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契約者の幻影 ~暗躍する者達~

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契約者の幻影 ~暗躍する者達~
契約者の幻影 ~暗躍する者達~ 契約者の幻影 ~暗躍する者達~

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第3章(3)

「え〜っと、こっちに何かありそうですねぇ」
 木々の入り組んだ所を潜り抜けるようにして神崎 瑠奈(かんざき・るな)が進む。彼女達は戦場を迂回し、視界の悪い所を抜けて先に進もうとしていた。
「ねぇ瑠奈。本当にこっちでいいの? 何か皆とどんどん離れてる気がするんだけど」
 二番手の神崎 輝(かんざき・ひかる)が疑問をぶつける。先ほどから穴を潜るような進み方をする場所が多々あり、明らかに部屋の外れへと向かっているのが分かる。
「ん〜、ボクの予感だとこっちなんですよねぇ。行ってみれば何とかなりますよ〜」
「瑠奈がそういう時って大抵根拠が無いんだよね……まぁ今更戻るよりはこのまま進んだ方がいいのかな」
「まぁまぁ、とりあえず行ってみようよ、輝」
 瑠奈だけでなく後ろのシエル・セアーズ(しえる・せあーず)にまで言われては仕方が無い。そのまま進んで行くと、瑠奈達は少し拓けた所に出た。
「この辺ですねぇ。何かがあると思います〜」
「ここ? 何も無い気がするけど――って、あれは!」
 輝の声にシエル達も同じ方向へと反応する。その先、ある木の枝に、三人の男女が乗っているのが見えた。その中心にいる女性を見て、輝が因縁の相手の名をつぶやく。
リデル・リング・アートマン(りでるりんぐ・あーとまん)……瑠奈が感じたのって、この事なのかな」
 トレジャーセンスは金品財宝の在処を感知すると言われているが、その基準はかなり曖昧だ。厳密に金品だけに限る訳では無いし、いざ見つけてみたらそこまで重要度が高く無い物だったという事もある。今回で言うならリデルとの戦いそのものが瑠奈達にとって重要な物だったというべきか。
「ほぅ、神崎 輝か。あの盾の機兵と見えざる刃の使い手がいれば遺跡の再戦となったのだが、そう都合良くはいかんか」
 リデルの言う盾の機兵はアイン・ブラウ(あいん・ぶらう)を、見えざる刃の使い手はローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)の事を指す。二人共一ヶ月前にとある遺跡で輝とリデルが戦った際、輝の援護を行った者だ。
「ふむ、大人数が侵入して来たと聞いた時はさすがに分が悪いと思ったのだがな。お前達だけが相手となるなら丁度良い。以前見せた『成長』の片鱗、今回も見させて貰おう」
「ボクはお前の趣味に付き合うつもりは無い。でも、この前のボクと同じだと思ったら大間違いだよ!」
 両者がナイフを、剣を構える。一触即発とも言える空気。そこに、リデルの横にいるアルト・インフィニティア(あると・いんふぃにっと)が割り込んできた。メイド服を着た彼女は枝に寝そべるような体勢を取り、どこか妖艶な雰囲気を醸し出している。
「あらあら、余りシリアス過ぎても面白くありませんわ。どうでしょう? せっかくですし、貴方とリデル様、負けた方がメイド服を着るというのは」
「何を言ってるんですか、アルトさん……」
 逆隣にいるカルネージ・メインサスペクト(かるねーじ・めいんさすぺくと)がため息をつく。この魔鎧、いつもこんな調子でノリノリなのだ。
「ところで、この前僕と戦闘した機晶姫はどうしたんですか? ……恐らく、前みたいに近くに隠れてるんだとは思いますが」
 カルネージが周囲に注意を払いながら言う。その声に応えて、遺跡での戦闘で銃撃戦を繰り広げた一瀬 瑞樹(いちのせ・みずき)がカモフラージュを解除し、姿を現した。
「さすがに分かりますか」
「えぇ、パートナーを護るという点では同じですし……この前の借りもありますから」
「それはこちらも同じ。前は後手に回ってしまいましたけど……今度は、好きにはさせない」
 輝達だけでは無く、機晶姫同士も対峙する。それを受け、シエルと瑠奈、そしてアルトもそれぞれのパートナーを援護する動きを取り始めた。
「私達だって負けてられないからね。行くよ、瑠奈ちゃん」
「は〜い。一生懸命頑張るにゃ〜」
「ふふふ……可愛い娘達ですね。では参りましょうか……メイド服を賭けて」
 ――この魔鎧、やはりノリノリである。
 
「まずは先手を……! 発射!」
 最初に動き出したのは瑞樹だった。リデル達に向けて弾幕を展開し、味方を護ると共に相手を分散させる。
「リデルさん! あの機晶姫は僕が!」
「いいだろう。向こうもそれを望んでいるようだしな」
 素早く木から下りたカルネージが大型の銃剣銃、フライシャー・バヨネットを構える。そして銃部のライフルから数発銃弾を放つと、一気に突撃した。
「銃撃戦と砲撃戦だけが僕の手段じゃ無い。近距離戦だって!」
 そのまま斬撃に移る。銃剣として付くには余りにも大きく重い刃は、最早一振りの刀と化していた。対して近距離戦を得意としていない瑞樹はこれまでの戦いで培った経験で防御を行うものの、反撃の機会を封じられてしまう。
「この程度で……やられる訳には!」
「僕だって負ける訳には行きません! リデルさんへの恩を返しきるまでは……!」
 
