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バーゲンセールを死守せよ!!

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バーゲンセールを死守せよ!!

リアクション


開店 2時間後

 開店してから、2時間が経つが、依然と人の数は減っていなかった。
 特売の放送が流れれば、一気にその階に人がなだれ込んでくる。
「きゃぁ!」
 巨大な波のように押し寄せてくる、人たちに突き飛ばされる小さな女の子。
 だが、倒れる寸前で、シルヴィア・セレーネ・マキャヴェリ(しるう゛ぃあせれーね・まきゃう゛ぇり)が女の子を抱かかえる。
「大丈夫? 怪我なかった?」
「うん。ありがとう」
 女の子がにっこりと笑う。が、すぐに表情が暗くなる。
「……どうしたの?」
「……お母さんが」
「はぐれちゃったの?」
 こくりとうなづく、女の子。
「そっか。よーし、お姉さんが一緒に捜しちゃうのー♪」
 シルヴィアは、女の子の手を握り、歩き始めた。

「三階、ヤングファッション売り場でございます」
 エレベーターが開き、中から凛とした声が響き渡る。
 エレベーターガールに扮した上杉 菊(うえすぎ・きく)だ。
 そして、エレベーターを降りていく、二人のカップルらしき人物。
「結構、落ち着いてきたね、先輩」
 八重歯を見せてニコリと笑う、りを。
「うん。そうだね。これなら、ゆっくり買い物できそうだよ」
「じゃあ、行こう」
 りをは、歩き出すが、ちらちらと正悟の手を見る。
 何度か、手を握ろうとするが、タイミングが合わない。
「……ううっ」
 小さく、唸るりを。
 その声で、正悟が気づき、りをの手を握る。
「……あ、先輩」
「落ち着いてきたって言っても、まだ人が多いからね」
 ニコリと微笑む正悟。そして、顔を赤くするりを。
 二人は仲よく、売り場へと歩いていった。
 その様子を、エレベーターの中から見ていた、菊。
「……いいですね、初々しい恋というのも」
 菊はエレベーターの扉を閉め、1階へのボタンを押す。
 エレベーターが移動を始める。
 その時、ジッと菊を見あげている女の子の存在に気づく。
 エレベーターには、菊と女の子しか乗っていない。
「あら、お母さんは、どうしたんです?」
 すると、女の子はニコリと笑う。
「お母さん、迷子なの。だから、私、お母さんを探してるの」
「ふふ、そうなの」
 思わず笑みを浮かべてしまう、菊。
「ん……。お姉ちゃんから、いい匂いする。甘い匂い」
「え? ……ああ」
 女の子に言われ、菊は持っていたマシュマロを出す。
「食べますか?」
 女の子に差し出すと、さっそく口に入れる。
「さて、迷子センターは何階でしたでしょうか……」
 エレベーターの中でつぶやく、菊だった。


「いい? 男は守るために強くならなければいけないんですよ」
 ルピナス・ガーベラにそう言われ、迷子の男の子はコクリと頷いて、浮かべた涙を拭いた。
「うん。君は強い男になれるよ」
 ルピナスはそう言って、男の子の頭を撫でる。
 男の子は、ジッとルピナスの顔を見る。
「ん? どうかした?」
「ううん。なんでもないよ」
 男の子は、目の奥に力強い光を放ちながら、そう言った。


「お母さん、あっちに大きなヌイグルミがあるよ!」
「ふふ、桜花ちゃんたら張り切って」
 鬼桜刃著 桜花徒然日記帳(きざくらじんちょ・おうかつれづれにっきちょう)に手を引かれながら、鬼桜 月桃(きざくら・げっとう)が言う。
「うわー、すっげー」
 大きなくまのぬいぐるみを見上げて、簡単の声をあげる桜花。
「……少し不安よね」
 目の見えない、月桃がそうつぶやく。
 その言葉で、桜花は、ハッとする。
「僕がお母さんのことを護ってあげるんだ。今日は、お母さんの為に来たんだった」
 横に並んでいる、月桃を見る桜花。
「ねえ、お母さん、何か欲しいものある?」
「……そうですね」
 顎に指を当てて、首をかしげる月桃だった。


