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リアクション
●第17章 空京にて
いまや、空京は妙な賑わいに溢れていた。
犬耳、ネコミミな女の子。ござる口調の男の子をあちこちで見かける。
遠野 歌菜(とおの・かな)は性転換してしまっている互いの状態にめげることなく楽しんでいた。かなりノリノリな様子で、喋る口調も男の子のように変えている。それにござる口調が引っ付いておかしなことになっているが、楽しくて仕方がない歌菜は気にしていないようだった。
「俺は男で、貴方は女だから、呼び方や口調に気を付けるんだぜーで、ござる。今日は俺がちゃんとエスコートするから、安心するでござる」
元気いっぱい爽やかな笑顔で歌菜は言った。
「ああ、わかった」
そんな歌菜の様子に苦笑しつつ、大人しく隣を歩くのは月崎 羽純(つきざき・はすみ)。彼はクールなスレンダー美人になっていた。無論、頭には獣耳。羽純はネコミミである。
元気な相手の様子に溜息つきつつ、羽純は買い物などに付き合っている。
だがしかし、歌菜の選んだ服は上品な『ロリータ服』だった。
Aラインの飾り気が少ない、細いレースがいっぱい付いたもので、分類すればロリータ服だが、どちらかというと、お嬢様服に近い。
「これを着ろと?」
「もちろんでござる」
「…ハァ…そんなキラキラした目で見るな。分かったから」
羽純は溜息を吐いた。
そして、飛鳥 桜(あすか・さくら)は「ぼ…僕より胸が立派じゃないかあぁ!!腹いせなのかい!?」とアルフ・グラディオス(あるふ・ぐらでぃおす)相手にちょっと嫉妬していた。
カッコ可愛い系少年。星のロゴパーカーにジーンズ、何処で手に入れたのか伊達眼鏡を装着! 今日のトレンドは、俺…と思っていたのに、アルフは自分よりも胸が大きく、可愛い姿。
「お、おま…っ!? 桜、だよな…?」
アルフは言った。
つり目が可愛い美少女になっていた、アルフはフランシスが選んだシャツにベスト、赤と黒のチェックのミニスカートを着ている。
強制召還呪文=電話「いいから来い!」で、ここまで来たのであった。
しかし、桜の視線がイタイ。
「胸!」
「…はえ…? 胸…?」
「今日はとこっとんヒーローに付きあってもらうでござるよ! 覚悟しとけーで、ござる!」
そう言って、桜はアルフの手とフランシス・フォンテーヌ(ふらんしす・ふぉんてーぬ)の手を握ってずんすんと歩き出す。。
「な、何しやがっ!お、おい…!? その喋り方をやめろよ」
「別にしたくてしてる口調じゃないでござるよ。直らないのでござる…」
戦いに行くかのような相手の様子に、アルフは驚いたが、ドンドンと歩いていくので為すがままついていくしかなかった。
「…熱でもあるでござるか?」
性別がかわっても全く気にしていないスーパー朴念仁、アシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ)は、動揺し続ける御陰 繭螺(みかげ・まゆら)を気にかけつつ、買い物に付き合っていた。
喋りかが変わっても、一向に気にしない。
「あ、なんでも…」
「どれどれ…」
「@%&$#*※!?+〜〜〜!!?」
繭螺は真っ赤になると共に、言葉にならない悲鳴を上げる。
しかし、アシャンテにはそういう反応をするのが何故かわからないのだった。
アシャンテは自分がおでこに頭をくっ付けたりしてさらに混乱に陥れているのに気が付いていないのだった。
妖艶な美女に変化した神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)は犬耳を揺らして呟いた。
「視線が痛くて恥ずかしいのですが…なぜでしょうか」
そんなことを言いながら、真っ赤になっている。
翡翠のお供として付いてきた柊 美鈴(ひいらぎ・みすず)は何事もなくお茶を飲んでいた。
そして冷静な一言をくれる。
「獣耳がある美女が目の前にいたら見ますわよねぇ。なんだかんだ言っても、空京って、地球人が多いですしね。あぁ、胸元淋しいし、腕力強くなっても嬉しくありません」
そう言って溜息を吐いた。
美鈴も性別が変わっていたが、口調はそのままだった。その代わり、獣耳が生えている。昨晩の危険な飲み物の量が中途半端だったのかもしれない。
それを聞いて、山南 桂(やまなみ・けい)は溜息を吐いた。
「知り合いに遭遇しないだけ、マシなんですけど、いつもよりナンパの数が多くて〜」
そんなことを呟いている。モテない人間からすれば贅沢な話だ。
だがしかし、今も桂の方を見つめる熱い視線が飛び交っていた。桂は少々うんざりしている。
やっと休憩できた喫茶店で一同は休んでいるのだった。
目立つご一行様がお茶をしていれば人だかりは出来てくるもので、意外な人物が翡翠の存在に気が付いた。
「あ、あんなところに兄さんが…」
弟の神楽坂 紫翠(かぐらざか・しすい)だ。
最悪なことに、弟の紫翠の後ろにはぞろぞろと男共がついてきていた。
そして、その中には二色 峯景(ふたしき・ふよう)もいた。
こちらは紫翠をナンパしようとやってきたのではなく、橘 瑠架(たちばな・るか)の方をナンパしようとしていたのだった。
残念だが、それは(元)女。靡くはずもない。それなのに、二色は頑張っていた。瑠架が喋らないので、(元)女だとわからないのだった。
