校長室
学生たちの休日5
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★ ★ ★ 「お腹すいたー」 「もうちょっとだから、待っててですぅ」 足をバタバタさせて訴えるノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)に、神代 明日香(かみしろ・あすか)は上の空で答えた。 ちくちくちくと、フェルト地を丁寧に縫い合わせていく。ここしばらく、こつこつと作っていた物が、そろそろ完成に近づいたのだ。 「できた。後は裏返してパンヤを詰めてと……」 裏返したぬいぐるみの顔にアイロンプリントで目鼻のパーツを貼りつけると、神代明日香はぬいぐるみの中にパンヤを詰め込んでいった。 「ぼこ、ぼこ〜」(V) ぺったんこだったぬいぐるみが、みるみるうちにふっくらとしてくる。 「このくらいでいいかなぁ?」 「おなかすいたぁ!!」 ぐずるノルニル『運命の書』を無視して、神代明日香はぬいぐるみの開いている部分を縫い合わせた。 「エリザベートちゃんの完成ですぅ!!」 そう叫ぶなり、神代明日香ができあがったばかりのエリザベート・ワルプルギスのぬいぐるみをぎゅっとだきしめた。 等身大になるべく近づけたその大きなぬいぐるみは、少しデフォルメされていて頭が大きく、三頭身といったところだろうか。 「ねー、ねー、すごいでしょー。かわいいでしょー。エリザベートちゃんなのですぅ!」 キャーキャー叫びながら、神代明日香がぬいぐるみをいろいろな角度でだきしめたり、用意してあったエリザベートの椅子に座らせてポーズをとらせたりする。 「もう、勝手にお財布持ってって食べに行っちゃうよ。エリザベートちゃんにだって、ばらしちゃうんだから」 「えっ、ノルンちゃん、ちょっと待ってくださいですぅ」 エリザベート本人には内緒なのだと、焦った神代明日香はあわててノルニル『運命の書』の後を追いかけていった。 ★ ★ ★ 「おーい、アスカ、ご飯の用意ができたぞ? いないのか?」 ルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)はあらためて寮の自分たちの部屋を見回って、師王アスカがいないことを確認した。 「絵も描きかけで放り出して、いったいどこへ行ったのだ……」 ちょっと困っていると、ちょうど蒼灯鴉が視界に入った。 「鴉、ちょうどいい所に。すまないが、アスカを迎えに行ってはくれないか? 多分ここにいるはずだ」 「アスカを迎えに? なんで俺がそんなこと……。あいつもガキじゃねえって……おい!?」 簡単に走り書きした地図を、ルーツ・アトマイスが蒼灯鴉に押しつけた。 「じゃあ、頼んだのだ」 そのまま、有無をも言わせず、ルーツ・アトマイスは蒼灯鴉を外に追い出した。 「仕方ねえなあ」 渋々、蒼灯鴉は地図に記されたイルミンスールの森の中の廃屋へとむかった。 「やれやれ、みんな、手間のかかることだ」 とりあえず、オルベール・ルシフェリアだけにでもご飯を食べてもらおうと、ルーツ・アトマイスは彼女の部屋にむかった。 ふと、オルゴールの音が聞こえてくる。なんとなく聞き覚えのある曲だった。そう、これは師王アスカがよく口ずさんでいたメロディに似ている。でも、なんでそれがオルゴールになっているのだろうか。自分は知らないが、どこかでは有名な曲なのだろうかとルーツ・アトマイスは訝しんだ。 「本当なら、私は現れるべきじゃなかったのかも……。そう、いつかは、ちゃんと話さなくちゃならない……」 オルゴールを持ったオルベール・ルシフェリアは、そう小さくつぶやいていた。 「ベル?」 「えっ。あら、ルーツ。いつの間に……。何か御用?」 「いや、ご飯だと知らせに来たのだが……」 そう言うルーツ・アトマイスの視線が、オルベール・ルシフェリアの持つオルゴールに注がれていた。 「ああ、これは、お気に入りの曲なのよ」 そう言ってニッコリと笑うと、オルベール・ルシフェリアは何ごともなかったかのようにオルゴールの蓋をパタンと閉じた。 ★ ★ ★ 「こりゃ! いつまで寝ておるんじゃ!」 