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【2020授業風景】笹塚並木と算術教室

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【2020授業風景】笹塚並木と算術教室

リアクション


第6章 放課後


「えっと……そう、中の珠を動かして数えていくの、そうそう」
 エミリア・パージカル(えみりあ・ぱーじかる)は真面目に授業を行う正悟の補佐で、一生懸命生徒たちにアドバイスをしていた。大学生の正悟は財産管理の知識などを生かして指導をしているが、なにやら教育のありかたについてこれでいいのかと疑問を持ち始めたらしい。
「……駄目だ、こんな授業普通すぎる!!! もっと革命的で、面白くって、少し怪我をするくらいじゃないと!!! まずは慣れ親しむべきだ!!」
「えぇっ? ……道具は友達って、正悟、いきなりどうしたの?」
「正直、まずは興味を持ちやすくしてもらわないと。学校の先生には事後報告するとして、過去に自分が遊んだ方法を授業にいかしたいんだよ」
 

〜集え、葦原明倫館体験授業に参加した戦士たちよ……!!〜


 なんだかよく分からないが、ノリと勢いで明倫館の長い廊下をジャックすることに成功した。携帯電話で呼び出しされた武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)久世 沙幸(くぜ・さゆき)椎堂 紗月(しどう・さつき)はなんだなんだと正悟の言葉を待っている。
「勇者たち、よく集まってくれた。ありがとう」
「私だって日本人の端くれだもん。地球にいたころはあんまり触れた機会は無かったけど、ソロバンを使ってみたーい♪」
「ガキのわくわくみたいなの、また味わいたいぜー!」
 片手に持ったそろばんを高々とあげている沙幸は、ポニーテールを犬の尻尾のようにパタパタと振っている紗月と『ねー♪』『なー♪』とハイタッチしている。
「で、何やるんだ?」
 普段着姿の牙竜が尋ねると、正悟は不敵に微笑みその辺の壁を勢いよく叩いた。
「もちろん、ソロバンリレーだ!!!」

● ○ ● ○ ● ○ ● ○ 
そろばんリレーについて

廊下三往復を書きの条件で最も早く達成したものが勝者。
・スキルなし
・妨害なし

優勝者には自作の???
最下位には葦原明倫館特性でろーん丼が贈られる。

● ○ ● ○ ● ○ ● ○ 

「うっしゃあ! レース、レース♪」
「……待て。この『???』は何だ」
「ふふふ……」
 牙竜の問いかけに、正悟は素敵な顔を作るだけで何も答えなかった。紗月は張り切りながら優勝するための乗り物を作成し始めている。彼はそろばんをいくつか連結させてスケボー状に仕上げるようだ。その辺にあった接着剤で横に2つ、縦に4つとチョコレートの板のように並べている。
「……それにしても、ソロバンの玉って良く回転する……っていうか滑るよね。こうやって足にくくりつければ〜」
 珠をぴん、と指ではじいている沙幸はシンプルにローラースケートにして参加するようだ。ニンジャでバランスの優れている彼女なら案外乗りこなせるだろうか。
「俺は秘密兵器を作ってくるぜ。レースが始まる前には戻ってくるから、楽しみにしてろよっ」
 牙竜は大量のそろばんと工具を持って、土煙を上げながらどこかに走って行ってしまった。

