校長室
学生たちの休日5
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★ ★ ★ 「ここは、まだ変わりないわね……」 イルミンスールの森の中で見つけた廃墟に一人立ち寄って、師王 アスカ(しおう・あすか)は静寂に耳をかたむけていた。 こうやって一人で考え込むのもたまにはいいだろう。最近は、いろいろと気疲れすることも多かったから。 すでにうち捨てられて住む人とてない廃墟だが、どことなく自分の家と同じ感じがする。それが、師王アスカの心を落ち着かせてくれた。 人影がないのを確認すると、師王アスカは静かに目を閉じて大きく息を吸い込んだ。その唇から、歌が溢れ出す。 あなたとの繋がりが永遠であるように 星に願うわ 失わないように 消えそうでつかめないものでも 私は祈りましょう この魂は繋がっていると 立ち止まって不安に駆られるけど 私は前に進むわ そう誓ったから 信じ続けることがあなたとの絆の証だから お願い見守ってね愛しい人…… 歌い終わったとき、師王アスカはふいに人の気配を感じて振り返った。 「鴉?」 それが誰か気づいて、師王アスカが蒼灯 鴉(そうひ・からす)の名を呼んだ。 「不思議な歌だな……」 少し照れながら、蒼灯鴉はゆっくりと師王アスカに近づいていった。 「この歌、子供のころに作った歌なのよぉ。ふと思い浮かんだメロディに歌詞つけてみたんだ〜。くす、下手でしょ?」 ぎこちなく、師王アスカが答えた。 「ねえ、もしベルの言葉が本当だったらどうしよ?」 思わず、師王アスカはずっと悩んでいることを口にした。悪魔であるオルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)は自分を妹だと言う。だとすれば、自分は人間なのだろうか。 「ありえないの分かってるんだけど、私……」 師王アスカの目から一筋涙がこぼれ落ちるのを見て、蒼灯鴉は思わず師王アスカをだきしめていた。 「お前が何者か知るか、俺はお前を守るだけだ……」 ★ ★ ★ 「さて、ここから始めるとするか」 「最後の事件現場は、ここだな。ならば、ここからスタートするのがよいだろう」 世界樹の枝の下に立って、緋桜 ケイ(ひおう・けい)は、悠久ノ カナタ(とわの・かなた)とうなずきあった。 以前あった七不思議の撲殺する森の事件にまだ疑問があるので、それを確かめようと言うのだ。 あのとき現れた、メイちゃんたちの正体はなんなのだろうか。それに、彼女たちの本体は遺跡にあるという。ならば、その遺跡を見つけだせれば、何か分かるかもしれない。 最後にメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)たちと出会ってメイちゃんたちが帰っていた場所から、足取りを逆に辿っていく。 遠野歌菜や鬼崎朔やルカルカ・ルー(るかるか・るー)や日堂 真宵(にちどう・まよい)たちがスイカ割りにされた場所を通り過ぎる。微かに、まだカレーの臭いがしたような気がした。 「ここにも、まだこんな痕跡が残ってるな」 地面に残された謎の文字を見て、緋桜ケイが言った。 地面には、「犯人はちっぱい」とほとんどかすれて消えかけている文字が残されていた。 「ここにも、血まみれの地図が落ちているな」 ナナ・ノルデンの持っていた地図を見つけて、悠久ノカナタが拾いあげた。 さらに森の北にむかって進んでいく。 「このあたりかな、ソアたちの飛空艇と出会ったのは」 「そうであるな。まだまだ遺跡とやらは先ということであろう」 見慣れた風景を確認しながら、二人はさらに先へと進んでいった。 かなり北に来たところで、まだ周囲が焼け焦げている一帯を見つける。 「ここで最初の戦闘があったようだな。ということは、遺跡はここからまだ北か」 横座りで乗った光箒でふわふわと進みながら悠久ノカナタが遥か森の先を眺める。 「足跡とか、何か特徴があればいいんだが……」 「ここまで来れば、トレジャーセンスに何か引っかかるかもしれぬな。なにせ、あの者たちは、求める者にとっては至宝の宝になるかもしれぬのだから」 「だろうな。だからこそ、悪い奴らに利用されないようにしてやらないと」 今回の探索の真の目的を緋桜ケイが口にする。 「こちらに、何か感じるな」 道から少し外れた方向に何かを感じて悠久ノカナタが移動を始めた。 このあたりは、異様に緑が深い。 上空からでは地上の痕跡が調べられないとレッサーワイバーンをおいてきた緋桜ケイを光る箒の後ろに乗せて、悠久ノカナタは木立の上へと舞いあがった。 茨のようなトゲのある植物が厚く生い茂っていて、そのままでは地上を進めなくなったからだ。 緑のドームを越えて、反応を感じる方へと進んで行く。 すると、パラミタ内海も近づいてきた北東の端に小さなオベリスクが見えてきた。まるで大地に突き立てられた剣のようだ。 「周囲に地下らょ感じる。これならば間違いなさそうではあるのだが……」(V) 遺跡と言うには変わった場所だと、悠久ノカナタがつぶやいた。メイちゃんたちのことを強く思ってかけたトレジャーセンスであるから、場所としては正解の可能性は高い。 「建物のような物はないな……」 ゆっくりと近づいてくるオベリスクを見つめて緋桜ケイが言う。 黒いオベリスクは、風化することもなく、鈍く輝きながら立っていた。 「ダマスカス鋼といったところであるかな」 悠久ノカナタが、螺旋を描くようにしてオベリスクを周回して降下していく。 「特別入り口とかは見えないみたいだな。それどころか、建物すらない。これは記念碑か何かなんだろうか」 「さあ。だが、何かの印ではあるだろうな」 地上に降り立ってみても、石畳の上に土がたまって下生えの草花が生えているだけであった。一見して、オベリスクの中や地下に入れるような所は見つからない。 「おーい」 緋桜ケイが呼びかけてみたが、メイちゃんたちは現れなかった。 「やはりここじゃないのかなあ」 「それとも、留守にしているかだが……」 「どのみち、準備もなしに突入するような段階じゃないな。後日ちゃんと調査に……」 言いかけて、緋桜ケイは悠久ノカナタがニヤニヤしながら自分を見つめているのに気づいた。 「なんだ、気持ち悪い」 「いや、昔であれば、即座にどこかを吹っ飛ばして突っ込んでいったのではないかなと思ってな。成長した……のかな?」 はたしてどうであろうかという含みを残して、悠久ノカナタが振り返った。 「まあいいや。場所は記録したから戻るとしよう」 「あい分かった」 再び光る箒に乗ると、二人は世界樹にむかって飛び去っていった。