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学生たちの休日5

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学生たちの休日5
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    ★    ★    ★
 
「にゃんこ〜!!」
 パラミタ内海の砂浜で、いんすます ぽに夫(いんすます・ぽにお)は大声で叫んだ。
「本気で死にたいらしいわねえ〜♪」
 いつの間に背後に立ったのか、デクステラ・サリクスが指先の爪でスーッといんすますぽに夫の喉をなでて言った。うっすらと、爪の跡が喉に残る。そのまま後ろからだきすくめられるように自由を奪われ、後頭部にあたるたっゆんな感触に、いんすますぽに夫はちょっと顔を赤らめた。
「い、いえ、今のはデクちゃんのことではありません」
 ゴクンと生唾を飲み込んでから、いんすますぽに夫が答えた。その顔には、この間デクステラ・サリクスに引っかかれた爪痕が痛々しく残っている。
「二人とも、遊ぶだけなら俺は帰るぞ」
 なんでこんな所に呼び出されたのかと、少しぼやきながらシニストラ・ラウルスが言った。
 普通だったら、相手にしないのだが、砂浜に大きく二人の名前を相合い傘で書かれたのでは、一度犯人を締めなくてはという気にもなるものだ。もっとも、デクステラ・サリクスの方は結構喜んでいたのだが。
「今日は、パラミタ内海を根城になされているお二人に、同じくパラミタ内海を本拠地の一つとしている我がだごーん秘密教団からの御相談があったのでお呼びした次第であります」
「どういう意味だ?」
 怪訝そうに、いんすますぽに夫にシニストラ・ラウルスが聞き返した。今までの経緯から、絶対的な敵ではないと感じてはいるが、どちらかというと敵より怖い間抜けな味方という感じの方が強かった。
「我が教団で、あなたたちに資金援助をいたしましょうと言うのです」
「見返りは?」
 すかさず、シニストラ・ラウルスが聞いた。当然、何らかの見返りを期待しているに違いない。
「ずばり、宣伝です。我が教団に入団して、頑張って教団の名前を広めてください。もちろん、海賊さんをすべて団員にするだけの入団申込書は印刷して参りました」
 そう言って、いんすますぽに夫は海岸においてあるリヤカーの荷台一杯に積まれた申込書の山を指さした。明らかに、弱体化した海賊たちの総数よりも遥かに多いだろう。
「あまり、割に合わないな。この話はなかったことに……」
「なんと、光条砲からあなたたちの命を助けた恩人に対して酷いですね。船まで用意してあげたんですけどね。クッションがわりの花まで集めたんですけどね。恩を仇で返すんですね。海賊も落ちぶれたものですね。情けは人のためならずですね」
 なんだか、よく分かったのか分からないのか、それこそよく分からないことをいんすますぽに夫がまくしたてた。だが、海賊島での決戦のときに、結果としていんすますぽに夫が二人が助かるきっかけを作ったのは事実だ。
「だが、お前、最初は、俺たちをバニッシュで殺そうとしてなかったか?」
 おかしいだろうと、シニストラ・ラウルスが突っ込んだ。
「それは誤解です。なぜ、私がそのようなことを。さあ、御納得いただけたら、この契約書にサインを!!」
 怪しげな書類とペンを突き出して、いんすますぽに夫が迫った。
「どうする? ここで魚の餌にする?」
 シニストラ・ラウルスの耳に唇を寄せて、デクステラ・サリクスが訊ねた。
「いや、こいつには変なゆる族もついているし、利用するのも一つの策だ」
 いんすますぽに夫に聞こえないように、超感覚でしか聞こえないほどの小声でシニストラ・ラウルスがデクステラ・サリクスに答えた。
「さあ、御返答を」
 いんすますぽに夫が詰め寄る。
「いいだろう。口頭でなら、同盟を結ぼう」
「口頭ですか……」
「嫌ならいいぞ」
 渋るいんすますぽに夫に、シニストラ・ラウルスはクルリと背をむけた。
「いいでしょう。あなた方をだごーん秘密教団の団員として認めます」
「いや、教団に入ったわけじゃないからさあ」
 違う違うと、デクステラ・サリクスが手を振って否定した。
「とりあえず、今後は表向き敵対していても、裏では協調すると言うことだ。口頭で約束しよう」
 シニストラ・ラウルスが約束した。だが、しょせんは口約束である。はたして、どれほどの拘束力があるのかは疑問だった。
「分かりました。もう私たちは味方です」
「じゃ、俺たちは雲海でちょっと仕事を頼まれているんでな。これで失礼する。また会おう。ああ、それから、砂浜の落書きは消しておけ。さもないと、最近雲海を荒らしているというヌシの餌にするぞ。よく覚えておけ」
 そう言うと、シニストラ・ラウルスはディッシュに飛び乗って、沖で待たせている海賊船にむかった。
「あれは残しといてもいいからねっ♪」
 いんすますぽに夫の耳許でささやいて軽くキスすると、デクステラ・サリクスは急いでシニストラ・ラウルスの後を追っていった。
 