 エミリアは正悟の方針がどこかおかしいような気がしたが、同じく日本人であるはずの沙幸たちが楽しそうなため本当に日本の文化なのかもと考え始めている。
「そういえば、日本では武器にも楽器にも道具にもなるって以前聞いた記憶があったような……」
「あの、日本の算盤には伝統楽器としての用途もあると聞いたのですけれど? それも教えていただけませんでしょうか?」
 エミリアが振り向くと、ジュリエット・デスリンク(じゅりえっと・ですりんく)がそろばん講座で面白いイベントがあると聞きつけてやってきていた。百合園での『日本古来の礼法を学ぶ授業』で覚えた知識をここで活かしてみたくなったそうだ。
「もしよろしければ、僭越ながら知る限りで実演をば!」
「ジュリエットお姉さま、ここで一曲披露するんですの?」
 ジュスティーヌ・デスリンク(じゅすてぃーぬ・ですりんく)は、エミリアに一礼したのちに聞こえた姉の言葉に目を丸くしている。
 ビデオでしか見たことございませんのに、不安ですわ……。
「こないだ聞いた奴はちょっと違ってノリがよかったじゃん!」
「じゃ、ボクも一緒にご陽気に、っと!」
 とまどうジュスティーヌをよそに、アンドレ・マッセナ(あんどれ・まっせな)岸辺 湖畔(きしべ・こはん)はジュリエットと打ち合わせを始めてしまった。
 話を聞く限りでは、エミリアが正悟や文献から得た情報とは違うもののようだ。自分もジュリエットたちに参加したほうがいいか悩んだ時に、咲夜 由宇(さくや・ゆう)ルンルン・サクナル(るんるん・さくなる)もそろばん演奏に興味があると申し出てくれた。
「こんにちは、エミリアさん。えと、そろばん、こんなにいい音が出るのに計算に使うだけじゃもったいないのです。レースがあるなら、みなさんを応援したいのですっ」
 やや緊張した面持ちで一生懸命自分の気持ちを伝えようとする由宇に共感したエミリアは、ルンルンと3人で頑張って応援しようね! と手を取り合った。
「聞いた話だと正式衣装はチアリーディングの制服らしいわよ。はい、みんな着替えてきてね」
「……エミリアさんが振ってるそろばん、ルンルンに当ててくれないかな」
 狐の耳をピクッと動かしながら危険な発言をするルンルン。そのつぶやきは誰の耳にも入らなかったため、由宇と一緒に着換えにいった。


「ボンソワールおこんばんわ。マダメ、ムシュー、それに講師先生に生徒諸君。セ・マドモワゼル・デスリンク・エ・サ・カンパニーざんす、それではお言葉に甘えて一曲披露するざんすよ!」
 さて、色々あって無事に『第1回 葦原記念杯』が開催されることになった。出場選手は牙竜、沙幸、紗月の3人。レース前にはジュリエットたちの余興が披露されるそうだ。ジュリエットたち4人はメガネをかけて、口調を『ざんす』で統一している。アンドレの口上を合図に彼女たちはそろばんをかき鳴らし始めたっ。

「〜♪ あなたのお名前ワッチュアネーム?」
「〜♪ 曖昧ミーはアイブラユー。それでもレターをかきくけこ、ざんす♪ ざんす♪」

 この伝統芸能ではそれが作法であり、本人たちはいたって真面目である。このメロディが聞こえた瞬間、何人かはハッとした表情を浮かべて笑いをこらえた。ジュスティーヌと湖畔のメロディに合わせてアンドレがそろばんを弾きながらボイスパーカッションも披露している。
「マンボはリズムが命ざんす!」
「〜♪ おアドにおネーム、おワークは?」
「……というユーセージな使い方なんざんすけど、ドンチューヒアー聞いたことないざんすか?」
 間奏中にジュリエットが尋ねると何人かが『知ってるぞー!』とエールを送ってくれた。なかなか盛り上がっているようで、チアガール姿の由宇たちはちょっぴりプレッシャーを感じている。
 さあ、いよいよレースの始まりだ! 準備体操を終えた選手たちは各自の乗物という名のそろばんで、虎視眈々と一等を狙っているようだ。中でも目立つのは牙竜のソロバンカーだろう。畳の下に4つのそろばんを付けて周囲を段ボールで囲っている……。何かが致命的に足りない気がするが……。
「さあ、レース開始だよ。スリー、ツー、ワン……GO!!!」
 正悟の合図で選手が一斉にスタート。ああっと、一番最初に飛び出したのは紗月選手。廊下の滑り具合を超感覚を使って上手く加速に結びつけています!! それを追うのは沙幸選手、紅一点ながら小回りでは他を寄せ付けません。足にそろばんをくくりつけているためその気になれば……と、やはりそう来たか!! 壁を、壁をすーべーりーまーしーたー!!! 妨害禁止の今大会でも壁を滑るのは禁止していません、華麗なスケーティング技術です。流石ニンジャといったところでしょうか。ん、これは大変です! 後ろから牙竜選手が理解不能な動きを見せています。レース開始直前でエンジンがないという致命的な欠点に気づいた彼ですが、バーストダッシュを利用してソロバンカーに乗ることでスタートだけは順調なように見えました。が、機動力で他の2人に勝てるはずもなくムシャクシャしたのかダンボールを破いていました! その後は腹ばいになってキックボードのように使っていましたが……。
 さあ、トップの沙幸選手が三往復目に突入。少しおくれて紗月選手も三往復目に突入! 牙竜選手、廊下のコーナーを曲がりきれずに体育座りをして落ち込んでおります! 全力で突っ込んで鼻血をたらしているようです!! おっと、そんな牙竜選手をよけて再び壁を滑ろうとした沙幸選手でしたが、ソロバンカーをスケボージャンプした紗月選手に追いつかれてしまいました。どうなる、どうなる!? ……決まったぁ!!! 勝者は紗月選手です、おめでとう!


