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第2章 そんなこんなでも肝試し 1



「肝試しをやるって聞いたから、面白そうって思って誘ったんだけど、みんな忙しいからダメだって言われて……ううっ。ケロ子さんが一緒に来てくれて良かったよー」
「……暇でしたので」
 涙目になりながら肝試しコースを歩く五月葉 終夏(さつきば・おりが)の横で、無感動な表情のシンフォニー・シンフォニア(しんふぉにー・しんふぉにあ)が答えた。
 はたから見れば何を考えているかよく分からない娘だが、終夏は意外と彼女がお茶目で面白い機晶姫であることを知っている。そもそも、ケロ子という名前自体、彼女が時々『かえるのぬいぐるみ』へと変化することから呼んでいるものだ。
 彼女が一緒に来てくれたことで、肝試しにもなんとか参加することが出来た。
「お化けは……怖いですか?」
「あ、いや、お化けが怖いからとか、そういう理由じゃないんだけど……。そりゃ、暗がりから急に『わっ!』って驚かされるとびっくりするけどね」
 終夏は苦笑する。
「そうじゃなくてね、肝試しって大勢でやるものだよね。その、実は肝試しって参加したことなくてさ。地球じゃクラスメートはいても友達って人はいなかったから。いやーほら、私、こんなんだから、その……浮いててね。友達らしい友達がいるのってシャンバラに来てからのが初めてというか!」
 終夏は、早口でまくしたてるように言った。自分でも誤魔化しているだけだと気づいてきたのか、次第に落ちこんでくる。
「……自分で言っててむなしくなってきたよ……はははは……」
「…………」
「で、でも、ほら! 今回はケロ子さんと一緒だから!」
 終夏がほほ笑む。
 シンフォニーはそれを見返してしばらく黙っていたが、やがて穏やかに笑った。
「そうですね」
「ね、でしょ?」
 二人は笑いあいながら、森のコースを歩いていく。
 途中で、シンフォニーはムカデや芋虫の類を見つけたが、終夏には気づかれないようにそれをペシッと弾き飛ばしていた。
「……ケロ子さん? 何してるの?」
「いえ、何も」
 あくまでも無表情に。
 ケロ子は終夏に言いながら、ものの見事に節足生物たちを蹴散らしていた。先に進むのは終夏であるため、彼女の前方に見つけたときにはすかさず回りこんで壁を作る。
「ケ、ケロ子さん?」
「けろけろ」
「…………えーと」
「けろ」
 終夏は苦笑しつつ、いつものことかといったように気にせずに先へ進んだ。
 鬱蒼として不気味な森にあいまって、意外とお化けもよく出来たものだった。白布の典型的なものから、井戸から這い上がってくる髪の長い女まで、終盤に差しかかるほどに、クオリティが上がっている気がする。
 だが。
「うわー、すごいね、この髪の毛の量。手入れが大変じゃない?」
「…………」
 終夏は終始、別の方向性で楽しんでいたが。
「ケロ子さん?」
「はい?」
「……何してるの?」
「あ、いえ、獲物を発見しまして」
 シンフォニーはシンフォニーで、なにやら不気味なお化けたちを退治して回っていた。どうやら不審な輩だということらしいが、終夏はよく分からずに首をかしげていた。
 いずれにせよ――
「ふんふんふ〜ん♪」
「…………」
 終夏は鼻歌を歌いながら楽しそうに歩を進める。そんな彼女を見ていると、シンフォニーはなぜか心が温かくなってくる。自然と、彼女の表情には笑みがこぼれていた。



「ねーさま……どこに行ったの……」
 泣きそうな声でそんな言葉を漏らすのは、身長の割に豊かな双乳を抱く少女だった。
 名は久世 沙幸(くぜ・さゆき)。面白そうなイベントがあると聞きつけたパートナーの藍玉 美海(あいだま・みうみ)に、半ば強制的に連れられて今回の肝試しに参加した、不幸な契約者である。
 だが、現在、その肝心の美海は彼女のそばにはいなかった。