 ギリッという、その歯軋りは、石でも割りそうな勢いだった。
「ああ、もうそんな近付いて!」
 壁に身を隠しながら、顔だけ出しているフォルネリア・ヘルヴォル(ふぉるねりあ・へるう゛ぉる)
 フォルネリアの視線の先には、エネメアと彼方がいる。
 たくさんの荷物を持っているエネメアに対して、彼方が「オレが持つよ」と言っているのだった。
「リベルさん、ほらちゃんと邪魔なさい! 何の為に着いていってるんですか!」
 彼方の隣では、あらぬ方向を見ているリベルがいる。
 リベルは、バーゲンで、鬼の形相で商品を奪い合っている人たちを見てる。
「あの……我が主。この方々……」
 リベルがそうつぶやくと、「ん? どうしたの?」と、彼方がエメネアの荷物を持った状態で振り向く。
「皆異端審問にかけても構いませんか?」
 真剣に言い放つ、リベル。
「……いや、それは、どうだろうな……」
「悪魔か何かが憑いてる様にしか見えませんし、きっと偉大なる主は欲望に塗れた彼女達にお怒りです。七つの大罪、強欲の罪は……」
「ほ、ほら。移動するみたいだから、行くよ」
 彼方はリベルの後ろにまわり、背中を押す。
「待って、待って下さい、ボクには彼女達を救う使命が――!?」
 彼方に押されて、階段の方へと追いやられていくリベル。
「……なんだか、よく分りませんけど、グッジョブですわ、リベルさん」
 グッと拳を握る、フォルネリア。
「おっと、ゆっくりもしてられませんわ。後をつけないと」
 彼方たちを追おうと、歩き出す。その、フォルネリアの前に、イーハブが出てくる。
「お嬢ちゃん、可愛いのう。ワシと警備をしながらデートでもせんか」
「邪魔ですわ!」
 イーハブに裏拳をかまし、さらに倒れたイーハブを踏みつけていく。
「全く、見失ったらどう責任をとって下さいますの!」
 そう、捨てゼリフを言って、立ち去っていくフォルネリアだった。

「あとは、よろしくお願いします」
 救急隊員にそう言い伝えて、運ばれていく怪我人を目で追う、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)
 今回で、八回目の救急車の呼び出しだった。
 それでも、怪我人は、それほど重傷でなくすんでいるのは、ローザマリアのおかげと言っていい。
 ローザマリアがいなければ、死人すらでていたかもしれないのだ。
「あ、そろそろ戻らないと……」
 メイド姿のローザマリアが、ふう、と息をもらす。
「意外と大変ね」
 教導団員が困っているなら力を貸さない訳にはいかないわよねっていう感じで、ゆるく参加したがとんでもなかった。
 すでに、3つくらい作戦をこなした後のような、疲労感がある。
 ローザマリアは、持ち場である一日限定教導団ブート・カフェへ戻ると、来店する客に接客を行なう。
「よくも来てやがりましたね♪」
「……」
 絶句する客。それは、無理もないことだった。
 しかし、ローザマリアは特に気にすることなく、次の来客に営業スマイルで、接客をする。
「よくもいらっしゃってくれやがりましたね♪ B●t◆h’s&Bu★ta▲d’s!」
「……なにをしているんです?」
 ローザマリアの前には、多くの紙袋を持った、千代が立っていた。
「げっ、ちぃ姉……?!」
「ゆっくり、話をきかせてもらえますか」
 ニコリと笑みを浮かべた、千代に連れて行かれるローザマリアであった。
 
