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宝の地図の謎

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宝の地図の謎

リアクション

 修行!

 【冒険屋】の面々は、新メンバーであるフレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛い)
の訓練の場としてこの神殿を選んだ。しかし、フレデリカのパートナールイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)はといえば、フレデリカよりも先にずんずん神殿を進んでいた。
「ルイ姉、前に出すぎ! ルイ姉ばっかりずるいよ! 私だって、もっともっと頑張って兄さんみたいに立派な魔導師になるんだから! 有名になれば、兄さんだってきっと私に気付いてくれるわ」
 フレデリカは過去行方不明になった兄のことを思い、ルイーザに言葉を投げかける。ルイーザは、足を止めてこれに反論した。
「今回の訓練……確かに、フリッカが一人前になるためには必要なことかもしれません。でも、やっぱりこんな危険なことをフリッカにやらせるわけにはいきません。それならば、私がどうにかするしかないじゃないですか」
「なによ……ルイ姉のが危なっかしいじゃない」
 フレデリカはそっとルイーザに近づくと、優しい声で言った。
「こう見えても私、一応小さい頃から色々とやらされてきてるのよ。だからルイ姉、無理しないで二人で一緒に慣れていこう? ね?」
「そうそう、フレデリカさんの言う通りだよ。私も所々アドバイスはするし、気張らずにいこう」
 琳 鳳明(りん・ほうめい)も、デジタルビデオカメラを片手にルイーザを諭す。
 ちなみに、鳳明がカメラをも持ってきているのは、フレデリカの勇姿を収めるためである。帰って映像を編集し、『冒険屋遺跡探索研修ビデオ』を作成すれば、後の新人教育もバッチリという寸法だ。また、宝の地図を仲間のもとに持ち込んだのも鳳明だった。
「……分かりました。でもフリッカ、くれぐれも無茶だけはしないでくださいね」
「うん」
「話はまとまったみたいだな。んじゃ早速――」
 ルイーザが納得したのを確認して、ヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)が探索を続けようとする。そこに、リアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)が割って入った。
「待って、どんな罠が待ってるか分からない。慎重に進まないと」
 リアトリスは【冒険屋】のメンバーではなかったが、親切心から彼らにそう助言した。これまでの道のりの様子から、十分に警戒の必要ありと判断したのだ。
「僕がこれで様子を見てみるよ」
 リアトリスは手近にある拳大の石を拾い、前方の床に向かって投げた。石と床とがぶつかって発せられた音に、超感覚で発現していたリアトリスの大きな犬耳がぴくりと反応した。
「……音が不自然だ。何か罠があるな。よし、発動させてしまおう」
 リアトリスはドラゴンアーツを使い、さっきよりもずっと大きな石を持ち上げる。すると、神拳 ゼミナー(しんけん・ぜみなー)が口を開いた。
「その必要はない。ここで、『なぜなにダンジョン講座』を開催しよう。講師は勿論、全国1000万人の生徒をもつ我、神拳ゼミナーである! ということで、『ダンジョン講座1.罠』。さあていおう君、出番だ。存分にやってくれたまえ!」
「おう、この帝王に任せろ!」
 マスコットキャラクター『ていおう君』の着ぐるみを着たヴァルは、リアトリスが石を投げた辺りに向かって思いっきりジャンプした。着地と同時に落とし穴が発動し、ヴァルはみんなの視界から消えた。
「はい、落とし穴! 定番中の定番の罠ですね。それでは、ていおう君がここからどうするのか、みんなで見てみましょう」
 ゼミナーに促され、一同が落とし穴の中を覗き込む。底が見えないほど深い穴の中から、ヴァルの声が聞こえてきた。
「ふはははは、これしきの罠を攻略するなど、この帝王にとっては赤子の手をひねるも同然。あ、ゼミさん、とりあえずヒールください。それからフレデリカくん、空飛ぶ箒投げて」
 ヴァルはフレデリカの箒で落とし穴から脱出すると、颯爽と床に降り立った。
「困ったときは、無理せず仲間と協力しよう! ということですね」
 ゼミナーが解説する。