勢いよく音をたててカーテンを開けたルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)が、まだ布団にくるまって寝ていたアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)を軽く足で蹴っ飛ばした。 「もうすぐお昼じゃぞ。いったいいつまで寝てるつもりじゃ!」 「――せっかくの休みなんだからもう少し寝かせてくれよ……」 ひっかぶった布団の中から、アキラ・セイルーンがくぐもった声で言った。 「何を言っておるのじゃ。とっとと起きるのじゃ!」 「ん〜!!」 布団を巡る攻防が、アキラ・セイルーンとルシェイメア・フローズンとの間に勃発する。 だが、力では圧倒的にアキラ・セイルーンの方が有利だった。 「むう。ならば仕方がない」 ルシェイメア・フローズンが、ちょびっとだけ雷術を放った。 「ぐがごおびしばびれんば……」 アキラ・セイルーンがぴょんと跳びはねた後、四肢を天井にむけてピクピク震えた。 「やっと起きたか。さあご飯にするぞ。顔を洗ってくるのじゃ」 「起きたんじゃないだろ。お前は、俺を永遠に眠らせたいのか。どっちなんだ?」 「起こしたいに決まっておろうが」 「言葉と行動が一致していないだろうが」 「起きない貴様が悪いのじゃ!」 二人が取っ組み合う物音に、セレスティア・レイン(せれすてぃあ・れいん)が様子を見に来た。 「あら、仲良しさんですね」 「違う!!」 セレスティア・レインの言葉に、二人が声を揃えて答えた。 「もうすぐご飯が炊けますので、一緒にお昼にしましょう」 「そうだな。完全に目が覚めた。と言うか、寝てられねえ」 のそのそと、アキラ・セイルーンがパジャマのまま食堂に歩いて行った。ててててっと、ルシェイメア・フローズンがその後を追いかけるように食堂に飛び込む。 「おかわりありますので、たくさん食べてくださいね」 「ん、ありがほー」 朝一の運動でお腹がすいたとばかりに、アキラ・セイルーンがご飯を口一杯に頬ばった。 「だいたい貴様は寝すぎなのじゃ。もっと早く起きて休日を有効活用せんか」 「いいじゃねーか。たまの休みなんだし」 アキラ・セイルーンが、ルシェイメア・フローズンに言い返す。 「ふふっ、ルーシェさん、ずっと待ってたんですよ? 本当は朝早くに来てたのに、疲れてるみたいだからお昼まで寝かせておいてあげようって」 「ほほう、そーなのかー。なら、もう少し寝かせてくれていたら完璧だったものを。このツンデレ子さんめ」 「ち、違う!!」 すぱこーん! 思わず、ハリセンを取り出したルシェイメア・フローズンが、それを一閃させてアキラ・セイルーンをどついた。 「ルーシェ……頼むから飯食ってるときにハリセンはやめてくれ……」 お茶碗に顔を突っ込んだアキラ・セイルーンが、ご飯だらけの顔を上げて言った。 「とりあえず、おかわり」 何ごともなかったかのように、アキラ・セイルーンがご飯をむさぼり食う。 「ふぃ〜、食った食った」 「お粗末さまでした」 セレスティア・レインが食器を片づける間に、アキラ・セイルーンは再び布団に倒れ込んだ。 「こりゃ、食べてすぐ横になると体によくないぞ」 「牛になっちゃいますよ?」 「いいんだ、俺は眠れる牛の王に……睡牛魔王に俺はなる」 パートナーたちに突っ込まれて、アキラ・セイルーンがもそもそと布団の中に潜り込んでいった。 「何を言っておるのじゃ。また、電撃を食らいたいのか?」 「それは遠慮する」 そう言うと、アキラ・セイルーンはぴょんと立ちあがった。 「ツンデレさんがそれほど俺を起こしたがると言うことは、これから何かしたいんだろう? よければこれからつきあってやるぞ。なあ、ツンデレさん」 「だからそれはやめろっと言っておるじゃろうが!」 ぼかぼかぼかと、ルシェイメア・フローズンがアキラ・セイルーンを叩く。 「仲良しさんですねえ」 「違う!!」 再び二人が声を揃えて、セレスティア・レインに答えた。 「とりあえず、買い物にでも行くか。二人とも、行きたい所があるんだろ?」 「ええ、買いたい物があるんですよ」 まあ嬉しいと、セレスティア・レインが両手をあわせて答えた。 「ほんじゃー、みんなで出かけるとするか〜」 アキラ・セイルーンは、そう言うと元気に立ちあがった。