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リアクション
◆
プラムとハイコドの二人は、脱出経路を探し続けていた。宛などはないが、当面は『案内板を探す』事として。
「何だかさ、今が何時かもわからないよね」
「………………………………うん……」
「ここら辺でそろそろ、案内あっても良いと思うんだよなぁ………」
「あれから……結構探してるけど………ないね」
どうやら二人、歩いている内に少しは打ち解けたらしい。距離はまだあるが、会話をポツポツとするようになっていた。
「無事に出れたら、このモールの責任者に言わなきゃね、案内を増やせって」
「何処のデパートも………結構案内とか、少ない………よね」
「あぁ!! わかるわかる! 見る必要ないときは目に着くけど、探してるときに限ってエレベーターとかエスカレーターの周りとかにしかないよ――ん?」
そこで、今自分が言ったことを反芻するハイコド。
「…………どうしたの?」
「そうだ! エスカレーターだよっ!! 行ってなかったけど、エスカレーターの近くにならあるんじゃないかな、案内板!」
緊急事態でエスカレーターが止まっている事を知っていた二人は、縦の移動を階段で済ませていた。故に盲点、故に気付きづらい事だった。閃いた彼が踵を返した時である。何処からともなく物音がした。小さな男の子の泣き声の様な物が、その物音の後に続く。
「あれ、これって………」
「逃げ遅れた人かな」
二人が足を止めて耳を澄ませれば随分と近くから聞こえる泣き声。二人は顔を見合わせ、小さく頷くと手分けして周囲を探し始めた。数分後、プラムがその音源を見付け、ハイコドを呼んだ。呼ばれた彼は直ぐ様プラムの元へとやって来る。
「た、たぶん…………此処」
「…………………ホントだ。この壁の向こうみたいだね」
壁に耳を押し当てて壁の向こうに空間があることを確認した二人。ハイコドはプラムを後ろに下がらせた。
「皆さん、聞こえますか!!」
「――助けか!?」
遠く、小さな声が、ハイコドの言葉の後に聞こえる。
「外はどうなってるんですか?」
「わかりません! 僕たちも閉じ込められているんです………出口を探していたら此処で皆さんの声を」
「そうですか………」
それからハイコドは、中の人々と会話をし、互いに経緯を説明しあった。どうやら中の人々は安全な場所を求めて壁の向こう、物品倉庫に逃げ込んだらしい。が、入ってきた扉が歪んでしまい、出るに出れない状況となった、と言うのである。
「わかりました! 今から此処に穴を開けてみるので、皆さんはこの壁から極力離れてください!!!」
「はい!」
返事を聞いたハイコドが、何やら自分の荷物から取り出す。
「………大丈夫? それは…………?」
「ちょっとね、調整していた武器なんだけど――これで壁を壊してみようと思うんだ」
簡単に説明しながら、彼はその場で今取り出した武器、オブスタクル・ブレイカーの最終調整を手早く済ませ、組み上げる。
「ある人からの贈り物――なんだ。それを改造して――よし、出来た! 僕はこれで、人を救う道を選びたい。今は――そう思うんだ」
組上がったそれを肩口で担ぎ上げると、それは次第に光の刃先を伸ばしていった。大きな大きな大剣となったそれを、彼は腰を落として両の手で握り締める。
「誰かの為、皆の為になれるかどうか――見せてくれよっ! オブスタクル・ブレイカー! せーのっ!!」
ハイコドがそれを肩口から降り下ろし、壁に刃をぶつけた。火花が散り、摩擦音が辺りに響いく。刃先が徐々に壁へと食い込み、彼は気合いと共に叫び声を上げた。プラムは心配そうにそれを見つめ――。
「皆さん、一緒に逃げましょう。だけどまだ、この中が安全かどうかわかりません。だから僕が出口を探すまでは、此処で待機していてください」
摩擦か、はたまた光刃の熱か。高温に曝された様な切断箇所から、ハイコドはそれを肩に担いだままに言葉を伝える。彼は特に返事を待つこともせず、踵を返して担いでいたオブスタクル・ブレイカーからたった今取り付けたパーツを外し、再びしまう。
「何で…………しまうの?」
恐らくは純粋な疑問だろう。プラムが再び彼を覗き込みながらに尋ねた。
「人を助けられた。だからこいつの出番は今は終わりで良いんだよ」
「…………そっか」
何故かプラムは、うっすらと笑みを浮かべた。
「さぁ、プラムちゃん。君もあの中に入っていなよ。今までよりはずっと安全だろうからね」
バッグを持上げながらに立ち上がるハイコドは、そう言ってプラムへと笑顔を向ける。
「……一緒に、行く」
「あ、そっか。あの中、すごい人の数だもんね」
が、プラムは彼の発言に首を横へと振った。
「私も………私が出来ることをしたいし………」
ハイコドは思わず言葉を呑んだ。
「それに――さっさと出たい………此処から」
「あ、あー……おう、だよね。だよねぇ……あは、ははは……」
苦笑を浮かべた彼は、「じゃ、行こうか」と区切りを入れて進むべき方へと顔を向ける。向けるとそこには、いつの間にか一人の女性が壁に寄りかかった状態で気を失っていた。ハイコドとプラムが駆け寄り、声をかけてみるが返事はない。
「中に避難させて上げた方が………良いよね?」
彼の言葉に頷いたプラム。ハイコドがその女性を担ぎ上げるた時、誰かが彼を背中から突き飛ばした。
「わ、ちょっ……!?」
その女性毎ハイコドが倒れ込み、慌てて背後へと目を向けた。立っていたのは、レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)。肩で息をしながら、彼女は「ふぅ…」と息をついた。