「ファ・イ・ト♪ ファ・イ・ト♪」
「いいなぁ、あのお兄さん……」
 由宇たちはチアガール姿で両手にそろばんを持って応援している。彼女が牙竜を慰めるために歌った『悲しみの歌』の効果は、牙竜の心に深く届き過ぎて大変なことになっていたがそれはこの際無視しよう。ルンルンは牙竜が怪我をしているのを見て羨ましそうにしていた。
「よーし、最下位の武神 牙竜選手には特製でろーん丼! 必ず完食するように。そして優勝者の椎堂 紗月選手、あなたには……じゃーんっ。特製ネコミミをプレゼント、だっ!!!」
「複雑だけどありがとー!!!」
 王冠のようにネコミミを授与した紗月は、勝者への紙吹雪の中で朔に向かってピースサインを飛ばしている。


「み、みなさ〜ん、そろばんで遊んじゃだめですよぉ〜っ」
 おどおどと水無月 睡蓮(みなづき・すいれん)が正悟にお願いするが、盛りあがり過ぎてる彼らにその声は届かない。そろばんで遊んでいる生徒がいると聞いて確認に来たのだが、どうにも彼女は押しが弱くて気づいてもらえないようだ。
「あのー、ここでそろばんレースやってるって聞いたんですがあっていますか?」
「そうなのか。そろばんってこうやって使うものなのか〜!」
「え? えと、その、確かにやっていますが学校でそろばんをそういう風に使うのは……」
 会場に到着した並木が睡蓮に尋ねると、彼女はどういったものか迷っておろおろと返事をしてしまった。並木は偶然出会ったリース・アルフィン(りーす・あるふぃん)と一緒に参加しようとしたのだが、どうやら第1回は無事に終了してしまったようだ。どうしたものかと首をひねっていると、先ほどから傍観していた新堂 祐司(しんどう・ゆうじ)が声をかけてくる。
 ああ、この女の子らさっきのレースがやりたいのか? それなら今度は俺様が実況してやってもいいぜ。あっちの廊下、障子もやぶれて片付けが忙しいみたいだしよ。
「よろしければ私が司会などいたしましょうか?」
 祐司は口調を紳士的に改め、並木たちに闇商店メルクリウスの依頼の一環として引き受けようかと提案している。ただ、リースは顔見知りの正悟に一声かけようとし、彼には返事を待ってもらった。
「生徒どもにはこの講義で徹底的にそろばんの基礎を学んでもらうつもりだったのに……」
 祐司のパートナーである岩沢 美月(いわさわ・みつき)は、パートナーの女癖の悪さに少々あきれているようだ。文字通り男女平等にしごきまくる彼女には理解できないのかもしれない。
「……お待ちしておりました、姉弟子」
「まだ弟子ではないんですが……初めまして、鬼崎さん。師匠から話は伺っています」
「……今日は姉弟子に勝負を申し込みたく、お手紙を出させていただきました。受けて、くださいますね」
 並木がゴビニャーから聞いた朔の話はこうだ。

『並木君。そのうち、鬼崎さんという女の子に会うかもしれないですにゃ。並木君のように弟子入りを希望している女の子の1人にゃ』
『じゃあ、仲良くなれるかもしれませんね』
『そうだにゃ。きっと、彼女が求めているのは……。並木君、彼女に全力でぶつかってあげなさい。にゃん』

 リースがテテテッと戻ってきた。どうやらあちらの廊下の修理に長く時間がかかりそうで、睡蓮が鉄 九頭切丸(くろがね・くずきりまる)の助けを借りて要注意人物の捕獲と正座を行っていた。牙竜と正悟は廊下に正座だけでなく、その上に米俵をつまされている。沙幸たちは要領よく逃げ回っているようだ。
「私が司会を依頼するよ。じゃ、3人でそろばんレースやろう♪」
 リースが依頼をすると美月も仕事モードに入り、簡単にコースを整えはじめた。祐司はチアガールのエミリアや由宇をナンパしつつ、準備体操を終えた選手を確認すると司会の仕事に戻っている。今回、並木、リース、朔は全員ローラースケートで勝負をするようだ。
「……妨害行為も、ありでいいでしょうか」
「私は問題ないよ。そろばんで頭使ってるから、楽しければ何でも!」
「自分もここに来てしばらく経ちますし、多少は使えるようになったので構いません」
 美月の廊下整備が終わり、レース開始となった。祐司の合図で3人が一斉にスタートする。今回は九頭切丸に捕まるとレース中断になる恐れがあるため往復1回で早く着いたものが優勝となった。

