波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

バーゲンセールを死守せよ!!

リアクション公開中!

バーゲンセールを死守せよ!!

リアクション


開店 3時間半経過

「なかなか、尻尾を出さないわね……」
 梅琳は、本部で苦虫を噛み潰したような表情をしていた。
 依然、警備の情報が漏れている状態だった。
 それでも、大きな混乱が起こっていないのは、梅琳や生徒たちのおかげと言っても良かった。
「早く、何とかしないとね……」
 悲痛な面持ちで、つぶやく梅琳だった。

「次は、玩具売り場ですの〜♪」
 放送を聞き、エメネアが嬉しそうに階段を登っていく。
 放送は、玩具売り場など、一言も言っていない。
「……少し、時間をもらってもいいかね?」
 階段を登る、エメネアの前にアルツールが立ちはだかった。
「やあ、はじめまして。君がエメネア君だね?」
「……誰ですの〜?」
「バーゲンに来る暇があるなら、多少は付き合ってくれる時間もあるはずだな、んん?」
「……あんた、何者だ?」
 トライブが、エメネアとアルツールの間に入ってくる。
「実は先日うちの娘……ミーミルが君に大変世話になったそうでね。その辺のことについて話がしたいのだよ」
「別に後でもいいだろ」
「いやいや、そうもいかないな。ぜひ、付き合ってもらおう」
「ふーん……」
 トライブが、メイベルに目配せをする。コクリと頷く、メイベル。
「エメネア君、好きなほうを選びたまえ。DEAD OR DIE!?」
 アルツールがトライブからエメネアに視線を移した瞬間だった。
「今だ!」
 トライブがアルツールに体当たりをしてくる。
「くっ」
 何とか、避けるが今度はメイベルがアルツールに抱きついてくる。
「さ、今のうちに行こう、エメネアちゃん」
「みんな、ありがとうですの〜♪」
 セシリアが、エメネアの手を引いて、階段を登っていく。
「くそ、ま、待て」
 アルツールは、そう叫んだが、すでにエメネアの姿は見えなくなっていた。


 6階、子供服売り場に、ちょっとした人だかりが出来ていた。
 それは、客たちではなく、店員たちが作り出す集団だった。
「次は、これ! これを着せてみてください」
 店員は魔法少女の衣装のような服を持って、目をキラキラさせている。
「ちょっと待ちなさいよ! こっちが先よ!」
 違う店員が、ゴスロリ風の服を持って、手を上げている。
「うーん。どっちも可愛いですぅ……」
 二人の店員が持つ服を見て、唸り声をあげる神代明日香。
「着替えました……」
 その声と同時に、更衣室のカーテンを開くノルン。
 そこには、まさに小さなお姫様がいた。
 綺麗で、気品に満ち溢れたドレス。さらに、ティアラや、靴もそれに合わせたものを装着している。
 その場で、黄色い歓声が上がる。
 ノルンの姿を見た女性店員達が、「可愛い〜」とか「持って帰りたーい」などと騒ぎ始める。
 中には、写メを撮っている店員もいた。
「はい。ノルン、次はこれと、これ、着てみてくださいね〜」
 明日香が、二着の服をノルンに手渡す。
「また、着替えるんですか……?」
「きっと、似合いますよぉ〜」
 ニコニコと微笑んでいる明日香。
「ふー、ながいです」
 ポツリと、ノルンがため息を吐く。
「え? 何かいいましたか〜?」
「なんでもないです」
 ノルンは、服を受け取り、再び更衣室へ入って行った。


「……この服、気に入ってくれるでしょうか」
 エレベーターを待っている鬼崎朔が、買い物袋を抱えてぽつりとつぶやく。
「大丈夫だよ。良い服だもん、それ。きっと紗っちーも、気に入ってくれるよ」
 隣にいるカリンがニコリと微笑む。
 その時、エレベーターが開く。
「4階、紳士服でございます」
 エレベーターの中から、上杉菊の声が凛と響く。
 朔とカリンが乗り込むと、「扉がしまります」と菊が言って、エレベーターの扉が閉まる。
「何階へ行きますか?」
「もう帰るので、1階で」
 朔がそういうと、菊が頷き1階のボタンを押す。
 エレベーターが動き出し、徐々に下がっていく。
 そして、1階に着くとエレベータの扉が開く。
「え?」
「あれ? 朔?」
 エレベーターが、開いたところに、丁度、椎堂紗月が通りかかったのだ。
「なんだ、朔も来てたの?」
「は、はい……」
「言ってくれれば、一緒に来たのにさ。今日は、何を買いに来たの?」
「え? そ、その、ちょっとした小物です」
「ふーん。そうなんだ。まだ、買い物中なら、一緒にまわらない?」
「う、嬉しいのですけど……」
 朔は、迷っていた。一緒にまわりたい。
 だが、一緒にまわっていて、万が一今日買ったものがバレたらと思うと、素直に喜べない。
「……今日は、一人なの?」
 紗月が、キョロキョロと辺りを見回して、言う。
「え?」
 朔は、隣を見る。が、カリンと、持っていた買い物袋が消えていた。
「わたくし、疲れましたから、先に帰りますわ」
 不意に、紗月の隣にいるせーかが、そう言って出口の方へと歩いていった。
「……えっと、じゃあ、一緒に買い物にまわる?」
「は、はい!」
 少し照れくさそうな紗月と、頬を桜色に染めた朔。
「それでは、上にまいります」
 ずっと、扉を開けて待っていた菊が、ニコリと微笑んで、そう言った。