「瑞樹!」
 パートナーが苦戦しているのを見て、輝が走り出す。剣と盾で戦う輝なら、瑞樹の前を護るのに適しているからだ。
 だが、そこにリデルの放った大工セットが飛んで来た。輝に回避されたのこぎりはサイコキネシスによって近くの木に突き刺さり、更にノミやドライバーといった工具が順番に飛来し、別の木へと突き刺さる。
「お前の相手はこの私だろう?」
 四箇所に工具が刺さったのを確認し、リデルが氷術を放つ。四隅を基点として氷の壁が張られ、それにより輝と瑞樹の間が断たれてしまった。
「なっ!? 邪魔するな!」
「このまま背を向ければ私の餌食。あの機晶姫を助けたければ急いで私を倒せば良い。簡単な事だろう? さぁ、全力で来い。お前の『可能性』を見せてみろ!」
 相手の思い通りになる事に多少の悔しさを覚えながらも、輝がこちらへと向き直って剣を構えた。対するリデルの横にはアルトが並び、こっそりとリデルに耳打ちする。
「全力で、ですか。そうなると少し分が悪いのではございません?」
「何、多少のハッタリは重要だよ。何事もな」
 リデルが作った氷の壁は簡単に突破されないように厚みをつけてある。水場ならまだしも、こういった場所でそんな壁を作るには当然膨大な魔力を消費する訳で――
「それで、余力は?」
「武器に帯電させる魔力も無いな。組織が壁の強化をするマジックアイテムでも持っていれば良かったのだが」
「ただでさえ物を持ち出しているのに、そのような物は残っていないのではありません?」
「うむ、先ほど同じ事を言われた」
「仕方ありませんわね。わたくしが頑張ると致しましょう」
 アルトがメイド服を翻し、身軽に木々を跳び回る。そして輝に肉薄し、拳による連撃を繰り出した。
「くっ、このっ!」
 輝が盾で攻撃を防ぐ。アルトはそのまま反撃をかわすと、再び木の上へと跳び上がった。
「輝、私に任せて! 訓練したこの弓で……!」
 入れ替わりにシエルが矢を放つ。とは言え木の上を飛び回るアルトが相手だ、幹が邪魔をする為に効果的な一撃は入らない。
「上を狙ってばかりでは隙が出来るぞ。このようにな」
 今度はリデルがシエルを狙う。それに対しては輝が防御に入り、好きにはさせない。
「むぅ、早く瑞樹ちゃんを助けないといけないのに。こうなったら輝、私達の本当の力を見せるよ!」
「本当の力!? 何その設定!」
「設定言わない! 私が練習したのは弓だけじゃ無いんだから! 瑠奈ちゃん!」
「は〜い」
 シエルの呼びかけに応え、戦闘開始と同時に潜伏していた瑠奈が弾幕で援護する。それによって距離が開いた隙に、シエルはベースを取り出した。
「私達の本当の力、それはこれよ! 輝!」
「う、うん! 行くよシエル!」
 用意された物を見て意図を理解した輝がショルダーキーボードを肩から吊り下げる。そして生み出された炎と氷、二つの音色がリデルとアルトを襲った。
「これは……! なるほど、神崎 輝は以前、自身をアイドルだと言っていたな。これがその真髄という訳か」
「熱っ、熱いですわ! このままでは大事な衣装が……! すぐに撤退致しましょう!」
 コスプレ狂いなアルトにとって、衣装は命よりも大切な物だ。汚れるならまだしも、燃えてしまっては一大事とばかりに急いで退いて行く。
「ふむ、今回は私にとっても成長の余地がある結果となったようだな、面白い……」
 続いてリデルも木々の間に消えて行く。残されたカルネージは慌てるのみだ。
「え、ちょっとリデルさん!? ……はぁ、だから真面目に仕事をして欲しいって言ってるんだけどなぁ」
 とは言えこのまま残っている訳にも行かない。今はまだ氷の壁があるが、リデル達の妨害が無ければ破壊されるのは時間の問題だし、何より迂回する余裕もあるからだ。
「片方だけ抑えても駄目、か。リデルさんを支えるにはまだまだ難しいな……」
 最後に思い切りソニックブレードを放ち、瑞樹を下がらせる。その隙にカルネージ自身も下がると、追撃を防ぐ為にミサイルの全弾発射を行った。
「ミサイル……! 迎撃を!」
 自由になった瑞樹が機晶キャノンとミサイルポッドで飛来するミサイルを撃ち落していく。全てを迎撃し、視界が晴れた頃にはリデル達の姿はどこにも残っていなかった。
「瑞樹! 大丈夫!?」
 ショルダーキーボードと火術によって氷を溶かした輝達が駆け寄ってくる。カルネージに対する反撃は一切出来なかったものの、向こうの攻撃も大振りとあって、幸い傷らしい傷を負うことはせずに済んだようだった。
「良かった……瑞樹、一人だけにしちゃってごめんね」
「いえ、私こそマスターをお護りする立場なのに……」
「もぅ、輝も瑞樹も、それに私も瑠奈も無事だったんだからいいでしょ。私達は誰かが誰かを護るだけの関係じゃ無いんだから」
「シエルお姉ちゃんの言う通りですよ〜。皆怪我も無くて良かったにゃ〜」
 責任を感じる瑞樹をシエル達が笑顔で元気付ける。四人は親友であり、家族である。ならば苦労も反省も、四人で分かち合えば良いのだ。
「向こうも全部を完璧には出来なかったみたいだし、ボク達だってまだまだ強くなれるよ。今度はあの人達に負けないように、皆で頑張ろう? 瑞樹」
「……はい、マスター」
 瑞樹が立ち上がり、気を引き締める。四人は再び仲間と合流するべく、進んで行くのだった。
「…………ところでシエル、いつの間に楽器扱えるようになったの?」
「ひ・み・つ。私だってやる時はやるんだよ」
「その努力を勉強にも――」
「さぁ輝! 先に行くわよ、先に!」