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少年探偵の失敗

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少年探偵の失敗

リアクション


40. 二日目 エーテル館 大ホール 午前四時四十九分

V:古森あまねです。リン太郎さんが、亡くなったようです。リカさんが吠えて、茜さんがテーブルを割って、PMRの推理発表、イオマンテさんが顔をだして、麻美さんの誘拐、そしてこれ。
 いろいろありすぎて、頭が混乱しちゃう。表情のかたまった、くるとくんが、あたしの足にくっいています。どうしてもあげられないけど、くるとくん。がんばって。
 黒崎さんが、こっちへきます。

「くるとくん。つらいとは、思うけど、いまの状況をみんなに説明した方がいいんじゃないかな。わかるよね。みんなのためにも、きみがするしかない」
「黒崎さん。ごめんなさい。この子、いまはムリです」
「そうかな。くるとくんは、きっとできるよ。僕はそう思うな。きみは、謎を解くためにパラミタにきた探偵だろう。探偵ファンの僕をがっかりさせたりは、しないよね」
 くるとは、天音に手の平を差しだした。
「マイク」
「さすがだね。いま、ここで場の雰囲気をまとめられるのは、きみだけだよ」

「みんな、ちょっと聞いてくれないか。知ってる人も多いと思うけど、僕は薔薇の学舎の黒崎天音。
 いまから、少年探偵の弓月くるとくんが少し話をするから、耳を傾けてね。
 くるとくんの推理方法は、物事を観察して、それを映画関係のストーリー、スタッフ、キャスト、その他もろもろに例えて、全体を把握する、という感じかな。
 とりあえず、質問は後にして聞いてあげて欲しい」
 くるとが話しやすくなるように、前説をしてから、天音は、くるとにマイクを渡した。
「リン太郎さんは、「教授と呼ばれた男」を演じようとしてると思った」
 それだけ言ってマイクを返そうとする、くるとに、天音は首を横に振った。
 くるとは、再び口を開く。
「「ニュー・シネマ・パラダイス」の監督の処女作で、イタリアの犯罪映画。実話をもとにしたお話で、周囲から、教授と呼ばれる犯罪者が、懲役三十年の罪で自分は刑務所に収監されたまま、知謀と策略でマフィア組織のトップになる。
 リン太郎さんの教授という通称。
 潔さんの友達、書生という責任のない肩書き。自由に情報を収集、流布し、元々、なんの秘密も力も持たないので誰からもマークされない、ニュートラルな立場から、犯罪を演出できる。
 彼は、このかわい家の中で普通にしてさえいれば、誰からも深く疑われない。
 見えていても見えない一番自由な容疑者。だから、怪しいと僕は思った。
 かわい家での犯罪の手駒としてこれほどの適材はいない。
 彼が、自分を教授と呼ばせていたのは、彼からの皮肉と挑発だったのかも」
「人の見ていない映画の話を持ちだし、わけのわからない話をして、人を煙に巻くきみが、私は怪しいと思います。リン太郎さんを手駒に使っていた、あの人とは、弓月くると君、きみではないのでしょうか?」
 くると前に、シャーロット・モリアーティが進みでてきた。
「まるで映画のような芝居じみた犯罪計画。自分は子供なので、別に実行犯を使うしかない犯罪の性質。かわい家をめぐる一連の事件が、くると君の特性にあてはまると思うのは、私の思い込みですか」
 ハッカパイプを手にした少女の、アルトがよく響く。
 くるとが、言い返す。
「リン太郎さんの言う、あの人が、ここにいない場合、このかわい家の人たち、もしくは、外から来た捜査陣の中に、あの人とリン太郎さんの連絡、調整、りん太郎さんの監査役的な人がいても、おかしくない。
「教授と呼ばれた男」では、それは教授の妹がやっていた。刑務所の中の教授と、外の世界のパイプ役で、彼女は、部下たちの働きを監視し、教授の指示で自ら殺人さえ犯す。
 リン太郎さんが手駒なら、悪趣味な犯罪愛好家の教授は外にいて、ここと外を行き来できる誰かが妹役なんだと思う」
「本当に、ああいえばこういう子供ですね。今度は、ひょっとして、私に容疑をかける気ですか」
 くるとは、話し続けた。
「昼間、阿久さんの部屋にいた二人は、一人はリン太郎さんとして、もう一人は、男の声がだせる訓練された声を持つ女性でも、まったく問題ない。パートナーも連れず、グループ行動もしていない調査陣の人なら、自由に館の中を動ける。
 リン太郎さんは、予想よりも早く自殺してしまった阿久さんの遺体を、ボクらにみせたくなかった。自分にとって都合のいいタイミングまで、阿久さんの死を隠したかった。
 協力者の力を借りて遺体を隠そうとしたけれど、二人いてもそれは不可能だった。
 阿久さんの遺体を運ぶのは、男性二人なら楽にできても、館にきた協力者は、頭脳はともかく、肉体的には、あまり強くない女性や」
「言葉で人を惑わすしか、とりえのない子供だった、から。リン太郎さんの仲間は、弓月くると君。きみです。悪あがきは、やめなさい」