「うん。郁乃ちゃん、良く似合ってるわよ」
 そう言って、笑う大家さん。
「ありがとうございます。でも、これって……」
 郁乃はキョロキョロと周りを見る。
 6階、子供服売り場。そこで、郁乃は服を着ていたのだ。
「この服は子供服ではないでしょうか?」
 郁乃は、服についているタグを見る。
「ミニハウスって有名子供服メーカーですよね? わたしいくつにみているんでしょうか?」
「いいじゃない。似合ってるんだから」
 うふふ、と笑う大家さん。
「……確かに、可愛い服ですけど」
 そうつぶやいた瞬間だった。郁乃は、我に返り、ハッとする。
「あ……わたし服務中でした。お母さん、服、ありがとうございました」
 郁乃は、そう言って走り出す。
「……桃花、今戻るからね」
 郁乃は全力で走るのだった。

「えへへ、この時間なら、もう大丈夫だよね」
 二階、婦人服売り場を歩く、アリア。
 アリアはさっきまで、るるがカレーを配るのを手伝っていたのだ。
「そろそろ、空く頃じゃないかな」と、るるに言われて、二階まで上がってきたアリアだった。
「虹七ちゃんとファリアの分もパジャマとインナーを買って、あとは夕食の食材でも買って帰ろうかな?」
 パジャマコーナーに入ろうとするアリア。その時だった!
「ただ今より、婦人服、パジャマ売り場で、タイムセールを行ないます」という、放送がかかる。
「え? タイムセール? わーい。私って、運がいいよね♪」
 アリアは上機嫌で、パジャマを選び始める。
 その後ろでは、何やら、地鳴りのような低い音が響いてくる。
「ん?」
 アリアが振り向くと、そこには目が血走ったおばさんたちの群れが向ってきていた。
「ふあぁぁぁ」
 ひとたまりもなく、その群れの中に巻き込まれ、流されるアリア。
「ちょ、ちょっと……私はパジャマぁああああああ!?」
 せっかく、掴んでいたパジャマすら、どこかのおばちゃんに略奪されてしまう。
「いや、ちょっと、痛いよ。服が……。ボタン取れちゃう……」
 グイグイと引っ張られたり、押されたりするアリアは、気がついたらパジャマコーナーから追い出されていた。
「こ、ここどこ……あ、インナー売り場? 丁度良いや、まずここから……」
 乱れた服を直し、アリアはインナー売り場へと入っていく。
「どれにしようかな。このピンクなの、可愛いかも……」
 上機嫌で選ぶアリア。
「……おい、ちょっと、パジャマコーナー、人多くないか?」
「そうだな。あれじゃ、怪我人が出てもおかしくないな」
「よし、少し、こっちに人を流そう」
 そういう、店員達の言葉が耳に入ってくる。
「えー、ただ今より、インナー売り場で、セールをはじめます!」
 店員が、大声でそんなセリフを言った。
「え?」
 手にショーツを持ったまま、顔を上げるアリア。
 そして、再び、おばちゃんの群れが、アリアを襲った。
「こここ、この波は!? ふぁああああああ!?」
 人波にもまれているアリアの服は、なぜかボロボロになっていく。
 ちなみに、おばちゃんたちの、服は何ともない。
「いやぁぁぁーー」
 アリアの悲痛な叫びが、婦人服売り場に響いたのだった。

「ちゃんと、お買い物できたかな?」
 後片付けをしながら、るるは、アリアのことを考えていた。
「いい人だったな」
 カレーの材料がなくなり、そろそろ撤収しようと思っていたのだ。
 ミケは、余程、疲れているのか、ぐったりと横で倒れている。
「後片付け終わったら、ヘアピン見てこようかな」
 そんなことを言っている、るるに一人の店員が話しかけてきた。
「あの、ちょっといいですか?」
「え? なにかな?」
 振り向くと、店員は眼鏡をキラリと光らせて、るるに詰め寄ってきた。
「このカレーは、お嬢さんが作ったんですよね?」
「? うん。そうだけど……」
「実は、先ほどから、お客様に『猫カレー』がどこに売っているのかという、質問が殺到しまして」
「……え?」
「良かったら、こちらで材料を用意しますので、店内で売っていただけませんか?」
「ええぇーー」
「それで、商品化に向けてなんですけど……」
 店員がなにやら色々言っていたが、驚いていたるるには、半分も聞こえていなかった。

