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リアクション
「うーん、三人ともいつの間にか契約してたからなぁ」
と、神和綺人(かんなぎ・あやと)は言った。
トレルはそれを聞いて、いつの間にか契約なんてこともあるのか、と感心する。
「気づいたら、あ、契約してたって感じだったんだよね」
綺人はそう言って笑う。
「それに、クリスとユーリは地球、しかも実家で出逢ったからね」
「実家で?」
トレルは目を丸くした。何て羨ましい人だろう。
「一年前になります。当時のことは、実はよく覚えてないのですが――」
と、クリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)が口を開く。
「気づいたら、アヤの実家の庭に浮かんでいたらしいのです。でも、この人です! と、強く感じたのは覚えています」
パートナーとの出逢いには、やはり何かしら感じるものがあるらしい。
「その瞬間に意識を失ってしまいましたが……パートナー契約というものは運命なのです。いえ、宿命でしょうか?」
「宿命ねぇ」
「ちなみに、アヤと契約する前の記憶はありません。何か大事な使命があったような気もしますが、思い出せません」
「あ、クリスが僕のことをアヤって呼ぶのは、契約のショックで気を失ってる間に姉さんが、僕を『アヤ』って紹介したせいみたい」
と、綺人。クリスの話が終わったのを見計らって、ユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)が口を開いた。
「二年前だったか、まだ霊体だったせいで屋敷に迷い込んだ幽霊その1扱いだったな」
守護天使のユーリもまた、綺人と出逢った瞬間に契約をしたという。
「ちなみにあの屋敷には式神や使い魔、迷い幽霊が当たり前のようにいたからだろうな。契約するまで、パラミタの人間だと気づかれなかった」
パラミタの種族は契約することで実体を得る。幽霊だと誤解されるのも当然だろう。
「補足すると、幽霊があの屋敷に入り込むと、問答無用で綺人の姉と兄に使い魔にされるらしい。……俺は、運が良かったな」
そう言って、少し苦笑してみせる。
「あの兄妹には、契約後、思い出したくもない目に遭わされたが」
どうやら、苦い思い出があるらしい。聞かないでおこうと、トレルは思った。
「わたくしは、元々、綺人の実家の蔵にあったのです。永い年月封印されていましたが、綺人の姉に発見されました」
と、神和瀬織(かんなぎ・せお)。
「とある図書館に寄贈するための絵本の中に紛れ込まされ、パラミタに送られました」
「魔力を帯びてて危険だってユーリは言ったんだけど、何があるか見てみようとして開いてみたんだ」
「その瞬間に封印が解かれ、それと同時に契約したようです」
と、まとめる瀬織。
「そうか、魔道書か……」
それなら本がたくさんあるところへ行けば出会えるかもしれない。まぁ、実家に蔵がないのが残念だ。
「そういえば、綺人の契約に何らかの形で神和兄妹が関わりますね」
瀬織はふいにそう呟いた。
「いつか互いに引き合うものなんじゃないかな、パートナー同士って」
と、綺人は言う。
「案外、すぐ近くにいるかもしれないよ。気づかないだけで」
にこっと笑う彼を見て、トレルは少し希望を持つ。本当に、身近なところにいる可能性だってあるのだ。
高峰結和(たかみね・ゆうわ)は、その会場で自分だけ浮いてやしないかと不安になっていた。思っていたよりも会場は広いし、ごちそうは並んでいるし、何より人が多い。
一方、結和のパートナーであるエメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)は、目をキラキラと輝かせていた。好奇心旺盛な為に、わくわくしているのだ。
「……な、何て話しかけよう」
自分と同じ年頃の人たちもいっぱいいるが、戸惑ってしまう。まだパラミタに来たばかりで知り合いも多くないから来たのに、これではどうしようもない。
用意してきた名刺を取り出し、結和は決意する。あそこでご飯に夢中になってる女の子へ声をかけよう! 年齢近そうだし。
しかし、最初に声をかけたのは、その女の子の方からだった。
「お友達になりませんか?」
にっこり笑うミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)。
「え、え、あ、はいっ!」
思わず戸惑う結和。エメリヤンはミーナの笑顔に気を許したのか、にこにこしていた。
「ミーナ・リンドバーグっていうの。よろしくね」
「よよ、よろしくお願いしますー」
「僕はエメリヤン・ロッソー」
と、エメリヤンが自己紹介するのを聞いて、慌てて結和も言う。
「た、高峰結和、です……!」
そして手にしていた名刺を一つ、ミーナへ渡す。
「あ、このクリップすごーい」
と、ミーナは早速それに気が付いた。結和とエメリヤンの名刺を束ねるクリップには、リボンとレースの小さなコサージュが付いているのだ。
褒められたエメリヤンは、嬉しそうにマフラーへ手を入れた。ごそごそと他の小物を取り出してミーナへ見せる。
その様子に、結和の緊張も少しずつ解れ始めた。
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