「いやぁ、危なかったですねぇ。駄目ですよ、その人をあの中に入れたら」
「な、何でさ! このままこんなとこに放っておいたら危ないだ――」
「レティ。いきなり事情を説明しないでそんな事言っても、彼が困るだけよ」
更にその後ろから声が聞こえ、今度はミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)の姿が見える。彼女と一緒にリアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)、ベアトリス・ウィリアムズ(べあとりす・うぃりあむず)、メアトリス・ウィリアムズ(めあとりす・うぃりあむず)も近づいてきた。
「手荒な真似をしてごめんね。でもその女性は、入れてはいけないのは事実なんだよ」
リアトリスが苦笑しながら切り出し、彼らはハイコドと、いつの間にかその場から遠退いているプラムに説明をする。
「そうだったのか………まさかあの人がこの状況を起こした張本人だったなんてね………」
「わかってくれたらオールオッケーですよ。バッチグーです」
笑顔で指を立てながらハイコドにそれを向けてレティシアが言った。
「そんなわけで、貴方も危ないからレティが貴方を突き飛ばしたの。ごめんなさいね」
ミスティがレティシアに代わって謝罪をいれる。
「ねぇねぇ」
ベアトリスが不意に、誰をともなく呼んだ。
「さっき、あそこにいたよね。ラナさんってヒト」
今度はメアトリス指を指す。彼等がメアトリスの指した方を向くと、倒れていたラナロックの姿がない。
「「「居ないね」」」
まるで意図的に声を揃えた様に、リアトリス、ベアトリス、メアトリスが同時に呟いた。
「やっばぁ!!!!」
レティシアが慌ててワイヤークローを手にし、捕縛体勢を取る。
「ふん、敵数七、か。寝起きの肩慣らしにしては些か難易度が高いと思うが………よしとしよう」
「うん? レティ、彼女あんなに声低かったっけ」
「恐らくは別人格か何か、でしょうねぇ」
一同が慌てて臨戦態勢を取る。プラム、ハイコド前にはリアトリスたちが彼等を庇うように立ちはだかっていた。
「………実数にして五…そうなる。ふんふん、ならば――」
言いながら、片足で爪先を鳴らしていたラナロックが、一足でもってベアトリスに飛び掛かった。
「危ない!」
「私たちを無視しないで貰いたいですねぇ、ラナさん」
リアトリスは両の手にヴァジュラを握って交差させ、レティシアはワイヤークローでラナロックの腕を拘束する。
「うむ! 愉快だ、良いぞ。それでこそ戦闘が戦闘たるものだ! 興が乗った!」
言い終わるや、彼女は自らの腕に巻き付いたワイヤークローを思いきり手繰り寄せた。勿論、それを持っていたレティシアは勢いよくラナロックの元へと手繰り寄せられた形となる。
「うわわっ!」
「レティちゃん! クローを解いてっ!」
メアトリスの言葉を聞き、レティシアが手元を器用に動かしてラナロックの腕に巻き付けていたワイヤークローを解いた。リアトリスが奈落の鉄鎖をレティシアに向け、宙に浮いていた彼女を地面に着地させる。
「ナイスコンビネーションですねぇ!」
「「来るよ!」」
リアトリスとベアトリスの声に、レティシアが後ろに飛び退くと、今まで彼女がいた場所にラナロックが飛び込んでいた。
「ふん、ちときついか。流石にこの人数は」
何とも恐ろしい早さでレティシアに近づいてきたラナロックは、しかしその勢いを殺して停止する。「仕損じた」という表情を浮かべて。
「行こうか、レティだけにやらせるわけには行かないよ!」
「「わかった!」」
動きを止めたところで、リアトリスたち三人がラナロックを取り囲む。
「不味いな………囲まれたか」
すると三人は、独特のリズムを刻みながら、ラナロックの周りを取り囲んだままにフラメンコを舞い始めた。
踵を強く踏み込んでリズムを刻み、回りながらラナロックを撹乱しようと三人が動き出す。リアトリスは奈落の鉄鎖をラナロックに向け、ベアトリスは『禁じられた言葉』でもって自らを強化。
「さぁ、いこう!」
リアトリスはそう掛け声をかけると、手にするヴァジュラから爆炎波をラナロックへ飛ばした。彼女はそれをしゃがみこんで回避する。息をつく暇を与えずに炎術を唱えたベアトリスはそれをしゃがみ込んでいたラナロックへと放った。
「くっ! 重ねてきたかっ!」
それを、横に転がって回避。奈落の鉄鎖が掛かっているために縦への回避行動が封じられているが故の苦渋の決断だった。そしてその避けた先に突如日本酒の瓶が飛んできた。ラナロックは「成る程」と呟くや、その瓶を受け取り、明後日の方向へと投げ返した。
「むー、失敗かぁ」
酒瓶を投げ付けたのはメアトリスであり、それが当たらなかったのを確認すると、残念そうに呟いて動きを止める。
「さて、今度は此方の番かね?」
ラナロックが笑うと、包囲を解いていた三人とレティシア、ミスティが構えを取る。
その頃、ハイコドが穴を開けた物品倉庫の中では銀星 七緒(ぎんせい・ななお)が辺りを警戒しながら、穴から顔だけを出してその様子を確認した。
「状況は芳しくない――か」
そう呟くと、七緒は懐から携帯電話を取りだし、誰かに連絡を取り始める。
「あぁ、俺だ。今すぐ来れるか? 空京にあるショッピングモールだ。あぁ、それとな、例のパーツを着けて来い。恐らくはテストデータを取れるぞ」
電話を切った七緒は、それをしまうと再び倉庫の中へと戻っていく。
「俺の出番はまだ、だな。アイツのデータを優先するとしよう。……………に、しても。何だってこの倉庫内だけ電波が入んないんだか………」
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