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リアクション
・アイン ニ
「なんだか突然、魔力が大きくなった気がするのよねぇ。おかげで、ほら」
メニエスのファイアストームが、今度は室内の中心にある大樹を燃え上がらせる。
「魔力汚染が嘘みたい。ロザ!」
メニエスが指示するよりも早く、ロザリアスはエメラルドを組み伏せようと動いていた。
「彼女に近付かないで下さい!」
リヴァルトらが前方へ駆け出す。
「メニエス様の邪魔はさせませんわ」
ミストラルがそれを阻止する。
「リヴァルト!」
今度は尋人が駆け出していく。
「無駄ですわ」
だが、突破は出来ない。
元々メニエス達はかなりの強さを持っている。しかも、メニエスに至っては魔導力連動システムの恩恵を受け、さらに力を増している。
システムはその場にいる者に対し、どこまでも平等なのだ。
あっという間に、ロザリアスはエメラルドに接近した。しかし、エメラルドも抵抗する。
「ち、抵抗してんじゃーねよ!」
反射的に、手に持った短刀を振るう。殺すつもりはない。ただ、相手が避けようとして力を抜く時を狙ってのことだ。
だが、エメラルドは避けない。
「!?」
ナイフが刺さり、エメラルドの身体に埋まった。
「なぜ、避けない?」
その時、彼女は異変に気付く。武器が抜けないのだ。
「必要がないからだよ。だって――」
そこからは血が一滴も零れない。
「ボクの力は『再生』」
刺さった状態のまま、傷口を埋めたがために、短刀がそのまま埋まったのだ。渾身の力を振るい、ロザリアスが引っ張り抜き、一度下がる。
そしてエメラルドが、燃え上がる大樹へとその掌を当てた。
「厳密に言えば再構築と活性化、なんだけどね」
大樹の枝が生物のように波打つ。さらに、燃えていた部分の下から新たな表皮が出現する。物凄い勢いで自身を再生しているのだ。
彼女は向かいで睨みつけてくるロザリアスに言い放つ。
「よかったね。ボクじゃなくてねーちゃんにそれやってたら――キミ、その短刀ごときっと消滅してたよ」
エメラルドは冷やかな視線を送る。
「面白い力ね。ますます欲しくなったわ」
今度はメニエスが自らエメラルドを捕える気だ。
「困りますよ」
そこへさらなる闖客が現れた。
「伊東さん!」
歩が叫ぶ。
「伊東? 何者です、あの男は!?」
「その……さっき会って、ジェネシス・ワーズワースからエメラルドさんを保護するように頼まれたって言ってたから」
伊東がメニエスに斬りかかろうとするが、それをミストラルが阻む。
「メニエス様には触れさせませんわ!」
伊東の太刀を受けるミストラル。
「その程度で、盾のつもりですか?」
ガードラインで守りを固めていたはずの彼女を、刀の切り返しで払っていく。その動きには一切の無駄がない。
「彼は、見方なんですか?」
リヴァルトが歩に尋ねる。
「目的は同じだから、大丈夫なはず。きっと……」
まだ仮段階の協力関係だ。
奇妙な三つ巴の五機精の取り合いはまだ続く。
「渡さないって言ってるのよ?」
メニエスが伊東に対してその身を蝕む妄執を使用する。
「ぐ……」
いかに英霊とあれど、幻覚は効果があるようだ。
「奸賊ばら!!!!」
どうやら油小路で殺された時の光景を見せられているようだ。
「これで、邪魔者はいないわね。指を咥えて見てるといいわ」
今度は、エメラルドにその身を蝕む妄執を使う。
いかに再生といえど、幻覚は効くだろう。
「う、うう……」
頭を抱え出すエメラルド。
「させるか!」
刀真が黒の剣でメニエスに迫る。その背後から、月夜が銃を使って援護する。
「そんなの、無駄よ!」
今度はブリザードだ。氷が渦を巻き、一帯を包み込む。
「出来ることなら、この力も欲しいわね」
魔導力連動システム。それを使えれば、これだけの力を他の場所でも使う事が出来るのだ。
「この状態なら、効くかしらね?」
メニエスがエメラルドに対して吸精幻夜を行使する。幻覚に囚われている間なら、再生は使えないだろうと予測したのだ。
だが、
「ちょっと危なかったよ」
エメラルドは正気に戻っていた。
(そんな、こんなに早く!)
既に噛みついているため、声には出せない。
「再構築、だからさ。それは体内を流れる信号や波長にも適応出来るんだ」
幻覚は脳へ伝わる信号が異常をきたすから起こるものだ。ならばそれを組み変えて元に戻してやればいい。
皮膚が再生される前に、メニエスは顔を彼女の身体から引き離す。
「でも、捕まえたわ」
そして、後はこのまま無理矢理にでも連れていくだけだ。
ファイアストームで断絶し、その隙に通路の一つまで戻ればいい。迷宮化したこの遺跡でなら、逃げ切る事は十分可能だ。
そしてファイアストームを放とうとし、
「――ッ!!」
その魔力が全部彼女自身にはね返ってきた。
「ぐ……」
それでも何とかエメラルドを抱きかかえたまま放さずに済む。
「何を、した?」
その呟きに応えたのは――
「司城先生……」
リヴァルトが長年の師を見ていた。いや、厳密にはその瞬間を、というべきか。
司城がメニエスが魔法を使う瞬間に、何をしたのかを。
「簡単な事だよ。この空間における魔力は、ここにいる人間にも供給されている。七十五分の一秒間隔でね。だから魔法を使おうとした時、その供給される時間を見計らって魔力炉を刺激すればいい。そうすれば、逆流し、術者に全魔力がはね返る」
それを司城はやってのけたという。
「ただ、これは魔力が大きい術者でなければ効果は期待出来ない。強い相手だからこそ成し得る、弱い者のやり方だよ」
自嘲気味に呟く、司城。
「さて、娘を返してもらおう」
この一言がリヴァルトを始め、その場の者達を戦慄させた。
「司城先生、あなたが?」
それを尋ねたのは、刀真だ。
「そうだよ、ボクが――いや、私がジェネシス・ワーズワースだ」
いつもの司城とは違う、静かな口調だった。
「伊東がここに来た以上、どちらにしても正体は明かしていたさ。最も、私は『司城 征』でもある事に変わりはないのだけれどね」
静かにメニエスに向かって歩き出す司城。
「魔法を使わない人間なら、防げないでしょう? メニエス様、今のうちに!」
ミストラルが立ち塞がる。
その隙にメニエスがエメラルドを連れていく。奈落の鉄鎖なら、相手の動きを鈍らせる事が出来る。それで彼女が逃げないようにして、連れていく。
「待て!」
それを、伊東が追っていこうとする。
だが、その時司城が異変に気付いた。
「まずい、今ので魔力炉が不安定になった。みんな、早く通路へ!」
震源はこの空間だ。ならば、暴発するのは時間の問題だ。
「まさか、リヴァルトさんの家族を殺したのは――」
リリエがこの時と、質問する。
「そうだよ。私が殺した。リヴァルトの祖父と姉を」
リヴァルトが目を見開く。
「早く、行け――」
だが、全員が通路まで戻る前に、魔力の衝撃波が室内を包み込んだ。
「先生ぇぇぇえええ!!!!」