在時刻、08時40分。

「早く、書類など持てるものは各々で持って、それ以外は類似パラシュートをつけてここから海へ!」
 住人たちが、街の西端にある港に集まっている。住人は思い思いの私物に装置を括りつけ、空へと放り出していた。
「太平洋上では、連絡を受けた漁師の人たちが荷物を収集してくれます! 空賊の強奪に遭う前に、早く下へ!」
 あちこちから声が響き、ふ頭には人だかりが出来ている。港があるということは、陸がそこで終わっているということである。カシウナの人々は、ここから太平洋に向かって荷物を放ることで、空賊に奪われるのを避けようとしていた。無論確実に保護される保障はないが、略奪されるよりはマシということなのだろう。このために、前日の夜緊急に姉妹都市締結をしている日本の町に手配を頼んだのだ。荷物の放出を終えた者から、岸沿いに南北への避難が始まる。時刻は、9時を回っていた。
「空賊だ!!」
 住人のひとりが、東の方を向いて叫ぶ。そこには、大勢の空賊が完全なる制圧を遂げんとこの旧市街地区へと姿を現していた。
「全員は、間に合わないか……!」
 残された住人が膝をつき、これから起こるであろう凄惨な情景を想像する。先陣を切った何人かの空賊が港へと進軍を開始しようとした、その時だった。一瞬眩しい光が空賊たちに向けて照らされ、その光に混じって彼らの足先に、カカッ、と数本の矢が刺さった。矢の飛んできた方角は、港に沿った形で位置している岸壁の上だ。その地点を見上げた空賊たちに向けて、声が轟く。
「『シャーウッドの森空賊団』、ヨサーク大空賊団に反逆する……!!」
 そこに立っていたのは、光術を唱え終え諸葛弩を構えているヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)とその契約者、リネン・エルフト(りねん・えるふと)だった。彼女らは、独自に結成した義賊の空賊団『シャーウッドの森空賊団』として活動している者たちである。義賊である以上、目の前で行われようとしている残虐な行為を見過ごすわけにはいかない。そう決断した彼女たちは、戦うことを選んだ。たとえそれがどんなに圧倒的な兵力差であろうとも、である。ふたりの前に見える空賊は、ざっと200を超えている。まだ中央地区などにいて、ここまで来ていない空賊も後から合流することも考えれば、さらに100近い数が上乗せされる。覚悟を決めたのか、ぎゅっと手持ちの武器を握りしめるリネンに、ヘイリーが正面を向いたまま告げた。
「ははっ……いい空気ね。昔の戦を思い出しちゃった。リネン、悪いけどナラカの底まで付き合ってもらうからね!」
 直後、野生の蹂躙により周囲から豚や羊を集めたヘイリーは自身が所有物であるパラミタ猪も合わせ、一斉に突撃させる。
「うおお!?」
 先手を取られ、押し寄せてくる動物の群れに前線にいた空賊たちは地面に倒れこんだ。不意打ちとしてはこれ以上ない成功である。
「たかだか女ふたりでどうにか出来ると思ってんのか? 舐めてんじゃねえぞ!」
 群れが通り過ぎた後、今度は空賊たちが群れとなって襲いかかる番だった。集中攻撃を避けるためヒットアンドアウェイの戦法を取ろうとするふたりだったが、いかんせん相対する人数が多すぎて、上手に距離を開けたり身を隠したりすることが出来ない。
「ヘイリー、このままじゃ……」
 頬に汗を伝わらせながらリネンがぽつりと漏らす。自身の身に迫る危機は、ヘイリーも感じていた。いつしかふたりは、ずらりと周りを空賊たちに囲まれてしまっていた。背中を合わせ、覚悟を決めるリネンとヘイリー。
「……ふん、耕せるものなら、耕してみなさいよ」
 半ば諦観気味にヘイリーが呟いた時だった。取り囲む空賊たちの背後から、雷鳴が聞こえた。
「なんだ!?」
 その光と音に空賊たちは一斉に目を向ける。そこには、箒に乗り、次の魔法を放とうと魔力を手に集中させている緋桜 ケイ(ひおう・けい)がいた。
「本当に、こんなことやってるなんてな……」
