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リアクション
・芹沢と伊東
ヒラニプラ側。
ある気配を感じ取ったカガチとなぎこはこっそりとSSLの集団から離れていた。
そしてその姿を見ると、間髪いれずに斬りかかった。
キン、と鉄扇で受け止める音がする。
「よう、それがお前の挨拶か?」
「男の挨拶ってのはこういうもんじゃねぇのかい、芹沢さんよぉ」
一度距離を取り、獲物を狙う獣のような目を芹沢に向けるカガチ。
「違ぇねぇな。刃と刃で語り合う、悪かねぇ」
鉄扇をしまい、抜刀する芹沢。だが、それを掴む腕は一本だ。もう一本は折れて使い物にならない。
「なぎさん、巻き込まれちまうから離れてて」
「わかったー」
なぎこは離れ際にカガチにパワーブレスをかけていく。それからは見張りだ――決闘に横槍が入らないように。
ほとんど人間が既に地下四階なので、その心配は杞憂である。
「出来る事なら、万全のあんたとやり合いたかったぜ」
「てぇした自身だな、小僧」
とはいえ、芹沢自身こうなる事は想定していなかっただろう。新撰組の二人と別れ、このままただ帰るつもりだった。
彼は誰かの命令で動いているわけではない。ただ「旦那」に惚れ込み、その手伝いを勝手にやってるだけなのだ。
「正直あんたの気迫を感じりゃ、万全だったら勝てねぇのは分かる。けどよ」
カガチが初霜と花散里の二本を構え、芹沢の間合いに入る。
「その方が楽しいじゃねぇか!」
カガチは二本の刀を振るう。楽しそうに、笑みを浮かべながら。
しかし、振り下ろした刃は、芹沢の一本の刀で容易く受け止められてしまう。
「気に入ったぜ、小僧!」
腕一本でカガチを弾き飛ばす鴨。
「玉造組にいた頃はお前みてぇな感じだったなぁ。あん時ゃ俺も若かった」
静かに刀を納める芹沢。
カガチはすぐに身を起こし、再び鴨に向かって掛かって来る。
「なあ、知ってるか?」
二刀流で斬りかかるカガチを待つ。
芹沢の間合いに彼が入り、二本の刀が迫る瞬間、
「神道無念流には居合いの技だってあんだぜ」
抜刀。
力の剣技である芹沢の居合いは、カガチの二本の刃を折り、さらに身体にまで食い込み、斬り上げるものだった。
「ぐぶっ……」
そのまま仰向けに倒れるカガチ。
「安心しろ、傷は浅ぇ。致命傷にゃあならねぇよ」
刀を再び納める。
カガチは気絶していたが、その顔ですら笑っているかのように見えた。
「今はまだ、あの鬼子の嬢ちゃんほどでもねぇな」
芹沢はそのまま立ち去っていこうとした。
「カガチ!」
なぎこがカガチのもとへ駆けつけ、リカバリを施す。
「起きたらこう伝えといてくれや。強くなれ、ってな」
それだけ言い残し、芹沢は遺跡から去っていった。
* * *
一方、イルミンスール側では。
「うーん、どうしよう……」
分断された歩は悩んでいた。合流するためには後ろの瓦礫をのけて戻るべきか、このまま進むべきか。
「歩ねーちゃん、止まってるのもなんだから、進もうよ」
巡が言う。
「そうですわね。この先から反応もありますし」
エレンが地下四階に存在する何かを感知していた。さらに、魔力汚染がおさまっている事も。
地下四階は複雑な通路になっているものの、行き先はある一ヶ所になっているように見受けられた。
エレンらの分析によれば、遺跡の中心部へ地下四階の全ての通路が続いているらしい。
「――誰かいる!」
巡が殺気看破で気配を感じ取った。分かれ道の一本から、スーツ姿の男が現れる。
「みんな、下がって」
じっと、男と顔を合わせる。
「こんにちは。ここにいるって事は、調査ですか?」
慇懃な態度で男が接してくる。
「はい。あなたは?」
やたら丁寧な態度に驚くものの、歩が尋ねる。
「伊東と申します。ちょっとこの先に用がありましてね」
相手が女性だからなのか、元々こうなのか、伊東は敵意を一切向けていない。
「用って、何ですか?」
「女の子の保護です。ある方に頼まれまして」
「それは、誰ですか?」
単刀直入に質問する。
「ジェネシス・ワーズワースです。おそらく、あの方もここに来ているはずです。しかし、出来れば急がないといけません。傀儡師という請負人が動き出してしまっているからです」
その言葉で、歩は先日起こったという出来事を想起する。彼女自身は関わっていないが、ワーズワースの遺産を狙い、殺しも厭わない人物がいる事を。
「私達も、傀儡師より先に五機精を保護するのが目的なんです。きっと協力した方がいいと思います!」
歩が訴える。
「しかし……おそらく我々は敵だと思われているかもしれません」
「ちゃんと説明すれば大丈夫です」
お互い、目下の目的は同じだ。
「分かりました。ですが、五機精と会う時は私は身を伏せときます。先程、少々トラブルに巻き込まれたものでして」
もし、リヴァルト達PASD本隊と伊東が顔を合わせたらどうなるか。伊東と誰かがやり合ったのなら、例えそれが不可抗力でもあまり芳しくはない。
一応ここでは納得し、伊東を加えて地下四階の中心部へ向かう事にした。