「……休憩所? この通路を征くがよい! さすればカフェに行き当たるであろう!」
 グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)が、客を恫喝した。
「ちょ、ちょっとダメだよ。そんな風に言ったら。ご、ごめんなさい」
 インフォメーションに戻ってきたシルヴィアが、慌ててお客に謝る。
「そうなのか? よく分からんのだよ。……それより、誰だ?」
 グロリアーナは、シルヴィアと手を繋いでいる女の子を指差す。
「えっと、迷子なんだ。お母さん探してたんだけど、なかなか見つからなくて、迷子センターに連れて行こうと思って」
 シルヴィアが、困ったように言う。
「なるほど、わらわに任せておくがよい」
 グロリアーナは、子供の手を取り、歩き出す。
「え? 迷子センターはそっちじゃないよ」
 シルヴィアの声は聞こえているはずなのに、グロリアーナは、そのまま真っ直ぐ歩いていった。


「油断したか……」
 階段を登りながら、アルツールがつぶやく。
 その時、何気なく歩いているイーハブを見つける。
「そこの、ご老体!」
「ん? なんじゃ?」
 イーハブが振り向いて、アルツールを見てくる。
「……」
「む? どうしたんじゃい?」
「……トラウマがちょっとな」
「トラウマ?」
「いや、本当であれば、俺とあんたとは、もっと早く会うはずだったのだよ。灯台でな」
「……む? 何を言ってるんじゃ」
「あの時ほど、時間という概念を恨んだことはない」
「さっぱり、分からんわい」
「こちらの話だ。それより、エメネアという女を見なかったか?」
「あの可愛い嬢ちゃんか。見てないが、今頃玩具売り場にいるはずじゃ」
「すまん。恩にきる」
「いやいや」
 アルツールが、玩具売り場に行こうと足を上げた瞬間だった。
 イーハブの言葉に引っ掛かりを覚えるアルツール。
「……いる、はず?」
「じゃあな、ワシは忙しいんじゃ」
 そう言って、立ち去ろうとしたイーハブの首を掴む、アルツール。
「な、何をするんじゃ!」
「少し、話を聞かせてもらおうか」


 三階、婦人服売り場。
 インナーのコーナーで、下着を物色している静香。
「いいですわ。この下着、エロイですわ。イオテスさん、こういうのをはいたらどうです?」
「ええ? そんなの、無理ですわ」
 顔を赤らめる、イオテス。
「ほら、ほら、静香。イオテスをからかわないの!」
 宇都宮祥子が買い物袋を持って、やってくる。
「あ、母様。買えたんですの?」
「ええ。いいのがあったわ」

 そんな会話の横で、正悟が顔を真っ赤にしていた。
「ねえ、先輩、こんなのはどうかな?」
 フリルがついたショーツを手にとっているりを。
「え? あ、いいんじゃないかな」
 かなり、挙動不審状態の正悟。
「私は、ブラが欲しいんだけど……。こう、寄せて上げるようなやつ……」
「う、……、あ、……その」
 隣の正悟が、無意識にセクシーな下着を見ないようにしていたが、つい目に入り、さらにテンパるのだった。


 グロリアーナは、勢い良く、放送室のドアを開いた。
 そして、マイクを掴み、言い放つ。
「このうつけ者どもめ! 子供が逸れて泣いているというのに、其方等は目先の利益に目が眩みおって!」
 放送室にいた、店員は驚いて何も言えない。そんな店員を尻目に、言葉を続けるグロリアーナ。
「十分で来なかったらこの童は妾の養子にしてしまうぞ! それでもいいのか!」

 グロリアーナの放送を、インフォメーションで聞いていたシルヴィアがつぶやく。
「ええぇ……」


 六階、CD売り場。
「うーん。なかなか、みつからねえなぁー」
 ガサガサと、ワゴンセールのCDを漁っているエヴァルト。
「どんなのを探してるんですか?」
 エヴァルトの隣で、台の上に立って、一緒にワゴンの中のCDを見ているミュリエル。
「ゲームやアニメのサントラなんかが、あればいんだけどな……」
「ゲームか、アニメですね」
 二人でガサガサとCDを漁る。
「おっ!」
 エヴァルトが、一枚のCDを手に取る。
「やっべー。これって、俺が子供の頃にやってたアニメのサントラだよ」
 隣で不思議そうに、エヴァルトを見あげるミュリエル。
「もう、廃盤になってて、諦めてたのによー。いいのが見つかったぜ」
「良かったですね、お兄ちゃん!」
 嬉しそうなエヴァルトの顔が見れて、幸せなミュリエルだった。