 三階、ヤングファッション売り場。
 朔とラルクが対峙していた。
「やるじゃねえか、嬢ちゃん」
「あんたもな」
 お互いに、ニッと笑う朔とラルク。
 その時、カリンがボロボロの格好で歩いてくる。
「ごめんね。ボク、頑張ったんだけど……」
 カリンは、何とかおばちゃんたちに混じって、服を買おうとしていたのだ。
「……え?」
 朔は、ハッとして辺りを見回す。
 商品は、とっくに取りつくされ、ほとんど残っていなかった。
 紗月のためと、ムキになりすぎ、ラルクとの戦闘に集中しすぎてしまったのだ。
「……あ」
 ヘナヘナっとその場にしゃがみ込む朔。
「あ、いや……、悪かったな」
 ラルクも、気まずそうに頭を掻く。
「自分はただ、紗月のために服が欲しかっただけなのに……」
「……ほらよ」
 ラルクは、懐からパンク系統の服を出して、朔に渡す。
「え?」
「最初によ、何個か取っておいたんだよ」
 恥ずかしそうに言う、ラルク。
「……いいの……か?」
「ああ。俺にも責任があるからな。それに、俺の分もちゃんとある」
 ラルクは、そういうと懐から、もう一つ同じような服を出す。
「恩にきる!」
 わずかに嬉し涙を浮かべた朔は、服を持ってレジの方へ走っていく。
「ま、たまには、こんなのも悪くねえな」
 ラルクは、一息ついて、もう少し売り場を見て回ることにした。


「痛い、痛い。押さないで」
 湯島茜の悲痛な叫びは、戦場ではなんの役にもたたなかった。
 押され、もみくちゃにされる茜。
 不意に、ドンと押され、床に倒れこむ。
 そこに、若者たちの足が迫る。
「きゃー」
 茜はとっさに目をつぶった。
「危ない!」
 執事の服をきた戦部小次郎が、茜をお姫様抱っこで、安全な場所へと退避させる。
「大丈夫ですか?」
 目を開けると、そこには執事の服をきた戦部小次郎がいた。
「え? あ、あの、ありがとうございました」
「いや、これが仕事ですからね。気にしないでください」
「……でも、何かお礼をさせて欲しいよ」
 顔を赤らめる茜。
「あ、いや……。我としても、そこまでしてもらわなくても……」
 同じように、照れくさそうにする小次郎だった。

「ふぁ……。暇だぜぇ」
 入り口で待っているのが飽きた朝霧栞が、店内をウロウロしていた。
「ん?」
 すると、同じようにウロウロ……いや、オロオロとした子供の姿が見える。
 鳥丘ヨルだった。
「ここどこだろう。……えー、ボク迷子? 迷子なの?」
 さらに、テンパるヨル。
「まいったな、こういう時の待ち合わせ場所決めてなかったよ……」
「なにをやってるんだ?」
 栞が遠くで見ながら、首をかしげる。
「迷子センターなんて恥ずかしくて行けないし……。うーん、どこかでジュースでも飲んで落ち着いたら、また探そうかな」
「ジュースを奢ってくれるなら、迷子センターに連れてってやるぞ」
 ジュースと言う単語を聞いて、栞が近づいてきた。
「べ、別に、ボクは迷子じゃないよっ!」
「じゃあ、お母さんは? 連れはどこにいるんだ?」
「え? そ、それは……」
「迷子なんですかぁ?」
 迷子という単語を聞いて、今度は大神愛がやってくる。
「え? ち、違うよ」
 慌てて、手をブンブン振るヨル。
「大丈夫ですよ。お姉さんが、ちゃんとお友達に連絡して、探してあげるからね」
「……探してくれるの?」
「うん。任せておいて。じゃあ、待ってる間、一緒にお菓子でも作ってようか」
「うん! 分った!」
 元気よく手をあげたのは、お菓子という言葉に釣られた栞だった。