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ダンジョン☆探索大会

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ダンジョン☆探索大会

リアクション

 第五章

 七瀬 歩(ななせ・あゆむ)は戦闘という手段に懐疑的だ。
「相手がゴブリンだからって問答無用で退治に行っちゃうのはどうかなぁ……」
 ゴブリンといっても、話し合って平和的解決ができるはずだと歩は信じている。
 七瀬 巡(ななせ・めぐる)は歩の護衛役を買って出ており、彼女の方針には口を挟まなかった。まずは試してみたい。実際に、戦わず解決できればそれにこしたことはないのだ。
 しかし探すと意外に見つからないもので、ゴブリンと邂逅を果たすまで手間取ってしまった。だが第二階層を巡って、ようやく二人は狭い通路の途上に集団が隠れているのを発見したのである。
「ご馳走がありますよー」
 飛び出してきたゴブリンに歩は食料を提示した。鶏の唐揚げだ。カラっと揚げたものを紙で包んでタッパーに込めてある。フタを開くと、空腹を刺激する香が満ちた。うんと作って用意してあるから、数は問題ないはずだ。
「ほら、これをあげますから、ゴブリンさん、話を聞いてもらえませんか?」
 二人を取り囲んだゴブリンたちは、しばし驚いたように顔を見合わせた。
(「上手く行くかも……」)
 という巡の期待は、次の瞬間粉砕されてしまった。
 ゴブリンは大笑いしたのである。それも、あからさまな侮蔑のこもった嘲笑だった。
「話を? 脳天気もいいところだな! その唐揚げもお前らの肉も『ご馳走』だ!」
 言うなりゴブリンは、棍棒で歩の横面を殴りつけたのである。
 鈍い音がしたがそれは、歩が撲たれた音ではなかった。
「歩ねーちゃんなら、もしかしたらって思ってたけど……」
 巡が槍でこれを防いだ音である。
「やっぱり無理だよね。そもそも、先に向こうから襲ってきたんだもんなー」
 槍は忘却の槍、ゴブリンを突き殺すのはわけはないが、歩を悲しませたくない巡は、これで敵の記憶を奪うに止めた。
「そんな……」
 ゴブリンは容赦なく野獣のように襲いかかってくる。ショックを受ける歩を抱きかかえるようにして、彼女を護りながら巡は出口を目指すのだった。

 その頃、全員が入ってきた横穴を、ナレディ・リンデンバウム(なれでぃ・りんでんばうむ)はダンジョン内側から埋めてしまっていた。大岩で塞ぎ、土をどんどんスコップでかける。しかも丁寧にカムフラージュして、ちょっとやそっとでは見抜けないほど平らにしたのだ。
「ふふふふふ。これで完璧なのです。さあ脱出だ、と入口にたどりついても、あれれ? となるわけなのであります」
 一見、人形みたいに可愛らしいナレディなのに、ずいぶんブラックなことを言っているが、それも悪意があってのことではない。
「こうやっておけば皆、見えるものだけを信じてはいけない、という大切なことに気づくはずなのですっ! 家に帰るまでが遠足……もとい、ダンジョン☆探索大会というわけなのです」
 これも仲間を思えばこそ、心を鬼にした上での(?)措置なのだ。仕上がりを確認したナレディは、
「さてそれでは、私もダンジョン探検に行くとしましょうか。いざ、左手法!」
 左手を壁に付け、ついーっと滑らせながら鍾乳洞の奥へと姿を消した。
 ところが、それから数分後。
「遅刻だーっ!」
 という叫び声とともに、埋められた入口が外側から吹き飛ばされる!
 アクィラ・グラッツィアーニ(あくぃら・ぐらっつぃあーに)見参、かなり遅刻したがここに見参!
「ああっ、もうすべての部隊が出ちゃった後だったか! まだ終わってないよな!?」
 慌てふためき飛び込んで、きょろきょろと左右を確認する。色々事情があって、アクィラをはじめとする四人は到達が遅れてしまったのだ。
「アクィラがぐずぐず仕度してるからこんなことになるのよ!」
 アカリ・ゴッテスキュステ(あかり・ごってすきゅすて)は立腹気味に、眼を三角形にして兄(アクィラ)を睨んだ。
「まあまあまあ」
 そんな彼女をなだめるのが、パオラ・ロッタ(ぱおら・ろった)である。落ち着いた口調で言う。
「残り物には福がある、と言うじゃない? 案外、遅れたおかげでみんなの役に立てるかもよ」
 実際、埋められた入口を破壊することでさっそく貢献しているわけだが、それはさすがの彼らも気づいていなかった。
 ところでパオラはつい一言多くなる、そんなチャームポイントを持っている。
「でもー」
 と付け加えた。
「先んずれば即ち人を制し、遅るれば則ち人の制するところとなる……とも言うわね。もう何も残ってなかったりして」
「あーもう! やっぱりダメじゃない!」
「待て待てっ、物事は良いほうに解釈するんだ! 暴力反対!」
 と、今にもアクィラにつかみかかりそうなアカリの前に、クリスティーナ・カンパニーレ(くりすてぃーな・かんぱにーれ)が割って入る。
「はわわわわ、そ、それよりっ! いいんでしょうかぁ〜」
 あわあわと、ややパニック気味に言う。
「なにか入口をふさいであったのを破壊しちゃいましたよぉ!?」
 アクィラとアカリは顔を見合わせた。
「それは……うーん、そんな作戦は聞いてないから、自然に落盤したのを開けちゃったとか」
「意味があったらどうするのよ! 埋めた方がいいんじゃない?」
 だが、
「いや急ごう! これじゃ活躍できない……いや、みんなの為に働けないぞ!」
 と強引に話をまとめ、アクィラはもう駆け出している。
「追いつけー! まずはそれからだー!」
「ちょっとアクィラ! それ、都合の悪いことを見なかった振りしてるだけじゃない!」
 声を荒げながらアカリも追う。
「はわわわわ、待って下さぁいぃー!」
 というクリスティーナと並走しながら、
「あとから慌てて追っかけて二重遭難にならないといいけどね……」
 などと言ってみるパオラなのである。
「ええーっ、そんなぁ〜!」
 クリスティーナがすごい涙目でこっちを見るので、
「……だから、際どいジョークだってば」
 さしものパオラも、こう答えるほかなかった。