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人形師と、チャリティイベント。

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人形師と、チャリティイベント。
人形師と、チャリティイベント。 人形師と、チャリティイベント。

リアクション



18.今日の終わりと明日の始まり。


 音楽祭も終わりが近づいていた。
 テスラ・マグメル(てすら・まぐめる)は取りを務めるためにステージに立つ。
 リンスはまだ来ていないらしいと、マナが言っていた。
 ここからだと、居たとしても見えないけれど。
 そして、見ていてもらえないということは残念だけど。
 ――私は、私が出来ることを精一杯やるだけ。
 テスラには、歌だった。
「明日一日を生きるために、ほんのちょっとだけ心が豊かになれる。
 小さな一歩を踏み出す力になれる。
 そんなささやかなものだけど、確かにそこにある歌の魔法を皆様に」
 会場が、沸いた。
 ギターに手を掛けると、反してしんと静まる。
 息を吸って、声を出した。
 ――ここに居ない貴方にも届きますように。
 いいえ。もしかしたら、もう居るかもしれない?
 それならそれで、私の力になる。貴方を励ます力になる。
 元気が無い時は、元気のある人から分けて貰えばいい。
 泣けない? 笑えない? 無理にそうしなくてもいい。いつも通りができなくてもいい。いつかはそれが出来る日がくる。前を向いていれば。
 スランプにだっていつかは抜けます。だって、
 ――貴方は努力する人だもの。
 そしてそんな貴方の周りには、
 ――私、……達が、居ますから。
 テスラだって、音楽家としてスランプや悩みを経験している。乗り越えたこともある。今も引っ掛かっているものもある。
 それでもいつかの笑顔を信じて。
 檄を飛ばす。
 佳境に入った歌が、盛り上がったまま終わりに向かった。
 丁度歌が終わったところで、
「虎ロデオ!」
 ――ウルス?
 の、声と共に、
「――っ、」
 リンスが飛んできた。文字通りに。慌てつつも、しっかりと受け止めて。
 ――……おかえりなさい。
 心の中で呟いた。
 多数の人、ステージの上。抱きとめられているという状況に、リンスが赤面していたけれど気にしない。
 何? 誰? ロデオ? 歌は? という疑問符で埋め尽くされる会場も。
 止まない後奏も。
 騒音も全て、気にすることなく。
 テスラは微笑んだ。
「おかえりなさい、大好きな人」
 それは、ハロウィンの日に勢いで言ってしまった言葉。
 あの時は、大事な人、と言おうとして、間違えてこちらを伝えてしまったのだけど。
 ――今度は、間違いじゃないですよ?
「ただい、ま?」
 疑問符混じりは、たぶん言葉の意味をまだきちんと把握していないからだろう。
 いい。伝えたかった言葉を、伝えただけだから。
 まだ答えがもらえなくても、いい。
 音楽が止んで、一瞬、しんと静まりかえる会場。後、再びのざわめき。
 緞帳が下ろされて、また、静寂。
「リンス君。バザー、行きませんか? 一緒に」
「いいよ。……だから、降ろしてくれるとありがたい」
「軽いですね」
「ちゃんと食事してるんだけどね」
 ステージの向こうで起こっているであろうざわめきをすっぱり無視して、二人は舞台から降りて行く。