「まかさ、一般公募の警備の中にスパイがいたとはね」
 縛られて、座っているイーハブを見下ろす梅琳。
「ふ、ふん。なんのことじゃ!」
「うーん。確かに、このおじいさん、色々通信のこととか、聞いてきたわね。油断だわ」
 香取翔子が気まずそうに、頬を掻く。
「仕方ないわ。警備とは、つねに連絡を取り合って協力するように言ったのは、私だからね。それにしても……」
 梅琳は、ジッとイーハブを見下ろす。
「いい度胸、してるわね」
「だ、だから、一体、なんのことか……」
「情報をしゃべってくれれば、こっちとしても処遇を考えるけど」
「……」
「依頼主は、誰? 報酬は何なのかしら?」
「じゃから、ワシはスパイじゃないわい」
「そう……。こっちに寝返ってくれれば、相手が提供してきた報酬の2倍だしてもいいわ」
「……ふ、ふん。このイーハブ、老いても男じゃ! そんなことで、寝返るワシではないわ!」
「……あっさりと、スパイと自白したな」
 橘カオルが、呆れたようにつぶやく。
「し、しまったぁ〜」
「それで? 依頼主は? 報酬は?」
 梅琳が、イーハブの顎を指でクイッと上げる。
「例え、拷問されてもしゃべらんわい」
「カオル、まずは爪を剥がすところから初めて頂戴」
「エメネアという嬢ちゃんじゃ! 報酬は、パンティをくれるって約束なんじゃ!」
「李少尉、銃殺でいいかな」
 カオルが銃を抜く。
「いや。まだ生かしておいた方がいいわ。こっちで逆に利用するのよ」
「……言っておくが、寝返りはせんぞ」
「うーん。今日の警備の給料の三倍だすけど?」
 カオルが交渉を始めようとするが、ふん、と首を横に向けるイーハブ。
「舐めるでない! 金などで、ワシを動かせると思うなよ。世の中、金よりも仁義の方が大事なんじゃ!」
「ブラもつけるわ」
 梅琳が、胸を強調させるように、タプンと動かす。
「ちょ、ちょっと梅琳!」
 カオルが動揺の声を上げる。
「……ワシは」
 イーハブがゆっくりと顔を上げて、梅琳を見る。
「何をすればいいんじゃ?」
 キラリと目が光る、イーハブだった。


 店内に放送がかかる。
 普通のタイムセールを連絡する放送に聞こえる。
「あと、迷子の連絡です。五階、インテリア売り場にて『パッシー』ちゃんが待っています。お母さんは、すぐに迎えに来てください」
 その放送を聞いて、エメネアがニコリと笑い、五階を目指し歩き始めた。

「なるほど、迷子か……」
「うむ。このバーゲンなら、何回も迷子の連絡が入っても、不思議ではないからのう」
 梅琳の横で、縛られた状態のイーハブが意気揚々と話す。
「迂闊だったわね。普通、迷子を迎えにいくのは、迷子センターよね。気にして聞いてみれば不自然だわ」
「……確かに」
 梅琳の言葉に、頷くカオル。
「さらに、その前に偽のバーゲンの放送を入れれば、人がそこに向かうという寸法じゃ!」
「こっちにしてみれば、いい迷惑だわ」
 ふう、とため息をつく梅琳。
「まあ、とにかくこれで、何とかなるね」
 カオルの言葉に、頷く梅琳。
「ええ。エメネアも、終わりよ」

「な、なんですの〜、これは〜」
 五階、インテリアコーナーに来た瞬間、エメネアは絶句した。
 巨大な迷路が、エメネアの前に出現していたのだ。
「とにかく、急ごう。セールが終わっちゃうよ」
「そ、そうですの〜。急ぐですの〜」
 彼方の言葉に、ハッとしてエメネアが迷路に入っていく。
 一緒にいる、彼方たちや、メイベルたちも後を追う。
「ううっ、懲りすぎですの〜」
 あまりにも、分かれ道が多い迷路に泣きそうになるエメネア。
「じゃあ、ここで分かれよう。出口についたら、連絡するってことで」
 そう言うと、彼方とリベルはエメネアと違う道を歩き出す。
 そして、また分かれ道が出てくる。
「じゃあ、今度は、私たちがこっちに行ってみるですぅ」
 メイベルたちが、エメネアと反対の道に入っていく。
 さらに、後半に差し掛かったとき、またも、二つの分かれ道が出てくる。
「じゃあ、俺は、こっちってことで」
 最後のトライブが、エメネアと離れて、反対の方向へ進む。
 一人になるエメネア。
「……寂しくなったですの〜」
 今まで、たくさんの生徒たちと一緒だったのが、急に一人になり不安になったエメネア。
 すると、ついに出口という文字が見えた。
「あ、出口ですの〜♪」
 出口のドアを開けるエメネア。
「お嬢様、たっぷり楽しんで下さいね☆」
「今度は、ちゃんと話を聞いてもらうぞ」
 目の前に、メイド姿の騎沙良詩穂とアルツールが立っていた。