「参考になったかな? また、今回穴の底には何もなかったが、罠を発動させることが宝の発見につながることもある。尤も、この帝王を満足させる宝なぞ、帝王の座以外に存在せぬがな!」
「は、はあ……」
 偉大すぎる先輩の言葉に、フレデリカはぽかんとしている。
「まあ、成功より失敗から学べることは非常に多くあるということだ。というわけでどんどん失敗しよう! さあ次の罠だ!」
「よーし、ていおう君、今度はあれいってみようか」
 ゼミナーは、床のレリーフを指さした。しかし、そこには既に湯島 茜(ゆしま・あかね)が近づいていた。
「うーん、まるで迷宮だね。でも、地下部分は比較的綺麗なまま残っててよかった。随分古いみたいだけど……いつごろ造られたんだろう」
 茜は神殿の構造や年代に気を取られており、目の前で床の模様が変わっていることに気がついていない、そんな茜に、エミリー・グラフトン(えみりー・ぐらふとん)
が忠告した。
「茜は不注意だから、変な罠にかからないよう、注意するであります」
「んー、大丈夫だよ。きっと」
 そう答えてレリーフを踏んだ途端、茜は一瞬で全身石化した。
「うわっ、戦略的撤退であります!」
 この事態に驚き、獣人のエミリーはナゾベームへと姿を変え、鼻で走って逃げ出した。
 薄情なパートナーに代わって茜を救ったのは、ヴァーナーだった。
「茜おねえちゃん、今助けるです! こんなこともあろうかと、石化解除薬を持ってきてあるです」
 ヴァーナーは、無表情のまま固まった茜に石化解除薬を振りかけた。茜の体が元に戻る。
「よかったです。おかしいところないですか?」
「はっ。あたし今、無我の境地にたどり着いた気がする!」
 今回の探索に石化解除薬を持ち込んでいた者は少数。そのうちの一人であるヴァーナーに気づいてもらえた茜は、幸運だったと言えよう。
 その場にいた生徒たちがほっと一息吐いたのも束の間、今度は鳳明が悲鳴を上げた。
「た、助けてー! カメラが!」
 鳳明は、とりもちのように粘着性のあるアメーバに襲われていた。自分のことも顧みず、必死に腕を伸ばしてカメラを庇っている。
「鳳明さん!」
 ルイーザはアメーバにアシッドミストをお見舞いした。水に濡れて、アメーバの粘性が落ちる。
「フリッカ、今です」
「ええい!」
 フレデリカは、そこに火術を叩き込んだ。アメーバは体から力が抜け、取り込みかけていた鳳明の体を吐き出した。
「大丈夫?」
 フレデリカが鳳明を抱き起こす。
「ありがとう。戦闘になったらフレデリカさんを守るために戦おうと思ってたんだけど……えへへ、撮影に夢中になっちゃって。私の方が助けられちゃったね。やるじゃない」
「あなたが危ないって思ったら、自然と体が動いたわ」
 笑い合う二人を見て、レン・オズワルド(れん・おずわるど)が言った。
「ここまでは順調だな。いきなりだったが、今ので戦闘経験が積めたし、トラップについてはヴァルガ教えてくれた……しな。そこで俺は、ピッキングについて教えよう」
 レンは、フレデリカに対して語り出した。
 まず、鍵とは何か? 受け入れる人間とそうでない人間とを区別するシステムだ。しかし、このシステムには大きな欠点がある。それは、鍵と鍵穴のパターンさえ一致すれば、正規の鍵を持っていなくても特定の人間として受け入れてしまうという点だ。
 この真理を理解し、鍵の形態の推察、鍵情報の入手という鍵開けの基本さえ押さえれば、開けられない鍵などない。
「……ということだ。次は実践だな。そこの宝箱を開けてみるんだ。まずは落ち着いて、基本通りに行ってみるがいい」
 レンに指示され、フレデリカは道ばたに転がっている小さな宝箱と格闘し始めた。レンの話を思い出しながら、ピッキングのスキルを駆使していく。
 そして数分後――
「あ、開いた!」
 とうとう宝箱が降参した。残念ながら中身は空だったが、この瞬間はフレデリカたちにとって忘れられないものとなるだろう。
「フレデリカさん、すごいです! これなら、すぐ一人前になれますね」
 レンのパートナーにして冒険屋ギルドのギルドマスター、ノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)が言った。
「今回の探索、この場にいない私たちのギルドのメンバーも参加しているようです。全てが終わったら、みんなでお疲れ様会を開きましょう。みんなの大好きなメロンパンも用意してありますよ〜。というわけで、レッツゴー!」
 小さなギルドマスターを先頭に、一行は神殿の奥を目指した。
 
