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リアクション
・ノイン
リヴァルト一行が、白の兵士と戦うルイ達のもとへ駆けつけた。
「リヴァルト、司城先生、下がって」
リアトリスが前に出る。
「また変なのが出てきたな」
ジェラルドがドラゴンアーツで牽制する。敵の正体が分からない以上、接近するよりも遠当てのような感じで遠距離から攻撃するのが無難だった。
「――ッ!!」
それと同時に、尋人が封印解凍で眼前の敵に立ち向かっていく。白の兵士が前の遺跡の相手以上に強いと感じたからだ。
だが、
「な……ッ?」
その尋人の渾身の一撃ですら、片手で容易に抑えられてしまう。
「みんな伏せて!」
咄嗟に葵が叫んだ。
直後、
ドンッ!
衝撃波が地面を伝っていく。
「この力は――」
かつて『研究所』で戦った者達には覚えがあった。結界内でノインが放ったのも、このような空気ごと撃ち出すようなものではなかったか。
「葵ちゃん!」
エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)が声を上げる。前衛に出て護国の聖域とディフェンスシフトで守りを固めていたとはいえ、一人で防ぎ切れるものではなかった。
後方に吹き飛ばされる葵を、彼女が受け止めた。
「誰であろうと葵ちゃんに危害を加えるなら手加減しません!」
相手は機甲化兵の一種だろうと考え、雷術を放とうとする。
「エレン、駄目!」
葵の声で、今は魔法が使えない事をエレンディラが思い出す。
「どうすれば……」
続いて、刀真が踏み込む。
「月夜、援護を。こいつは普通じゃない」
バスタードソードを構え、慎重に敵へと向かっていく。
機甲化兵には関節部への雷電、それが正攻法だ。刀真もそれにのっとり、金剛力で強化した上で轟雷閃を放つ。
しかし、
「バカな……結界!?」
その攻撃は、白の兵士に届くことなく静止する。
そして機甲化兵の前に弾かれた電撃が収束され――
解放。
軌道にあるものを焼き焦がす勢いで発射される。
「くそッ!!」
身を翻し、それを避ける刀真。それでも右肩を掠めてしまう。
「電磁シールド、対魔結界。さらに機甲化兵としての強化装甲ときたか。量産型じゃなさそうだね」
司城は冷静にそれを分析している。
「せめて魔法が使えれば、弱点をつけそうだけど……」
だが、魔力汚染下で攻撃魔法を使えば何が起こるか分からない。
「皆さん、あれが来ます!!」
ルイが白の兵士の姿を捉えた時には、発光し始めていた。しかも今度は敵の胸の前辺りの空間が歪み始める。
「空間圧縮による重力制御――それを撃たせちゃ駄目だ!!!」
司城が叫んだ。
それが発動すれば、この空間そのものがブラックホールと化し、全員が押し潰されてしまう。
動ける者総出で白の兵士へと特攻していく。しかし、
「間に合わない!」
光が収まり、次の瞬間――
重力波が包み込んだのは彼らではなく、白の兵士だった。
「――な、何が起こった?」
押し潰された白の兵士が、火花を散らしながら立ち上がる。背中に生えていた翼は完全に破損してしまっていた。
――今のうちだ。
一行の頭の中に直接声が響いてくる。
「だ、誰だ?」
尋人が周囲を見回る。リカインや由宇、リアも同様の反応だ。
『研究所』にいた面々は違う。その声には聞き覚えがあった。
「ノイン……なのか?」
姿なき声は、かつての研究所の守護者のものに酷似していた。
さらに、この場に起きた変化に気付く。
「魔法が、使える?」
それまで使えなかった魔法が使えるようになっている。しかも、普段よりも強い魔力を全員が使えるようになっているようだ。
「あの時と、同じ」
それは魔道書によって身体強化を受けた時と同様だった。
「いきましょう。黒子ちゃんも葵ちゃんを守ってください」
「やっとか。何が起こったのかよくは分からんが、うずうずしておったぞ。手加減なぞせぬ。全力で叩き潰す!」
『無銘祭祀書』が笑みを浮かべ、サンダーブラストを発動する。
「ほう、壊れ損ないが。なかなか耐えてくれるな」
それでも、半壊状態の白の兵士は動き続ける。
彼女に続き、エレンディラが雷術を打ち込む。
何かが破れるような音が響いた後、白の兵士の右腕が爆ぜた。耐電シールドが破壊されたのだ。
「――やっとね」
リカインがパワーブレスで自らを強化し、ドラゴンアーツによる一撃を与える。それによって吹き飛ばされた白の兵士に刀真が近付き、
「終わりだ」
光条兵器、黒の剣で一閃する。魔力強化による光条の軌道は、白の兵士の装甲を斬り裂いた。
「まだ倒れないか」
刀真が一旦跳躍し、離脱。それによってリアと白の兵士の間に直線が出来た。
「これなら、どうだ」
機晶姫用レールガンで、心臓部を撃ち抜く。
度重なる攻撃によって装甲強度は落ちており、その一発は白の兵士を撃ち抜いた。
動力を失い、白の兵士はついに倒れた。
「皆さん、大丈夫ですか?」
リヴァルトと司城が声を掛けてくる。
「ええ、なんとか。皆さんのおかげで助かりました」
実際、ルイ達だけではどうにもならない相手だった。それどころか、魔法が使えない状態では最終的な人数でも倒せなかったのだ。
「今のうちに、回復を」
回復魔法が使える者達でヒール、リカバリを施す。幸い、全員の魔力が増大しているらしく、効果は大きいものだった。SPリチャージも行い、最深部に入るにあたって万全を期す。
「さっきの声……この魔力汚染を制御出来るのはノインだけのはずだ」
しかし、その姿はどこにもない。呼び掛けても沈黙しか残らない。
「……知らせなきゃ」
月夜が携帯電話を取り出しメールを送ろうとする。
「向こうの遺跡と一時的に通信は繋いだよ。今のうちに」
装置はエミカかガーネットが持ってるはずだから、もし受信する人が近くにいれば繋がるだろうと司城が説明する。
ノインを探している人物は、ヒラニプラにいるのだ。
もし彼がこちらにいたとしたら、ノインは姿を現していたのだろうか?
「それにしても、これは一体何でしょうか? データにはありませんでしたし」
白の兵士の残骸を見詰め、リヴァルトが呟く。
「多分、機甲化兵の雛型の一体だろうね。データにないって事は、詳細不明の『殲滅型』かな」
今後、資料が見つからない限りPASDが眼前の白の兵士の正体を知る事はないだろうが、司城の推測で正解だった。
――機甲化兵セイ。雛型六体のうち、性能が判明していなかった機体だ。近距離砲撃型のドゥーエ、剣士型のクアトロに続いて、これで雛型の三体目が失われた事になる。
元々は、衝撃波のようなものを起こすだけだったのだろう。だが、魔導力連動システムの実験に使われ、この遺跡の魔力を取り込んだ。それが五千年の時を経て変異した、そういう存在であったのだ。
だが、それでも本来あるべきシステムの使い手には遠く及ばなかった。
リヴァルト一行は、沈黙した白の兵士を横目に、地下四階へと入り込んでいった。