*...***...*


 紺侍を探す傍ら、瀬島 壮太(せじま・そうた)は施設を見て回った。
 良い施設だ、と思う。
 掃除は行きとどいていて綺麗だし、窓が大きくて陽の光はたくさん入るし、子供たちは笑顔だし。
 チャリティバザーの会場に紺侍が居た。売り子を手伝っているようだ。
「おす」
 店の前に立って、声をかける。
「あ、壮太さん。来てくれたんスか」
「何も用意出来てねえけどな。差し入れくらい」
「充分っスよ来てくれるだけで。あ、パンだ。美味そー」
 パンの詰まった紙袋を抱いて、紺侍が嬉しそうに笑った。
「それと。ほら、挨拶」
「わかってるよ」
 壮太の隣に並んでいたミミ・マリー(みみ・まりー)の背を叩くと、一歩前に出た。
「紡界さん、初めまして。壮太のパートナーのミミ・マリーです」
 ぺこりと頭を下げて挨拶。
「ご丁寧にどもっス。楽しんで行ってくださいね、ミミさん」
 初対面同士の挨拶も終わったし、店の前にいつまでも立っていたら邪魔になる。
「そっち行っていいか?」
「どぞ。手伝わせちゃいますけど、それでよければ」
「手伝うつもりで来てんだよ」
「そりゃァお優しい」
 商品の陳列を手伝って、お客様を待ちながら。
「おまえが養護施設と関係あるなんて意外だな」
 この話を聞いた時に思ったことを言ってみる。
「将来そういう職業につきてーとかそういうこと? それとも施設に気になる男でもいんの?」
「そんなとこっスねェ」
「へえ。どっちだよ?」
「黙秘で」
「後者っぽいな、黙秘されると」
「あはは。どうでしょうね? いらっしゃいませー」
 小さな子がお金を持ってやってきた。これがいいなあれもいいなと目移りしているその目は綺麗で。
 買って、またねと手を振って行く。やっぱり笑顔だった。幸せそうな、見ていてほっこりするような笑顔。
「いいな、こういうの」
「チャリティっスか?」
「ああ。オレの育った施設はろくな場所じゃなかったからよ、こういうのは普通に微笑ましいっつーか羨ましいっつーか」
「壮太さん、施設育ちなんスか?」
「……ああ、オレ孤児なんだよ。生まれてすぐコインロッカーに捨てられてたんだとさ」
 それで、警察に保護された後施設に入れられたらしい。
「でも育てられた施設も、ろくでもねえ大人しかいなくて。そんで嫌気がさして飛び出したんだけどな」
 今となっては、笑い飛ばすこともできることだけど。
「聞いてて気持ちいい話でもねえし、だからあんまり人に話したこともねえけど」
 けれど、
「コインロッカーベイビーっスか。響きがかっけェ」
 この反応は予想外だった。
「……おまえ、かっるいこと言うなあ」
「え、だって壮太さん今笑ってるし。だったらオレがしんみりするとこじゃねェっしょ」
「そりゃそうか」
 しんみりされても困る。
 ああ、そうだ。
 こいつなら、同情しねえって思ったから、言ったんだ。
 そういう意味では予想通りか。
「おまえ今幸せ?」
「えェ、わりと。壮太さんは?」
「悪くねえ」
 じゃ、いいっスね。と言うから、おう、と頷きながらもみあげを引っ張っておいた。
 微笑ましいなとミミが笑うのを見て、そういえば紺侍のパートナーを見掛けたことがないけれど、どんな人なのだろう、と思った。


*...***...*


 シーラが料理を作ったり、萌えカップリングのシャッターチャンスを逃さないよう目を光らせてる傍らで。
「悩みは解消できたみたいですね」
 リンスを見つけた大地は、そう言って微笑んだ。
「お陰様で」
 傍から見たら、何の話かわからないことを平然とやり取りする。
「よくわかったね」
「そりゃあまあ。顔を見ればわかりますよ」
 何があったのか知らないけれど、解決したのはわかる。
 だから深くも聞かないで、リンスも話さないで、ただ顔を合わせてふっと笑った。


*...***...*


 リンスが来ないなら代わりに、とレオン・カシミール(れおん・かしみーる)は人形作り教室を開いていた。
 型紙を用意して、布を切るところから丁寧に教えて。
 そうしていると、リンスがやってきた。
「人形作り教室っていうから誰がやってるのかと思ったら」
「予想はしていたんじゃないのか?」
「衿栖がヴィンスレットの店に居たからね。こっちに来てるかどうかはわからなかったし」
 呼称が変わってることに、レオンはふっと笑う。そうか、バレンタインの翌日から妙に嬉しそうだと思っていたが、このせいか。
「約束は果たせたのか?」
「うん」
「調子が悪かったのは?」
「解消。多分」
 多分、というところが引っかかるが、深くは突っ込まないでおこう。
 できた! と完成した人形を見せてくる子供の頭を優しく撫でて、
「作って行くか?」
 リンスに声をかけた。
「そうする」
 人形作りの腕が鈍った様子は、なかった。


*...***...*


 チャリティイベントも終えて、リンスはクロエと帰途につく。
 片付けも手伝おうとしたのだが、「帰ったほうがいいっスよ、暗くなるし。クロエさん、後日お礼に行きますね」と帰宅を勧められては無理を通すまい。
 夕暮れ時。伸びる影を追いかけるクロエが、「あ!」と声を上げた。
 なんだろう、と彼女を見たら、工房を指差していた。
 ドアの前に、人影。
「もう、遅いじゃない!」
 聞き覚えのある声は、
「茅野?」
 茅野 菫(ちの・すみれ)だった。