「もう〜……ねーさまってば……順路じゃないほうにズンズン進んじゃうんだもん。ううっ……あれほどはぐれちゃダメって言ったのに……」
 沙幸は一人、嘆きつぶやく。
 自ら沙幸を連れだってやって来た美海は、それにも関わらず、持ち前の方向音痴をいかんなく発揮して、沙幸のもとから去ってしまったのだ。
 一人になると、色々と余計な想像をしてしまうものである。
 普段ならお化けや幽霊などさほど怖くはない沙幸だが、こう鬱蒼と閉ざされた森のなかに取り残されると、茂みの暗闇などから何かが出てくるのではないかと、恐怖が囁いてくる。お化けは怖くなくとも、暗闇はそれとは別問題だった。
 とにかく、ゴールに向かえば美海とも合流できるはず。そう考えて、沙幸は怖いのを我慢してなんとか足を進めた。
 そのときである。
「うーごーくーなー」
「はひっ……!?」
 暗闇のなかから真っ赤な瞳がこちらをのぞき、背後から低く不気味な声が聞こえてきた。
 沙幸は思わず硬直し、動きを止めた。暗闇と夜気の風のせいか、思考力が低下している。冷静な判断が出来なくなっているようだった。
「お、おお、お化け……お化けさんですか……。ひ、そ、その……わたし……」
「いいかぁ…………動いたら…………おまえを呪うぅ……」
「の、のろ……っ!?」
 沙幸は震えあがり、まったく動かなくなった。
 そんな彼女を見て、お化けたち(に扮した工作員)らは、互いの顔を見あわせる。これは好都合だ。彼らは互いに頷きあった。
 先のことを想像して、白布を被った顔がにへらにへらとだらしなく笑っている。
「いいかぁ……まずは…………スカートをめくるのだぁ……」
「へ……あ、あのそれって……」
「言うことを聞かないとぉ……」
「は、はひっ!? やります! やります!」
 沙幸は暗闇のなかの赤い目のせいで、気が動転してしまっている。明らかにお化けの要求としてはおかしいものの、彼女は素直にそれに従った。
 どこかでシャッター音と声を潜めた歓声が聞こえる。
 お化けがごくりと息を呑んだ。
「で、では……次は……一枚ずつ服を脱いで……」
「うりゃっ」
「げぶはぁっ!?」
「きゃああぁぁっ!」
 お化けがエスカレートした指示を出そうとしたそのとき、お化けの背後から強烈なチョップが叩きおろされた。苦痛の叫びをあげたお化けに驚いて、沙幸が悲鳴をあげる。
 だが――。
 お化けにチョップを繰りだした人物がパートナーの美海だと気づいて、彼女はペタンと地面に腰を落とした。
「ねーさま……?」
「あらあら沙幸さん。もしかして、腰を抜かしてしまいましたか?」
「そ、そんなことないんだもん! そ、それよりもねーさま、ど、どこに行ってたの!」
「わたくしはちゃーんとコースにそって歩いておりましたわ。沙幸さんが迷子になってしまったようで、探すのが大変でしたわ」
「ま、迷子になったのはねーさまのほうで……」
「なにか言いまして、沙幸さん?」
「……何でもないんだもん」
 沙幸は、ふてくされたように頬を膨らませた。
 美海は悪びれないどころか、どうやら自分の非そのものに気づいていないようである。なんというか非常に彼女らしく、沙幸は諦めてため息をついた。
「それにしても沙幸さん…………なにやら面白いことをしていたようですわね」
 ニヤリと、美海が沙幸を舐めるように見る。
 沙幸は、先ほどのお化けたち以上の悪寒を感じた。
「ふふふふ……迷子になった沙幸さんには、お仕置きが必要ですわね」
「だ、だから迷子になったのはねーさまで……」
「問答無用ですわ!」
 美海は飛びかかった。
 沙幸は抵抗したものの、手慣れた美海にとっては無意味なことだ。背後に回られて、美海はむんずと彼女の胸を鷲掴みにした。
「ひあううぅっ!」
「それそれ、ここがええのか、ええのんか〜」
「きゃっ、ね、ねーさま、そこ……あうぅうぅ、やめっ、あんっ」
 美海のされるがままに身体中を撫でまわされ、肝試しコースには、しばらく沙幸の悶える声が響いていた。