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リアクション
「私が契約者となったのは、一族の中でパラミタ行きに選出された妹が急死したからだ」
と、アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)は言う。
「代役に選ばれた私が最初に契約したのがエヴァだった。彼女は長らく私の家で暮らしていて、私にとっては祖母や姉のようであり、魔術言語の師でもある」
「彼は妹のパートナーになるはずだったレメゲトンとの契約を拒否したの。そこで、急きょ別のパートナーを見つける必要があって、彼に契約を頼まれた」
エヴァ・ブラッケ(えう゛ぁ・ぶらっけ)がそう説明をし、また言う。
「彼の家には長らく匿ってもらった恩があるし……思い出からも逃げたかったから、即諾したわ」
けれどもアルツールは、エヴァが何故長いこと家にいたのか知らなかった。曾祖父が陥落寸前のベルリンから瀕死の彼女を連れて脱出してきたということ以外、何も知らないままだった。
「シグルズ様は、旅行中の彼を私の家でお世話したのが縁だったな。再会した時、ずいぶん軽いノリで切りだされたのを覚えている」
「何年か前、昔に埋めた宝や生前に過ごした場所などを探しに北欧各地を回っていたんだ。だが、時間が経ち過ぎていて地形も変わり、大体の場所は分かるんだが自信が持てなくな。その内に面倒になって考えるのをやめた」
と、語るシグルズ・ヴォルスング(しぐるず・う゛ぉるすんぐ)。
「ドイツに来た辺りですごい歓迎を受けて身動きできず困っていると、彼の家が世話を申し出てくれたんだ。そして再会した時、いつかの恩を返そうと思ったのだがあまり金もなく、代わりに契約を持ちかけたわけさ」
ソロモン著『レメゲトン』(そろもんちょ・れめげとん)の番になると、アルツールがやや複雑な表情をした。
「我はマスターの家の伝来の家宝で、本来はマスターの妹と契約する予定であった」
彼女こそ、アルツールの最初に契約すべきパートナーだった。
「妹のパートナーになるはずの魔道書であったし、クラスに一人いる程度の並みの秀才である俺には過ぎた相手だ。とか抜かして抵抗されてな。構わずに契約を迫ったら金庫に入れられてライン川に沈められた」
その後、何とか抜け出してパラミタまで追いかけてきたレメゲトンだったが……。
「今度はコンクリ詰めにされて禁書庫に封印されたのだ。それでも諦めずに抗議と説得を続けた結果、こうして契約に至ったわけだ」
と、満足げに頷く。
「根負けして契約したとはいえ、自分には分不相応な魔道書だと思っているよ」
と、アルツール。
「まあ、契約も気合ということよ!」
何か違うような気がするが、きっと気のせいではないだろう。
「なぁ、何で不機嫌なのか知んねーけどさ、せっかくなんだし楽しもうぜ」
と、将人は睡蓮へ言う。
会場に着いたのは良いのだが、デートじゃないと知った睡蓮はすっかり不機嫌になっていた。もちろん、将人は睡蓮の想いなど知る由もない。
そんな二人に声をかけてきたのはラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)だった。
「どうしたんですか? 何か困ったことでも?」
と、お人好しの笑顔を見せる。
「ああ、いや、ちょっとこいつが不機嫌で」
将人の言葉に睡蓮がぷいっとそっぽを向く。
ラムズはその様子を見て、先ほど腹ごしらえした時のことを思い出して言う。
「それなら、あちらにデザートがあったのでどうですか? すごく美味しかったですよ」
睡蓮がちょっとだけ反応を見せる。
「そうだな、とりあえず何か食おうぜ」
「申し遅れました、イルミンスールのラムズ・シュリュズベリィです」
案内しますよ、と、歩き出すラムズの後を追って将人も言う。
「春日将人だ。んで、こっちは衛宮睡蓮」
ラムズは彼らに見られないよう、片手に持った日記へペンを走らせる。二人の名前と外見、そして今自分のしている行動を書きとめるのだ。――明日には、全て忘れてしまうから。
「師匠! あっちにもケーキが!」
と、その様子を眺めていたシュリュズベリィ著『手記』(しゅりゅずべりぃちょ・しゅき)の袖を引っ張るラヴィニア・ウェイトリー(らびにあ・うぇいとりー)。パートナーであるラムズを心配していたが、楽しんでいる様子を見て少し安心してもいた。
「これこれ、あまり引っ張るでない」
と、興奮するラヴィニアを宥めつつ、食欲を削ぐような足音を立てる手記。あえて文字にするならば、ズルズル、グニュグニュ、といったところだろうか。
「ケーキ、ケーキ」
と、楽しそうにはしゃぐラヴィニアだが、その後についてくる手記のおかげで自然と注目も集まる。口に出しては言わないが、多くの人が、彼らにはあまり近づきたくないと思っていた。
早くも話を聞くのに飽きてきたトレルの前に、また見知った顔が現れる。
「トレルさん、こんにちは」
東雲秋日子(しののめ・あきひこ)とキルティス・フェリーノ(きるてぃす・ふぇりーの)である。
「ああ、えっと……怖い絵の人! は、いないのか」
と、トレル。残念ながら、今日は何事もなさそうだ。
「キルティとトレルさんなら仲良くなれるんじゃないかな、って思って来たの。だって、似てるし」
秋日子はそう言ってキルティスを見るが、男装したキルティスは無口だ。
「……どこがですか?」
どうやら、キルティスもまたトレルと同じように、服装によって性格も変えてしまうらしい。――トレルの場合はむしろ、男装しても喋ると性別がばれるから無口になるだけだが。
「似てるよ。だって二人とも、女装もするし男装もするでしょ?」
「確かに」
と、トレルは頷いた。しかし、たったそれだけで似てると言えるのだろうか? どちらかというと、被ってるだけのような……。
キルティスは納得しているのか不満なのか、じっとトレルを見ている。
「男装するのって楽しいよね」
トレルが思ったことを口にしてみると、キルティスは「そうですね」と、返す。
キルティスを怪しむ秋日子は、トレルへ顔を近づけると尋ねた。
「ところでトレルさん。キルティって……実際のところ、どっちだと思う? 男? 女?」
「真ん中」
即答したトレルに秋日子が不満げな顔をする。
「えー、そんなぁ」
そんな彼女へキルティスは目を向けると、言った。
「僕より、秋日子さんの方が似てますよ」
「え?」
「どこが?」
思わずトレルも聞き返すと、キルティスは静かに言った。
「めんどくさがりな、ところとか」
どうやら同族のキルティスは、トレルがめんどくさがったのを見抜いたらしい。
「そうだな。めんどくさがらなければ、もうちょっと真面目に答えてるよ」
と、はっきり言うトレル。秋日子は不満げな顔のまま、
「私、この人ほど、めんどくさがりじゃないよ!」
と、言い出す。
トレルは別に構わないのだが、彼女の将来が少し不安になる。本人を目の前にして失礼な事を言えるのは、マナー違反だろう。
「えっと、秋日子ちゃんだっけ? 発言には気を付けた方が良いよ」
トレルがそう言うと、秋日子ははっとする。
見ると、キルティスもうんうんと頷いていた。
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