 

7.タシガンの館

 
 
 きゅううっっっこおぉぉぉ♪ ぎゅゅゅゅうううっこぉぉぉ♪
「いい演奏だった」
 パチパチパチと、久途 侘助(くず・わびすけ)が拍手する。
「ありがとう」
 バイオリンを演奏し終えたソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)が、深々と一礼した。
 とりあえず、よくは分からなかったが、失礼はあってはいけないと思い、他のみんなも拍手を送る。
 ここは、タシガンにあるソーマ・アルジェントの別荘だった。ソーマ・アルジェントの招待で、恋人である久途侘助と二人のパートナーたちの親睦を深めようというささやかなパーティーが開かれている。
「なかなかに、独創的なバイオリンでございました」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)の用意したお茶とお菓子を各人の前に配りながら、クナイ・アヤシ(くない・あやし)が言った。技術的には文句はない。
「みんなくつろいでくれ。侘助のパートナーであれば、北都たち同様、家族みたいなもんだからな」
 一番くつろいで一人だけ赤ワインを楽しみながらソーマ・アルジェントが言った。
「俺のパートナーを紹介するな。こっちが火藍、こっちが未実だ」
 久途侘助が、自分のパートナーである香住 火藍(かすみ・からん)芥 未実(あくた・みみ)を紹介する。
「はじめまして、香住火藍ともうします。どうぞよろしくお願いします」
「ちょいと火藍、そんなに固くなってどうするんだい」
 緊張した面持ちで一礼する香住火藍に、姐さん肌の芥未実が突っ込んだ。
「よろしくな♪」
 ソーマ・アルジェントが、ニコニコと二人に両手での固い握手を求める。
 コホン。
 やりすぎるなよと、クナイ・アヤシが咳払いでソーマ・アルジェントを牽制した。
「いいじゃないか。そうだ、侘助、お前もワイン飲むか? いや、つきあえ♪」
「いや、あまり酒は……」
「いいじゃないか、遠慮するな。なんなら口移しで……」
 遠慮する久途侘助に、ワインを口に含んだソーマ・アルジェントが迫った。
「んんっ!」
「こら、口移しとか、何をしてるんですか!」
 すかさず立ちあがったクナイ・アヤシが、トレイで清泉北都の視界をさえぎりながら叫んだ。
「見せつけてくれるねえ」
 素早く香住火藍の目を両手で押さえた芥未実が、楽しそうに言った。
「あまり調子に乗ると……。食らいなさい」(V)
 立ちあがったクナイ・アヤシが、息継ぎのために離れたソーマ・アルジェントを回し蹴りで仕留めた。
 呆然とした久途侘助が、あわててソーマ・アルジェントを助け起こしに行く。
「大丈夫ですよぉ。いつものスキンシップですからぁ〜」
 あわてず騒がず清泉北都が言った。
「変わったよねぇ、ソーマ」
 ゆっくりと近づいて、清泉北都もソーマ・アルジェントを引き起こすのを手伝う。そのとき、ソーマの手に指輪が填められているのを見て、清泉北都は彼の決意のような物を感じた気がした。
「久途くん。ソーマのこと、よろしくね」
「もちろん、これからもずっとソーマと歩んでいく」
 しっかりと、久途侘助がうなずいた。