(元)女の男をナンパする獣耳付きチッパイ美女の二色。なかなかに見ものだ。黙って立っていれば、きゅっと締まったお尻が自慢の可愛い寄りのけしからん感じの美人といったところ。もったいない。実にもったいない。
だがそれも、『女神の手記』アテナ・グラウコーピス(あてーな・ぐらうこーぴす)のついた「元の姿に戻るにはナンパしないといけない」という言葉(うそ)を信じてのことだ。
アレグロ・アルフェンリーテ(あれぐろ・あるふぇんりーて)はパートナーの心配などせずに、喜んでその写真を取りまくっていた。
瑠架が振り払おうとしているのだが、二色を振りほどけない。
しかたなく、紫翠は兄の翡翠のところに行くことにした。無論、二色を振り払うことは出来なかったので一緒だった。
その光景をトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)は見つめていた。
獣耳の美女と、ござる口調の青年たちの氾濫。この現象は、どうやら広く起こってるようだ。
「下着・洋服業界の陰謀か」
トマスは思ったことを呟いた。
トマスは自分が女性化してしまった自分の体と付き合うため、新しい服を買いに来ていたのを思い出した。
その後、ナンパする美女がどう行動に出たかは気になるが、気にしても仕方がないので、トマスは服を買いに歩き出す。
「ケイ君の体のサイズが合う服とか下着とか無いから空京に買い物に行かないとね。元に戻るか分からないし」
男の子になってもあまり変わらなかった須藤 雷華(すとう・らいか)は、パートナーの北久慈 啓(きたくじ・けい)の変わりようを楽しんでいた。
「え゛!?」
「だって、どうしてそうなったのかわからないもの。いつ直るのかとか、直らないのかとかわからないし」
「まあ、確かにな…」
啓は言った。
(雷華が百合園女学院に編入したいのなら、俺の性別はこのままでいいのではないかと思わなくも無い…が。というか、こいつは俺にどうして欲しかったんだ(汗;)
啓は溜息を吐いた。
相変わらず雷華は楽しそうだ。
「ブラはサイズ合ってた方がいいんだよ?」
「なんだ、その目は」
「えぇ〜?」
「その手つきは、ヤメロ」
「んふふー♪」
「自分がそんなに変わってないことをいいことに人にセクハラを仕掛けるとは。そんな娘に育てた覚えはないんだがな」
「だって、美少女なんだもん」
「雷華…お前、もともと女だろう」
「それとこれとは別。女の子だって、胸は好きよ?」
「だから…誤解を受けるようなことは言うな」
「んー。言葉、そのままなんだけどなぁ」
そんな危険のことを言う雷華だった。
実際、女の子は女の子同士で揉み合いとかするものだ。女子高の生徒が悪ふざけして道端で追い掛け回して遊んでるのを見かけることもある。とはいえ、自分がそのターゲットになるのは問題があった。
だがしかし、雷華のお買い物は終わりそうになかった。
東雲 秋日子(しののめ・あきひこ)も同じような理由で、要・ハーヴェンス(かなめ・はーべんす)と買い物に来ていた。
「……秋日子くん、名前が名前だけに…男の子だったんですか?」
まだ信じきれない要はボケたことを言った。
「また、そんなコト言って。私、女の子でござるよ。今は違うでござるが。それより、要。キミのその格好が問題でござろう」
(ぐぅ…前々から要に女装させてみたかった……とは、要に言えない……しかも、この口調…どーにかなって欲しい)
本心は黙って秋日子は言った。
「この服は秋日子くんのものでしょう?」
「だって、小さいでござるよ。もっと、ピッタリの服を買わなくっちゃいけないでご・ざ・る♪」
秋日子はウキウキと言って、要の腕を引っ張った。
口調すら楽しく使わなければ、この珍妙な状況をやり過ごすことは出来なさそうだった。
その隣を黒髪長髪で背が小さい少年が白い女の子と一緒に通り過ぎていく。
リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)とナカヤノフ ウィキチェリカ(なかやのふ・うきちぇりか)。
リリィは性転換という特殊な状況が、宿題から自分を救い出してくれた天啓と思い、すっかり宿題が思った気になっていた。
「リリィ、宿題は?」
ナカヤノフは言った。
「え? 宿題? なんのことでしょう」
「宿題終わってないんでござろう? 遊んでよいのでござるかー? 性別だって変わっちゃって、この先どーなるのかもわからないでござろうに」
「この現象がどうなるかなんて心配してませんし、別段厄介だとは思っていませんわよ。むしろ犯人には感謝しているぐらいです」
「えー、なんででござるか?? あたしなんて、高く飛べないし、口調は変でござるしで…不便でござるよ」
「明日か明後日くらいからでも、文献をひっくり返して解除薬を作ったレポートをまとめれば、宿題がひとつ片付くのですから。余裕余裕!」
リリィは断言した。
しかし、実際、無理に近い。薬学特技があっても普段製薬しないので要領が悪く、作るのも解析するのも困難を極めると思われた。しかし、リリィはも自分では出来ると信じてる。
ナカヤノフは黙っていることにした。
街を行きかう犬耳とネコミミの少女たち(?)。そして、語尾の変な少年たち。
空京の昼間はまだまだ夏真っ盛りだった。