 どこか悲しそうなトーンで、ケイは空賊たちを見下ろした。彼は蜜楽酒家でのバイト中、カシウナ襲撃の噂を聞き真相を確かめようと駆けつけたのだった。外見は女性っぽいところがあれど、中身は年相応の少年であるケイ。だからこそ、と言うべきか、大空を飛び回る空賊というものに憧れのような気持ちを抱いていた。しかし今彼が目にしているのは、イメージとはかけ離れた、ただ略奪行為をしているならず者たちである。その景色がケイに落胆の気持ちを生じさせたのは、抗えない事実であった。
「それにしてもヨサークという者、元々はここまでするような男ではなかったと聞くが……」
 ケイのそばで同じように箒に乗ったパートナー、悠久ノ カナタ(とわの・かなた)が口元に手を当てて考え込む素振りを見せる。
「そういえば最近、女王器のひとつである白虎牙を手に入れたとも噂に聞いた。以前より大きくなった空賊団、その権力と共に持ち前の野望も増したのであろう」
「だからって、こんなの間違ってる……!」
 ケイは、モヤモヤをぶつけるように魔力を炎へと変え、空賊たちの周りに放つ。そんなケイの様子を、カナタはやるせない表情で見ていた。
「あるいは……女王器には、人を狂わす魔力のようなものが込められているのかもしれぬな」
 それは、この現実は仕方のない、起こるべくして起こってしまったことだとケイに説いているようにも取れる。ケイがそれをどう受け取ったかは知ることが出来ない。しかしケイは、迷いを晴らしたような瞳でキッと空賊たちを睨むと、再びその手から雷を落とした。
「うおっ……あの野郎!」
「追え! あいつらから捕まえろ!」
 途端に、空賊たちの矛先がリネンとヘイリーからケイとカナタへと変わった。ケイはそれを確認すると、箒を翻し背中を向ける。
「陽動とは考えたな。しかし、危険な役割だということは分かっておるか?」
 細かく蛇行しながら箒を走らせるケイの横に並びながらカナタが口にした問いに、ケイは真っ直ぐ前を見たまま答えた。
「これを見過ごしたら、何のために魔法使いになったのか分かんない!」
 その手は、ぎゅっと力強く箒を握っていた。
 ふたりを追うため、20人近い数の空賊が小型飛空艇に乗り込み空へと向かった。それはつまり、まだ150人を超す空賊の群れが地上に残っていることを示していた。彼らはリネンとヘイリーにとどめを刺すべく、再び包囲網をつくろうとする。が、その包囲網は一台のバイクによって崩されることとなる。
「愛と正義のヒロイン、ラヴピース! 満を持して参上ッスよ!!」
 バイクに乗っていたのは、ヒーロー物の変身セットをこれでもかと着こなしたサレン・シルフィーユ(されん・しるふぃーゆ)だ。これまで何度かヨサークの手伝いをしてきた彼女だったが、それは空賊同士でのいざこざであるからだった。その空賊が一般人を襲い、侵略しているのなら話は別である。犯罪を、悪事を許せない。正義の味方を名乗る彼女がここに現れた理由は、それだけで充分なのだ。
「なんだてめぇは、イカれて……べぶっ!?」
「時間がもったいないッス! 強盗の言葉をひとつひとつ聞いてる余裕はないッスよ!」
 サレンは最も近くにいた空賊の顔面を全力で殴り飛ばす。鼻血を噴きながら空賊が倒れる頃には、サレンはバイクを動かし次の標的へと狙いを定めていた。
「食らうッス、アクセルパンチ!!」
 バイクの爆音と、一切容赦のない拳が顔面に当たる鈍い音が交互にこだまする。
「おい、早くこいつのバイク壊せ!」
「待て、最初にいたあのふたりもどっか行ったぞ!」
「うおっ、また雷が降ってきやがった!?」
 空賊たちの陣形が乱れると見るや、リネンとヘイリーは近くの空賊を打ち倒しながら身を隠し、近くの敵を倒していく。その周りをサレンがバイクで走り回りながら、拳を叩き込んでいく。頭上からは、追っ手から逃げつつもケイとカナタが雷を降らせている。場は一気に混沌と化し、まとまって突撃してきた空賊たちはすっかりバラバラになってしまった。それを見たヴァンガード隊員たちは、住人をこの隙に避難させようと誘導を始める。
「避難場所は……北と南の街外れで良いのですか?」
 すっ、と隊員たちの後ろから歩いてきたロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)が尋ねた。