 バレンタインの日のお礼を、パビェーダ・フィヴラーリ(ぱびぇーだ・ふぃぶらーり)はしたかった。
 菫の誕生日。サプライズパーティ。無理を言って作ってもらったテディベアと、場所を貸してくれたことへのお礼。
 だけど店に着いたパビェーダを待っていたのは、あの無愛想ないらっしゃませじゃなくて臨時休業の張り紙。
 ノックをしても出てくる様子はない。出掛けているのだろうか。そういうこともあるか。
「ちょっとぉ。どうするのよ?」
 菫がぶーたれた声を出したが、
「仕方ないわ。お店の前で待ちましょう」
 パビェーダはさらりとそう言った。
「いつ戻るかわからないのに?」
「わからなくても」
 菫の問いにきっぱりと言い切ったら、もうそれ以上ぶつくさ言うことはなかった。
 手遊びやしりとりで時間を潰していたら。
「あ!」
 クロエの声が聞こえてきた。クロエの後方に、リンスの姿も見える。
「もう、遅いじゃない!」
 菫が立ち上がって言った。
「茅野? フィヴラーリも」
「待ちくたびれたわよっ」
「どうしたの?」
「パビェーダが用があるんだって」
 ほら、と菫に押されて、一歩前に出て。
「おかえりなさい」
 言ったのは、用件よりも先にその言葉。
「ただいま」
「この前のお礼をしたいと思ったのだけど、あなたのこと何も知らないのよね」
 そう。
 考えたけれど、思いつかなかったのだ。驚くほど、リンスのことを知らなくて。そして、驚くことに知りたいと考えていて。
「何がいいか、教えてくれる?」
 それに、また工房に来る理由を作りたくて。
 訊きに来たのだ。
「お礼なんてそんな、」
「私がしたいの。……嫌かしら?」
「そういうわけでも。何がいいか、か。んー……」
 考え込んだリンスの答えを待ち。
「好きなものなら、花とかチョコだけどね」
 そしてそれ以上の答えは出そうになく。
「わかったわ。ありがとう」
 パビェーダは微笑んで頷いた。そのまま帰ろうとする。
「上がって行かないの?」
「ええ。あなた、出先からの帰りなんでしょう? 身体をゆっくり休めて」
「気遣いありがと。そうする」
「それじゃ、またね」
 手を振って、工房を後にする。
「よかったの? 上がらなくって」
「ええ。……いきなりあまり近付いても、心が追いつかないもの」
 ぽそりと呟いた言葉に、菫が黙る。
「パビェーダ。あんた、もしかしてさ」
「何かしら?」
「……ううん、なんでもないわ」
 変なの、と言うと、あんたがね、と返された。
 変だろうか。考えながら、帰途につく。


*...***...*


 たくさんの人の協力で、チャリティイベントは大盛況のうち幕を閉じた。
 私物を売ってくれたり。
 料理を作ってきてくれたり。
 音楽祭で盛り上げて。
 片付けまできっちりと手伝って行って。
「たのしかったね」
 後に残るは、そんな言葉と心からの笑顔。
 報酬なんてないけれど。
 あんな笑顔を作るお手伝いが出来たなら、重畳。
 また明日も、笑えますように。


担当マスターより

▼担当マスター

灰島懐音

▼マスターコメント

 お久しぶりです、あるいは初めまして。
 ゲームマスターを務めさせていただきました灰島懐音です。
 参加してくださった皆様に多大なる謝辞を。

 まずはじめに。
 東北大地震、皆さまご無事でしょうか? わたしはがっかりするほど『いつもの人』です。
 なので、いつも通り、ほのぼのするリアクションをお届けに参りました。

 さてさて今回。図らずして時事ネタになってしまいましたチャリティイベント。
 みなさまいかがでしたでしょうか?
 チャリティ参加のPC様は、イベントを盛り上げよう、子供たちを楽しませようとしてくださっていて。
 ケーキ屋さんでは、リンスを励まして下さったり、フィルに絡みに来て下さったり。
 それとは関係の無いところで動いていた方も、色々と味があって楽しかったです。
 総じて。
 素敵なアクションを、ありがとうございました。
 微笑ましいものが書けました。あとは、皆様がこのリアクションを楽しんでいただけるかどうか、です。

 ……なんだか珍しく小奇麗にまとまったので終わっておこう。
 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。