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リアクション
「はあ、退屈だな。また、さっきまでみたいになんか面白いもんが出てきてほしいもんだ」
いくつかの罠やモンスターと遭遇した後しばらく平和な道のりが続くと、ゲー・オルコット(げー・おるこっと)が呟いた。
宝があるのかないのかということ自体は、ゲーは大して気にしていなかった。ゲーは宝を手に入れようとする過程を楽しむタイプ。彼にとっては、その過程こそが宝なのだ。
「物騒なこと言うじゃん。それがしは、ヘンテコグッズとか光り物とかおいしいものとかがお宝だと嬉しいんだけど」
ゲーのパートナー藤波 竜乃(ふじなみ・たつの)は、軽薄な口調でそう語った。
「お、あんなところにいいもんがあるぞ」
やがて、ゲーは行く手に何かを発見した。それは、自動販売機だった。
「ちょうど喉が渇いてきたところだ」
ゲーは自動販売機に向かってまっしぐらに駆け出した。
「ちょっと、自動販売機とかさっきのバナナより怪しいじゃん! 何も考えずに突っ込むなし!」
竜乃の忠告も何のその、ゲーは自動販売機にお金を投入する。
「うーん、どれにすっかな……って、『ドクターヒャッハー』しかないじゃないか。まあこれでいいや」
ゲーがボタンを押そうとしたそのとき、自動販売機がゲーに襲いかかってきた。
「なんだと!?」
ゲーは素早い身のこなしで敵の攻撃をかわすと、竜乃の後ろに隠れた。
「俺は(経済的に)ダメージを受けてもう戦えない。後は頼んだ」
「ちょっと、女の子を盾にするとかまじあり得ないんですけど!」
自らの後ろで身をかがめているパートナーを非難しながら、竜乃は雷術を放って動く自動販売機に応戦する。この相手に俄然やる気を出したのは、エヴァルトだった。
「さては、自動販売機型の機晶姫だな!」
『女性に優しく』がモットーのエヴァルトは、ルミーナに何かあったら大変だと、彼女の背後を守るようにして進んでいた。しかし、エヴァルトは大のロボマニア。なんかロボっぽいこの自動販売機型機晶姫を見て、思わず身を乗り出していた。
「防御は任せて! 重装甲アーマーを装備してるから、大抵の攻撃は防げるはずだよ」
ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)が最前線に出る。自販機は彼女に向けて、無数の硬貨を投入口から発射した。一体、過去にどれだけの冒険者(の財布)が犠牲になったのだろうか。
「効かないね!」
硬貨をいとも簡単に弾き飛ばしたロートラウトは、至近距離からアーミーショットガンで自販機に反撃した。
「ははははは。なかなかユニークな敵ですな」
間髪入れずに、玲がナラカの蜘蛛糸で自販機を絡め取る。
「仕上げだ!」
エヴァルトがブラインドナイブズでとどめ……を刺そうと思ったのだが、武器が鉤縄だっただけに、鉤の部分を自販機にひっかけて床に叩きつけるというなんとも絵にならないフィニッシュになってしまった。
機能を停止した自販機の上にしゃがみ込み、エヴァルトは真剣な顔つきで言った。
「こいつをバラしても、ロートラウトの合体用パーツにはならんだろうなあ」
「ボク、自販機と合体しても嬉しくないよ……ちょっと便利かもしれないけど」
戦闘が終わると、由宇が水筒を取り出して提案した。
「みなさん、お疲れ様なのです。今度こそ、ちゃんとしたお茶にしませんか? 『特製元気が出る紅茶』を持ってきたので、振る舞いますですよ」
「くふふふふ、それはいい。それがしもお茶を入れましょう。ふふふ……」
由宇と玲は、ティータイムの準備をし始めた。
「この硬貨、かなり古いもののようですな」
自販機が射出した硬貨の一枚を手に取って、玲が言った。ゆっくりお茶を飲んで、笑いも止まったようだ。ちなみに、床に散らばった硬貨はルミーナがまとめて回収した。
「つまり、宝の地図の信憑性も高まったということですな」
生徒たちが玲を囲んで硬貨を覗き込む。邦彦とネルはタイミングを見計らって、集団から離れた。
「ネル、何か気がついたことはあったか?」
小声で尋ねる邦彦に、ネルは無言で首を振った。
「そうか、俺もだ。トレジャーセンスに反応したのも、あの硬貨くらいのものだしな」
そう言うと、邦彦はどこかに連絡を取り始めた。
「……もしもし、俺だ。経過報告。手短に済ませる。今のところ、これといった発見はない。やはりただのイタズラではないようだがな。ああ、引き続き調査に当たる。じゃあな」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「いいなー、楽しそうで。私は山葉君が来てくれなくて寂しいよ」