「ん? あ、ああ。手伝ってくれるのか、ありがたい」
 ロザリンドはそれだけを聞くと、軽く頭を下げ隊員たちの手の届かない場所へと向かった。住人の数に対して、誘導係が少なすぎる。場の状況を見てそう判断した彼女は、自ら不足分を補おうと誘導係を買って出たのだ。
「どうか、ご加護を……!」
 ロザリンドが目を閉じ、手を合わせて祈る。すると彼女の近くにいた住人にポウ、と薄い明かりが灯った。ファイアプロテクトを唱えたことで、炎が飛び火しても大丈夫なようにとの配慮だった。次々と祈りを捧げ、合間にディフェンスシフトも用いてスムーズな避難を促すロザリンド。その所作は、百合園の生徒の模範とも言うべき慈愛に満ちていた。
「これが……」
 住人を誘導させつつ、ロザリンドは不安そうな眼差しで空を見遣る。
「これが、ヨサークさんが思い描いていた、自由な空なのですか?」
 まるで、本人が目の前にいるかのようにそう呟く。最初彼女は、ここまでことを大きく考えていなかった。また誰かと喧嘩をしにいくのかな。だとしたら、またヨサークさんを守ることになるのかな。そのくらいの認識だった。しかし、街を襲っているヨサーク空賊団を見て、そんな甘い考えは消し飛んでしまった。混乱に陥った街の様子を目の当たりにしたロザリンドの足は、自然と住人たちの元へと向いていた。
「耕すなら、人々を幸せに出来るよう荒野を耕してください!!」
 堪えきれず、空賊たち目がけ思いをぶつける。一番その言葉を届けたいヨサークがそこにいないことは、彼女も知っている。しかし声を振り絞らずにはいられなかったのだ。

 怒号が鳴る街中で、空賊と戦う生徒にも、誘導を手伝う生徒にも目もくれずに街を徘徊している生徒がいた。東園寺 雄軒(とうえんじ・ゆうけん)とそのパートナーバルト・ロドリクス(ばると・ろどりくす)ミスティーア・シャルレント(みすてぃーあ・しゃるれんと)の3人である。
「襲撃とは……面倒ですが、これは好都合です。この好機を逃す手はありません。手駒を増やしておきましょうか。後々のためにね」
 雄軒は、妖しい笑みを浮かべながらふたりを引き連れて歩いている。彼は自身の目的のため、ある探しものをしていた。そして、それはじき見つかることとなる。
「ママ、ママー?」
 にぃ、と雄軒は不気味な表情を見せた。
「親とはぐれてしまったのですね? 私が案内してあげましょう」
「ほ、ほんと?」
 涙目を浮かべている幼い子供。彼の探しものとは、ずばりこれであった。親とはぐれ不安になっている子供に話しかけ、言葉を信じさせるのは説得を得意とする彼にとって難しいことではなかった。いかにも親切そうな切り口で話しかけ、後は子供の望みを聞くフリをしてやればいいだけの話だ。そして、子供が安心しきったところで彼は牙を向く。吸精幻夜を子供に使い、自分の意のままに操ろうとしたのである。子供を手駒にして何を成さんとしているかはまだ分からない。しかし、目的のために手段を選ばないことだけは確かであった。もう少しで雄軒の歯が子供に刺さろうという時、偶然それを見ていたケイとカナタ、サレンが血相を変えて止めに入った。
「あんた、何してんだよ!」
「さては悪の組織の者ッスね!」
 雄軒はちらりと3人に目を向けると、さも興味なさそうに子供に向き直り、パートナーを呼ぶ。
「気が散ります。どこかに追いやっておいてください」
 それを合図に、バルトとミスティーアは一斉に襲いかかった。
「東園寺様の邪魔をするクズは、皆殺しにしてやる。焦げろ」
 ミスティーアが放った火術を回避した3人は、そのまま散開して雄軒たちを囲もうとする。が、その陣形取りがバルトには逃げようとしているように映ったのか、ガシャンと鎧の音を響かせて大胆に詰め寄っていく。
「障害は、全力で排除する。この場からは、逃さん。逃さん。逃さん……」
 全身が鎧で覆われているバルトの外観も相まって、そこから放たれたオーラは不気味なものであった。が、ケイやカナタ、サレンも引くわけにはいかない。ケイとカナタが雷や炎を重ねて放つことで鎧はその効果をほぼ失い、バルトの援護役を務めていたミスティーアはサレンの猛攻に邪魔され思うような働きが出来ずにいた。ケイが一段と高密度の雷を周囲に落とすと、その隙にカナタは器用にバルトの脇をすり抜け、雄軒の手から子供を奪い返す。雄軒はじっ、と3人を見つめると、少しの沈黙の後パートナーたちを呼び戻した。