「アレックス、こっちも負けてられないわよ」
 【冒険屋】一行の様子を見て、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)アレックス・キャッツアイ(あれっくす・きゃっつあい)に言った。
 リカインも、アレックスに修行をさせる目的でこの神殿にやって来たのだ。
「今回はトラップの解除をやってもらうわ。何が起こるか分からない状況下でも冷静に行動できる精神力を養うためよ」
「師匠、オレ頑張るッス!」
 アレックス本人はやる気だったが、ソルファイン・アンフィニス(そるふぁいん・あんふぃにす)は不安そうな顔をした。
「リカさん、アレックス様を泣かせないでくださいね?」
 ソルフィンが神殿の探索に同行したのは、リカインがアレックスを修行に連れ出すと聞き、嫌な予感がしたからだ。そして、その予感は的中した。
 ソルフィンはプリーストであり、戦闘系スキルも持ち合わせていない。役回りは完全に回復要員となるだろう。天使の救急箱やSPタブレットを用意していたが、ソルフィンはそれらを使わずに済むよう祈っていた。
「ソル、そんなに心配しなくても大丈夫よ。それなりに人数も集まっているみたいだし、そう危険でもないでしょ。ローグは未経験だから、トラップ対策に関して私がまともに教えられることがないのが問題だったけど……幸い狐樹廊が自信があるようだから、任せるわ」
「契約者から任された以上、仕事の手を抜くような真似は失礼というもの。心を鬼にして、スパルタ教育でいきます」
 リカインの言葉を受け、空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)がアレックスを見据えた。
「手前がいる限りあなたの後ろに道などありませんので、そのつもりで」
「死ぬ気でやるッス!」
「……冗談ですよ」
 賑やかに会話する四人の横を、レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)が通り抜けた。
「ローグとしてはお宝に興味ありですけど、あちきは楽しければなんでもオッケーですねぇ」
「レティ、気をつけてよ」
 ふらふらと歩き回るレティシアの後ろを、ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)がついていく。レティシアは、不意に足を止めた。
「お、宝箱発見ですねぇ。これは早速開けないとですねぇ」
 その声を聞いて、リカインがレティシアを振り返った。
「ちょっと待って!」
「んー、どうしましたぁ?」
 リカインが事情を説明すると、レティシアは少し考えた後答えた。
「そういうことならしょうがないですねぇ。ここはお譲りしましょう。元々宝を独り占めする気もないですしねぇ。あちきは楽しければいいんで、修行の様子を見学させてもらうとしますかねぇ」
「ありがとう。さあアレックス」
 リカインに促されて、アレックスは宝箱の前にしゃがみ込んだ。
「解除には一切協力しませんが、これくらいはお手伝いしましょう」
 狐樹廊が、光術でアレックスの手元を照らす。
「助かるッス。オレやるッス!」
 アレックスが張り切って宝箱に手を伸ばした瞬間、宝箱は口を開けて彼の手に噛みついた。
「ぬわ!? 痛いッス!」
 アレックスは慌てて宝箱――に擬態したモンスター―を振り払った。
「アレックス様!」
 ソルフィンがアレックスの手に応急処置を施す。
「モンスターだったッスか! でも、ここで引き下がったら男がすたるッス」
 アレックスは、投げ刃を手に宝箱に立ち向かった。ミスティは、思わず彼にパワーブレスをかけた
「頑張って」
「そこッス!」
 宝箱が再び噛みつこうと口を開けたところを狙い、アレックスは投げ刃を投じた。投げ刃は宝箱を貫き、壁に磔にした。
「見たッスか!」
 リカインたちは勿論、レティシアとミスティもアレックスに拍手を送った。