ルミーナと談笑する生徒たちを見て、終夏がこぼした。
「あいつにだって、気の乗らないときくらいあるさ。ほら、ボケっとしてると危ないぜ」
そんな終夏に、如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)は素っ気なく言う。
佑也は殺気看破を使ってモンスターの襲撃に備える他、少々変わった道具を用いてトラップを警戒していた。
その道具とは、刀の鞘の先に釣り糸を垂らし、その先に重りを括り付けて作った簡単なものだ。足元にワイヤー系のトラップなんかがあった場合、先に重りが引っかかることで、トラップが稼動する前に気づくことができるという仕組みである。
「そんなものが役に立つの?」
終夏は佑也お手製の道具を頼りなげな表情で見た。
「まあ、魔法的なトラップの方が多そうな気もするけどな。全く警戒しないよりはましだろう」
ガブッ
「がぶ?」
不意に手応えを感じて佑也が足下を見ると、宝箱――いや、宝箱に擬態したゴーレムが重りに食いついていた。
「うお、こいつは予想外のヒットだ。ゴーレムだから殺気看破にひっかからなかったのか」
佑也は鞘を放り出し、仲間を守るためにガードラインを使用した。
「えいっ」
ゴーレムの位置が近いため、魔法を使う暇がない。終夏は転経杖でゴーレムに一撃を加えた。しかし、ゴーレムはびくともしない。
「一旦下がって! 防御は任せたよ!」
変わり種の敵の出現に、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が助太刀に入った。
「こんなところで派手な魔法を使ったら、こっちも危ないから……」
カレンは、終夏がゴーレムから距離を取って佑也の後ろに入ったのを確認すると、ゴーレムに向かってアシッドミストを放った。
「狭い場所だと、この魔法便利なんだよね」
酸のダメージで、ゴーレムが怯む。それを見て、カレンは転経杖をぐるぐると振り回し始めた。
「よーし、ビシビシしばーく!」
しかし、カレンよりも先に、パートナーのジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)が動いた。
「フィニッシュは我が決めてやろう」
ジュレールは、嬉々として機晶姫用レールガンを構える。
「ちょっとジュレ、ここで撃ったら危なっ」
カレンが言ったときにはもう遅い。ジュレールのレールガンから弾体が高速で撃ち出された。弾体はゴーレムを直撃し、破壊する。衝撃で辺りが揺れた。
やがて揺れが収まる。大事には至らなかったようだ。
「……ジューレー」
カレンに睨まれて、ジュレールは逃げようとした。が、カレンがロープを掴むと、ジュレールは一歩も動けなくなった。
「忘れたの? どっちかが落とし穴なんかに落ちそうになっても、もう片方が踏ん張ればなんとかなるようにって、ボクとジュレの体をロープで結んだじゃない。逃げられないよ」
カレンがゆっくりとロープをたぐり寄せる。
「多少は目を瞑ってくれ。この時のために、いつもレールガンを手入れしておるのだからな」
カレンが無茶なことをしてジュレールが怒ったり呆れたりする、というのがいつもの二人の関係だ。しかし、今日ばかりは立場が逆転していた。ジュレールにとって、レールガンはそれほど魅力的なのだ。
「さっきの衝撃で瓦礫が崩れているかもしれぬ。そこの灯りをとってくれぬか」
ジュレールは鬼崎 朔(きざき・さく)にそう頼み、話題を逸らそうとした。
「ん、これですか」
朔が背後に設置された石像が手に持った灯りを取り、ジュレールに渡そうとする。と、カレンが叫び声を上げた。
「後ろ!」
カレンが素早く反応して身を捻った直後、動き出した石像の腕が空を切った。
「これは好都合ですね。宝の地図などどう考えても罠。私がここに来たのは修行のためなのですから」
朔は最近覚えたスキルを試しに使ってみようと考え、まずは超感覚を使用した。朔に黒犬の耳と尻尾が生える。
「……この石像、血の臭いがしますね。次は」
朔は栄光の刀を抜くと黒檀の砂時計を逆さまにし、バーストダッシュで一気に石像の懐に潜り込んだ。
「はあっ」
朔の繰り出した面打ちが、石像の顔面を捉える。石像の顔にひびが入った。
「手応えありです。おっと」
石像も腕を振り回して反撃するものの、素早さで圧倒的に上回る分、この勝負朔に分があった。朔は、石像の腕を蹴って床に着地した。
「吸精幻夜も使ってみたかったのですが……相手が石像では意味がないでしょうね。そろそろ終わりにしますか」
朔は再び石像との距離を詰め、アルティマ・トゥーレで冷気をまとわせた剣を、石像の頭部に突き立てた。直後、石像が崩れ落ちる。
「いい運動になりました」