波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

五機精の目覚め ――翠蒼の双児――

リアクション公開中!

五機精の目覚め ――翠蒼の双児――

リアクション


・最後の回廊


 ヒラニプラ側、PASD本隊。
「また機甲化兵ッ!!」
 左右への分かれ道を左に行った彼らは、またしても防衛システムに阻まれていた。どうやら、地下四階のそれは一定の連動をしているらしい。
「数は少ないですが、これを!」
 現在は殿を務めている美央が倉庫から確保した魔力融合型デバイスを手渡す。
 数は少ないが、前方五、後方五の機甲化兵を葬る程度ならば、二つあれば十分だ。他はストックとして取っておくに越した事はない。
 後方は既にシャッターが下り、どこからか機甲化兵が向かってくる。
「九頭切丸、お願い!」
 九頭切丸がガードラインで本隊への攻撃を防ぎつつ、轟雷閃を放つ。それを睡蓮がサポートする。
「さすがに一本は確保しておきたいですから……」
 美央は槍型の試作型兵器は使わず、あくまでも通常装備で後方の敵に当たる。それをジョセフがサンダーブラストでサポートする。
「ここは通しませんよぉ!」
 メイベルは鎚型の試作型兵器を手に、機甲化兵へと向かっていく。雷電攻撃でなくとも、十分に量産型を倒せる程度の力が、それには込められている。
「こっちにもお願い」
 サフィ・ゼラズニイ(さふぃ・ぜらずにい)が剣の魔力融合型デバイスを受け取る。
(まだ使わないけど、今のうちに、ね)
 この先、受け取れる状況になるかは分からない。機会は逃せないのである。
 
 前方。
「試作型兵器を、こっちへ!」
 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が後方からバトンリレーのような形で魔力融合型デバイスを受け取る。グローブのようなものだった。
「ちょどいい!!」
「エヴァルト、早く」
 パートナーのロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)が急かす。前方で機甲化兵達を抑えているうちの一人が、彼女だからだ。
「援護しよう」
 もう一人のパートナー、デーゲンハルト・スペイデル(でーげんはると・すぺいでる)が後方からサンダーブラストを飛ばす。
「とうッ!!」
 機甲化兵の軍団の中へ飛び込んでいくエヴァルト。魔力融合型デバイスを起動すると、グローブの表面を結界のようなものが包み込む。
 その上は、電気を帯びてバチバチと音を立てている。
「喰らえ!」
 貫手を放つ。そしてその瞬間、電撃が一ヶ所に収束し、さながらビームのように打ち出される。その攻撃は、機甲化兵のボディを貫通し、陰になっているものさえも倒すのに有効だった。
「これだけ弱ってれば十分ね」
 倒し損ねたものを、アルメリアが轟雷閃を帯びた矢で狙っていく。

「あたいら、何もしなくていーのか?」
「いーんじゃない? でも、やっぱりオリジナルと同じくらい、これも強ければいいのに」
 エミカとガーネットは守られているために、戦いぶりを眺めていた。ほとんど油断しているといってもいいかもしれない。
 ガーネットは自分に迫るミサイル弾にも気付いてなかった。
「ガーネット様!」
 坂崎 今宵(さかざき・こよい)がそれを撃ち落とす。
「ご無事ですか?」
「ああ。何、当たったところでびくともしねーから心配いらねーよ」
 とはいえ、いくら平気であっても目の前で敵の攻撃が当たるのを見るのは、誰にとっても寝覚めが悪いものだろう。
「それでも、傷一つ負わせたら護衛失格だろう?」
 白絹 セレナ(しらきぬ・せれな)がガーネットを見遣る。
 前方、後方、どちらも優勢ではあるものの、敵の攻撃の一部は否応なく飛んでくる。
「まとめて片付けようか」
 サンダーブラストで、銃弾を撃ち落としていく。
 この中には雷術のスキルを使える者も大勢いる。全員で協力すれば、電気の膜を張って遠距離攻撃を防ぐ事だって可能なのだ。
「だけど、出来る限り温存しなきゃね」
 エミカが言う。そう、いくら本隊に護衛が出来る人が多くとも、精神力も体力も無限ではない。
 ましてまだ傀儡師が出てきていないのだ。
 前方を見遣ると、エヴァルトのグローブ型の試作型兵器と周囲のサポートによって、機甲化兵は完全に沈黙していた。
 後方もほとんど同様である。魔力融合型デバイスは強力だが、他の人間との連携があったからこそ、短時間で戦闘を終えるに至ったのである。
 そしてそのまま行こうとした時、
「その手はくわんさ」
 にゃん丸が不意に起き上がろうとした機甲化兵に雅刀を突き立て、雷術を放つ。
「俺も精進してるってことさ……昔の恐怖を克服しないと」
 かつての『灰色の花嫁』のトラウマを振り払おうと、彼も奮闘しているのである。
「さて、いよいよご対面だ。こっちにいるのは、エムかサフィーか」
 一行は、回廊を抜け、ついに五機精のいる場所へと辿り着く。
 
            * * *

 その頃。
 少女の姿を見て駆け出してしまった悠姫は、通路の途中で立ち止まっていた。
「悠姫、落ち着いて」
 マルグリットがどこまでも先走ろうとする悠姫に対し、吸精幻夜を行ったのだ。
「気持ちは分かる。だが、無茶はいけないよ」
 永久もまた、彼女を諭す。
「私は……」
 もの悲しげに俯く悠姫。
「悠姫、あんまりこわいことしないでね?」
 一度彼女の気持ちを落ち着かせようとするマルグリット。

「そうだよ、いきなり走って来るもんだから、びっくりしちゃったよ」

 通路の奥から声がした。
 先程の振袖姿の少女だ。
「五機精、それとも有有機型機晶姫の一人、なのか……?」
 悠姫は問う。
「そう……だったら良かったのにね」
 糸が彼女とパートナーら三人に絡む。
「ざーんねーんでーしたー」
 黒髪の少女は悪戯に笑う。まるで必死に五機精の少女達を求める悠姫を嘲笑うかのように。
「君達はここで眠ってるといいさ。悔しさに打ちひしがれながら、ね」
 締め上げ、三人の意識を奪う。
「さて、舞台はもうじき整う」
 和装の糸使い――傀儡師は呟く。

「今度は本気でいかせてもらうよ」