 実況中継の新堂 祐司です。今回は女性の選手のみということで非常に華やかなレースになるかと思われましたが、妨害許可が下りたため各自スキルの使用が目立ちます。特筆すべきはリース選手の魔法攻撃でしょうか。流石イルミンスールというべきか、サンダーブラストでの後方からの攻撃は恐ろしいものがありますね。機動力がモンクの並木、朔の両選手には叶わないものの3選手ともに超感覚の持ち主、そろばんスケートの技術は安定したものがあります。
 並木選手は魔法が使えないということで、氷術で防御ができる朔選手に比べ防戦一方になりやすい傾向がありますね。おおっ、朔選手、軽身功を利用して壁から天井にターンする際にしびれ粉を散らしています。ファインプレーです! 対する並木選手、心頭滅却でこれをカバー! リース選手は少々苦戦を強いられている模様。現在、朔選手、並木選手、リース選手の順で残すところ半分となりました。
「し、痺れる〜……!」
「……リースちゃん」
 並木選手、遠当てで朔選手を攻撃……が大きくそれて明後日の方向に! その上いまの攻撃で起きた風が原因でしびれ粉が吹き飛んでしまったようです。リース選手、大分立て直した模様! おおっと、紅の魔眼と威圧の効果で朔選手にプレッシャーを与えております。実況席にもその気迫が伝わってくるようです……! しかし距離が短いため逆転劇は起こらず! 順位は朔選手、並木選手、リース選手で終了いたしました!!!

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

「ううっ。そろばんで遊んじゃ駄目です……。そろばんは玩具じゃありませんっ。それに学校内で無闇に走り回ったら危ないじゃないですか。風景に溶け込む修行の一環として隠れ身や変わり身はいいですけど、こういうことは……」
 九頭切丸に捕まった並木たち選手3人は、睡蓮にもらった和菓子を食べながらお説教を2時間近く受けていた。リースはあんまり聞いていないようだ……草餅をもう4つは平らげているようだが。朔は何か考えているようで庭の池をぼんやりと眺めている。
「聞いていますか、みなさん〜……」
「き、聞いていますよー」
 2人が自由にしているため並木が時々睡蓮に相槌を打っている。こうして葦原明倫館の愉快な1日が終わった。

担当マスターより

▼担当マスター

相馬 円

▼マスターコメント

お世話になっております、相馬 円(そうま えん)です。
そろばんは小学校で習いましたが、現在は残念な状態です。
7月10日の公式イベントには参加予定です。
皆様にお会いできるのを楽しみにしております♪


いただいた質問のお返事をさせていただきます。

◆マスターにお任せって、どの程度?
目的・方針がはっきりしている場合、手段や結果を任せていただくのは問題ありません。
お任せと書いていない場合、こちらでアクションに無い内容を書くことは控えています。
(アクションの結果、シナリオ上で別の行動に発展することは勿論ありますが)


書きやすい例)
カウンターアクションなど
・転んだ人のために絆創膏を持っていくけど、使うかはマスターにお任せ
→転んだ人がいなかった場合は書きませんが、シナリオに組み込みやすいです

セリフなど
・パートナーに告白させたいんだけど、シチュエーションはお任せ
→シナリオ内のそれっぽい雰囲気のところで書かせていただきます

どんな結果になるかを楽しみたい人向けかもしれません。
アクションが具体的な方がリアクションでは目立ちます。
『お任せ』の場合はシナリオ上の少数派側として書くことが、相馬は多いです。


書きにくい例)
カウンターアクションなど
・勝つためなら何でもやるので、お任せ
→勝つために努力する描写はしますが、勝てるかは保証できません

アクションは具体的に書いていただかないと描写ができません。
例えば『罠をしかける』でも、行く手を遮る罠と侵入者を攻撃する罠では内容が変わります。
でも、環境上設置できるか曖昧な時には任せていただければ工夫はいたします。
アクションで重視するべき部分が『罠をしかける』という動作なのか、『罠をしかける』理由なのかを判断しづらい場合があります。
そういう時にお任せと書いてもらえると、ほっとするんですー。



◇次回予告
6月30日(水)
【空京百貨店】呉服・食品フロア

7月21日(水)
ネコミミ師匠とお弟子さん(第3回/全3回)