「……争いごとは好きですが、それは私が確実に勝てる場合の話です。ふたりとも、行きますよ」
 特に悔しがる素振りも見せず、雄軒は踵を返し3人の前から姿を消した。
「なんだったんだ、一体……いや、今はそんなことより街の防衛に戻らないとな」
 ケイの言葉に頷いたカナタとサレンは各々の役目を果たすため、また戦地の真っ只中へと戻っていった。

 雄軒たちとの戦闘のように、人目につきづらい場所も含め旧市街地区の至るところで小競り合いが巻き起こっていた。数は圧倒的に少ないものの、彼らの抵抗は思いのほか長く続き、気がつけば太陽がもう空の一番高いところまで昇っていた。
 その太陽を背に受け、出雲 竜牙(いずも・りょうが)とパートナーの出雲 雷牙(いずも・らいが)は既に廃墟と化した数ある家屋の屋根上から戦況を観察していた。
「過ぎた力は人を狂わす……まさにその通りだな」
 隠れ身とブラックコートで気配を絶った雷牙が落ち着いたトーンで言うと、隣にいた竜牙もこくりと頷く。ふたりが偵察している理由、それはこれから先を見据えてのことだった。ヨサークがこれだけで満足するとは思えない。となれば、近いうち必ずフリューネにその魔手は伸びるだろう。そうなった時のため、空賊団の戦力を見極めておこうという魂胆である。
「ん? あそこ、なんか変な集団がいるな……」
 竜牙が、空賊の群れの中に一際目立つ集団を見かける。それは、上半身が裸で武器も持たず、己の手のみで突き進む一団であった。
「アレは……相撲取りか?」
 雷牙もそれを見ると、物珍しげに言った。気になったふたりはしばらくの間その一団を観察し、その結果彼らがあまり他の空賊団と上手に連携が取れていない様子が見て取れた。
「得物もない……まさかずっとあのままとは思えねェけど、さっきから張り手しかしてないな」
「まあ、相撲取りならそれが一番の武器なんだろうな」
 不可解な生物を見るような目で、ふたりは彼らを眺めていた。が、その視線はやがて別のものを捉えた。
「アレは……ヨサーク」
 旧市街地区にヨサークが足を踏み入れたのを、竜牙は見逃さなかった。が、それは最初の発見者に過ぎないというだけの話でもあった。
「おめえら何もたもたしてんだ! こんなとこ、とっとと耕しちまうぞ!」
 耳をつんざくような大声が、辺りに響く。同時に彼が前線に躍り出たことにより、その場にいた大勢が彼の存在に気付いた。その存在感の大きさは、戦局に変化をもたらす。
「獣たちよ、もう一度!」
 ヘイリーが再度仕掛けた野性の蹂躙によって呼び出された動物たちは、ヨサークに負けじと気を吐いたスピネッロ空賊団によって次々と切り裂かれる。陽動を続けていたケイとカナタも、体力が磨り減ってきたところを集中的に攻められヨサーク配下の空賊に捕らえられてしまった。バイクで駆け回っていたサレンもまた、ひとりでは限界を迎えその身を拘束されることとなってしまう。
「み、皆さん早くっ……」
 それを見たロザリンドは、急ぎ住人を逃がすため自ら住人の盾にならざるを得なかった。屋根上で観察を続けていた竜牙と雷牙の近くでは、火踊りのププペ率いる部隊がその異名の通りそこらに火を放っていた。
「……さすがにこれは、やり過ぎだろ」
 竜牙はすとっ、と地面へ降りると、そばを通っていたププペ隊の隊員に後ろから近付き、首を小気味良い音と共にずらした。力なく倒れる空賊を尻目に次の獲物を狙おうとするが、いかんせん人数が多すぎた。竜牙はここで本格的に交戦するのは得策ではないと判断したのか、その身を元の地点へ戻し雷牙と共に戦地の離脱を決めた。
「まるで陥落した城下町だな……うちのご先祖さんたちも、こんな光景を踏み越えてきたのかねェ」
 箒に乗った竜牙が街を見下ろして呟く。竜牙の言葉通り、空賊は西地区の制圧をほぼ終えようとしていた。
 制圧開始から19時間30分経過。現在時刻、14時30分。