校長室
ダンジョン☆探索大会
リアクション公開中!
第九章 地下十六層、ここが最深部であると鳳明は結論づけた。ついに到着したのだ! 寒さはもはや耐え難く、鍾乳石ではなく氷柱が吊り下がっているような状況だが、達成感はそんなものを忘れさせてくれる? ……くれる?? 「ううっ、やっぱり寒いんだよ〜」 そそくさと鳳明は戻ることにした。道々、この情報を仲間たちに伝えよう。 ちなみにこの辺りまで来ると、寒すぎるせいかゴブリンはほとんど見かけなかった。 さてその場所からやや上方、こちらは第十四層である。 探索大会の発案者であるミーミルのことを、メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)は妹のように思っている。ミーミルを喜ばせてあげたい、それがメイベルの参加理由の一つだ。 そしてもう一つは、この暗い迷宮に迷い込み辛い思いをしているはずの少女たちを助けてあげたい、というものだった。 「きっと、寒くて孤独で、寂しいはずですぅ」 少女らの気持ちを思うと、メイベルは哀しくなってくるのだ。メイベルは、孤独の辛さは人より知っているつもりだ。かつては学校で友達を作ることすら禁じられ、ずっと一人だったから。状況は違えど、寂しさと不安のなかにいるであろう彼女たちのことは他人とは思えない。 「早く見つけてあげたいね!」 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)も気持ちは同じだった。サンドイッチと魔法瓶に入れたコーヒーを用意して所持している。 「あらあら、またゴブリンですわね」 走っていくゴブリンに気づき、フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が合図した。メイベルもセシリアも物陰に潜んでこれをやり過ごす。実はこのゴブリンは伝令で、ゴブリン王と一行の話がまとまったので、戦闘中止を伝えに走っているのだが、三人はそれを知らない。 同じゴブリンをやり過ごし、神代 明日香(かみしろ・あすか)は岩陰から体を出した。 「行方不明者の女の子たちが隠れるとしたら、やっぱりゴブリンの低い視点では見えないところだと思うのですぅ。あとは、匂いを消せる地底湖周辺……」 「つまり、この辺りですね」 ノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)が頷いた。 第十四層はその大半が、巨大な地底湖になっている。 結論から書くと、明日香の判断は正しかった。 明日香とノルニルが並ぶと、姉妹のようにしか見えない。それほどに二人は酷似しているのである。丹念に二人が地底湖周辺を探索して、ついに発見したイースティア・シルミット、ウェスタル・シルミットの二人も、やはりよく似た姉妹だった。二人とも青い髪、そっくりのお下げにしていた。それにしてもずいぶんと幼い。姉のイースティアでもせいぜい十二歳といったところだろう。 「お二人とも、無事でしたかぁ?」 いそいそと明日香は駆け寄って話しかけたが、二人は口をきかず身を縮めるだけだ。 「あれれ、ノルンちゃん、どうしたんでしょう〜?」 「緊張しているのかもしれません。では私が」 とてとて、と、ノルニルは近づいて、 「私たちは救援に来たのですよ」 と、手を差し伸べた。似た年格好のノルニルを見て、いくらかは姉妹も警戒を解いたようだが、まだ口をきこうとしなかった。 そこへメイベルたちもやってきた。 「こんにちはぁ、私たちに考えがあるんですが、よろしいですかぁ?」 「お腹が空いてるだけだと思うんだよね。ほら、本格的な食事じゃないけど、遠慮なく食べていいよ」 セシリアがサンドイッチの包みを手渡し、魔法瓶のコーヒーをそそぐや、たちまちその考えが正しかったことが証明された! 二人はぱっと相好を崩して、 「ありがとう!」 と笑顔になったのである。しかも、食べ終わるや二人とも、セシリアの服の裾をつかんで離さない。すっかり懐いてしまったようだ。 「ええっ!? なんで? うわ、どうしよう……」 子どもの相手は苦手なセシリアである。困ったような声で、 「メイベル、フィリッパ、この役目替わってくれない?」 と切望するも、 「懐かれてるなんていいじゃないですかぁ〜。責任もって、地上までこのままで行って下さいねぇ」 「今日は戻るまで、セシリアさんがお姉さん役ね。大丈夫、わたくしたちも手伝いますから」 メイベルとフィリッパは、くすくすと笑いあうばかりなのであった。 少女四人を救ったこと、そして、ゴブリン王との停戦が成立したことにより、ダンジョン探索大会は華々しく終了したのである。停戦のおかげで撤退戦を行う必要はなくなっている。 最後に、少女救出のその後について触れておこう。 ノーシャ・カミルは、コウ、ルースらに伴われていち早く脱した。 イースティア・シルミットは、メイベル、セシリアらに伴われ、明日香とノルニルが用意した名状しがたき獣に乗って地上へ向かった。 ウェスタル・シルミットも姉と同じである。 小山内 南は政敏らに付き添われてシルミット姉妹を捜し、やがて一行との合流を果たして共に脱出を果たしたのだ。 ゴブリン王のその後についても触れる。 交渉の結果、王は地上侵攻計画を破棄する代わりにダンジョンの領有を認めさせた。今後、人間が監査という名目で年一回行うダンジョン探索に協力するとの約束も取り交わされている。今後のダンジョン探索の際、人間側は大量の唐揚げと酒、そして、なぜかモヒカンのカツラ数点を上納すること、という条約もできた。(なぜかモヒカンカツラは気に入られたらしい) ただし、王は人間を信用しておらず、いつ裏切るかわからない。また、そもそもこの王は、窮地にあって配下を切り捨てるという、あまりに身勝手な行動でダンジョン内の支配権を大きく揺るがせているため、いつ王位を追われるかもわからない。いまでもこの小康状態が続くという保証はないのだ……。 だがそれを悩むのはひとまず明日以降にしようではないか。 祝おう。冒険は成功したのだ。それも、当初の予定以上に! おまけ 撤退途上で和希はレロシャンと合流した。 「あー、ずっと名前を叫び続けてたから声が枯れちまったぜ」 実際、和希の声は掠れてざらざらとしている。だがそれにすら、レロシャンは憧れる。 「叫び続けて枯れただなんて、格好いい! やっぱり和希さんは凄いです!」 「よしてくれ、結局ゴブリンを呼ぶばっかりで四人とも見つけられなかったから意味ないぜ」 「そんなことないですよー」 「あー、もう呼ぶときの言葉覚えちまった。ノーシャ、イースティア、ウェスタル、南……ってな」 「ノース、イースト、ウェスト……あれ?」 レロシャンは何かに気づいたような顔をしたが、単なる偶然ゆえ言うまでもないかと思い直した。
▼担当マスター
桂木京介
▼マスターコメント
はじめまして、マスターの桂木京介です。 このたびは、私の初シナリオにご参加いただき、本当にありがとうございました。 初めてなので戸惑うことも多く、迷うところも多々ありましたが、皆さんの活き活きとしたアクションを読み、これを物語へと構成する仕事が楽しすぎて苦になりませんでした。心のこもったアクションに感謝しています。そして、このリアクションを少しでも楽しんでいただけたら、これに勝る光栄はありません。 それでは、また新たな物語でお目にかかりたいと思います。 桂木京介でした。
▼マスター個別コメント